第4話「VINCENT ANTON FREEMANという名前を深読みすると、どんな物語が見えてくる?」 〜『GATTACA(ガタカ)』徹底考察〜

  • 2019.03.10 Sunday
  • 16:55

 

 

 

 

 

 

壮大かつロマンチックな物語よね…

 

 

何を言ってるのかわからない人は前回を未読の人だな。

 

まずコチラからどうぞ。

 

 

 

次は「適正者:ジェローム・ユージーン・モロー」に成り済ます「不適正者:ヴィンセント・アントン・フリーマン(演イーサン・ホーク)」と、その弟である「適正者:アントン・フリーマン(演ローレン・ディーン)」の名前の秘密に迫ろう。

 

 

 

 

兄やんのファーストネーム「VINCENT」の由来は、ラテン語の「克服・勝利」やったな。

 

生後すぐの検査で心臓に異常が見つかり「寿命は長くて30年」と言われたもんやさかい、オトンは「VINCENT」と名付けたんや。長生きして欲しくてな。

 

宇宙飛行士を目指すには致命的なハンディキャップやけど、ヴィンセントは名前の通り、執念で運命を克服したんやで。

 

 

弟アントンとの遠泳チキンレースにも勝利したわね。

 

 

「VINCENT」は、もうこれでOK?

 

 

いいや。まだ重要な意味が込められている。

 

西洋社会において「VINCENT」といえば「サラゴサの聖ヴィセンテ」のことを指すんだ。

 

 

聖ヴィセンテ…?

 

 

世界一セクシーなギタリスト「St. Vincent(セイント・ヴィンセント)」の名前の由来となった聖人ね。

 

 

 

間奏のギターソロが凄まじ過ぎ…

 

 

「サラゴサの聖ヴィセンテ」は、3世紀後半にイベリア半島で活躍した人物だ。

 

当時まだローマ帝国ではキリスト教が認められていなかったので、聖ヴィセンテは、ありとあらゆる残酷な拷問を受けた。

 

それでも最後まで屈せず殉教したので聖者と崇められ、今でもスペインやポルトガルを中心に人々の信仰を集めている。

 

港町バレンシアとリスボンの守護聖人でもあるんだよ。

 

『サラゴサの聖ヴィセンテ』作者不明

 

 

縄で首に繋がってる巨大な石の円盤は何だ?

 

 

詳しくはわからないけど、聖ヴィセンテは「リング状の石の円盤」とセットで描かれる。

 

あれを錘にして海にも沈められたんだよね。よく見ると窓の外には、その光景が描かれてるでしょ?

 

 

「VINCENT」と「大きな石のリング」って…

 

なんだか『ガタカ』っぽい…

 

 

「ぽい」じゃなくて「そのもの」なんだよ。

 

 

 

うわあ…

 

こっちの絵のリングは、さらに「土星の環」そのもの…

 

 

それだけじゃない…

 

最初の遠泳チキンレースで弟アントンに負けた時にも「聖ヴィセンテ」のモチーフが再現されていたわね。

 

 

 

どこに!?

 

 

力尽きたヴィンセントは、浮かんでいた海藻を枕にして、水面に横たわっていた…

 

あれは「海に浮かぶ聖ヴィセンテ」の宗教画そのものよ…

 

 

 

マジかよ…

 

頭の後ろの「浮き輪」みたいに見える聖ヴィセンテの「光背」を、「海藻の枕」で表現していたのか…

 

 

なかなかトンチが効いてるよね、アンドリュー・ニコル監督は。

 

ファーストネーム「VINCENT」については、これくらいでいいだろう。

 

 

次はミドルネーム「ANTON」やな。

 

 

お兄ちゃんはミドルネームが「ANTON」で、弟はファーストネームが「ANTON」…

 

なんで兄弟して「アントン」がつくんだろう?

 

お父さんとお母さんがアントン・チェーホフのファンだったとか?

