第8話「ジョセフ局長」〜『GATTACA(ガタカ)』徹底考察〜

  • 2019.04.12 Friday
  • 12:28

 

 

 

 

 

そういえば『ガタカ』にも「ジョセフ」って人が出て来たね…

 

土星ミッションを強行した局長さんの名前が「ジョセフ」だった…

 

 

 

主要キャスト3人以外の登場人物の名前についても解説しないとね。

 

それぞれ皆、名前に重要な意味が隠されているんだ…

 

 

「JOSEF」は簡単や。

 

マリアの旦那で、イエスの戸籍上のオトン「大工のヨセフ」やろ。

 

 

そっちじゃないんだな。

 

養父ヨセフは聖書で活躍場面が無いし、聖人に列せられたのも随分と後になってからだ。

 

 

他にヨセフおったか?

 

 

イエス・キリストの物語で重要な役割を担う「JOSEF」とは…

 

「Josef of Arimathea(アリマタヤのヨセフ)」なんだよね。

 

 

アリマタヤのヨセフ?

 

 

「アリマタヤのヨセフ」とは、マタイ・マルコ・ルカ・ヨハネの四福音書すべてに登場する重要人物…

 

サンヘドリン(ユダヤ最高法院)の議員でありながら、秘かにガリラヤ人イエスの弟子となり、イエスの処刑に最後まで反対し、十字架で処刑されたイエスの亡骸を引き取り、丁重に石室に埋葬した人物よ…

 

西洋社会では「Funeral Director」として葬儀・埋葬の守護聖人とされている…

 

 

だから「Director Josef」なのか。

 

 

宇宙開発局GATTACA(ガタカ)の局長ジョセフのキャラクターは、聖書における「アリマタヤのヨセフ」が元ネタになっているんだよ。

 

『マルコによる福音書』第15章に、こんな記述がある。

 

15:43 アリマタヤのヨセフが大胆にもピラトの所へ行き、イエスのからだの引取りかたを願った。彼は地位の高い議員であって、彼自身、神の国を待ち望んでいる人であった。

15:44 ピラトは、イエスがもはや死んでしまったのかと不審に思い、百卒長を呼んで、もう死んだのかと尋ねた。

15:45 そして、百卒長から確かめた上、死体をヨセフに渡した。

15:46 そこで、ヨセフは亜麻布を買い求め、イエスをとりおろして、その亜麻布に包み、岩を掘って造った墓に納め、墓の入口に石をころがしておいた。

 

『ルカによる福音書』第23章では、こうだ。

 

23:50 ここに、ヨセフという議員がいたが、善良で正しい人であった。

23:51 この人はユダヤの町アリマタヤの出身で、神の国を待ち望んでいた。彼は議会の議決や行動には賛成していなかった。

23:52 この人がピラトのところへ行って、イエスのからだの引取り方を願い出て、

23:53 それを取りおろして亜麻布に包み、まだだれも葬ったことのない、岩を掘って造った墓に納めた。

 

 

 

なるほど。

 

ジョセフ局長も「有人土星探査」を待ち望んでいて、計画の中止を訴える他の幹部の行動には賛成していなかったもんね。

 

 

ちなみにアリマタヤのヨセフの肖像画は、このジェームズ・ティソのものが有名だ。

 

『アリマタヤのヨセフ』James Tissot

 

 

不思議な手のポーズだな。

 

どっかで見たような気もするんだけど…

 

 

五郎丸か?

 

 

懐かしい。あれ流行ったよね。

 

でもそうじゃない。

 

『ガタカ』の中で見た気がするんだけど…。気のせいかな?

 

 

よく見てたね。偉いぞ、ええじゃろう。

 

アリマタヤのヨセフのポーズは、主人公ヴィンセントがジョセフ局長に話しかけられた時に、こっそり再現されていたんだ…

 

 

 

 

 

ああ〜〜〜〜!

 

 

アンドリュー・ニコルって人は、油断も隙も無い監督ね…

 

 

まさに深読みし甲斐のある映画監督と言える。

 

さて、この「アリマタヤのヨセフ」は、四福音書の中マタイ・マルコ・ルカの3つでは同じように描かれている。

 

「密かにイエスの弟子になっていた、裕福で身分の高いユダヤ議員」という人物像だね。

 

だけど『ヨハネによる福音書』だけが、ちょっと違うんだ。

 

19:38 そののち、ユダヤ人をはばかって、ひそかにイエスの弟子となったアリマタヤのヨセフという人が、イエスの死体を取りおろしたいと、ピラトに願い出た。ピラトはそれを許したので、彼はイエスの死体を取りおろしに行った。

19:39 また、前に、夜、イエスのみもとに行ったニコデモも、没薬と沈香とをまぜたものを百斤ほど持ってきた。

19:40 彼らは、イエスの死体を取りおろし、ユダヤ人の埋葬の習慣にしたがって、香料を入れて亜麻布で巻いた。

19:41 イエスが十字架にかけられた所には、一つの園があり、そこにはまだだれも葬られたことのない新しい墓があった。

19:42 その日はユダヤ人の準備の日であったので、その墓が近くにあったため、イエスをそこに納めた。

 

 

ニコデモ?

 

他の三福音書には、そんな人、出て来なかったじゃんか。

 

 

そうなんだよね。

 

『ヨハネによる福音書』での「アリマタヤのヨセフ」は、総督ピラトと直接交渉できるくらいだから只者ではないことは確かなんだけど、何者なのかは詳しく書かれていない。

 

その代わり、他の三福音書にある「身分の高い議員」という役割は「ニコデモ」という人物に割り当てられているんだよ。

 

つまり、他の三福音書で「アリマタヤのヨセフ」一人が担っていた役割が、『ヨハネによる福音書』だけ「アリマタヤのヨセフ」と「議会の長老ニコデモ」という二人の人物に分かれているというわけだ。

 

 

こうゆうこと?

 

 

 

その通り。

 

そしてマタイ・マルコ・ルカの三福音書では触れられなかった「身分の高い議員がイエスの弟子になった経緯」が『ヨハネによる福音書』では詳しく描かれるんだ。

 

ヨハネの第3章は、ほぼ丸々この逸話が描かれている。

 

とても有名な場面なので、絵に描かれることも多いんだよ。

 

『Jesus and Nicodemus』

Crijn Hendricksz Volmarijn

 

 

例によって既視感あるけど気のせいか?

 

 

もしかして、また…

 

 

そうなんだよね。

 

アンドリュー・ニコル監督は、この絵も「キーボードの隙間の汚れ問答」のシーンで完璧に再現したんだ。

 

 

 

うわあ!

 

確かにイエスとニコデモが「キーボードの隙間」について何か話しているように見える…

 

 

アンドリュー・ニコル…

 

おそろしい人…

 

 

イエスとニコデモによる問答が展開される第3章は『ヨハネによる福音書』の中でも非常に重要な章だといえる。

 

「イエスが旧約で預言されたキリスト(救世主)であること」や「どのように人は救われるのか」が語られるんだよね。

 

そして映画『ガタカ』にとっても、このヨハネ第3章は重要な意味をもつ。

 

順を追って見ていこう。

 

3:1 パリサイ人のひとりで、その名をニコデモというユダヤ人の指導者があった。

3:2 この人が夜イエスのもとにきて言った、「先生、わたしたちはあなたが神からこられた教師であることを知っています。神がご一緒でないなら、あなたがなさっておられるようなしるしは、だれにもできはしません」

 

 

ユダヤ人の指導者である長老ニコデモが、どこの馬の骨とも知れない若者イエスのことを「先生」と呼んでいるんだね。

 

しかも「神から来られた教師」でもあるって言ってる。

 

 

これも映画の中で再現されているんだ。

 

適正者ジェローム・ユージン・モローに偽装している主人公ヴィンセントとジョセフ局長は、こんな会話を交わしていたよね。

 

 

ジョ「君は随分と掃除好きだな、ジェローム」

 

ヴィ「《清潔は敬神に次ぐ美徳》と古の格言にもありますよね?」

 

ジョ「敬神、か…」

 

 

確かに「どこの馬の骨とも知れぬ若者」ヴィンセントが、エリート組織ガタカの指導者ジョセフ局長に「教え」を説いとるわ。

 

しかもジョセフ局長はヴィンセントが非適正者、つまり両親のセックスで生まれた「神の子」であることに気付いとった。

 

 

面白いよね。

 

第3節以降もガタカ的に興味深い描写が続く…

 

3:3 イエスは答えて言われた、「よくよくあなたに言っておく。だれでも新しく生れなければ、神の国を見ることはできない」

3:4 ニコデモは言った、「人は年をとってから生れることが、どうしてできますか。もう一度、母の胎にはいって生れることができましょうか」

3:5 イエスは答えられた、「よくよくあなたに言っておく。だれでも、水と霊とから生れなければ、神の国にはいることはできない。

3:6 肉から生れる者は肉であり、霊から生れる者は霊である。

 

 

年をとってから、もう一遍オカンの腹の中から生まれる?

