コーエン兄弟『バートン・フィンク』徹底解剖24「箱」

  • 2018.05.17 Thursday
  • 21:59

 

 

 

 

 

さて、リプニック邸訪問の次のシーンを解説しようか。

 

 

その前に、前回を未読の方はコチラ!

 

第23回「Lower East Side」

 

 

ユダヤ人のリプニックが「我々の先祖は、ひとりの幼な子から教えられた」と言ったので、バートンの頭の中で妄想がさらに膨らみだした。

 

この「幼な子」という表現は『マタイによる福音書』第11章25節に対応しているんだね。

 

11:25 そのときイエスは声をあげて言われた、「天地の主なる父よ。あなたをほめたたえます。これらの事を知恵のある者や賢い者に隠して、幼な子にあらわしてくださいました。

 

 

いま気付いたんやけど、「W.P.メイヒュー」の「Mayhew」っちゅうのは「マタイ(Matthew)」とよう似とるよな。

 

 

あ、ホントだ。

 

きっとマタイを想起させるためなのかもしれないね。

 

 

いろんな仕掛けが施してあるなあ!

 

ところで『マタイによる福音書』第11章って、どんな章なの?

 

 

洗礼者ヨハネとイエスの関係について語られている章だよ。

 

獄中のヨハネの言葉を弟子がイエスに届けるシーンから始まって、「洗礼者ヨハネは預言者エリヤの再来である」ということが語られ、最後に「重い荷物と軽い荷物」の逸話で幕を閉じるんだ…

 

 

これって…

 

 

そう。リプニック邸訪問の次のシーン「チャーリーとバートンの別れ」そのまんまだね。

 

そしてリプニックの秘書ルーが「クビ」にされたことで、バートンの頭の中に『マタイによる福音書』第14章で描かれる「ヨハネの首」のイメージが湧いてきたんだ。

 

 

その「クビ」って「fire」でしょ…

 

「クビ」と「首」って日本人にしかわからない駄洒落…

 

 

この映画が作られたのは、日本がバブル真っ盛りの頃だ。NTT1社の時価総額が、ドイツ株式市場と香港株式市場を足した額より大きくて、皇居の地価がカリフォルニア州全体の地価より高かった時代だ。

 

今の映画が中国市場を意識して作られるように、当時の映画が日本市場を意識して作られていても何もおかしくない。

 

特にコーエン兄弟はデビュー作の『ブラッド・シンプル』から日本語の駄洒落を使ってるくらいだからね。

 

 

まあ確かに外国のアーティストが日本に関するネタを使ってくれると僕らは大喜びするもんな…

 

 

さて、「チャーリーとバートンの別れ」シーンは、途方に暮れるバートンの姿から始まる。

 

オードリーの血痕が残されたベッドに向かって、バートンは首をうなだれていた…

 

 

 

この時バートンの頭の中に浮かんどったイメージは「イエスの亡骸を包んだ聖骸布」やな。

 

血痕つながりで。

 

 

あと「処女マリア」のイメージもね。

 

 

ん?オードリーは「大天使ガブリエル」だったよね。だから男だったんでしょ?

 

 

そうゆうややこしいこと言うなボケ。男だって血や涙は流すわ。

 

 

さて、廊下を歩く足音が聞こえてきて、バートンの部屋のドアがノックされる。

 

ドアを開けるとチャーリーが入って来た。旅支度で、箱を手にしている。

 

 

 

また視線が合ってない(笑)

 

チャーリーの入退場シーンは、いつもこうだな。

 

 

これがバートンの「一人芝居」であることを臭わせるためだね。

 

そしてチャーリーは、手にしていた箱をテーブルの上に置く。

 

 

 

コレやな…

 

カラヴァッジョ『聖ヨハネの斬首』

 

 

バートンは箱には目もくれず、チャーリーの旅支度のほうに動揺してしまう…

 

 

バ「Jesus!君は行ってしまうのか!」

 

チャ「ああ、old-timerよ。二三日のことだ」

 

 

 

もろにイエスの死と復活のことじゃんか!

