「失楽園」『RAISING ARIZONA(赤ちゃん泥棒)』徹底解剖8

  • 2018.08.13 Monday
  • 00:29

 

 

 

 

さて、引き続き映画冒頭シーンを解説していこう。

 

前回ハイは、ついにエドへ愛の告白をした…

 

 

未読の人はコチラをどうぞ!

 

 

 

そしてハイは約1年の刑期を終え、プロポーズするためにエドのところへ向かう。

 

今回は犯罪者としてではなく、ひとりの男として…

 

 

エド「右向け右!」

 

ハイ「今日は自分の足でここまで来たんだ、エド…。何にも束縛されない自由な人間として、君にプロポーズするために…」

 

ハイの語り:そして、そうなった…

 

 

 

即結婚式(笑)

 

 

しかも臨時特設会場やったな。

 

新婦側の参列者は全員警察官で、新郎側は全員アロハシャツ姿のボンクラDUDEたちや(笑)

 

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あれ?

 

なんで正面に「硫黄島の星条旗」の写真が飾られているんだろう?

 

「V.F.W.」って何?

 

 

「V.F.W.」とは「外国での戦争に従事した退役軍人の会」のことだね。

 

退役軍人や遺族のサポート活動を行う傍ら、「世界にアメリカ型民主主義を広める」という大義を掲げ愛国教育活動も行っている。

 

結婚式の臨時会場になったこのホールは、この団体の寄付金によって作られたんだろう。警察や刑務所には退役軍人が多く働いているだろうしね。

 

 

でもあそこまで「硫黄島の星条旗」をアピールせんでもええやろ。

 

 

「旗」に気付いて欲しいからじゃないかな?

 

この会場の両サイドにも国旗と州旗が飾られている。ポールの上に天使ケルビムが付いてる旗がね…

 

 

ホントだ!刑務所の審議室と一緒!

 

 

そしてもうひとつの理由…

 

あの超有名な写真『RAISING THE FLAG ON IWO JIMA』を撮った人物を想起させるという理由もあるだろうね…

 

 

あの写真を撮った人物!?

 

 

のちにアメリカの「正義の戦い」のシンボルにもなった「RAISING THE FLAG」を撮った従軍カメラマンの名は、ジョー・ローゼンタール(Joe Rosenthal)…

 

『父親たちの星条旗』にも登場した、あの眼鏡とヒゲのカメラマンだ…

 

 

 

「ローゼンタール」っちゅうたらドイツ系の苗字やな。

 

 

そうだね。

 

彼の両親は東欧からアメリカへ移民したユダヤ人だった。

 

19世紀にプロイセンは東部(現在のポーランドやリトアニア)に多く住んでいたユダヤ人をドイツ風の苗字に改めさせる政策をとった。「ローゼンタール」は人気のあるドイツ語だったんで、多くのユダヤ人が名乗ることになったんだよね。

 

ちなみにジョーの少年時代にローゼンタール家はカトリックへ改宗している。

 

 

またドイツ・ポーランド系か。

 

 

この映画のキーワードだからね。

 

エドの苗字はおそらくポーランド系だし、ハイの本当の親もポーランド系だ。

 

ネイサン・アリゾナ氏の本名は「ハフハインツ氏」だし、刑務所のカウンセラーは「シュワルツ博士」、さらには最後に出て来る白バイ警官の苗字は「コワルスキー」だった。

 

そして賞金稼ぎのレイナード・スモールズもポーランド系で、元々の苗字は不明。

 

とにかく「ドイツ・ポーランド・東欧系ユダヤ人」というのが物語のキーワードになっているんだ。

 

 

ボブ・ディランやスピルバーグをはじめ、ユダヤ系有名人のほとんどが東欧からの移民の二世三世やしな。

 

っちゅうか、そもそも20世紀初頭にブロードウェイやハリウッドなどアメリカの音楽・演劇・映画産業を築き上げたのは、東欧から移民して来たユダヤ人たちや。

 

 

そうだったね。

 

さて、エドの親から結婚祝いとして大型のトレーラーハウスがプレゼントされ、二人はテンピ市郊外の砂漠地帯で新しい生活を始める。

 

 

 

2DKやったな。この集落では一番の豪邸やで。


 

集落ってゆうか4軒しかないじゃん…

 

でもなぜコーエン兄弟は「テンピ」という超マイナーな土地を舞台に選んだんだろう?

 

お隣のフェニックスじゃダメだったのかな?