 

ニコデモは長老のくせに、なにトンチンカンなこと言うとるんや。

 

 

このボケが重要な意味をもつんだよ。

 

イエスはニコデモの「もういちど母の胎に入って生まれる」というボケを否定するのではなく、「水と霊によって生まれる」という表現に言い直したんだね。

 

 

「母の胎」を「水と霊」に?

 

 

つまり「母胎(子宮)の中で新たな生命が誕生する」ということを「水と霊(water and spirit)によって生まれる」と言い換えたわけだ。

 

この映画の重要なモチーフだよね。

 

 

わかったわ!

 

映画のポスターにもなっとった卵子と精子やな!

 

ヘブライ聖書やコーランには精液に霊(spirit)が宿っとると書かれとるくらいや!

 

 

 

何度も意味有り気に描かれる遠泳シーンもそうだよね。

 

 

 

そしてアイリーンと結ばれた時も…

 

 

 

その通りだ。

 

そして映画『ガタカ』では「もういちど母の胎に入って生まれる」というイメージも、きっちり再現されている。

 

主人公ヴィンセントがロケットに乗り込むシーンは、まさに「もういちど母胎に入る」様子を描いたもの以外の何物でもない。

 

だから搭乗口の隣のゲートは、あんなふうに意味有り気な形状だったんだね…

 

 

 

あー!なるほど!

 

 

菊門か…

 

 

よく見るとヴィンセントのポーズも不自然ね…

 

まさか…

 

 

ヴィンセントが後ろに手をまわして穴の中へ入っていったのは「精子」をイメージしているんだろう…

 

精子には手が無いからね…

 

 

アンドリュー・ニコル監督…

 

おそろしい子…

 

 

ホントかよ…(笑)

 

 

ちなみにあの「菊門ゲート」には、もうひとつの意味が隠されている。

 

あれは「転がされた石」の投影でもあるんだ。

 

 

転がされた石?

 

イエスの墓の入口にあったやつ?

 

 

その通り。

 

イエスの亡骸を石室に埋葬したヨセフとニコデモは、最後に出入口を大きな石で塞いだ。

 

だけど翌々日の日曜日にマグダラのマリアが墓の様子を見に行くと、入口を塞いであったはずの石が横に転がされていた。

 

そしてそこに白い衣を着た天の使いが現れるんだね。

 

『マタイによる福音書』

28:3 その姿はいなずまのように輝き、その衣は雪のように真白であった。

28:4 見張りをしていた人たちは、恐ろしさの余り震えあがって、死人のようになった。

28:5 この御使は女たちにむかって言った、「恐れることはない。あなたがたが十字架におかかりになったイエスを捜していることは、わたしにわかっているが、

28:6 あの方はもうここにはおられない。かねて言われたとおりに、よみがえられたのである。さあ、イエスが納められていた場所をごらんなさい。

 

 

 

ああ!

 

だからあの日はゲート前に白衣を着た医師がいて、ヴィンセントは驚いたのか!

 

 

そしてモニターで「十字架におかかりになったイエス」も再現された!

 

 

 

しかも四福音書では天使の数が「ひとり」のものと「ふたり」のものとでバラつきがある…

 

マタイとマルコでは天使は「ひとり」で、ルカとヨハネでは「ふたり」…

 

そして天使が石室の外にいるものと、内にいるものでもバラつきが…

 

『ヨハネによる福音書』

20:11 しかし、マリヤは墓の外に立って泣いていた。そして泣きながら、身をかがめて墓の中をのぞくと、

20:12 白い衣を着たふたりの御使が、イエスの死体のおかれていた場所に、ひとりは頭の方に、ひとりは足の方に、すわっているのを見た。

20:13 すると、彼らはマリヤに、「女よ、なぜ泣いているのか」と言った。マリヤは彼らに言った、「だれかが、わたしの主を取り去りました。そして、どこに置いたのか、わからないのです」

 

 

だからアンドリュー・ニコルは、登場用トンネルの最深部にも白衣の二人組を用意したんだわ…

 

四福音書で矛盾する天使描写を全て再現するために…

 

 

 

どこまで徹底してこだわるんだ…

 

 

ではヨハネ第3章に戻ろう。

 

第7節と8節は、聞き覚えがあるんじゃないかな?

 

3:7 あなたがたは新しく生れなければならないと、わたしが言ったからとて、不思議に思うには及ばない。

3:8 風は思いのままに吹く。あなたはその音を聞くが、それがどこからきて、どこへ行くかは知らない。霊から生れる者もみな、それと同じである」

 

 

答えは風に吹かれてる!だけどその答えは誰にもわからない!

 

映画冒頭で提示された旧約聖書『伝道の書』だ!

 

 

 

詳しくはコチラで。

 

 

 

エリート階級の自分でも理解できないことがあると言われ、不服に思ったニコデモはイエスに食い下がる。

 

それに対し、イエスはこう諭すんだよね。

 

「だって目の前の現実を見ようとしてないじゃん」と。

 

3:9 ニコデモはイエスに答えて言った、「どうして、そんなことがあり得ましょうか」

3:10 イエスは彼に答えて言われた、「あなたはイスラエルの教師でありながら、これぐらいのことがわからないのか。

3:11 よくよく言っておく。わたしたちは自分の知っていることを語り、また自分の見たことをあかししているのに、あなたがたはわたしたちのあかしを受けいれない。

 

 

これは『ガタカ』で描かれる社会そのものだね。

 

あの世界では、単純労働以外の職業は皆「適正者」しか就けない世界だった。

 

エリート集団である宇宙開発局GATTACAも、遺伝子操作された「適正者」しか受け入れていない。

 

ヴィンセントのような「非適正者」は、どんなに「適正者」に負けないような能力があっても、問答無用に「適正者」よりも劣る存在とされていたんだ。

 

 

その通り。

 

最新科学を駆使した遺伝子操作でなく、性交渉という非科学的な手法で生まれた「非適正者」は「神の子」と呼ばれ見下されていた。

 

そしてマタイ第3章の第12節からは、「神の子」が「天に上る」理由が語られる。

 

3:12 わたしが地上のことを語っているのに、あなたがたが信じないならば、天上のことを語った場合、どうしてそれを信じるだろうか。

3:13 天から下ってきた者、すなわち人の子(神の子)のほかには、だれも天に上った者はない。

3:14 そして、ちょうどモーセが荒野でへびを上げたように、人の子もまた上げられなければならない。

3:15 それは彼を信じる者が、すべて永遠の命を得るためである」

 

 

「神の子」と呼ばれ続けた主人公ヴィンセントが宇宙にこだわり続けた理由はコレだね。

 

 

モーセが荒野で蛇を上げた?

 

なんやそれ?

 

 

旧約聖書『民数記』の逸話だよ。

 

エジプトを出て荒野をさまよっていた時、人々は不平不満を口にした。

 

それに怒った神は、人間たちに罰を与えるため、大量の毒蛇を地上に投下したんだ。

 

これによって次々と犠牲者が出たもんだから、人々はモーセに何とかしてくれと頼み込んだ。

 

すると神はモーセに告げた。

 

「青銅(真鍮)の蛇を作り、それを旗竿の上に掲げよ」と。

 

神に言われた通りにモーセが金属の蛇を竿に掲げると、そのキラキラ光る姿を見た人々の体内から不思議と毒蛇の毒が消えていったんだね。

 

『真鍮のへび』ジェームズ・ティソ

 

 

へえ〜。

 

そういえば「竿と蛇」って、よく見るデザインだよな。

 

ハードロックやヘビーメタルの十字架には蛇がいつも巻き付いてるイメージがある。

 

 

この逸話が「十字架に掛けられたキリストの復活」に転用されたんだね。

 

蛇は脱皮を繰り返すことから「再生」のシンボルとされてきた。

 

イエスはニコデモに「わたしも蛇のように再生する」と言いたかったわけだ。

 

 

 

そして…

 

この「竿に掲げられた青銅(真鍮)の蛇」というモチーフも、映画の中で再現されている…

 

 

ええ!?どこで!?