 

 

 

なんでやねん。

 

オトンの名前や。オトンは「アントニオ・フリーマン」やさかい。

 

ちなみにオカンは「MARIE(マリー)」やで。

 

 

 

「ANTON」は「ANTONIO」のことだったのか。

 

 

ラテン語で「燃える闘魂」っちゅう意味や。

 

 

ああ、それ聞いたことある!

 

 

嘘を教えちゃいけないよ。

 

「ANTONIO」とは「ヘラクレスの末裔」という意味だからね。

 

 

ヘラクレス?

 

 

 

「アントニオ」という名前の起源は「英雄ヘラクレスの息子アントン」なのよ。

 

ゼウスを父にもつヘラクレスは、数あるギリシャの神々の中で、最も強く、最も人気のあった半神半人の英雄…

 

「アントニオ」という名前は、その血を引く者という意味なのよね。

 

ちなみに歴史上で最も有名な「アントニオ」は誰だか知ってる?

 

 

猪木に決まっとるやろ。

 

 

 

日本ではそうかもしれないけど…

 

ワールドレベルで「アントニオ」といえば「マルクス・アントニウス」の名が真っ先に挙げられる。

 

マルクス・アントニウス(BC83〜BC30)

 

独裁官ジュリアス・シーザー(カエサル)の死後、後に初代皇帝アウグストゥスとなるオクタウィアヌスと壮絶な後継者争いをして敗れ去った人物ね。

 

エジプト女王クレオパトラと恋に落ち、自分自身を「偉大なる御先祖様ヘラクレスの生まれ変わり」だと考え、ことあるごとに自分とヘラクレスを重ねていたと言われている…

 

 

シェイクスピアの『アントニーとクレオパトラ』やな。

 

 

 

『アントニーとクレオパトラ』といえば、有名な絵画があるよね。

 

海に浮かぶ寝室で密会するアントニーとクレオパトラの絵だ…

 

『Anthony and Cleopatra』

ローレンス・アルマ=タデマ

 

 

なんか既視感があるんやけど、気のせいやろか?

 

 

気のせいなんかじゃないよ。

 

アンドリュー・ニコル監督は『ガタカ』の中で「この絵」を再現したんだ。

 

主人公ヴィンセント・アントン・フリーマンとアイリーン・カッシーニが結ばれたベッドは、まるで海に浮かんでいるようだったよね…

 

 

 

ああーーーー!

 

 

アタミノヨルモ…ソウダッタ…

 

 

ん?なんか言ったか?

 

 

な、なんでもないわ…

 

 

しかもあのラブシーンのベッドルームは、既存の「海に浮かぶように見える部屋」ではないんだ。

 

わざわざ海沿いの高台の上にセットを用意して撮影したんだよ。

 

『アントニーとクレオパトラ』の絵の構図を完璧に再現するためにね。

 

 

そこまでして、あの絵を…

 

誰も拾ってくれないかもしれないのに…

 

 

だから僕みたいな人間が必要なんだ…

 

映画公開から22年後になって発見してくれるような物好きな人間がね…

 

 

ワイも拾ったるで!

 

熱烈合体の翌朝にヴィンセントが浜辺で全裸でしゃがみ込んどったのは『ターミネーター』のアーノルド・シュワルツェネッガーを再現するためや!

 

 

 

何の意図で?

 

 

そこまでは知らん。

 

 

これは「ヘラクレス」の再現なんだよ…

 

全裸になったヴィンセントは、まるで全身の皮膚を剥がしたいかのように、無我夢中でこすっていた…

 

ヘラクレスも全く同じことをしたんだ…

 

そしてこの「全裸で皮膚こすりまくりシーン」は、映画のラストシーンの伏線にもなっている…

 

 

ええ!?