 

 

やっぱり「TEMPE(テンピ)」には意味があると思うよ。

 

 

せやけど変わった名前の土地やな。

 

シェイクスピアの『TEMPEST(テンペスト)』からパクったんか?

 

ちなみに「tempest」は「嵐・大騒動」っちゅう意味や。

 

 

違うみたいだよ。

 

そもそも「TEMPE」というのはギリシャの地名なんだ。

 

この地を流れるソルト川が「神の住む山オリュンポスの麓にあるTEMPE渓谷みたいだ」ということで付けられたらしい。

 

 

でも「大騒動」も「神の山」も映画の内容に合ってる。

 

 

だね。

 

さて、結婚して責任感が芽生えたハイは、ついに仕事に就いた。鉄のシートに穴をあける町工場での仕事だ…

 

 

待ってました!M・エメット・ウォルシュ!

 

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コーエン兄弟のデビュー作『ブラッド・シンプル』に引き続いての出演だね。

 

 

『ブラッド・シンプル』の大成功には、このM・エメット・ウォルシュが大きく貢献した。

 

彼の不快感MAXの薄ら笑いのおかげで、映画に何ともいえない空気感が醸し出されたんだ。

 

でも今回はコメディ映画ということで、仕事を全くしないで喋ってばかりのヘラヘラおじさんを演じている…

 

 

おじさん「俺たちは救急医療の仕事をしてたんだ。ハイウェイ警察と提携してな。ガチの仕事だぞ、わかるか?そんで俺とビルはナインマイルへパトロールに出かけた…」

 

ハイ「ビル・ロバーツ?」

 

おじさん「そんな腑抜けた名前じゃねえよ。ビル・パーカーだ。とにかく、俺たちは”あの場所”へやって来た。そして道端に何か丸いモノが転がってるのが見えたんだ…。そいつは車の残骸じゃなくて…」

 

 

 

この会話にも別の意味があるんでしょ?何だろう?

 

 

ここでは「丸いモノ」の正体は明かされんけど、あとでそれは「死体の首」だとわかるんやったな…

 

ちゅうことはサロメか?

 

 

それは新約聖書のネタだ。

 

この部分は「アダムの息子アベルの死」のことを言っているんだよ。

 

アダムとイヴの長男カインは弟アベルに嫉妬した。そしてアベルを家から離れた野原に誘い出し、そこで殺してしまう。

 

その後カインは神にアベルのことを聞かれ「し、知りません!僕は弟の見張り番ではありません!」と過剰反応をしてしまった。

 

結局嘘はバレて、発見されたアベルの死体を抱きながらアダムとイヴは泣き崩れる…

 

 

そうか!「ナインマイル」って地名が「離れた野原」のことなんだ!

 

 

ワイもわかったで!

 

「パーカー(Parker)」っちゅうのは元々「公園管理人」って意味や!

 

つまり「エデンの園」の管理人を任されとったアダムのことなんや!

 

 

 

その通り。

 

そしてハイが言う「ビル・ロバーツ?」もジョークになっているんだ…

 

「ロバーツ(Roberts)」には「強盗(robber)」が掛けられてる。

 

さらに「Bill」には「お札」という意味もあるから、「Bill Roberts」で「現金強盗」ということになる。

 

またもやハイの自虐ギャグだったんだね(笑)

 

 

アハハ!

 

 

さて、待ちに待った給料の支払い日がやって来る。まあ日本と違い、毎週末払いだけどね。

 

 

 

ハイの語り:多くの点で、仕事というのは刑務所に似ている。一日の終わりにエドが待っていることと、週の終わりに給料が待っていること以外は…

 

明細を見て呆然とするハイ

 

事務員の姉ちゃん「いつも政府が真っ先にガブリと齧っちゃうのよね」

 

 

 

かじる?

 

わかった!知恵の実のことだな。

 

 

その通り。女性事務員はこう言うんだ。

 

Government do take a bite, don't she?

