エピローグ第19話:カメラ目線と消えたバッヂ 『THREE BILLBOARDS OUTSIDE EBBING, MISSOURI(スリー・ビルボード)』徹底解剖

  • 2019.02.20 Wednesday
  • 20:45

 

 

 

 

 

 

『狩場の悲劇』と同様に、『スリー・ビルボード』でも「濃厚なキス」は一度しか登場しない…

 

自殺する夜のウィロビーと妻アンによるキスシーンだ…

 

あのキスに、重大な秘密が隠されていたんだよ…

 

 

 

・・・・・

 

 

なんのこと言ってるのかわからない人は、きっと前回を未読の人ね。

 

まずはコチラからどうぞ。

 

 

 

なぜ花笠君が顔を赤らめているのかわからない人はコチラをどうぞ(笑)

 

 

 

 

ディープキスに重大な秘密が?

 

どうゆうこっちゃ?

 

 

まずはチェーホフ『狩場の悲劇』における「濃厚なキス」について説明しよう。

 

「濃厚なキス」を行ったのは、のちに殺されるヒロイン「森番の娘オリガ(19歳)」と、その真犯人である予審判事セルゲイ・ペトローウィチ…

 

なんと、オリガと伯爵家の執事ウルベーニンの結婚式の真っ最中の出来事だった…

 

 

あれ?

 

オリガは「自分には貴族の血が流れている。だから貴族として扱われて当然だ」と思っていたのに、執事と結婚しちゃったの?

 

 

実は執事ウルベーニンも貴族なんだ。最も低い階級の貴族だけどね。たぶん男爵あたりなのかな。

 

彼の家は代々隣の郡に小さな領地を持っていたんだけど、借金の担保に取られてしまい、収入源を失ってしまった。

 

だから伯爵家の執事として雇われていたんだよ。

 

 

執事も「領地を失った没落貴族」やったんか…

 

ポーランド人兄妹と一緒やんけ…

 

 

それを臭わせるための設定だろうね…

 

伯爵家を乗っ取ったポーランド人兄妹の素性は一切描かれないんだけど、チェーホフはヒントをいくつも用意していたんだ…

 

まあ、それは置いといて…

 

 

執事とオリガの結婚式は、この地域の貴族や上流階級が勢揃いする盛大なものだった。

 

年老いた没落貴族と、平民の中でも身分の低い森番の娘の結婚式にもかかわらず、ね。

 

おそらく伯爵は「自分は困った貴族に救いの手を差し伸べただけでなく、ここまでのことをしてあげる立派な男だ」と虚栄心や見栄を満たしたかったんだろう。

 

だけどそれが裏目に出たんだ…

 

上機嫌の伯爵はウルベーニンとオリガに「新郎新婦のキス」を求めた。

 

そしてすべての参列者の視線がオリガに集まった。

 

その瞬間、オリガは自分が「この地域の上流階級の人々の中で最も貧乏で醜い男」を選んでしまったことに気付いてしまったんだ…

 

しかも付添人を務めるギリシャ風美男子の予審判事セルゲイ・ペトローウィチが、すぐ隣で「それで本当に満足なのか?」とでも言いたげな目をしてジッと見つめている…

 

 

こんな感じで(笑)

 

 

 

それに耐えきれなくなったオリガは、席を離れ、そのまま式場へは戻って来なかった。

 

予期せぬ花嫁の失踪に、花婿のウルベーニンはもちろん、参列者は騒然とする。

 

オリガの付添人を務めていた予審判事セルゲイ・ペトローウィチは、伯爵領内の保安官みたいな地位でもあるため、花嫁捜索の役を買って出た。

 

そして伯爵家の広大な庭園の中を探し回り、以前オリガが「ここで皆に見守られながら死にたい」と言っていた岩山の洞窟の中で発見する…

 

 

ゴルゴダの丘が投影されとる岩山の洞窟やな。

 

『磔刑図』アンドレア・マンテーニャ

 

 

洞窟の中で、オリガは予審判事に「あなたと結婚したかった」と涙ながらに《愛の告白》をした…

 

それに対して予審判事は…

 

わたしは彼女の手をとって言った。「涙を拭いて、行きましょう……向こうで待ってるから……さ、もう泣くのはたくさん。もういいでしょう。」わたしは彼女の手にキスした……