 

 

 

しかも「old-timer」とか言っちゃってるんだ。

 

「OB」とか「古参」っていう意味なんだけど、「古い時代に囚われている人」っていう意味もある。

 

バートンの頭の中は「2000年前」のことでいっぱいだからね。

 

そしてバートンは、トンデモナイことを口にする…

 

 

「 Jesus... Charlie... I... 」

 

 

 

ジーザス、チャーリー、僕?

 

 

この映画の「タネ明かし」だよね。この三人が「三位一体」っていう意味だ。

 

チャーリーとは、バートンの妄想の中の「もう一人の自分」だった…

 

そしてバートンは福音書を書くために、イエスの生涯を演じていた…

 

 

そっか!

 

まだ気付いてない人に向けた「出血大サービス」なんだ!

 

 

だね。

 

チャーリーは、動揺してオロオロするバートンに「大丈夫だ。万事うまくいく」と励ます。

 

だけどバートンは「行かないでくれ!」とチャーリーに泣きついた。

 

 

あん時バートンは、泣きながら半分笑っとったよな…

 

絶望が深過ぎると人は笑うしかなくなるもんや…

 

 

違うんだよ。ホントに笑ってたんだ。

 

 

は?

 

 

この時バートンはギャグを言っていたんだ。

 

だから演じるジョン・タトゥーロは笑っちゃったんだよね。

 

 

You're the only person I know in Los Angeles that I can talk to...

 

「君は僕にとって、天使たちの中で唯一話せる存在だったのに…」

 

 

 

そうゆうことか!

 

コーエン兄弟による、ネタバレの波状攻撃だったんだ!

 

 

欧米の映画館では、このシーンは笑いの渦だっただろうね。

 

セリフを喋ってるジョン・タトゥーロ自身が笑っちゃってるくらいなんだもん。

 

さて、ジョン・タトゥーロ演じるバートンは、さらに泣きついた。

 

 

「僕を置いて行かないでくれ!君がいなかったら、いったい僕はどうすればいいんだ!」

 

 

それに対し、チャーリーは冷静に答えた。

 

 

「地に足付けて、気をしっかり持て、兄弟よ。俺がいなくても、お前はやっていける。俺は二三日したら必ず戻って来る。だからそれまでドアをロックし、誰とも話すな。頭をしっかりキープしていれば、答えは必ず見えてくる…」

 

 

 

なんだかあの歌思い出しちゃった。

 

「My two feet is my only carriage, and so I've got to push on thru... while I'm gone.」の部分…  

 

Bob Marley『No Woman, No Cry』

by The King Stones

 

 

このコンビ、イエスとマグダラのマリアやな…

 

しかもあの上から舐め回すようなアングルは反則やで…

 

 

あの動画を見て、心の中で罪を犯さなかった者だけが、石を投げなさい。

 

 

ハッ...

 

 

さて、さっきのチャーリーのセリフは『マタイによる福音書』の第27章と28章で描かれる「イエスの死と復活」場面のダイジェストともいえる内容だ。

 

「ドアをロックしろ」というのは「墓の入口に岩を置け」ってことだね。

 

27:59 ヨセフは死体を受け取って、きれいな亜麻布に包み、

27:60 岩を掘って造った彼の新しい墓に納め、そして墓の入口に大きい石をころがしておいて、帰った。

 

そして「誰とも話すな」というのは、ピラトの部下による進言の引用だ。

 

27:63「長官、あの偽り者がまだ生きていたとき、『三日の後に自分はよみがえる』と言ったのを、思い出しました。

27:64 ですから、三日目まで墓の番をするように、さしずをして下さい。そうしないと、弟子たちがきて彼を盗み出し、『イエスは死人の中から、よみがえった』と、民衆に言いふらすかも知れません。そうなると、みんなが前よりも、もっとひどくだまされることになりましょう」

 

 

なるほど!うまい!

