第10回:ビリヤードじゃなくてプールをしてるんです。 〜『THREE BILLBOARDS OUTSIDE EBBING, MISSOURI(スリー・ビルボード)』徹底解説

  • 2018.12.07 Friday
  • 22:37

 

 

 

 

 

では「バーでのビリヤード」シーンの解説を始めるよ。

 

 

登場する人物は、主人公ミルドレッド、広告代理店のレッド、ディクソン巡査、そして小人のジェームズの4人。

 

 

バックで流れる曲『RADIO SONG』のことは前回に話したね。

 

 

 

『RADIO SONG』とは「あまねく広まる歌」、つまり「普遍なるイエスの教え」って意味だったんだよね。

 

 

 

この歌をバックに展開されるシーンなのだから、当然その内容は「RADIO(あまねく伝え広める)」がテーマということになる…

 

もうわかるよな?

 

 

わかりませ〜ん!

 

 

わからないだと?

 

お前ら日本人は、何をもって「メリー・クリスマス!」と祝っているのだ?

 

救い主イエス・キリストが降誕し、その救いの言葉が遍く世界中に及んだことを感謝しているのではないのか?

 

 

いちいちそんなこと考えてないよ。

 

だってオイラたち日本人のほとんどは神道と仏教徒のハーフだから。

 

なんかオシャレだし、周りも皆やってるし、なんとなくノリで「メリクリ!」って言ってるだけ。

 

あと、プレゼントがもらえることも大きいかな。

 

 

じゃあハヌカも祝え。

 

クリスマスなんかよりプレゼントがいっぱいもらえるぞ。

 

 

 

そうゆうのは広告代理店とかお菓子メーカーに言ってよ。あとディズニーランドとか。

 

 

ディズニーとUSJが始めたら従順な日本人は付き従うで。ハロウィンとかイースターみたいに。

 

 

じゃあお前たち、新約聖書を読んだことないのか?

 

まさか内容を知らないでメリクリメリクリ言ってたとか?

 

 

馬鹿にすんなよ!聖書くらい知ってら!

 

マタイ、マルコ、ルカ、ヨハネでしょ?

 

 

そのあとは?

 

 

あと?

 

 

そのあとは『ヨハネの黙示録』や!

 

 

お前たち、本気で言ってるのか…?

 

 

なんで?

 

 

まあまあ、公園兄弟さん。これが日本の現実というものです。

 

だから日本ではキャラ物の娯楽映画以外の西洋映画が売れないんですよ…

 

コーエン兄弟の作品みたいに、新旧聖書の知識がないと意味がわからない映画は特にね…

 

 

そうだったのか…

 

じゃあ四福音書のあとに続く『使徒行伝』を知らなくても当然…

 

 

しとぎょうでん?

 

 

『使徒行伝(使徒言行録)』とは、イエスが死んだあとの物語…

 

残された使徒たちの苦難と伝道の様子を描いた書だ…

 

つまり「イエスの教え」を「RADIO(伝播)」する書だね…

 

 

映画『スリー・ビルボード』のストーリーのベースになっているのは、この『使徒行伝』だ。

 

映画の登場人物も『使徒行伝』に登場する使徒たちが元ネタになっている。

 

セリフの多くも『使徒行伝』からの引用なんだな。

 

 

そしてそれを観客にネタバレ的に示しているのが、このビリヤードのシーン…

 

 

「ビリヤード」ではない。「プール」だ。

 

 

あ、そうでしたね。つい…

 

 

どっちでもいいだろ!

 

「ビリヤード」がある店を「プール・バー」と言うんだから!

 

 

アメリカでは「プール」と「ビリヤード」は別物だ。

 

テーブルに穴が開いてて、そこに球を落とすゲームが「プール」。

 

「pool」とは「窪みに溜まる」という意味だからな。

 

いっぽう「ビリヤード」というのは、穴の開いていないテーブルで行うゲーム。

 

全く異なる競技なのだ。

 

 

その通りなんですよね。

 

映画『スリー・ビルボード』でも、セリフの中で「ビリヤード」なんて一度も言っていません。

 

登場人物は皆「プールをする」と言っている。

 

なぜなら、この映画は『使徒行伝』がベースになっているのですから…

 

 

ええ!?

