第9回:ウィロビーの訪問 〜『THREE BILLBOARDS OUTSIDE EBBING, MISSOURI(スリー・ビルボード)』徹底解説

  • 2018.12.06 Thursday
  • 09:26

 

 

 

 

 

さて、ミルドレッドのTVインタビューを聞いて、ウィロビーは自分への宣戦布告だと勘違いした。

 

「もしかしたらアンジェラ殺しの犯人であることに気付いているのでは?」と不安に思ったんだね。

 

 

詳しくは前回をどうぞ。

 

 

 

ウィロビーにとって、特に「RAPED WHILE DYING」のメッセージが気にかかった。

 

なぜなら彼は末期癌で余命数ヶ月の体で、アンジェラをレイプしている最中に吐血してしまっていた。

 

そのことにミルドレッドが気付いたのでは…と不安になってしまったんだね。

 

でもウィロビーには、どうやってミルドレッドがその答えに至ったのかがわからない。

 

なぜなら重要な証拠はウィロビーがすべて揉み消しており、誰も気付かないはずだったから。

 

そこでウィロビーは、ミルドレッドがどこまで気付いているのかを探るために、彼女の家を訪ねた…

 

 

 

あのシーンは、そうゆう状況やったんか。

 

 

だからあの時のウィロビーは芝居じみていたんだ。

 

さすがは名優ウディ・ハレルソン、やましさを隠している様子を巧く演じている。

 

 

 

いつもと違う口調で口早に弁明するウィロビーをミルドレッドは疑いの目で見てるのに…

 

ああいうのは何か嘘をついてる証拠なんだよ!

 

なんで気付かないんだ!

 

 

 

確かにミルドレッドはウィロビーの弁明を冷ややかな態度で聞いていたね。

 

ウィロビーはこんなことを言った。

 

「あらゆる手は尽くしました。だけど遺体に残された犯人のDNAは、逮捕者の誰とも一致しなかった。アメリカ全土の犯罪者のDNAデータベースと照合しても、一致する者はいなかったんです…」

 

 

 

そりゃそうや。犯罪歴のある奴と一致するわけがない。

 

誰からも尊敬される警察署長様のDNAやさかいな。

 

 

そしてこう続ける。

 

「彼女が家を出てから発見されるまで、目撃者はひとりもいません。これ以上どんな手を尽くせと?」

 

そこでミルドレッドは口をはさんだ。

 

「町の全ての男の血液を採取すればいい。8歳以上の全ての男の血を」

 

 

ああ!血液!

 

惜しいとこ突いてる…

 

 

ウィロビーは、一瞬、言葉に詰まる。

 

だけど反論し、ミルドレッドとのやり取りが続く…

 

 

ウィ「それは人権的に問題が…。それに犯人は町の人間ではない可能性も…」

 

ミ「じゃあ国じゅうの男の血液を採取すればいい」

 

ウィ「すでに国外へ逃亡していたら?」

 

ミ「私ならDNAのデータベース作りを始める。これから生まれる全ての男の赤ちゃんから血液を採取して、そこからDNAを辿るのよ。悪人だって必ず近親者がいるはず。100%の証拠を立てて、そいつをぶち殺す」

 

ウィ「それも残念ながら…基本的人権の侵害になるでしょう…」

 

 

 

「血」に着目したところまではよかったのだがな。

 

しかしこの会話も笑わせてくれる。

 

何のパロディか気付いたか?

 

 

パロディ!?

 

 

もう忘れたの?

 

エビングの町で絶対的な権力を握るウィロビー署長には、聖書の登場人物ヘロデ王が投影されているって言ったでしょ?