 

 

映画『ガタカ』には「ヘラクレスの生涯」も投影されている。

 

宇宙を題材にした映画なら、前に紹介した「天空の神ウラヌス」同様に、ヘラクレスは避けては通れないからね。

 

 

なるほど。詳しく教えてくれ…

 

頼まなくてもするんだろうけど…

 

 

まず『ガタカ』に登場する「ヴィンセントとアントンの兄弟」は「ヘラクレスとイピクレスの兄弟」そのものと言える。

 

兄ヘラクレスは「神の子」と呼ばれ、弟イピクレスは「人の子」と呼ばれた。

 

そして、両親のセックスという偶然の行為で誕生した兄ヴィンセントは「神の子」と呼ばれ、遺伝子操作と体外受精によって人工的に作られた弟アントンは「適正な人間」と呼ばれていたよね…

 

 

ヘラクレスとイピクレスは兄弟なのに、なんで「神の子」と「人の子」と違うの?

 

 

「種」が違うからだよ。

 

兄ヘラクレスの父は神ゼウスだ。いっぽう弟イピクレスの父は人間であるアムピトリュオン。

 

神ゼウスは、ミケーネ王の娘アルクメネの寝所へ、その婚約者アムピトリュオンが不在の夜に忍び込み、こっそり種付けをしたんだ。自分の子を将来のミケーネ王にするためにね。

 

同じ母アルクメネから生まれた二人なんだけど、受け継いだ遺伝子が別々のものだったんだよ。

 

 

婚約者がおる処女を神が孕ませるって、聖母マリアの処女懐胎みたいやな…

 

 

ちなみに映画『ガタカ』で出産シーンが描かれるのも、神の子ヘラクレス誕生の有名な絵の再現だろうな…

 

ヘラクレスは難産の末、生まれたんだ…

 

 

 

さて、ゼウスは半神半人で生まれたヘラクレスの神パワーを強化させようと考え、本妻ヘーラーが寝ている隙に「神の母乳」を飲ませた。

 

しかしヘラクレスが乳首に吸い付く力があまりにも強烈だったのでヘーラーは目を覚ましてしまい、乳房からヘラクレスを引き離そうとした。

 

その時の衝撃で乳首から母乳が天空へ飛び散り、それが「天の川(ミルキーウェイ)」となったんだ。

 

「galaxy(銀河)」という言葉の由来も、古ギリシャ語の「kyklos galaktikos(乳の環)」なんだよね。

 

 

赤ちゃんヘラクレスの吸引力のおかげで、たくさんの星が誕生したのか…

 

 

成長したヘラクレスは、数々の試練を乗り越え、英雄の名を欲しいままにした。

 

スポーツの祭典として知られるオリンピック競技会を創設したのもヘラクレスだ。

 

初期の大会はヘラクレスの子孫たちの独断場で、ことごとくメダルを独占した。

 

 

オリンピック競技会とメダルは『ガタカ』でも重要なモチーフだね…

 

 

そしてある日、ヘラクレスは家族で旅をしていた時に、向こう岸が見えないほどの大きな川に辿り着いた。

 

流れも激しいため、妻と子を同時に背負って渡ることはできない。

 

そこにたまたまケンタウロス族のネッソスが通りがかり、ネッソスが妻を、ヘラクレスが我が子を背負って渡ることになった。

 

急流の中、泳ぎが得意なネッソスはぐんぐんとヘラクレスを引き離してゆく。

 

そして、いち早く向こう岸まで着いたネッソスは、なんとヘラクレスの妻を犯し始めた。

 

それを見たヘラクレスは、毒矢でネッソスを撃ち殺してしまう…

 

 

神話の時代はワイルドやな…

 

 

でもこれって『ガタカ』の「二人のアントンによる遠泳レース」の元ネタじゃない?