 

「もういいんだ!君は愚かな真似をしたんだもの。これからその報いを受けるのさ……自分がわるいんですよ……さ、もういい、気を静めて……」

 

「愛してくださるわね?ね?あなたって、とても立派でハンサムだわ!愛してくださるでしょ?」

 

「もう行かなけりゃ、君……」わたしはこう言ったが、自分が彼女の額にキスし、その腰を抱きよせていることや、彼女が熱い息吹きでわたしを灼き、わたしの首にひしと抱きついていることに気づいて、ひどくびっくりした……

 

「もういいんだ!」わたしはつぶやく。「もういいんだよ!」

中央公論社版(訳:原卓也)より

 

 

なにが「もういいんだ!」やねん…

 

どう考えてもアカン展開やんけ…

 

 

「ひどくびっくりした」とか言ってるけど、超わざとらしい…

 

自分でオリガの手にキスして、次に額にキスして、さらには腰に手をまわして抱きよせてるじゃんか…

 

 

この流れだと、次は唇ね…

 

でも「花嫁失踪」は、ポーランド人兄妹の描いた「伯爵家乗っ取り計画」には無かったはず…

 

これら一連の対応は、すべて予審判事セルゲイ・ペトローウィチのアドリブってこと?

 

 

だろうね。

 

「伯爵家乗っ取り計画」において、オリガは重要なキーパーソンだ。

 

先代伯爵の血を引く彼女が「目覚めて」くれないと、この計画は成功しない。

 

途中で死なれたり「執事の後妻」で満足されたりでもしたら、計画はオジャンになってしまうんだよ…

 

 

なんで?

 

 

伯爵家を乗っ取るためには、この地域の貴族たちを黙らせる必要がある。

 

どこの馬の骨かもわからないポーランド人兄妹が突然現れて伯爵家を乗っ取ったら大問題になってしまうからね…

 

そのためポーランド人姉妹は、この地域の上流階級に属する人間たちを「共犯者」にする作戦を練った。

 

伯爵が領地を追い出されたことの「責任」を彼らに共有させ、何も文句を言えない状態にしようとしたんだ。

 

つまり「伯爵が結婚していながら内縁の妻を囲い、卑しい身分にもかかわらず女が我が物顔で主人ぶっていることに、意見するどころか嬉々として従っていた」という負い目を与えようと考えたんだね…

 

その仕上げが「Shooting Party(狩りのピクニック)」における、上流階級勢揃いの前での「サプライズ登場」だったわけだ…

 

 

そんじょそこらの女じゃ伯爵相手に「卑しい身分にもかかわらず我が物顔で主人ぶる」とこまで行かへんわな…

 

同じように高貴な血を受け継いどるっちゅう自信でもない限り…

 

 

彼女…「乗っ取り計画」に利用されたのね…

 

本当は先代伯爵の血を引く相続人のひとりだったのに…

 

 

だから「花嫁失踪」の際、ポーランド人兄妹の兄で「監視役」を務める「眉毛の黒い太った男カエタン・プシェホーツキイ」は、心配になって後をつけて来たんだ…

 

五分ほどしてから、彼女を両手に抱きかかえて洞窟から運びだし、さまざまの新しい印象にぐったりしている彼女を地面におろしてやった時、わたしは入口のすぐわきにプシェホーツキイの姿を見いだした……彼はそこに立って、意地のわるい眼でわたしを見つめ、静かに拍手をしていた……わたしは彼をまじまじと眺めてから、オリガの腕をとって、屋敷に向った。

 

「今日にも君はここにいられなくなるだろうぜ!」わたしはふり返って、プシェホーツキイに言った。「そういうスパイ行為はタダじゃすまんよ!」

中央公論社版(訳:原卓也)より

 

 

「スパイ」言うてもうたやん…

 

 

たぶんイラっと来たんだろう…

 

自分は必死のアドリブで「プロジェクト失敗」の大ピンチを乗り切ったのに、監視役のカエタンは身を隠すでもなく堂々とオリガや読者の前に姿を現して「たいした役者だね」みたいな態度を取ったもんだから…

 

 

それで変な間があったのね…

 

予期せぬ展開にパニくって、「これはどういうことなのか?」と考えていたんだわ…

 

そして自分の立場と役割を思い出し、あわてて去り際に捨て台詞を吐いた…

 

やや「勇み足」気味の捨て台詞を…

 

 

パニくってカメラ目線でネタバレ寸前のことを叫んでしまった『カメラを止めるな!』の日暮監督みたい(笑)

 

 

 

まさにそうだね。

 

そして『スリー・ビルボード』でも、このシーンが再現された。

 

 

そんなのあったか!?