 

 

荒野に建てられたソーラーパネルだよ。

 

金属製のソーラーパネルが竿で掲げられていたからね。

 

 

 

確かに!

 

でも「蛇」じゃないじゃんか。

 

 

心配無用。

 

アンドリュー・ニコルは、ちゃんと「竿に掲げられた金属製で光り輝く蛇」も映しているんだな。

 

 

 

うわあ!

 

 

そしてソーラーパネルの中を散歩する時、なぜかアイリーンとヴィンセントの間でこんな会話が交わされた…

 

 

アイ「不思議ね。あなたの眼の色が違って見える」

 

ヴィ「光の錯覚さ」

 

 

これはモーセが金属で作った蛇が、訳本によって「青銅色(英語標準訳版)」だったり「真鍮色(ジェームズ王訳版)」だったりすることのジョークね。

 

 

 

細かい…

 

 

そしてヨハネ第3章の第16節以降は、『ガタカ』的に、とても意味深だよね。

 

3:16 神はそのひとり子を賜わったほどに、この世を愛して下さった。それは御子を信じる者がひとりも滅びないで、永遠の命を得るためである。

3:17 神が御子を世につかわされたのは、世をさばくためではなく、御子によって、この世が救われるためである。

3:18 彼を信じる者は、さばかれない。信じない者は、すでにさばかれている。神のひとり子の名を信じることをしないからである。

3:19 そのさばきというのは、光がこの世にきたのに、人々はそのおこないが悪いために、光よりもやみの方を愛したことである。

3:20 悪を行っている者はみな光を憎む。そして、そのおこないが明るみに出されるのを恐れて、光にこようとはしない。

3:21 しかし、真理を行っている者は光に来る。その人のおこないの、神にあってなされたということが、明らかにされるためである。

 

 

せやからヴィンセントはソーラーパネルを見に行ったんやな。

 

神の子やさかい。

 

 

「神のひとり子の名」とは「ヴィンセント」のことだね…

 

「VINCENT」とは「打ち勝つ・克服する」という意味…

 

「それを信じない者は神に裁かれる」ということは、つまり…

 

人が与えられた試練に打ち勝つことを信じない者は、神の裁きに遭うってことだ…

 

 

深い映画よね。

 

 

さて、残る主要登場人物は…

 

「医師ラマー」「刑事ヒューゴ」「仲介人ジャーマン」の三人かな。

 

 

この三人の名前も実に興味深いものだから、最後に三人まとめて深読みしよう。

 

 

映画本編の深読みをしなくても、名前の深読みだけで映画の全てを語り尽しそうな勢いだよね。

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく

 

 

 

 

 

 

 

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第7話「IRENE CASSINI(アイリーン・カッシーニ)という名前に秘められた物語:後篇」 〜『GATTACA(ガタカ)』徹底考察〜

  • 2019.03.29 Friday
  • 14:20

 

 

 

 

 

 

 

 

映画『ガタカ』の舞台である「宇宙開発局GATTACA」も、ジェローム・ユージン・モローが持っていた「メダル」も…

 

実は「カッシーニ」が元ネタなんだよね…

 

 

 

ええ!?

 

 

前回を未読の方はコチラをどうぞ。

 

 

 

そもそも「土星探査機カッシーニ」が登場する前まで、欧米キリスト教社会では「カッシーニ」といえば、よっぽど科学好きでもない限り「別のもの」を思い浮かべるのが普通だった。

 

それは「モンテ・カッシーノ」だ。

 

 

モンテ・カッシーノ?

 

カッシーノ山か?

 

 

モンテ・カッシーノは、イタリアのラツィオ州南部にある、標高500mほどの山の名前。

 

 

紀元前の昔、その山の上にウォルスキ族の町があったんだけど、ローマ人が征服してカッシーナムと改名した。

 

そして山の名前もモンテ・カッシーノとしたんだね。

 

 

それが『ガタカ』と何の関係があるんや?

 

 

西暦529年、このモンテ・カッシーノの山頂に、ベネディクトスが修道院を作ったんだ。

 

聖ベネディクト(480年頃〜547)

 

「服従・清貧・童貞」の戒律で知られるベネディクトスの修道院は、西方教会における修道制度の原型となった。

 

キリスト教神学だけでなく、古典文学・哲学・建築・医学・薬学など様々な学芸を学ぶ場としても栄え、後世に大きな影響を与えた。​

 

今もベネディクト会として有名だよね。

 

ちなみにモンテ・カッシーノの修道院は、この地域の戦略上に欠かせない拠点でもあるため、幾度もの戦禍に見舞われることになる。

 

第二次世界大戦でも徹底的に破壊されたんだけど、戦後に以前とそっくりな形で再建され、現在に至る。

 

MONTE CASSINO(by Halibutt)

 

 

なんか既視感あるな。

 

 

「GATTACA」の外観よ。

 

 

 

ああ!確かに似てる!

 

 

エルサレム旧市街地の「神殿の丘」にも似てるけどね。

 

 

 

こっちも似てる!

 

 

「モンテ・カッシーノ」と「GATTACA」は外観だけじゃなく「中の人たち」もそっくりなんだよ。

 

ベネディクト会士は黒ずくめの作業服を着ていることから「黒い修道士」と呼ばれる。

 

そして「GATTACA」で働く人たちも全員「黒いスーツ」に身を包んでいたよね。

 

 

 

ガタカの人が宇宙まで行っても黒スーツ姿だったのは、これが元ネタだったのか…

 

 

確かにガタカで働く連中は「服従・清貧・童貞」の「黒い修道士」や…

 

ヴィンセントとアイリーンは戒律を破ってもうたけど…

 

 

そして「モンテ・カッシーノのベネディクト修道院」の代名詞とも言えるのが、このメダル。

 

聖ベネディクトのメダルだ。

 

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アルファベットがたくさん書いてあるけど、なんて書いてあるのかサッパリわからない。

 

もしかして暗号?

 

 

「PAX」だけはわかるで。ラテン語で「平和」や。

 

 

その通り。

 

そして「PAX」とは、古ギリシャ語の「EIRENE(平和)」のことだった。

 

 

モンテ・カッシーノの聖ベネディクト・メダルに書かれた「平和(EIRENE)」の文字…

 

「IRENE CASSINI」の名前が完成ね…

 

 

 

うわあ…

 

 

そして「〇」で囲まれて強調されている4つのアルファベット「CSPB」が映画『ガタカ』では…

 

 

 

DNAの塩基「AGTC」になった…

 

 

そういうこと。

 

ちなみに「CSPB」とは「Crux Sancti Patris Benedicti」の頭文字。

 

英訳すると「The Cross of Holy Father Benedict」ね。

 

 

他のアルファベットはどう読むの?

 

やっぱり『ガタカ』の元ネタになってるのかな…

 

 

もちろん。

 

聖ベネディクト・メダルは、こういう構造になっている。

 

 

中央の十字架の縦ライン「CSSML」は

 

Crux Sacra Sit Mihi Lux !

 

訳すと

 

May the holy cross be my light!

聖十字が我が光とならんことを!

 

だね。

 

 

主人公ヴィンセントの誕生シーンやな…

 

 

 

そして十字架の横ライン「NDSMD」は

 

Non Draco Sit Mihi Dux !

 

Let the dragon(devil) not be my leader !

悪魔を主と仰ぐことなきよう!

 

だね。

 

 

もしかして…

 

ガタカの幹部教官が殺されたのって…

 

 

 

この「NDSMD」が元ネタだね。

 

殺された幹部教官は、ヴィンセントの「なりすまし」を怪しみ、密かに調査をしていた。

 

そして土星探査ミッションの危険性を指摘し、計画の中止を訴えていたんだ。

 

土星行きに命を懸けていたヴィンセントからすると、あの幹部教官は悪魔以外の何物でもない。

 

 

なるほどな…

 

そんでもってメダルの周囲に配置されとるアルファベットは、4つに区分されるんか?