 

 

そうだよね。

 

さて、毒矢で射抜かれたネッソスは、ヘラクレスの妻にこう言い残して死んだ。

 

「俺の血には媚薬効果があるので、夫の愛が冷めて来たと思ったら、この血を沁み込ませた服を着せるといい」

 

ヘラクレスの妻はネッソスに感謝して、その血を保存しておいた…

 

 

ええ奴やん、ネッソス。

 

 

ちょっと待って…

 

相手は自分を手籠めにしようとして、そこを夫に見つかって殺された男だよね…

 

意味わかんないんですけど…

 

 

男と女のことって、そう単純じゃないのよ…

 

子供にはわからないでしょうね…

 

 

そしてヘラクレス夫妻にネッソスの血を使う時が訪れる。

 

よその女に夢中になっていた夫ヘラクレスに対し、妻はネッソスの血を沁み込ませた衣服を着せた。

 

しかしヘラクレスは、発情して妻に求愛するどころか、全身を掻きむしりながら激しく苦しみ始めたんだ…

 

 

ど、どゆこと!?

 

 

ネッソスはヘラクレスに復讐するため妻を騙したんだ。

 

実は「ネッソスの血」には「猛毒」が入っていたんだよね。ヘラクレスが放った毒矢の猛毒が。

 

ヘラクレスは激しく痛む表皮を剥がそうと全身を掻きむしったけど、時すでに遅し。猛毒は全身の皮膚に回って、もはや我慢できないほどになってしまった。

 

そこでヘラクレスは自分の周りに薪を組み、そこに座って火をつける…

 

苦しさのあまり、全身を焼いてしまったんだ…

 

『ヘラクレスの死』

フランシスコ・デ・スルバラン

 

 

それって…

 

 

映画『ガタカ』のラストシーンね…

 

 

 

うひゃあ!

 

しかもヘラクレスが衣を引き裂こうとしてる手のポーズが一緒だ!

 

伸ばした右手は布を強く握りしめ、左手は布に掛ける感じ…

 

 

それだけじゃない…

 

ジェロームはヘラクレスの「上目遣い」も再現する…

 

 

 

マジかよ…

 

だからメダルの布をチラッと上目づかいで見たんだ…

 

 

アンドリュー・ニコル監督の執念ね…

 

 

ところで、主人公ヴィンセント・アントン・フリーマンのファミリーネーム「FREEMAN」は?

 

 

ヤーマンやろ。

 

 

レゲエの話をしてるんじゃないよ。

 

 

「ヤーマン」っちゅうのは「FREEMAN」のことや。

 

日本語では「独立自営農民」っちゅうノリの悪い訳語が当てられとるけどな。

 

自分で土地を所有し、封建領主の支配から自立しとった農民のことを指す。

 

 

確かにそうなんだけど…

 

僕は「FREEMAN DYSON(フリーマン・ダイソン)」から取られたんじゃないかなと思う…

 

FREEMAN DYSON(1923〜)

 

 

誰?

 

 

理論物理学の分野で20世紀を代表する科学者よ。

 

『地球交響曲(ガイア・シンフォニー)』のコンセプトに大きな影響を与えた人物で、『第三番』に出演もしているわ。

 

 

 

物理学の大科学者で「神の意思」に言及するっちゅうのも珍しいな…

 

 

フリーマン・ダイソンは、科学者の世界では珍しく、とても敬虔なキリスト教徒なんだよ。

 

それというのも、彼の父親はイギリスの超名門校「王立音楽大学」の学長を務めたほどのパイプオルガン奏者で、数多くの宗教音楽を作曲した偉大な芸術家でもあるんだ。

 

そんな環境に生まれ育ったから、聖書や宗教音楽が、数学や物理の数式同様に、彼の血肉になっているんだよね。

 

だから彼の宇宙論では「神の存在」は欠かせない。

 

「主人公が不可能と思われた宇宙への旅を実現させる」という大筋の中に、聖書やギリシャ神話のモチーフが散りばめられた『GATTACA(ガタカ)』という物語には、うってつけの人物だと言えるよね。

 

 

なるほど。

 

 

では次に、ユマ・サーマン演じるヒロイン「アイリーン・カッシーニ」の名前について深読みしてみよう…

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく

 

 

 

 

 

 

 

 

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