 

政府など行政体は女性名詞だから「she」が使われている。

 

なんだか「彼女がひとくち齧ったのよね?」って言ってるみたいだよね(笑)

 

 

ついでに言っとくと「GOVERNMENT」の中に「EVE」が隠されとる。

 

 

もっと言っておくと、ハイの働く工場の名前は「ACME 製作所」というんだよ。

 

「acme(アクメ)」とは「絶頂・至高」という意味だ。つまり「神の製作所」だね。

 

 

神は細部に宿るって言うけど、やり過ぎだろコーエン兄弟(笑)

 

 

また、ハイにとって仕事が苦痛で給料も安いのは「神の罰」でもある。

 

「知恵の実」を食べてしまったアダムに対して神はこんな呪いをかけた。

 

「お前の土地は痩せて、そこから糧を得るのに一生苦労するだろう」

 

 

なるほど(笑)

 

 

さて、とりあえず職にも就いたし、次はいよいよ子作りの始まりだ…

 

 

ハイの語り:幸せな日々だった。世間が言うサラダ・デイズというやつだ。エドはいよいよ新しい家族を作る段階になったと感じた。そしてそれが彼女の全てになった。彼女の考えはこうだ。この世界は二人っきりで過ごすにはあまりにも美しく愛おしすぎ、子供無しで過ごす幸せな一日一日が、将来彼が不在を悔やむ一日になるに違いない…

 

エド「うまいこと言ったわね」

 

 

 

「うまいこと言うた」?

 

夕闇に染まる空を見て「That was beautiful」やろ。

 

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違うんだよ。

 

エドはハイの語りを「beautiful」と言ったんだよね。

 

ハイがあまりにも見事にダブルミーニングの文章でキメたから、エドが思わず口走ってしまったんだ。本来は反応しちゃいけない立場なのにね…

 

というか、ジョエル・コーエンが自分の書いた台本に自画自賛してるんだな(笑)

 

 

どゆこと?

 

 

あの語りは完璧に「アダムとイヴ」のことにもなっているんだよね。

 

日本語に訳しちゃうと伝わりづらいから、原文を見ながら説明していこう。

 

These were the happy days - the salad days, as they say.

 

「salad days」というのは、後から思い返すと恥ずかしいような日々のこと。つまり、付き合い始めた頃とか新婚ホヤホヤの頃のことだね。

 

そして聖書においてアダムとイヴは新婚時代に、文字通り「菜食生活(salad days)」を送っていた。

 

神は「エデンの園」時代も「失楽園」時代も、アダムとイヴに「植物由来の食べ物」だけしか食することを認めなかったんだ。

 

神がアダムに指示した食べ物は「緑の植物、根、木の実、パン」だ。肉食するシーンは無いんだよね。

 

 

そうだったのか!

 

 

そしてこう続く。

 

Ed felt that having a critter was the next logical step. It was all she thought about. 

 

「critter」とは「飼育する生き物」という意味なんだけど、元々の形は「creature」、つまり「神の創造物」なんだ。

 

エデンの園では少なくとも人類の生殖活動は行われなかった。

 

体位でモメたアダムとリリスの話は、民間伝承や都市伝説みたいなものだからね(笑)

 

だからイヴの「妊活」は失楽園の後だった。神の庇護下から外れたために、新しい家族を作るためには自分たちで「創造」、つまり生殖行為をしなければならなかった。

 

 

確かに「失楽園」は「生殖行為」に励んどったな…

 

 

何の話してんだよ。

 

 

ハイはエドの…

 

というか、アダムはイヴの想いをこう代弁する。

 

Her point was that there was too much love and beauty...for just the two of us...

 

「彼女が考えるに、この世界は二人だけのものにするには美しくて愛おしく…」

 

そしてこう締め括られる。

 

and every day we kept a child out of the world...was a day he might later regret having missed.

 

「そして私たちが《ひとりの子》を追い出したまま過ごす日は、のちに《彼》が失敗や不在を悔やむ日となる」

 

 

ん?アダムとイヴが追い出した《ひとりの子》って…

 

 

長男カインやんけ。

 

 

その通り。

 

アダムとイヴには最初にカインとアベルという子供が生まれた。だけどアベルは殺され、カインは追放されてしまった。

 

アダムとイヴはショックに打ちひしがれる。そして人生を諦めかけていた頃、待望の子セツが生まれる。アダム130歳の時だ。

 

そこから爆発的にアダムとイヴの子孫が増えてゆく…

 

 

なるほど!

 

「いま子供が出来なくても落ち込むな。いずれ爆発的に家族が増えるぞ!」ってことか(笑)

 

 

このシーンでのハイの語りは、アダムとイヴの現状を説明し、将来の予感まで匂わせていたってわけだね。

 

エドに「That was beautiful」と言わせるくらいジョエル・コーエンが自画自賛するのも頷ける。

 

ホントに面白いよね、この映画は…

 

ということで、続きは次回に。

 

 

 

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