 

あの時代にもビリヤード…いや「プール」があったの!?

 

使徒たちは「プール」で遊んでたのか!?

 

 

遊んでたわけじゃないよ。布教活動の一環だ。

 

『使徒行伝』第2章では、皆で「プール」をする場面が描かれている…

 

『ペンテコステの日の洗礼』ジョン・フィリップ

 

 

ハァ?

 

プールはプールでも、水に入るほうじゃんか。

 

 

駄洒落なのだ。

 

「水に浸かるプール」と「玉突きのプール」を掛けているんだな。

 

 

うちらを騙そうったって、そうはいかないぞ!

 

こんなオヤジギャグ、誰が口にするというんだ!

 

 

キリスト教圏では定番のオヤジギャグなんだな(笑)

 

だって使徒たちって、こんなふうにキューを持ってるでしょ?

 

『大ヤコブ』グイド・レーニ

 

 

これがホントのメロリンキュー。

 

 

 

ズコっ!

 

 

『スリー・ビルボード』の脚本を書いたマーティン・マクドナーがオヤジギャグ好きなのは、彼の師ともいえるコーエン兄弟の影響かもしれないね…

 

コーエン兄弟はシリアス風なドラマの中にもシレーっとオヤジギャグを突っ込んでくるから…

 

 

コーエン兄弟の作品は全て「ブラックユーモア」によるコメディ映画だ。

 

そしてこの『スリー・ビルボード』もコメディ映画だということを忘れてもらっちゃ困る。

 

日本人は真面目に映画を見過ぎだな。

 

 

前フリも終わったところで、そろそろこの「プール」シーンを解説しましょう。

 

まずは登場する4人の役割から…

 

 

この映画における主人公ミルドレッドは、初代ローマ教皇である「使徒ペトロ」だったね。

 

彼女が世間へ訴えた「スリー・ビルボード」とは、カトリック(普遍)の神髄「三位一体」のことだ。

 

ちなみに黄金色の火炎瓶と銀のジッポライターは、ペトロが持つ金銀のカギがモチーフ…

 

 

 

だから歯科医のことを3度「知らない」と言ったんだな(笑)

 

 

 

あはは!

 

 

そしてディクソンは「使徒パウロ」だ。

 

 

警察官時代のディクソンは弱い者いじめばかりしていたけど、火事に巻き込まれて大怪我を負い、目からウロコが落ちて回心し、敵対していたミルドレッドの協力者となった。

 

これはパウロの人生そのものだよね。

 

まだサウロと呼ばれていた頃のパウロは、イエスの弟子たちを逮捕して迫害しまくっていた。

 

だけどステファノのリンチ事件のあとに、眩しい光に包まれて馬から落ち、目からウロコが落ちて回心する。

 

それ以降は最も熱心な伝道者となるわけだ。

 

ちなみにパウロは新約聖書全27書のうち約半分にあたる13書の作者とされている。

 

だから通常、ファイルを抱えた姿で描かれるんだね。

 

火事の時にディクソンが事件ファイルを抱えたのは、彼のモデルが使徒パウロだからだ。

 

 

なるほど。オモロイ。

 

 

ちなみにパウロは男性上位を説き、上に立つ父性的権威や権力への絶対的服従を説いた。

 

警察官時代のディクソンのファザコン的でマッチョイムズな言動は、パウロの思想によるものだ。

 

そしてパウロは、ふしだらな女性やホモ・セクシャルに非常に厳しかった。

 

だからディクソンは、いい年して女っ気が皆無で、同性愛者を過剰に嫌っていたんだな。

 

一部では彼をゲイ扱いしているようだが、それは違う。

 

ディクソンは8歳の小学生男子レベルの思考回路なんだ。

 

「女?オエ〜。オカマ?気持ちわり〜」のノリなのだよ。

 

 

確かに小2くらいの男子って言うよね、そうゆうことを…

 

中二病じゃなくて小二病か…

 

 

ちなみに初期の伝導活動においてペトロとパウロは双璧だった。

 

意見の対立もあったりしたみたいだけど、この二人のおかげでキリスト教はRADIO(あまねく伝播)した。

 

だから二人は仲良く一緒に描かれることが多いんだ。

 

これが映画のラストシーンにつながるというわけ…

 

 

 

後光が重なってハートに見えるんですけど…

 

ってことは、あのドライブで二人は…

 

 

その後のミルドレッドとディクソンがどうなったかは、私たちだけの秘密…

 

 

俺たちのフィオを汚すな!