 

 

さて、さっきのチャーリーの「イエスの死と復活」を元ネタにしたアドバイスに、バートンは言葉を挿もうとする。

 

 

「わかったよ。でもチャーリー、それって…」

 

 

チャーリーはバートンの言葉を遮った。

 

 

「バカ野郎!この話をこれ以上俺にさせるな!信じる者は救われ…おっと何でもない。とにかくこの話はもうやめだ」

 

 

 

わはは!

 

 

ウケるよね。

 

そしてチャーリーは「箱」に話題を変える。

 

「おい友よ、ひとつ頼まれてくれるか?これを預かってて欲しいんだ。個人的なブツなんだが、出張に持ってくわけにはいかんシロモノだ。下界の連中は信用ならんしな…」

 

 

チャーリーとバートンは箱を見つめながら、しみじみと語り合う…

 

バ「もちろん、いいとも…」

 

チャ「フッ…。しかし笑っちまうよな。ひとりの人間にとって、かけがえのないもの…そいつの人生において絶対に守らないといけないもの…それがこんなちっぽけな箱の中に納まっちまうなんて…。なんとも哀しいというか憐れというか…」

 

バ「そんなことないよ。僕にはその価値が想像も出来ない」

 

チャ「とにかくコイツを預かっててくれ。お前に幸運を運んでくれたりしてな。脚本を完成させる手助けになってくれるかもしれん」

 

 

 

首だけになってしまった洗礼者ヨハネのことだね。

 

イエスがメシアになるには、ヨハネの存在が絶対に必要だった。ヨハネがいなかったら預言が成就せず、イエスは救世主と呼ばれることはなかったんだ。

 

 

その通り。

 

イエスにとって「かけがえのない存在」といえば「前駆」とも呼ばれるヨハネだけしかいない。

 

 

オカンのマリアがおるやろ。

 

 

残念ながら母マリアは「かけがえのない存在」ではない。

 

『マタイによる福音書』第12章で、イエスは母マリアを「知らない」と言い、自分にとって弟子たちが母であり兄弟だと語った。

 

そしてヨハネだけが別格だと言い「人間の中で彼より大きな者はいない」と説明したんだ。

 

 

だけど「天国では一番小さい」んだったよね!

 

 

その通り。

 

チャーリーは「地上では最も大きいけど、天国では最も小さい」ヨハネのことを言っていたんだね。

 

バートンの書くシナリオ…というか福音書において、欠けていた重要なピースが「ヨハネの首」だったんだよ。

 

だからチャーリーは「シナリオ完成の手助けになる」って言ったんだ。

 

 

わお!これで全てのピースが埋まったのか!

 

 

あとちょっと残ってるけどね。

 

「ペトロの否認」とか、イエスの墓の「封印の岩」が転がって、二人の天使が現れるところとか…

 

 

そんなところまで再現されてるの!?

 

 

もちろん。

 

コーエン兄弟は福音書をほぼ完全に再現しているんだよ。

 

面白いよね。こんな壮大なプロジェクトなのに、これまで指摘した人は皆無だった。

 

 

気がついてもイチイチ説明すんのが面倒やさかい、誰も書いとらんかっただけとちゃう?

 

もしくは誰もこんな解説を望んでおらんかったとか。

 

っちゅうか、こんなダラダラ続く映画解説を読んどる物好き、おるんか?

 

いったい誰に向けて、何のために書いとんのや?

 

 

いいんです、報われぬとも…

 

 

ああ、おかえもん落ち込んじゃった…

 

ねえねえ、元気出して!

 

歌でも歌ったら気持ちも晴れるよ…

 

 

そうです。歌いたくなくても、きっと歌えるのです。

 

心の中で誰かが歌っているから…

 

 

なに言うとんねん、このオッサン。

 

ついに頭がイカレてもうたか?

 

 

今わたしは、穴があったら…じゃなくて、箱があったら入りたい…

 

 

ああ、そうゆうことか…

 

こんなおかえもんを、誰も責めないでください…

 

 

山崎ハコ『飛びます』

 

 

 

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