 

 

 

その通り。

 

まずはグリーンの部分「坑劭咫廚ら。

 

これは「Vede Retro Satana !」の頭文字になっている。

 

訳すと…

 

Begone Satan !

サタンよ、去れ!

 

だね。

 

 

もしかして…

 

 

そう。

 

脚本を書いたアンドリュー・ニコルは、これを「Begone Saturn!」という駄洒落に変えた。

 

「サターン(土星)に行ってしまえ」だね(笑)

 

 

ズコっ!そんなんアリですか!

 

 

深読みの可能性は無限だ。

 

なにごとも「ありえない」なんて決めつけちゃいけないよ。

 

 

そう…

 

深読みに「ありえないこと」など無い…

 

私は今でもよく覚えてるわ…

 

深読み探偵学校に入学した最初の日、私は教官からこう教わった…

 

「今日から毎日、朝食前に《ありえないこと》を6つ考えろ」って…

 

 

アリスかよ!

 

 

 

さて次はピンクの部分「MSNV」だ。

 

これは「Nunquam Suade Mihi Vana !」の頭文字で…

 

 

訳すと…

 

Never tempt me with your vanities !

あなたの虚栄心で私を誘惑しないで!

 

または

 

Don't persuade me of wicked things !

偽りの小細工で私を丸め込まないで!

 

よ…

 

 

めっちゃ感情こもってて怖いんですけど…

 

花笠君、なんかあったの?

 

 

私のことはいいの…

 

気にしないで…

 

 

まさに『ガタカ』の物語そのものだよね。

 

次のブルーの部分「SMQL」は「Sunt Mala Quae Libas」の頭文字だ。

 

訳すと…

 

What you offer me is evil.

あなたが私にくれたものは悪・不道徳です

 

だね。

 

 

これもまさに『ガタカ』そのもの…

 

 

そして最後のイエローの部分「IVB」は「Ipse Venena Bibas !」の頭文字。

 

訳すと…

 

Drink the poison yourself !

自ら毒を飲むがよい!

 

という意味になる。

 

「自ら命を絶て」ということだ…

 

 

だからジェローム・ユージン・モローは焼却炉の中でメダルを眺めていたのか…

 

 

聖ベネディクト・メダルに書かれている言葉は、このように映画『ガタカ』で重要なモチーフとなった。

 

ジェローム・ユージン・モローが肌身離さず持っていたメダルも、元ネタはこれだったんだね。

 

 

 

なるほど…

 

だけど「聖ベネディクト・メダル」なんて誰も知らないんじゃないの?

 

 

そんなことないよ。とっても有名だ。

 

「サタンを追い払う」というメッセージから、映画なんかでお馴染みの「悪魔祓い」にも使われる。

 

カトリック教会の「エクソシスト」は、このメダルを持って悪魔払いをするんだ。

 

神父さんが持つロザリオには聖ベネディクト・メダルが付いていることが多い。

 

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そういえば映画『エクソシスト』にも似たようなメダルが出て来たな…

 

あれも聖ベネディクト・メダルなんか?

 

 

 

よく似てるけど、あれは聖ベネディクト・メダルではなくて「聖ジョセフ・メダル」だ。

 

 

 

聖ジョセフ?

 

 

そういえば『ガタカ』にも「ジョセフ」って人が出て来たね…

 

土星ミッションを強行した局長さんの名前が「ジョセフ」だった…

 

 

 

主要キャスト3人以外の登場人物の名前についても解説しないとね。

 

それぞれ皆、名前に重要な意味が隠されているんだ…

 

 

 

 

 

 

つづく

 

 

 

 

 

 

 

JUGEMテーマ:映画

第6話「IRENE CASSINI(アイリーン・カッシーニ)という名前に秘められた物語:中篇」 〜『GATTACA(ガタカ)』徹底考察〜

  • 2019.03.24 Sunday
  • 18:52

 

 

 

 

 

 

さて、「IRENE(アイリーン)」の話はこれくらいにして、次は苗字の「CASSINI(カッシーニ)」を深読みしよう…

 

 

 

ファーストネームの「アイリーン」についてはコチラをどうぞ。

 

 

 

「カッシーニ」は、深読み要らへんやろ。

 

あの「カッシーニ」そのまんまや。

 

 

 

土星突入シーンとか、ちょー泣ける…

 

最初から帰って来れないミッションだったんだ…

 

 

そうよ…

 

カッシーニは長い旅路の果てに土星へ到達し、与えられた任務を全うし、最後は燃え尽きることでその使命を終えた…

 

あれだけずっと土星のそばにいたというのに、カッシーニは結局、土星の地面…つまりコア部分を見ることも触れることもできなかったの…

 

土星は厚さ1000劼離スに包まれていて、その本当の姿は誰にもわからない…

 

カッシーニはただ、バカみたいに土星の軌道上をぐるぐる回っていただけ…

 

 

相変わらず意味深やな。

 

重い女は嫌われるで。

 

 

そういえば、カッシーニの打ち上げが「1997年10月15日」で、映画『ガタカ』の公開日は「1997年10月24日」だよね。

 

しかもどっちも最終目的地は土星…

 

これって偶然?

 

 

偶然じゃないよ。

 

『GATTACA(ガタカ)』は「カッシーニ打ち上げ」に合わせて作られた映画だからね。

 

だからヒロインの苗字が「カッシーニ」なんだ。

 

 

ちょー単純 (笑)

 

 

でも、それだけじゃない。

 

「カッシーニ」という名前には、もっと深い意味が隠されているんだ。

 

 

深い意味?

 

 

ワタシハ…ワタシハ…

 

 

ん?


 

ガタガタ…ガタガタ…

 

 

ここで《深詠み》!?

 

 

ガタガタガタガタガタガタガタガタ…

 

 

花笠君…

 

 

ピタッ

 

 

 

 

こ、これは…

 

元レピッシュ上田現の『カッシーニ(土星に環がある理由)』…

 

 

せやから「重い」のはアカンて言うとるやろ。

 

最後に自分で言うとるやんけ…

 

 

あそこは「重い」じゃなくて「想い」なの…

 

 

だけどタイトルがズバリ『カッシーニ』なんて面白いね。

 

映画『ガタカ』にも重なる感じがする。

 

 

せやな。

 

歌詞の中の「あなた/土星」、つまり「わたし/カッシーニ」が惚れてもうた相手は、決して手に入れることの出来へん存在や。

 

『ガタカ』でユマ・サーマン演じるアイリーン・カッシーニは、イーサン・ホーク演じる主人公ヴィンセント・アントン・フリーマンを愛してもうた…

 

最初から死ぬつもりで土星へ旅立とうとしとったヴィンセントのことを…

 

 

 

そしてジュード・ロウ演じるジェローム・ユージン・モローも、最愛のヴィンセントのことを想いながら、最後は焼却炉の中で燃え尽きてしまうんだったね。

 

ジェロームの場合は「灰や塵」になることで、いつかヴィンセントと一緒になることを望んだんだ。

 

カッシーニが「灰や塵」になって土星と一体化したように…

 

 

 

・・・・・

 

 

それだけではない。

 

『ガタカ』と『カッシーニ(土星に環がある理由)』の世界観が似ている理由は、他にも大きな共通点があるからなんだよ。

 

 

大きな共通点?

 

 

両者とも「イエス・キリスト」が投影された物語なんだよね。

 

『ガタカ』の主人公ヴィンセントは、両親が「普通とは違う形」で妊娠し、出生時に「寿命が30年くらい」と宣告され、エリート層である適正者たちからは「神の子」と馬鹿にされていた。

 

まさにイエスの投影だね。

 

そして『カッシーニ(土星に環がある理由)』の歌詞の中の「土星/あなた」にも「イエス・キリスト」が投影されている。

 

あの歌はイエスを想う歌なんだよ。

 

 

来た来た!いつものパターン!

 

 

では歌詞を見ていこう。まずは1番から。

 

たとえ世界が喜びに溢れ

光り輝いた朝を迎えても

もしあなたが消えてしまったら

私にとっては もうここはさみしい所

 

いきなり「わかりやすい」出だしでしょ?