 

 

失敬失敬。

 

お次は広告代理店の「赤毛のレッド」のモデルは、同じく赤毛の執事「ステファノ」だ。

 

 

 

執事ステファノ?

 

 

ステファノは使徒ではないんだけど、ギリシャナイズされたユダヤ人「ヘレニスト」で、ギリシャ語を話す信徒たちの代表執事だった。

 

カズオ・イシグロの『日の名残り』の主人公が「執事スティーブンス」なのも、モデルがこの執事ステファノだからだ。

 

ステファノは天使のようなルックスのイケメンで、教養豊かな弁舌家だった。

 

だけどそれが仇となる…

 

ユダヤ評議会の幹部たちの前で、挑戦的な弁論をぶちまけてしまったんだ。

 

レッドがウィロビー署長にやってしまったようにね…

 

これが『使徒行伝』で長々と語られる「ステファノの演説」だ。

 

「生意気な奴だ!」と激怒した幹部たちは、ステファノに死刑を宣告した。

 

そうしてステファノは壮絶な石打ちの刑で殺されてしまい、キリスト教最初の殉教者となる。

 

 

 

『スリー・ビルボード』と丸っきり一緒じゃんか…

 

レッドは九死に一生を得たけど…

 

 

そして最後のひとり、小人のジェームズ。

 

彼のモデルは、さきほど絵を紹介した、キューを持つ聖人「大ヤコブ」だ。

 

小人症の俳優ピーター・ディンクレイジに「大ヤコブ」を演じさせるなんて、ブラックユーモアが過ぎるよね。

 

 

 

大ヤコブなのに名前がJames the Greater?

 

どないなっとんねん?

 

 

英語でポピュラーな名前「James」って「Jacob(ヤコブ)」が元々の形なんだよ。

 

 

マジで!?

 

じゃあ「ジェームズ・ブラウン」は「ジェイコブ・ブラウン」ってこと?

 

 

まあ、そうなるね。


 

ちなみにジェームズが「ハシゴ」でギャグをかますのは、同じヤコブの「Jacob's ladder」(ジェイコブズ・ラダー)が元ネタだな。

 

 

 

だから梯子にこだわっていたんだ…

 

 

本当によく出来てるよね、この『スリー・ビルボード』という物語は。

 

さて、この4人による会話の内容を解説していこうかな…

 

もうほとんど話しちゃったけどね(笑)

 

 

まず、レッド(ステファノ)とジェームズ(大ヤコブ)がプールをしているところに、酔っぱらったディクソン(サウロ)が絡んでくる…

 

ディクソンはレッドに対し、こう言い掛かりをつける。

 

「クソ生意気な奴め。昔からお前が嫌いだった」

 

迫害者サウロと、ヘレニストのステファノの関係だね。

 

そしてこう続ける。

 

「Red Welbyという名前も嫌いだ。まるで共産主義者であることを自慢してるみたいで…」

 

 

「Red(赤)」だから?

 

 

「Red Well by」で「共産主義者であることを誇らしく思う」という意味になるんだ。

 

ちなみにこれは「Stephen(ステファノ)」が元ネタなんだよ。

 

「Stephen」とは古ギリシャ語で「栄光の冠を誇らしく戴く」という意味なんだね。

 

 

ちなみに共産主義ネタは『使徒行伝』からだな。

 

まず第2章…

2:44 信者たちはみな一緒にいて、いっさいの物を共有にし、

2:45 資産や持ち物を売っては、必要に応じてみんなの者に分け与えた。

 

