エピローグ第20話:なぜディクソン巡査はミルドレッドの黒人差別発言にあそこまで激怒したのか?『THREE BILLBOARDS OUTSIDE EBBING, MISSOURI(スリー・ビルボード)』徹底解剖

  • 2019.02.21 Thursday
  • 16:05

 

 

 

 

 

 

ウィロビー署長がディクソンから目をそらした「ある瞬間」に、バッヂが「消えた」んだよ…

 

 

ある瞬間?

 

 

それが「アンジェラ憑依の瞬間」のサインだったんだ。

 

 

・・・・・

 

 

何を言ってるのか意味がわからない人は、きっと前回を未読の人だよね。

 

まずはコチラからどうぞ。

 

 

 

バッヂが消える瞬間までを詳しく見ていこう。

 

どうしてもアンジェラの死体発見現場を「再確認」したかったウィロビー署長は、どうでもいいことを話し続けているディクソンを鬱陶しく思い、「邪魔だからあっちへ行ってろ」と冷たくあしらった。

 

 

 

ウィロビー署長はディクソンに「うだうだ言ってると、お前の母ちゃんの前歯をへし折るぞ」とか言ってたね。

 

ディクソンは「へ!?」って驚いてたけど(笑)

 

 

あれも「ディクソンへのアンジェラ憑依」の伏線だ。

 

この次のシーンは「アンジェラの母ミルドレッドが前歯を抜くシーン」だから…

 

 

ああ!そうか!

 

 

・・・・・

 

 

「邪魔するな、あっち行ってろ」と言われたディクソンは、「自分が連れて来たくせに何だよ…」みたいな表情で、ウィロビー署長から離れる。

 

そしてこの時、ディクソンは「妙な動き」を始めるんだ。

 

急に体中がムズムズしてきたらしく、顔をしかめて身をねじらせ、体を掻き始めるんだよね…

 

 

 

そういや変な動きしとったな。何やったん?

 

虫にでも喰われたんか?

 

 

あれが「アンジェラ憑依の瞬間」だ。

 

異物である「霊」が身体に入って来たので、ディクソンは違和感を感じていたんだよ。

 

この映画では憑依が何度も行われるけど、その瞬間が描かれるのはここだけだ。

 

とても重要な描写だよね。

 

 

でも、なんでディクソンなのさ?

 

 

ディクソンは精神年齢が子供並みだ。ピュアだから敏感なんだよね。

 

子供って、少しでも痒かったりムズムズすると、すぐに反応して掻いたりするでしょ?

 

そういう「わかりやすいリアクション」が欲しかったんだと思うよ。

 

他の大人、特に女性では絵にしづらいから…

 

 

確かにペネロープやウィロビーの嫁アンが同じ動きしたら、完璧にコメディになってまう…

 

ディクソンというキャラやさかい成立するんや…

 

 

身をよじらせて体を掻きながら離れていったディクソンは、後方で立ちどまる。

 

ここで「憑依完了」だ。

 

ディクソンに入りこんだアンジェラは、ストレッチでもするかのように上半身を軽く振って、新しい体の動きを確かめた。

 

そしてこの時バッヂは消えていた…

 

きっとディクソンが身体を掻いていた時に落っことしたんだろう…

 

 

 

そういえば、この後のディクソンの描写も変だったわ…

 

再びウィロビー署長のところへ近付いて行くんだけど…

 

なぜか「顔」が見えないの…

 

 

 

その通り。

 

ここからマーティン・マクドナーはディクソンの顔を意図的に映さなかった。

 

ディクソンがウィロビー署長の背後で話しかけた時も、なぜか顔が見えない不自然なアングルだったんだよね…

 

 

 

 

わかったぞ…

 

「映さなかった」んじゃなくて、「映せなかった」んだ…

 

アンジェラが憑依して間もない時間帯は、顔つきが「変」になっちゃうから…

 

あの時のペネロープや秘書パメラみたいに…

 

 

 

 

その通り。

 

この現場検証シーンみたいな一連の流れの中で「変化」を描いちゃったら、一発でバレちゃうからね。

 

だからディクソンの顔は映されなかったというわけ…

 

ちなみに変化するのは「顔」だけじゃない。

 

「声」もおかしくなっちゃうんだ。

 

だからあの時のディクソンの声も普段とは違うものだった。明らかに違う声なんだよ…

 

 

・・・・・

 

 

せやけど…

 

なんでマーティン・マクドナーは、ディクソンのバッヂとアンジェラ憑依を関連付けたんや?

