『ブラッド・シンプル』徹底解剖1「フォーエバーヤング映画保存協会」

 

 

 

 

 

さて、コーエン兄弟のデビュー作『BLOOD SIMPLE(ブラッド・シンプル)』を解説するよ。

 

この自主製作映画でコーエン兄弟は一躍名を上げたんだけど、それもうなずける。実に脚本が素晴らしいんだ。

 

ざっくりと映画の概要をまとめたプロローグ編を未読の人は、まずそちらからどうぞ。

 

コーエン兄弟初期作品ざっくりまとめ

 

 

ポイントは、この映画が旧約聖書『士師記』の「デボラの歌」をベースにした物語になっとる…っちゅうところやったな。

 

 

映画の予告編動画も一応見ておこうね!

 

 

 

まずは主な登場人物を紹介しよう。

 

 

ジュリアン・マーティ(ダン・ヘダヤ)

 

テキサス州の某都市郊外でバー「ネオン・ブーツ」を営む。妻アビーと従業員モーリスの浮気を疑い、私立探偵ローレン・フィッセルに調査を依頼する。ギリシャ・ユダヤ系。

 

 

アビー(フランシス・マクドーマンド)

 

ジュリアン・マーティの妻。夫のバーの従業員と浮気を重ねている。最初の結婚記念日に銃をプレゼントされる。イギリス(もしくはアイルランド)系。

 

 

レイ(ジョン・ゲッツ)

 

バー「ネオン・ブーツ」の従業員。アビーに誘われ肉体関係を結ぶ。登場人物の中で唯一の「いい人」。イギリス(もしくはアイルランド)系。

 

 

ローレン・フィッセル(M・エメット・ウォルシュ)

 

私立探偵。ジュリアン・マーティに妻アビーの浮気調査を依頼される。名前入りのライターを愛用。愛車はワーゲンビートル。オランダ・ドイツ系。

 

 

モーリス(サム=アート・ウィリアムズ)

 

バー「ネオン・ブーツ」の従業員。完全白人社会の中で白人女性とばかり肉体関係を重ねるツワモノ。女を口説く時は「火山」の話をする。

 

 

微妙に不細工なくせにイイ女ぶってたデボラは偽名の可能性があるさかい、名前のついとる登場人物はこれだけやな。

 

まさに「シンプル」な物語や。

 

 

「ブラッド(血統)」の配置も実にわかりやすいね。

 

コーエン兄弟が何を意図しているのかが、手に取るように見えてくる…

 

 

さて、ディレクターズ・カット版では、映画の冒頭に面白いシーンが挿入されている。

 

「Forever Young FILM PRESERVATION(フォーエバーヤング映画保存協会)」による、映画の紹介とデジタル・リマスターの経緯の説明だ。

 

 

 

偉い博士みたいな人が出て来て、何か言ってたね。

 

この映画は後世に残すべき傑作だから、きちんと保存しなければいけないとか何とか…

 

 

 

あの人、実は役者なんだ。この協会も架空の団体なんだよね。

 

つまり全部「嘘」なんだ。

 

 

ハァ!?

 

 

コーエン兄弟がこの「お遊び」を冒頭に入れたのは、ちゃんとした理由があるんだ。

 

『ブラッド・シンプル』という映画タイトルの「本当の意味」をわかってもらうためなんだよね。

 

 

本当の意味!?

 

巷では「兄弟が大ファンと公言するダシール・ハメットのハードボイルド小説に出て来る言葉から取られた」とか言われてるけど…

 

 

確かにそうなんだけど、それだけじゃないんだよね。

 

コーエン兄弟みたいなタイプのオタク系天才肌の人って「大事なところをはぐらかす」傾向があるんだ。

 

作品に関して最もコアな部分を隠すって感じかな…

 

歴史に名を残す偉大な芸術家たちもそうだったでしょ?

 

ダヴィンチが『最後の晩餐』に公では言えないことを忍ばせていたり、ミケランジェロが『アダムの創造』で神の背後をこっそり脳の断面図にしたり…

 

ボブ・ディランやクリストファー・ノーラン、カズオ・イシグロもそうだったよね。

 

 

せやったな…

 

ちゅうか、早よ再開せえ。中断したまま放置しとるシリーズを。

 

カズオ・イシグロ徹底解剖

 

 

クリストファー・ノーラン徹底解剖

 

 

まったくいつになるやら…

 

で、『ブラッド・シンプル』の本当の意味と「冒頭お遊び映像」の関係って何なのさ?