 

喜びに溢れた朝を迎えたというのに、「あなた」が居なくなってしまうことを憂いているんだよ…

 

 

うわ…ホントだ…

 

これってモロにイエス・キリストのことじゃんか…

 

 

喜びと悲しみが混じり合った複雑な朝…

 

救世主イエスの誕生と、馬小屋の屋根にとまって死を予兆したMAGPIE(カササギ)やな…

 

『キリストの降誕』ピエロ・デラ・フランチェスカ

 

 

その通り。

 

『ガタカ』でも「喜びに溢れた朝を迎えるはずだったのに、愛する人の不在・死を予感して悲しむ」というシーンがあったよね。

 

ヴィンセントとアイリーンが初めて結ばれた翌朝、ベッドからこっそり出て行ったヴィンセントを、アイリーンは寝たふりをしながら感じていた…

 

身体には喜びの余韻が残っているけど、頭には悲しみの予感が渦巻いているんだ…

 

 

 

切ないわね…

 

 

 

 

 

 

せっかくエエところやのに間抜けな声出すなボケ。

 

なにが「ぽえ〜ん」やねん。

 

 

そんなこと言ってないわ…

 

 

じゃあ、お前か?

 

 

なんでオイラが「ぽえ〜ん」なんて言うんだよ。

 

幻聴じゃないの?

 

 

変やな…ワイの空耳か?

 

 

では1番の続きを見ていこう。Bメロの部分だ。

 

はっきり目に映る程 こんなに近くにいる

唯それだけのことが 本当に不思議で嬉しい

 

ここで重要なのは、「あなた」は「私のそばにいない」ということだ。

 

だけど何らかの形で「目に映る」んだよね。だからまるで「近くにいる」ように感じられるんだ。

 

 

つまり…

 

「私」には「あなたそのもの」が見えているわけじゃない、ってこと?

 

 

そういうこと。

 

僕らは「土星の姿」を直接は見ることはできない。カッシーニが撮影した画像でしか知ることはできないよね。

 

そしてこれは、そのままイエス・キリストにも当てはまる。

 

 

確かに絵や彫像でしか知らへん。

 

 

そして1番のサビだ。

 

土星の環っかがある理由を

知らないまま この地上で

今日も暮らしてるけど

重なる手と手の間(あいま)に広がる

銀河の深さに ねぇ吸い込まれそうだよ

 

 

「土星」も「イエス・キリスト」のことだから…

 

「土星の環っか」といえば…

 

 

額の「荊の冠」と…

 

頭の周囲に光の環として描かれる「光背」のことやろ…

 

『十字架のイエス』カール・ハインリヒ・ブロッホ

 

 

このカール・ブロッホの絵にもあるように、地上で暮らす人々は、イエスに光の環「光背」がある理由をわかっていない。

 

主イエスが地上に降り立ち十字架で磔にされたことは、すべて全知全能の「神の計画」によるものだから、未完全な存在である人間にはその意図も仕組みも理解はできないんだ。

 

 

そしてまた「重なる手と手」が出て来たぞ。

 

さっきの「MAGPIE(カササギ)」といい、なんだか『スリー・ビルボード』の時を思い出すな。

 

 

 

クリープハイプの『手と手』も『スリー・ビルボード』も、イエス・キリストがモチーフに使われているからね。

 

「最愛の人の不在」をテーマにする時って、イエスを重ね合わせたり、聖書の物語を引用するケースが多いんだ。

 

世界で一番有名な「不在」だからね。

 

 

手と手を重ねたら「幸せ」やろ。

 

 

 

確かに「重なる手と手」は「幸せ」なんだけど…

 

『カッシーニ(土星に環がある理由)』の歌詞における「手」には、別の意味が隠されているんだ。

 

 

別の意味?

 

 

「重なる手と手の間」には「吸い込まれそうなほどの銀河が広がっている」んだよ。

 

つまり「手と手の間に宇宙がある」というんだね。

 

この意味わかるかな?

 

ヒントは「手」という文字の形にあるんだけど…

 

 

「手」の形?

 

 

わかった!十字架のことじゃない?

 

 

なぬ!?

 

 

その通りだ。

 

思わず吸い込まれてしまいそうになる「重なる手と手の間に広がる宇宙」とは、これを指していたんだよ。

 

古から宇宙は神と同一視されてきたからね。

 

 

 

イエスと一緒に磔になったゲスタスとディスマスか…

 

ホンマかいな…

 

 

それが2番でハッキリわかるんだよ。

 

この歌には「手」が3つ登場するんだ。ゴルゴダの丘みたいにね…

 

まずAメロから見ていこう。

 

世界中に転がってる 石ころのような

でも誰も壊せない祈り

ああ あなたを思うだけでも

こんなに苦しくて こんなにも愛しい

 

 

来た!石ころ!

 

 

2番の出だしも面白いよね。

 

聖書で「石」といえば「ケファ」、つまり使徒ペテロのことだ。

 

イエスはガリラヤ湖の漁師だったペテロに「今日からあなたをケファと呼ぶ」と言い、「ケファの上にわたしの教会が建つ」と語った。

 

弟子たちの中で最も意志の弱かったペテロを「硬い石」だとし、そういう弱き者の上にこそ堅い信仰が築き上げられ、それを広める教会が作られると説いたんだ。

 

 

なるほどな。

 

 

あなたを思うと、こんなに苦しくて、こんなにも愛しい…

 

わかるわ、その気持ち…

 

 

いちいち涙ぐむな。重い言うたやろ。

 

せやから男が出来ひんのや自分。

 

 

そしてこの後、私に「苦しみ」と「愛しさ」を与える「あなた」へ、言葉にならない「呼びかけ」が続く。

 

イエイエイエ…イエイエイエ…フッフ、イエィ…

 

 

 

そこはどうでもええやろ。

 

 

そんなことないんだな。

 

この「イエ」は「イエス」のことだから。

 

「イエス」と直接言ったらバレちゃうんで「イエフ」で誤魔化しているんだね。

 

 

ホンマかいな!

 

 

冗談のように聞こえるかもしれないけど、イエス・キリストをモチーフにした歌では、たまに使われる手法なんだ。

 

いずれ、同じように「イエ」を効果的に使った他の歌も紹介すると思う。

 

 

・・・・・

 

 

そして2番のBメロが始まる。

 

カンパネルラが聞こえた

何処かで誰かが生まれた

そして誰かが消えていく

わたしはあなたの手を握ってる

 

 

カムパネルラ?『銀河鉄道の夜』の猫?

 

 

 

「カンパネルラ」とはイタリア語で「小さな鐘」という意味だ。

 

「何処かで誰かが生まれた」ことを知らせて鐘の音が聞こえてきたというんだから、これのことだよね。

 

 

 

メリクリか。

 

そんで「誰かさん」は「消えていく」わけやな。

 

 

そうすると「わたしはあなたの手を握ってる」という歌詞の意味もわかるよね。

 

1番の「重なる手と手」はイエスの両脇の十字架のことだった。

 

つまり、わたしが握る「あなたの手」とは…

 

「イエス・キリストの十字架」に他ならない…

 

 

 

 

ああ!

 

そういえば『ガタカ』の主人公ヴィンセントの誕生シーンでも…

 

 

オカンがロザリオを手で握りしめとったわ!

 

 

 

2番のサビは、さらに興味深いよ。

 

土星に環っかがある理由を

考えてみた

ガリレオはきっと笑うかな?

 

 

なんでガリレオが笑うの?

 

 

土星の輪を発見した本人やさかいな。

 

ガリレオ・ガリレイ(1564−1642)

 

 

正確に言うと違うんだよ。

 

ガリレオ・ガリレイは望遠鏡を使って、土星の周りに「何かがある」ことを発見した。

 

だけどそれを「環っか」だとは気付けなかったんだ。

 

ガリレオは、土星の両脇に二つの星があって、星が三つ並んでいると思ったんだね。

 

 

ゴルゴダの丘みたい…

 

 

 

それが「環」であることを発見したのは、オランダの天文学者クリスティアーン・ホイヘンスだ。

 

クリスティアーン・ホイヘンス(1629−1695)

 

そしてホイヘンスは、土星の衛星タイタンも発見した。

 

だからタイタンに着陸した探査機は「ホイヘンス」という名前が付けられていたんだよ。

 

 

じゃあなんで「ガリレオはきっと笑うかな」なの?

 

 

環であることに気付けへんかったガリレオへの嫌味か?

 

 

違うわ…

 

この「ガリレオ」とは「イエス」という意味…

 

 

ハァ!?