 

 

・・・・・

 

 

警察署でのミルドレッド取り調べシーンだよ。

 

なぜかあの場面は、ミルドレッドが取調室の窓から向かいの建物にある広告代理店を覗くところから始まる。

 

広告代理店のオフィスでレッドと秘書のパメラが「いちゃついている姿」が意味有り気に映し出されるんだ…

 

 

 

そういえばそうだったね…

 

何の意味があったんだろう?

 

 

あれは「洞窟内でイチャついてたイケメン予審判事とオリガ」の投影だ。

 

窓の周りのレンガが「岩山の洞窟」っぽいでしょ?

 

ここからあの場面が再現されることの合図みたいなもんだね。

 

 

合図!?

 

 

イチャつくカップルを覗いていたミルドレッドを、取調室の中でディクソンは黙って見ていた。

 

『狩場の悲劇』のカエタンと同じように「入口のすぐわき」でね…

 

そして微妙なムードになったところで、ウィロビー署長が割って入った。

 

その時ディクソンは、思いっきり《カメラ目線》をする。

 

そして去り際に『お前を見てるからな!』とジェスチャーをするんだ…

 

 

 

確かに、完璧なカメラ目線ね…

 

 

ああ!あれオイラも気になってたんだ…

 

しかも「指差しポーズ」も日暮監督と被ってる…

 

 

そこは偶然だろう…

 

上田慎一郎監督に聴いてみないとわからないけど…

 

 

・・・・・

 

 

せやけどディクソンの「ニガー/カラード」のヒートアップは何やったん?

 

さんざん「黒人差別するな!」とか言うといて、ディクソンはあの後、黒人の新署長にめっちゃ差別的な態度とってたやんけ…

 

 

理由は2つある。

 

 

2つ?

 

 

まず1つめ…

 

あの取調べの日のディクソンには、アンジェラが入っていたんだ。

 

 

ハァ!?

 

 

アンジェラがディクソンに?

 

 

僕としたことが、これをすっかり見落としていた。

 

彼女の憑依を見抜けたのが、臭いペネロープ、秘書パメラ、ウィロビーの妻アン、小人のジェームズと脇役ばかりだったので、てっきりメインキャラには憑依しないもんだと決めつけていたんだ…

 

でも、そうじゃなかった。あの日のディクソンには間違いなくアンジェラが入ってる。

 

重要なサインを僕は見逃していたんだよ…

 

ディクソンの「消えたバッヂ」というサインを…

 

 

ディクソンのバッヂ?

 

たしか「広告代理店への殴り込み」の時に失くしたって…

 

 

違うんだよね。

 

あの殴り込みに向かう日の朝、既にバッヂは左胸に付いてなかった…

 

 

 

あれ?変だな…

 

 

というか、ディクソンは数日間ずっとバッヂを付けていなかったんだよ…

 

ミルドレッドの取調べの時も、左胸のあるべき場所にバッヂはない…

 

 

 

ホントだ…

 

じゃあ、いつ失くしたんだ?

 

 

この日の朝は付いていた。

 

 

そして、ウィロビー署長による「アンジェラ遺体発見現場の再調査」に同行した時も、まだ付いていた…

 

 

だけど…

 

ウィロビー署長がディクソンに背を向けてしゃがみ込んでいた時…

 

なぜか左胸からバッヂは消えていた…

 

 

 

 

ええ!?どゆこと!?

 

 

ウィロビー署長がディクソンから目をそらした「ある瞬間」に、バッヂが「消えた」んだよ…

 

 

ある瞬間?

 

 

それが「アンジェラ憑依の瞬間」のサインだったんだ。

 

 

・・・・・

 

 

 

 

つづく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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