 

ある時ヘロデ王のもとへ東方の三賢人が訪れる。

 

彼らは夜空に輝く不思議な星を見て「新しいユダヤの王が生まれたこと」を知り、礼拝するためにこの地までやって来たんだ。

 

自身の王位が奪われると恐れたヘロデは、それを顔に出さず「私も礼拝に行きたいから、探し出して居場所を報告して欲しい」と三賢人に伝えた。その後に殺してしまおうと考えたんだね。

 

三賢人は星を頼りにベツレヘムの馬小屋に辿り着き、生まれたばかりの幼子イエスに礼拝する。

 

だけどヘロデの言動を怪しんだ三賢人は、報告に戻ることなく東方へ帰ってしまったんだ。

 

焦ったヘロデは、男の子の赤ん坊を皆殺しにする命令を下す。

 

全員殺してしまえば、その中に預言の子も入ってるだろうと考えたんだね…

 

『ヘロデの幼児虐殺』

 

ミルドレッドが「男の赤ちゃん全員の血液を採取して犯人を探し出す」と言ったのは、この出来事が元ネタなんだね。

 

だからウィロビーは苦虫を嚙み潰したような顔をしたんだ。

 

 

これがホントの「ホシ探し」…

 

なんちゃって。

 

 

なるほど…

 

 

さて、ミルドレッドが「血」の話を持ち出したことにより、ウィロビーは不安に陥った。

 

ウィロビーがアンジェラにガソリンをかけて焼き殺したのは、レイプ中に付けてしまった吐血の跡を完全に消し去るためだったからね。

 

でもミルドレッドが何に気付いて何を疑っているのかが掴めない…

 

まだウィロビーの中では、気付かれてる可能性はフィフティフィフティってところだろう…

 

 

ウィ「あの看板はフェアとは言えない」

 

ミ「あなたがクソ女に時間を費やしてるこの瞬間にも、どこかで哀れな女の子がレイプされている。なのにあなたは自分のことしか考えていない」

 

 

ここでウィロビーはしばらく考え込み、一か八かの探りを入れる決心をする…

 

一歩間違ったら命取りになりかねない危険な賭けだ…

 

 

ウィ「そうじゃないんだよ…。私は癌だ。死の病に侵されているんだ(I'm dying)...」

 

 

 

 

ああ!

 

「RAPED WHILE DYING」の「DYING」の意味を確かめるつもりなんだね!

 

アンジェラのことなのか、それとも犯人のことなのか…

 

 

その通り。

 

「RAPED WHILE DYING」が「死にそうな体でレイプした」という意味なのか確かめようとしたんだ。

 

わざわざ「I'm dying」という言葉を出してね。

 

するとミルドレッドは即答した。

 

 

「そのことは知ってる」

 

 

その言葉にウィロビーは固まってしまう…

 

 

 

これは焦るよな。

 

ウィロビーの中で「RAPED WHILE DYING」が「死にそうな体でレイプした」である確率は90%まで上昇だ。

 

 

同じ「DYING」という言葉を、ミルドレッドはアンジェラのことだと思っていて、ウィロビーは自分のことだと思っている…

 

この両者の「DYING」の解釈の違いが、様々なドラマを生んでいくんだ。

 

実にうまい脚本だよね。

 

 

マーティン・マクドナーは天才ですね。

 

さて、固まったウィロビーに対し、ミルドレッドはこう言い放つ。

 

ミ「町の者はみんな知ってる」

 

ここでウィロビーは呆然として、口をパクパクさせるんだ。

 

ウィロビーの中で「犯人は死にそうな体でレイプした」ということと「町の者はみんな知っている」ということが繋がってしまい、恐怖を覚えたというわけだね。

 

 

 

目の泳ぎ方とか完璧やな。

 

「え?え?え?え?」って感じがよう出てる。

 

 

ウィロビーは動揺を隠せないまま、こう尋ねる。

 

 

ウィ「知ってて広告を出したのか…?」

 

ミ「死んだ後じゃ意味がないでしょ」

 

 

これでウィロビーは、ミルドレッドが「気付いている」ことに確信を持った。

 

恐れと悲しみが混じり合った複雑な表情で、この場を後にする…

 

 

ああ、また大変な勘違いが…

 

 

ちなみにミルドレッドの最後のセリフはこうだった。

 

Well, they wouldn't be as effective after you croak, right?

あなたが死んだ後じゃ意味無いでしょ?

 

何か気付かないか?

 

 

何か?