 

 

ガリレオ・ガリレイ(Galileo Galilei)という名前は「ガリラヤ地方のガリラヤ人(びと)」という意味になるんだよね。

 

これは「イエス」のことを指すんだ。

 

イエスはガリラヤ地方ナザレ在住だったから、聖書でも「ナザレ人(びと)」とか「ガリラヤ人(びと)」と呼ばれるんだよ。

 

つまり…

 

「土星に環がある理由を考えたらガリレオが笑う」とは…

 

 

キリストに環がある理由を考えたら…

 

イエスが笑う…

 

 

 

そして歌のクライマックスよ…

 

最愛の人を絶対に手に入れることの出来ない切なさが歌われる…

 

好きで 大好きで もうどうしようもなくて

気が付いたら あなたの

周りを ぐるぐる回ってる

土星は 今日も 遠く空にいて

見渡しても 見上げても

私には 見つからない

 

 

・・・・・

 

 

そして最後に…

 

溢れんばかりの情熱がもう一度繰り返されるの…

 

好きで 大好きで もうどうしようもなくて

気が付いたら あなたの

周りを回ってた 想い

 

 

なんかすっごく思い入れのある感じだよね、花笠君…

 

 

 

 

 

 

 

「ぽえ〜ん」は要らん言うとるやろ!

 

 

だから言ってないってば。

 

 

(ぽえ〜ん?)

 

 

せやけど「カッシーニ」は誰やねん?

 

なんで土星探査船に名前が付いたんや?

 

 

(どこかで聞いたことあったような…)

 

 

おっさん!聞いとんのか!?

 

カッシーニって誰や?

 

 

あ、ああ…

 

「カッシーニ」とは、イタリア出身でパリ天文台の初代台長に就任したジョバンニ・カッシーニのことだよ。

 

ジョバンニ・カッシーニ(1625−1712)

 

カッシーニは、土星の環が「レコード盤」みたいに幾重にも重なった筋で出来ていることを発見した。

 

「土星の周りに何かあること」を発見したガリレオの名前は木星探査機に使われたし、それが「環」であることを発見したホイヘンスは土星最大の衛星タイタンの発見者でもあるからタイタン探査機の名前に使われた。

 

だから「環の構造」を解明したカッシーニの名前が土星探査機に付けられたんだよ。

 

 

なるほどな。

 

せやけどガリレオやホイヘンスに比べたらイマイチ弱い感じがするな。

 

 

でも「カッシーニ」は「土星関連」以外でも、映画『ガタカ』で重要な役割を果たしているんだ。

 

 

土星関連以外でも?

 

 

「宇宙開発局GATTACA」も、ジェローム・ユージン・モローが持っていた「メダル」も…

 

実は「カッシーニ」が元ネタなんだよね…

 

 

 

ええ!?

 

 

 

 

 

 

つづく

 

 

 

 

 

 

 

 

JUGEMテーマ:映画

第5話「IRENE CASSINI(アイリーン・カッシーニ)という名前に秘められた物語:前篇」 〜『GATTACA(ガタカ)』徹底考察〜

  • 2019.03.12 Tuesday
  • 22:27

 

 

 

 

 

 

 

 

では次に「IRENE CASSINI(アイリーン・カッシーニ)」の名前について深読みしてみよう…

 

 

 

「JEROME EUGENE MORROW(ジェローム・ユージーン・モロー)」についてはコチラ

 

 

そして「VINCENT ANTON FREEMAN(ヴィンセント・アントン・フリーマン)」についてはコチラを参照してください。

 

 

 

そういえば花笠君って、アイリーン役のUma Thurman(ユマ・サーマン)に似てるよね。

 

よく言われるでしょ?

 

 

ええ…たまに…

 

 

シレーっと肯定すな。少しは謙遜せえ。

 

 

花笠君は学生時代、本当に「UMA(ユーマ:未確認生物)」と呼ばれていたからね。

 

あの不可思議な能力《深詠み》で難事件を次々と解き明かすもんだから、深読み探偵学校の生徒たちは皆、花笠君を畏れていた。

 

いや、生徒だけでなく、講師たちも花笠君には脱帽してたな…

 

当時は「神様仏様UMA様」なんて言われていたっけ…

 

 

UMA様〜ん(笑)

 

 

もう、教官…やめてください…

 

 

今日の「恩師を囲む会」には、君の知る人も何人か来る。

 

あの頃の深読み探偵学校の講師たちは、ほとんどが僕と同じように恩師の門下生だったからね。

 

せっかくだから君も少し顔を出したらいいよ。

 

恩師も、君みたいな優秀で美しい孫弟子がいると知ったら喜ぶだろうし…

 

 

で、でも…

 

 

そんなことよりも「アイリーン・カッシーニ」の名前解読を始めようよ!

 

 

そうだったね。

 

まずはファーストネームの「IRENE」から深読みしていこう。

 

 

「アイリーン」っちゅうたら『GOODNIGHT IRENE』やろ。

 

 

 

ベタ過ぎ…

 

 

「IRENE」とはギリシャ神話の女神「エイレーネー」が由来の名前だ。

 

「平和」という意味で、ローマ神話では「PAX(パックス)」となった。

 

 

平和?

 

せやったら『GOODNIGHT IRENE』は『おやすみ、平和』になるんか?

 

この歌はアイリーンと別れてもうた男の歌やで。しかも結婚した翌週にな。

 

 

結婚した翌週!?

 

 

「まだ時期尚早」という親御さんの反対を押し切って結婚したっちゅうのに、男は夜遊びをやめへんかったんや…

 

そんな夫の姿を見て、新妻アイリーンは出て行ってもうた。

 

落ち込んだ男は、現実世界ではもう会えへんから「おやすみアイリーン。お前と夢で逢えたらええな」って歌うんや。

 

 

あれだけ結婚を切望してたのに、変われなかった男…

 

そんな男に愛想をつかして出て行った「平和」…

 

そして男は「平和」の夢を見る…

 

なんか、めっちゃ意味深…

 

 

だから1950年代のフォークブームの時にリバイバルで大ヒットしたんだよ。

 

50年代には朝鮮戦争があって、東西冷戦が激化した時代だったからね。

 

人々は、第二次世界大戦の終結でようやく待ち焦がれた「平和」が訪れたと思っていたのに、すぐに「平和」が去ってしまってショックを受けていた。

 

そんな世情に歌詞がドンピシャだったんだ。

 

 

男も…国家も…本当に身勝手…

 

悲しい思いをしている人のことなんて、これっぽっちも考えない…

 

 

今日はやけに棘があるな…

 

なんかあったんか?

 

 

そして「IRENE」といえば、歴史上にもうひとり有名な人物がいる。

 

ローマ帝国史上初の「女帝」となった「東ローマ皇帝エイレーネー ”アテナイア”」(アテネのアイリーン)だ。

 

Irene of Athens(752〜803)

 

 

女帝アイリーン?

 

知らないなあ…

 

 

皇帝に就いていた期間が5年間という短いものだったからね…

 

しかも、ただでさえ女帝なんて前例が無かったのに、皇帝となった経緯が「超ワケアリ」で、西ローマ帝国政府やローマ教皇は彼女の皇位を認めなかったんだ。

 

 

訳あり?

 

 

エイレーネーの夫である皇帝レオ―ン4世は病弱に生まれ、30歳という若さで亡くなった。

 

そして二人のひとり息子がコンスタンティノス6世として即位する。

 

だけどコンスタンティノスは当時まだ9歳だったため、母であるエイレーネーが摂政になり実務を取り仕切ることになったんだ。

 

コンスタンティノスは十代も半ばになると、当たり前の事なんだけど、何かと母に反抗するようになっていった。

 

それに激怒したエイレーネーは、コンスタンティノスを捕らえ、眼球をくり抜いて追放する…

 

そして自ら皇帝となったんだ。

 

 

実の母親によるクーデター!?

 

しかも息子の眼球をくり抜くなんて…

 

 

女は怖いわね…

 

あなたたちも気を付けなさい…

 

 

そして西ローマ帝国政府とローマ教皇は、このクーデターによる女帝誕生に抗議する形で、長らく廃されていた西ローマ皇帝を復活させる。

 

それがシャルルマーニュの戴冠、つまりカール大帝なんだよ。

 

焦ったエイレーネーはカール大帝に結婚を申し込んだりしたんだけど断られてしまい、最後は部下のクーデターによって退位させられ、島流しにされる。

 

 

そんな女帝がいたのか…

 

だけどそれと『ガタカ』に何の関係が…?