 

別にあそこでバッヂ落とさんでもええやろ…

 

 

そこは脚本を書いたマーティン・マクドナーに聞いてみないとわからない。

 

だけど僕が思うに、この映画の重要な登場人物である「霊体アンジェラ」の存在を、観客にそれとなく伝えたかったんじゃないかな…

 

誰かが「ディクソンの失われたバッヂ」に疑問を抱き、このシーンに注目するようにね…

 

それ以外に、このシーンでバッヂが突然消えた理由が説明できないんだ…

 

 

・・・・・

 

 

おい、マーティン。

 

お前さっきからずっと黙ったまんまやけど、具合でも悪いんか?

 

同じイギリス人で同じ名前なんやさかい、何か言うたらどうや?

 

 

そんな無茶振りされても困るよね…

 

 

ハ、ハイ…

 

チョット オテアライニ イッテモイイデスカ…

 

 

ええで。たっぷりお花摘みしてきたらええ。

 

 

でも、なぜあのタイミングだったのかしら?

 

別に他の時でもよかったのに…

 

 

アンジェラは、ウィロビーを安心させたかったんだと思う。

 

 

安心?

 

 

あの日の午前中、ウィロビー署長は初めてミルドレッド宅を訪れた。

 

テレビのニュースでも大々的に報じられた「スリー・ビルボード」に書かれているメッセージが気になったからだ。

 

ウィロビーは「RAPED WHILE DYING」の「DYING」が「末期癌である自分のことなのでは?」と不安に思っていた。

 

なぜなら、後日ミルドレッドの顔面に吐血したように、犯行当日にもアンジェラの顔面に吐血していたから…

 

でも、そんなことにミルドレッドが気付くはずがない。死体を徹底的に焼いて、証拠は完全に消していたからね。

 

だけどミルドレッドから「あなたがDYINGであることを知っている」と言われて、激しく動揺してしまった。

 

 

この時ウィロビーはこう考えたはずだ…

 

「なぜ気付いたんだ?俺に結びつくようなものは全て消したはずなのに…」

 

そして急いで署に戻り、無能なディクソンに預けていたアンジェラ事件ファイルをチェックした。

 

だけど何度見ても「自分に結び付くようなもの」はない。

 

これで安心するどころか、ますますミルドレッドの言葉を不気味に感じてしまったウィロビーは、ディクソンを連れて遺体発見現場であるスリー・ビルボードへ向かう。

 

もしかしたら現場に何か見落としてるものがあったんじゃないかと考えたんだ。

 

あの時のウィロビーは、地面が焦げた跡の残っている場所にしゃがみ込み、とても悲痛な面持ちをしていたよね…

 

愛していたアンジェラを殺してしまった切ない想い…

 

そしてアンジェラの母から自分が犯人のレイプ魔だと思われているかもしれないということ…

 

いろんな感情が込み上げていたはずだ…

 

 

 

そんなウィロビーの姿を、霊体アンジェラはずっと見ていた…

 

そして可哀想だと思ったのね…

 

だから「安心させてあげなきゃ」と…

 

 

そうか…

 

本当はアンジェラは「ウィロビー署長が死にかけてる間は逮捕しないで」と母ミルドレッドに伝えたかったんだもんな…

 

残された僅かな時間を平穏に過ごさせてあげたくて…


 

ディクソンに入ったアンジェラは、何か見落としがあるんじゃないかと不安そうに探しているウィロビーに向かって声をかける。

 

 

「探しても何も出て来ませんよ」

 

 

それはウィロビーにとって違和感のある内容で、しかもいつものディクソンと違う声だった…

 

ウィロビーは、一瞬「?」と思って振り返る。

 

だけどその違和感をスルーしてしまうんだ…

 

 

 

ディクソンがそんなこと言うのは、どう考えても変や…

 

そもそもこいつは何も捜査しとらんやんけ…

 

事件ファイルすら、中身をまともに見とらん…

 

 

ウィロビーを安心させるための言葉だからね。

 

アンジェラは、動揺して疑心暗鬼になってるウィロビーに「証拠になるようなものは絶対に無いから大丈夫」と伝えたかったんだよ。

 

 

この日は、そのままずっとディクソンに入ってたの?

 

あの取調べの時も?

 

 

そうだよ。

 

ディクソンが取調室にいた時、アンジェラは最初は意識を消していた。

 

だけど母ミルドレッドの「ニガー発言」でスイッチが入ったんだ。

 

あのシーンをよく見ると、ディクソンが怒り出すタイミングが変なんだよね。

 

 

なんでスイッチが入ったんや?