 

そういや「死ぬ」っちゅう単語が見当たらんな。

 

「croak」がそれか?

 

 

そうなんだよ。

 

ここでは「croak」という単語が「死ぬ」という意味で使われているんだけど、本来の意味は「不吉な黒い鳥の鳴き声」なんだ。

 

つまり前に紹介した、イエスが生まれた時に馬小屋の屋根にとまり、死を予兆した鳥「Magpie(カササギ、コウライガラス)」のことなんだね…

 

『Buckskin Stallion Blues』とMagpie(カササギ)

 

 

ああ!

 

ウィロビーに投影されていて、学名が「ピカピカ」という、あのカササギ(コウライガラス)か!

 

 

 

うまいこと出来てるよな。

 

さすがコーエン従兄弟ことマーティン・マクドナー。

 

 

さて、ウィロビーが去った後に、ミルドレッドは興味深い仕草をする。

 

少し顔をゆがめて、何かを後悔したように首を振るんだ…

 

 

 

そういえば妙やな。

 

ウィロビーの前では、あれだけ厳しい表情やったのに…

 

 

ウィロビーとの会話でミルドレッドは嘘をついた。

 

だから首を振って「ああ…」と暗い顔をしたんだよ。

 

「病気のことを知ってて広告を出した。死んでからでは遅いから」というのは嘘だったんだ。

 

 

ええ!?そうじゃなかったの?

 

 

ミルドレッドは知らなかったんだよ。

 

それに、あの広告を出したのは、アンジェラの《虫の知らせ》をキャッチしたからだったでしょ?

 

「スリー・ビルボード」のメッセージを考案したのはミルドレッドではなくアンジェラだ。

 

アンジェラが念を使ってミルドレッドの頭に文章のイメージを送ったんだよ。

 

ミルドレッドは、ウィロビーの病気を知って慌てて広告を出したわけじゃない。

 

 

じゃあ何で嘘をついたんや?

 

 

今さら後に引けないでしょ?

 

「知らなかった、ごめんなさい」とはもう言えない。

 

その証拠に、次のバーのシーンでは、レッドもウィロビーの病気を知らなかったことが明かされる。

 

警察署の向かいのビルで広告代理店業を営むレッドが知らないくらいだから、少なくとも「町の者みんなが知っている」は嘘だ。

 

あれもハッタリだったんだね。

 

 

そうだったのか…

 

 

この映画は、登場人物が勘違いを重ね、その勘違いが別の人物に新たな勘違いを与えるということの連続なのだ。

 

その結果、ウィロビーは勘違いしたまま死を選び、ミルドレッドとディクソンは勘違いしたまま旅に出る…

 

何とも皮肉な物語だよな。

 

 

すっかり騙されちゃったな…

 

なんで最初に観た時に気付けなかったんだろう…

 

 

せやな…

 

日本人はすっかり騙されてもうた。

 

 

たぶん「あの書」のことを知らないからじゃないかな。

 

幼い頃から「あの書」に親しんでいる欧米人なら、映画『スリー・ビルボード』が何をベースに描かれた物語なのか、すぐにピンとくる。

 

だって、登場人物のキャラ設定からストーリー構成まで、丸っきり「あの書」のパロディなんだから…

 

 

「あの書」って、どの書?

 

 

それを端的に表すのが、次の「バーでのビリヤード」シーンだよな。

 

ネタバレのオンパレードだ(笑)

 

 

ですね。

 

映画『スリー・ビルボード』を読み解く上で、あのシーンを正しく理解することは非常に重要です。

 

「なぜビリヤードなのか?」

「なぜレッドは警察に反抗的なのか?」

「なぜディクソンはレッドを嫌うのか?」

「なぜレッドは赤毛なのか?」

「なぜディクソンはキューバの話をしたのか?」

「なぜディクソンは同性愛者の話をしたのか?」

「なぜジェームズは小人症なのか?」

 

ざっと挙げただけでも、バーでのシーンには「あの書」を彷彿とさせるこれだけのヒントがある…

 

 

そんなに…?

 

「あの書」って何だろう?

 

 

「あの歌」も重要だな。

 

 

あの歌?