 

 

アイリーン・カッシーニのキャラクターに「アテネのアイリーン」こと女帝エイレーネーが投影されているんだ。

 

いや…キャラクターだけじゃない…

 

『ガタカ』という映画の舞台背景にも、女帝エイレーネーの物語が投影されているんだよ。

 

 

舞台背景っちゅうたら…

 

人間が露骨に「適正者」と「不適正者」に分けられとる「ディストピア社会」のことか?

 

 

その通り。

 

あれは女帝エイレーネーが生きていた8世紀後半の東ローマ帝国が元ネタなんだ。

 

 

東ローマ帝国はディストピアだったのか!?

 

 

多くの人にとってはね…

 

それはエイレーネーの夫レオ―ン4世の祖父レオ―ン3世の時代から始まった。

 

レオ―ン3世の家柄はシリア朝とも呼ばれる通り、帝国東方のシリア地方に基盤をもつ王朝だった。

 

つまり、周囲には偶像崇拝を嫌う厳格な一神教であるユダヤ教徒やイスラム教徒の多い地域だ。

 

そんなこともあってか、レオ―ン3世は8世紀当時のキリスト教を「劣化したもの」と捉えていた。

 

ギリシャやローマの多神教文化と混じり合って聖人が大量生産され、教会の内装はどんどんケバケバしくなり、聖書に根拠を見いだせない儀式ばかりが行われ、初期の教えとはかけ離れたものになっていたからね。

 

レオ―ン3世は強い使命感をもって、社会の「純化」を始める。

 

十戒やイエスの教えに立ち返り「偶像崇拝」を厳しく罰し、社会の隅々まで蔓延していたイコン(聖像)を排除するという「イコノクラスム(聖像破壊運動)」を始めたんだ。

 

 

聖像破壊?

 

 

神の姿を絵や彫像などの形に表すことを禁じたんだ。

 

たとえば十字架に付いていたイエス像を撤去させたりとかね…

 

 

せやったらヴィンセント出産シーンでオカンが握っとったロザリオもアウトやな。

 

イエスがついた十字架やったで。

 

 

 

そうだね。エイレーネーが生きていた8世紀の東ローマ帝国ならアウトだ。

 

フリーマン夫妻の名前は「ANTONIO」と「MARIE」だったよね。この名前はどちらもラテン系(西ローマ帝国圏内)の名前なんだよ。

 

つまりヴィンセントの家系はカトリックだったというわけだ。

 

だから母MARIEはカトリックのシンボルであるロザリオを握りしめて出産に臨んだんだね。

 

 

 

そうゆうことだったのか…

 

 

さて、レオ―ン3世の時代、東ローマ帝国内の教会や修道院をはじめ、あらゆる場所からイコンが撤去された。

 

イコンを所有する者は「劣った人間」とされ、人々はイコンを廃棄するか、あるいは誰にも見つからぬよう隠し持たなければならなかったんだ。

 

当然この政策は、西ローマ帝国とローマ教皇庁だけでなく、ギリシャやバルカン半島など東ローマ帝国西方の聖職者や貴族、そして一般庶民からも猛反発を受けた。

 

だけどレオ―ン3世の跡を継いだ息子のコンスタンティノス5世は、さらに厳しくイコン破壊運動を推し進めて、社会の純化を図ったんだ。

 

 

確かに『ガタカ』の世界観と似てるかも…

 

イコンを必要としない「純化された人間」が、非論理的なことをしない「適正者」で…

 

イコンを必要とする「劣った人間」が、”神の子”と揶揄される「不適正者」だね…

 

 

ホンマやな。

 

 

そしてコンスタンティノス5世に息子が生まれる。

 

だけどその息子は生まれながらに病弱で、あまり長生き出来そうになかった。

 

不憫に思ったコンスタンティノス5世は、アテネで見つけた身寄りのない美しい娘を息子の妻にあてがった。

 

せめて生きている間は幸せに暮らしてほしいとね…

 

しかしコンスタンティノス5世は戦争で急死してしまう。

 

そして急遽、病弱の息子が皇位を継ぐことになり、アテネから来た美しい娘が皇后となった。

 

それがレオ―ン4世とエイレーネーだ。

 

 

余命わずかな皇帝と、なんの政治的後ろ盾もない、若くて美しい皇后…

 

悲劇の予感しかしないわ…

 

 

エイレーネーは多神教文化のメッカであるギリシャのアテネから嫁いだんでしょ?

 

聖像破壊運動的に大丈夫だったのかなあ…

 

 

エイレーネーをアテネからコンスタンティノープルの王宮に連れて来たコンスタンティノス5世は、息子との結婚にあたり、彼女に誓約書を書かせていたんだ。

 

「自分はイコンの所有も崇拝も一切しない純化された人間です」とね。

 

だけど、本当はそうじゃなかった…

 

結婚後もずっとエイレーネーは「隠れイコン擁護者」だったんだ…

 

 

それって『ガタカ』のアイリーン…

 

 

その通り。

 

選ばれし「適正者」しか入ることが許されない宇宙開発局GATTACA(ガタカ)において、アイリーン・カッシーニは異色の存在だった。

 

彼女は遺伝子操作で生まれた「適正者」なんだけど、主人公ヴィンセント同様に心臓に「欠陥」があって、宇宙飛行士となるには「不適正」な人間だったんだ。

 

だから彼女は「小さな錠剤ケース」を密かに携帯していた。

 

ヴィンセントとのデートの際、お酒を飲む前に白い錠剤を服用していたよね?

 

あれは心不全のリスクを抑えるための薬なんだ…

 

 

 

避妊用のピルかと思っとったわ…

 

 

そんなもの、デート中に男性の目の前で、これ見よがしに飲むわけないじゃない…

 

それにあのタイミングで飲んだところで効果はないわ…

 

 

その通りだよね。

 

その証拠にアイリーンは錠剤を飲んだ後、ヴィンセントとこんな会話を交わす。

 

 

ア「(ガタカに入れた)私の人生はラッキーだけど、アンラッキーなこと(心不全のリスク)もあるの」

 

ヴィ「わかるよ」

 

ア「嘘よ。あなたは健康なくせに…」

 

 

 

ところで、なんでわざわざヴィンセントの目の前で心不全の薬を飲んだんだろう?

 

化粧室にでも行って飲めばいいのに…

 

 

自分の秘密というか弱さをさらけ出して、カマをかけるためだよ。

 

ずっとアイリーンは、ヴィンセントが「何かを隠している」と疑っていた。

 

自分と同じように「正真正銘の適正者ではない」ということに薄々気付いていたんだ。

 

GATTACAの中でヴィンセントだけが「信仰」などという「適正者らしからぬ言葉」を口にし、病的なまでに「潔癖症」で、他の人たちとは明らかに違う行動をとっていたからね…

 

だからデートに誘い、まず自分がさらけ出すことによって、ヴィンセントにも告白を迫ったんだよ…

 

 

なるほど!そうゆうことか!

 

 

そして二人は、海を見下ろす部屋で結ばれる…

 

その交わりは荒波のように激しく熱いもので、男は身も心も女に許したかと思われた…

 

だけど…

 

やっぱり男は本心をさらけ出せず、本当の自分を隠し続けてしまったの…

 

あの熱海の夜のように…

 

 

へ?何の夜だって?

 

 

な、なんでもないわ…

 

 

まだ夜が明けきらぬうちに目覚めたヴィンセントは、枕元に落ちていた自分の毛髪に気付き、恐怖に陥る。

 

 

他にもベッドの中に「自分の痕跡」がないか捜し、起き上がると海岸へ向かった。

 

そして波打ち際にあった海藻を丸めて全身をこすり始めるんだ…

 

まるで穢れてしまった自分の身体を清めるかのように…

 

 

 

そういえばあの時のアイリーンは切なそうな顔をしてたよね…

 

すっごく悲しそうだった…

 

 

 

あれは「切ない」とか「悲しい」とかいう感情を超えてしまった表情よ…

 

一夜を共にした男が、自分と愛し合った痕跡を徹底的に消そうとしてるんだから…

 

 

花笠君、キミは…

 

 

おい、おっさん!なにボケーっとしとんねん!

 

これも女帝エイレーネーが元ネタなんか?