 

コーエン兄弟は何を伝えようとしていたの?

 

 

簡単なことだよ。

 

『ブラッド・シンプル』が意味するところは「人間は変わらない」ってこと。

 

「人は昔と同じように愚かなことを繰り返している。この血は争えない」ってことだね。

 

つまり「旧約の時代から同じことが延々と繰り返されている」ということを、コーエン兄弟は言いたかったわけだ。

 

だからこの映画の主題歌がフォー・トップスの『It's The Same Old Song』なんだね。

 

 

 

だからこの主題歌?どゆこと?

 

 

この歌は「このold songを聞くと、失った恋人を思い出す」という内容だよね…

 

だけどこの歌、歌詞が全部ダブルミーニングになっているんだ。

 

「old song」とは「旧約聖書」のことであり、「失った恋人」とは「乳と蜜の流れる地イスラエル」のことなんだよ。

 

つまり「ディアスポラ(民族離散)の悲劇」について歌っている歌なんだね。

 

歌詞の初っ端から「君はハニー・ビー」とか出て来るし、それ以降の歌詞も全部「愛する郷土を想う」内容になっている。

 

そこを踏まえて歌詞をよく読んでみると、僕の言ってる意味がわかると思う。

 

特にサビの「but with a different meaning」なんか笑えるよね。ネタバレすれすれだ(笑)

 

 

 

うわあ!確かにそうなってる!

 

 

『バートン・フィンク』で歌われる『オールド・ブラック・ジョー』もそうだったけど、昔の歌、特に黒人霊歌がルーツの歌には、こういうものが多いんだ。

 

コーエン兄弟がこの映画のタイトルを『ブラッド・シンプル』とし、主題歌に『It's the same old song』を選んだ理由を、これで納得してもらえたかな。

 

 

納得できたけど…

 

おかえもんに言われるまで全く気付かなかった…

 

 

だからコーエン兄弟は、ディレクターズ・カット版で「フォーエバーヤング映画保存協会」なる架空の団体による「お遊び映像」を入れたんだね。

 

 

あの教授っぽい人が、やたらと「フォーエバーヤング」を強調するのにも理由がある。

 

「forever young」とは「常に瑞々しい・新鮮な状態」という意味なんだけど、裏を返せば「昔から何も変わらない」ということでもあるよね。

 

つまり「BLOOD SIMPLE」や「It's the same old song」と同じニュアンスの言葉だったというわけだ。

 

 

ああ!そうゆうことか!

 

でもやっぱりこれで「わかる」人も、そんなにいないと思う…

 

 

たぶんコーエン兄弟からしたら十分過ぎるヒントのはずだったと思うんだ。これならみんな気付くだろう、ってね。

 

でも、そうはならなかったようだ。

 

ちなみにこの「賛辞を述べるフォーエバーヤング映画保存協会」という冒頭映像は、コーエン兄弟が敬愛する脚本家プレストン・スタージェスの代表作『サリヴァンの旅』へのオマージュでもある。

 

 

『サリヴァンの旅』も大袈裟に賛辞を述べる映像から始まるんだ。

 

しかもその内容が似たようなものなんだよね…

 

 

そうなん!?

 

 

詳しくは『サリヴァンの旅』徹底解剖の時に解説するよ。

 

コーエン兄弟とカズオ・イシグロを語る上では絶対に欠かせない映画なんで楽しみにしててね。

 

 

さて、『ブラッド・シンプル』本編は、私立探偵ローレン・フィッセルの語りによるプロローグから始まる。

 

 

この語りにも興味深い秘密が隠されているから、次回はそこからたっぷり解説しよう。

 

 

今回は映画の本編が始まるまでか!

 

 

安定のスロースタートやな。

 

全10話完結に100コーエン賭けるわ。

 

 

そんならオイラは全20話完結に1000コーエン!

 

 

おいおい君たち、勝手に新しい通貨を作らないでくれるかな。

 

 

「おまゆう」やで、オッサン。

 

前に「ダンケルク」っちゅう紙幣を勝手に作っとったのは、どこのどいつや?

 

 

 

ああ、そうだったね。すっかり忘れてた…

 

じゃあ僕も賭けに入れてもらおうかな。

 

 

いいね、そうこなくっちゃ!

 

いくら賭ける?

 

 

それじゃあガツンと1万…

 

 

ピピ〜〜〜ッ!

 

 

 

 

JUGEMテーマ:映画

コメント