 

 

ビリヤードの場面でバックに流れる曲のことだよ。

 

無名アーティストFELICE BROTHERSによる超マイナー歌『RADIO SONG』だ。

 

 

 

フェリス兄弟?聞いたことないな。

 

 

しかも超ユルい曲(笑)

 

なんでこんな歌が選ばれたんだろう?

 

 

それは歌詞に理由がある。

 

『スリー・ビルボード』と同じように「DYING」を巧く使った歌詞なんだ。

 

 

そういえば1番には、こんな歌詞があるね…

 

The dying leaves

are dancing off of the trees

They got an easy way

Let's you and me go dancing too

wreck our dancing shoes

枯葉はダンスするように

木から舞い落ちる

簡単なことなのさ

さあ君も僕と踊ろう

靴なんて脱ぎ捨ててしまえ

 

そして2番には…

 

The dying stars

are falling down on us

They got an easy way

Let's you and me falling too

way out into the blue

夜明け前の星が

僕らに降り注ぐ

簡単なことなのさ

さあ君も僕と恋に落ちよう

この空を駆け抜ける抜けて

 

 

なんでラブソングなのに「DYING」を使った不吉な歌詞なんだろう?

 

 

だってイエス・キリストのことを歌ったものだからね。

 

イエスの「死」はネガティブなものではなく「愛」の象徴でしょ?

 

 

ああ、そうか!

 

 

この歌の1番は「十字架での死」で2番は「キリストの降誕」なんだ。

 

木から落ちる「枯葉(dying leaves)」というのは、十字架から降ろされる「死んで残された肉体」のこと。

 

「leaves」は「葉」と「亡骸」の駄洒落なんだね。

 

そして2番の「dying stars(夜明け前の星)」とは、イエス・キリストの誕生を告げるように空から降って来た「ベツレヘムの星」のことなんだよ。

 

この歌は「dying」がキーワードになっているから、『スリー・ビルボード』にピッタリだったというわけ。

 

 

なるほどな。

 

サビでも「die」が連呼されとる。

 

Please don't you ever die

You ever die, you ever die

 

 

だね。こんな意味なんだ。

 

どうかあなたが忘れ去られることのなきよう

ずっとずっと永久に

 

そしてこう続く…

 

You moved me all of my life

All of my life, all of my life

Hum our radio songs

Radio song, radio song

After every radio's gone

Radio's gone, radio's gone

 

あなたは私の人生を突き動かした

いつ何時も人生のすべてにおいて!

世界に遍く響き渡るあの歌を歌おう

福音の歌を!福音の歌を!

たとえ使徒たちがこの世を去ろうとも

この世を去ろうとも!

 

 

「RADIO」って「福音」という意味なの?

 

 

そうだね。

 

正確に言うと「カトリック」だ。カトリックとは「普遍」という意味だからね。

 

そして「radio」という言葉の原義は「あまねく広まる」という意味なんだよ。

 

この「RADIO=福音・普遍」というネタは、多くの歌で使われている。

 

日本でも有名な曲があるよね。知ってる?

 

 

『壊れかけのRADIO』?

 

 

これだよ。

 

 

 

清志郎の『スローバラード』!?

 

 

この歌は、聖書で有名なこの場面がモチーフになってるんだ。

 

『ゲッセマネの祈り』

 

 

げ、ゲッセマネ!?

 

 

市営グランドの駐車場とは、うまく喩えたもんだ。

 

この時、イエスの弟子たちは熟睡していた…

 

悪い予感のカケラもなく…

 

 

だから石ちゃんはこの歌が好きなんですね。

 

熟睡していた使徒ペトロの名前「Petro」とは「石ちゃん」という意味だから(笑)

 

 

ズコっ!

 

 

冗談はこれくらいにして…

 

ビリヤードのシーンと「あの書」について解説しなきゃいけないね。

 

とっても大事な話なので、次回の第10話でたっぷりと解説しよう。

 

 

それがいいだろう。

 

映画の核心に迫る部分でもあるからな。

 

 

 

 

 

 

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