そして第4章にも…

4:32 信じた者の群れは、心を一つにし思いを一つにして、だれひとりその持ち物を自分のものだと主張する者がなく、いっさいの物を共有にしていた。

4:33 使徒たちは主イエスの復活について、非常に力強くあかしをした。そして大きなめぐみが、彼ら一同に注がれた。

4:34 彼らの中に乏しい者は、ひとりもいなかった。地所や家屋を持っている人たちは、それを売り、売った物の代金をもってきて、

4:35 使徒たちの足もとに置いた。そしてそれぞれの必要に応じて、だれにでも分け与えられた。

 

 

そして続く第5章では、このキリスト教コミュニズム共同体でズルをした者が、問答無用で死の罰が与えられることが描かれる。

 

5:3 そこで、ペテロが言った、「アナニヤよ、どうしてあなたは、自分の心をサタンに奪われて、聖霊を欺き、地所の代金をごまかしたのか。

5:4 売らずに残しておけば、あなたのものであり、売ってしまっても、あなたの自由になったはずではないか。どうして、こんなことをする気になったのか。あなたは人を欺いたのではなくて、神を欺いたのだ」。

5:5 アナニヤはこの言葉を聞いているうちに、倒れて息が絶えた。このことを伝え聞いた人々は、みな非常なおそれを感じた。

 

 

ちょっと金額を誤魔化しただけで死んじゃうのか…

 

 

だからディクソンは「キューバのFAGGOT(オカマ野郎)が死刑になること」について話し始める。

 

「FAGGOT」は「GAY」より広い意味の言葉だね。

 

ナヨっとした男性、マザコンなどにも使える侮辱表現だ。

 

 

じゃあディクソンもレッドもFAGGOTじゃんか(笑)

 

 

だから面白いんだよ、このシーンは。

 

そしてディクソンはこう言う。

 

They kill them! Witch, it might surprise you to learn, I am against.

キューバ人はオカマ野郎を殺しちまうんだぜ!お前は驚くかもしれんが、俺は反対だ。

 

この3つのセンテンスからなる文章も「スリー・ビルボード」同様に「どっちにもとれる」文章だね。

 

「FAGGOTを迫害すること」に反対なのか、「俺はFAGGOTじゃない」という表明なのか、どちらの意味にもなる。

 

 

ディクソンはセドリックからも、これで一本取っとったな。

 

 

彼はマヌケなキャラを演じているけど、登場人物の中で最も重要なセリフを連発するんだ。

 

まさに芝居における道化や狂言回しの役割だよね。

 

さて、レッドはディクソンにこう返した…

 

レ「それってワイオミングのことだろ?」

 

ディ「小賢しいガキめ…」

 

 

なんでワイオミング?

 

 

ワイオミングで1998年にゲイの若者がリンチされて亡くなるという事件があったんだよ。

 

そして教会の聖職者が加害者を擁護する発言をして大問題になったんだ。

 

 

あの事件を受けて、ワイオミングを舞台にしたこんな映画も作られた…

 

 

 

そしてディクソンはレッドにウィロビー署長のことを話す。

 

末期癌で先が長くないから、あの看板を撤去しろと…

 

でもレッドは知らなかった。

 

そこにミルドレッドが入ってくる。

 

ミルドレッドはディクソンにこう言った。

 

 

ミ「もうママと約束した帰る時間じゃないの?」

 

ディ「い、いや…まだ大丈夫。今夜は12時頃になるってママに言ってきたから…」

 

 

 

アハハ!

 

自分でFAGGOTのこと馬鹿にしてたくせに(笑)

 

 

ホントに憎めないよね、ディクソンって。

 

というわけで、使徒たちによる「プール」のシーンはおしまい。

 

面白かったでしょ?

 

 

面白かったけど、普通の日本人はあの映画を観ただけでは、ここまでわからないよね…

 

そもそも「プール」という言葉を「ビリヤード」と訳されても何の疑問も感じない…

 

 

だからこうして僕が解説してるというわけ。

 

 

1円にもならないのに、よくやってるよな。

 

 

仕事じゃないから楽しいんですよ。

 

もし仕事だったら、このシリーズで解説してることなんて何も書けませんから。

 

 

大変なんだな、日本で映画ライターをするのは。

 

 

たぶんどんな仕事でも大なり小なり似たような感じなんじゃないでしょうか…

 

それでは、次回は「ミルドレッドと神父の対決」から解説します。

 

 

 

 

 

 

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