 

 

生前のアンジェラは、自分の家族が大嫌いだった。

 

口が汚くて、乱暴だからだね。

 

ペネロープに憑依した時は、そんな我が家を「動物園」に喩えていたくらいだ。

 

 

自分でもオカンを「ビッチ」呼ばわりしとったやんけ…

 

 

「ビッチ」と「ニガー」では「口の汚さ」のレベルが全然違う。

 

アンジェラは自分の家を最低だと思い、ウィロビー家みたいな家庭に憧れていたんだ。

 

ウィロビーも家族の前で汚い言葉を言うことがあったけど、ちゃんと「ごめんな」って謝っていたからね。

 

 

だから母ミルドレッドの発言に、あそこまで過剰反応したんだよ。

 

「そういう口の汚いところが嫌いだったのよ!」って…

 

そしてウィロビー署長が入ってきて、ディクソンは外で待機するように言われ、取調室を出て行く。

 

その時、あのジェスチャーをするんだ。

 

「ちゃんと見てるからね!」と…

 

 

 

ああ、なるほど…

 

 

だからウィロビー署長が救急車で運ばれる時に、呆然としたディクソンの顔がアップで映されたのね…

 

あれは、心配してたことが起きてしまったアンジェラの表情だったんだわ…

 

 

 

そうだね。

 

 

あのときディクソンが「黒人差別発言」に過剰反応した理由は「2つある」って言ってたけど、もう1つは何なの?

 

 

映画『スリー・ビルボード』の元ネタになったチェーホフの『狩場の悲劇』だよ。

 

映画を作ったマーティン・マクドナーは、あの小説が元ネタであることを、こっそり伝えたかったんだ…

 

 

あの小説に黒人は出て来んかったやろ。

 

 

たしかに小説には出て来ない。

 

でも、主人公の予審判事セルゲイ・ペトローウィチや、事件の発端となる四角関係のモデルは、ロシアの国民的作家プーシキンだと話したよね?

 

 

 

それが何の関係があるの?

 

 

実はプーシキンの曽祖父、つまり「ひいおじいちゃん」は、アフリカから連れて来られた黒人奴隷だったんだ。

 

アブラム・ペトローウィチ・ガンニバル(1696-1781)

 

 

ハァ!?

 

立派な徽章を付けてて、どう見ても黒人奴隷には見えないんですけど…

 

 

だってロシア帝国軍の少将、そしてタリン総督にまで登り詰めた人物だからね。

 

 

ええ!?どゆこと!?

 

 

そもそも彼がロシアに来たきっかけは、オスマントルコのスルタンがアフリカから奴隷として連れて来たところを、ロシアの外交官がコンスタンティノープルで拉致したことによる…

 

そしてロシア皇帝ピョートル1世に献上されたんだね…

 

啓蒙君主だったピョートル1世は「人間の能力に人種の優劣はない」という考えを実証するため、拉致されてきた黒人少年に帝王学を施し、世界の中心パリに留学させ、当時最高の知識人たちと交わらせ、最先端思想を身に付けさせた。

 

そして黒人少年アブラム・ペトローウィチ・ガンニバルはめきめきと才能を開花させ、軍人としてロシア帝国の少将まで登り詰め、首都ペテルブルグにほど近いタリン総督に抜擢された。

 

そんな彼の「曾孫」が、あのプーシキンだったんだよ。

 

 

『狩場の悲劇』の主人公セルゲイ・ペトローウィチが「アフリカから来たオウム」を飼っていたのは、そういうことだったのね…

 

 

こういうルーツを持っているから、プーシキンを快く思わない人たちは、彼が「黒人の血」を引いていることを陰で嘲笑した。

 

いっぽう奴隷制度が盛んだったアメリカでは、反奴隷制度を訴える人たちがプーシキンをキャンペーンに利用したんだ。

 

「ロシアの国民的作家プーシキンは黒人の血を引いている。だから黒人が白人に劣るなどという考えは間違っている。黒人差別はやめるべきだ」とね…

 

 

なるほど。そうゆうことか…

 

 

まったく大したもんだよ、マーティン・マクドナーという男は…

 

チェーホフの作品を引用するだけじゃなくて、こんな深い仕掛けを施してしまうんだからね…

 

 

せやけど『狩場の悲劇』の「ディープキス」はどうなったん?

 

それが『スリー・ビルボード』に大きな影響を与えたっちゅうハナシの途中やったはずや…

 

 

ああ、思い出した!

 

これだね!

 

 

 

(トイレで咳き込む音)

 

「ゲホッ、ゲホッ…」

 

 

 

あいつ吐いとんのか?

 

大丈夫か〜?マーティ〜ン!?

 

 

(トイレから)

 

「ダ、ダイジョブデス…」

 

 

 

 

では「濃厚なキス」の話に戻ろうか…

 

いよいよ、この映画の最後の秘密を解き明かす時がきた…

 

 

・・・・・

 

 

 

 

 

つづく

 

 

 

 

 

 

 

 

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