 

 

あ、ああ…その通り…

 

これもレオ―ン4世とエイレーネーの逸話が元になってるんだよ…

 

アテネから来たエイレーネーは、結婚時に「イコン(聖像)廃棄」の誓約書にサインしたんだけど、ずっと「隠れイコン崇拝者」だった。

 

ある夜、レオ―ン4世は妻エイレーネーの寝所を訪れ、夫婦の営みを交わした。

 

そして翌朝、枕元にイコンを発見する。

 

愕然としたレオ―ン4世は「なぜここにイコンがあるのか?」とエイレーネーに問いただした。

 

するとエイレーネーは「これは自分のものではない」と、しらを切った。

 

そもそもレオ―ン4世は、イコン所有者を厳しく弾圧してきた祖父や父と違って、穏健派の聖像破壊主義者だった。

 

自身が生まれつき病弱なこともあって、イコンにすがる人たちを厳しく罰せられなかったんだよね。

 

だからレオ―ン4世の時代は、よほど目立たない限りイコン所有が大目に見られていた。

 

だけど自分の妻の裏切りは許せなかったんだ。

 

その夜以来、レオ―ン4世は妻エイレーネーを汚れたモノのように扱い、夫婦の営みを行うことはなかったそうだ…

 

 

なるほど…

 

レオ―ン4世の「枕元のイコン発見」が、ヴィンセントの「枕元の毛髪発見」になったのか…

 

 

枕元での「神の発見」と「髪の発見」…

 

 

そんでレオ―ン4世もヴィンセントも「極度の潔癖症」で、ベッドを共にした女アイリーンを悲しませた…

 

 

そういうことだ。

 

ちなみに、その後レオ―ン4世は30歳という若さで亡くなった。

 

そして9歳の一人息子コンスタンティノス6世が皇位につき、母であるエイレーネーは幼い息子の代わりに摂政として実務を取り仕切ったことは話したね。

 

まずエイレーネーは、国内の安定化を図るためイコノクラスム(聖像破壊運動)を止めさせる。

 

そして聖像破壊運動に反発していた西ローマ帝国との関係修復のために「第2ニカイア公会議」を主宰し、「聖像破壊主義は異端」ということが宣言された。

 

「聖像自体を神聖視しているのではなく、聖像によって満たされる心の在り方を神聖視する」という理論に落ち着いたんだ。

 

 

そういや宗教改革者ジャン・カルヴァンは『キリスト教網要』で、エイレーネーの「第2ニカイア公会議」をめっちゃディスっとったな。

 

 

懐かしい。カルビンの『キリスト教網要』といえば、映画『LIFE(ライフ)』だ。

 

『LIFE(ライフ)』徹底考察

 

 

ちなみにこのエイレーネーが開いた公会議が、正教会とカトリックの東西両教会が公認した最後の公会議となってしまったんだ。

 

エイレーネーの死後、9世紀以降は教会が東西に完全分裂してしまったからね…

 

さて、「アイリーン」の話はこれくらいにして、次は苗字の「カッシーニ」を深読みしよう…

 

 

 

 

 

 

 

つづく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

JUGEMテーマ:映画

第4話「VINCENT ANTON FREEMANという名前を深読みすると、どんな物語が見えてくる?」 〜『GATTACA(ガタカ)』徹底考察〜

  • 2019.03.10 Sunday
  • 16:55

 

 

 

 

 

 

壮大かつロマンチックな物語よね…

 

 

何を言ってるのかわからない人は前回を未読の人だな。

 

まずコチラからどうぞ。

 

 

 

次は「適正者:ジェローム・ユージーン・モロー」に成り済ます「不適正者:ヴィンセント・アントン・フリーマン(演イーサン・ホーク)」と、その弟である「適正者:アントン・フリーマン(演ローレン・ディーン)」の名前の秘密に迫ろう。

 

 

 

 

兄やんのファーストネーム「VINCENT」の由来は、ラテン語の「克服・勝利」やったな。

 

生後すぐの検査で心臓に異常が見つかり「寿命は長くて30年」と言われたもんやさかい、オトンは「VINCENT」と名付けたんや。長生きして欲しくてな。

 

宇宙飛行士を目指すには致命的なハンディキャップやけど、ヴィンセントは名前の通り、執念で運命を克服したんやで。

 

 

弟アントンとの遠泳チキンレースにも勝利したわね。

 

 

「VINCENT」は、もうこれでOK?

 

 

いいや。まだ重要な意味が込められている。

 

西洋社会において「VINCENT」といえば「サラゴサの聖ヴィセンテ」のことを指すんだ。

 

 

聖ヴィセンテ…?

 

 

世界一セクシーなギタリスト「St. Vincent(セイント・ヴィンセント)」の名前の由来となった聖人ね。

 

 

 

間奏のギターソロが凄まじ過ぎ…

 

 

「サラゴサの聖ヴィセンテ」は、3世紀後半にイベリア半島で活躍した人物だ。

 

当時まだローマ帝国ではキリスト教が認められていなかったので、聖ヴィセンテは、ありとあらゆる残酷な拷問を受けた。

 

それでも最後まで屈せず殉教したので聖者と崇められ、今でもスペインやポルトガルを中心に人々の信仰を集めている。

 

港町バレンシアとリスボンの守護聖人でもあるんだよ。

 

『サラゴサの聖ヴィセンテ』作者不明

 

 

縄で首に繋がってる巨大な石の円盤は何だ?

 

 

詳しくはわからないけど、聖ヴィセンテは「リング状の石の円盤」とセットで描かれる。

 

あれを錘にして海にも沈められたんだよね。よく見ると窓の外には、その光景が描かれてるでしょ?

 

 

「VINCENT」と「大きな石のリング」って…

 

なんだか『ガタカ』っぽい…

 

 

「ぽい」じゃなくて「そのもの」なんだよ。

 

 

 

うわあ…

 

こっちの絵のリングは、さらに「土星の環」そのもの…

 

 

それだけじゃない…

 

最初の遠泳チキンレースで弟アントンに負けた時にも「聖ヴィセンテ」のモチーフが再現されていたわね。

 

 

 

どこに!?

 

 

力尽きたヴィンセントは、浮かんでいた海藻を枕にして、水面に横たわっていた…

 

あれは「海に浮かぶ聖ヴィセンテ」の宗教画そのものよ…

 

 

 

マジかよ…

 

頭の後ろの「浮き輪」みたいに見える聖ヴィセンテの「光背」を、「海藻の枕」で表現していたのか…

 

 

なかなかトンチが効いてるよね、アンドリュー・ニコル監督は。

 

ファーストネーム「VINCENT」については、これくらいでいいだろう。

 

 

次はミドルネーム「ANTON」やな。

 

 

お兄ちゃんはミドルネームが「ANTON」で、弟はファーストネームが「ANTON」…

 

なんで兄弟して「アントン」がつくんだろう?

 

お父さんとお母さんがアントン・チェーホフのファンだったとか?

 

 

 

なんでやねん。

 

オトンの名前や。オトンは「アントニオ・フリーマン」やさかい。

 

ちなみにオカンは「MARIE(マリー)」やで。

 

 

 

「ANTON」は「ANTONIO」のことだったのか。

 

 

ラテン語で「燃える闘魂」っちゅう意味や。

 

 

ああ、それ聞いたことある!

 

 

嘘を教えちゃいけないよ。

 

「ANTONIO」とは「ヘラクレスの末裔」という意味だからね。

 

 

ヘラクレス?

 

 

 

「アントニオ」という名前の起源は「英雄ヘラクレスの息子アントン」なのよ。

 

ゼウスを父にもつヘラクレスは、数あるギリシャの神々の中で、最も強く、最も人気のあった半神半人の英雄…

 

「アントニオ」という名前は、その血を引く者という意味なのよね。

 

ちなみに歴史上で最も有名な「アントニオ」は誰だか知ってる?

 

 

猪木に決まっとるやろ。

 

 

 

日本ではそうかもしれないけど…

 

ワールドレベルで「アントニオ」といえば「マルクス・アントニウス」の名が真っ先に挙げられる。

 

マルクス・アントニウス(BC83〜BC30)

 

独裁官ジュリアス・シーザー(カエサル)の死後、後に初代皇帝アウグストゥスとなるオクタウィアヌスと壮絶な後継者争いをして敗れ去った人物ね。

 

エジプト女王クレオパトラと恋に落ち、自分自身を「偉大なる御先祖様ヘラクレスの生まれ変わり」だと考え、ことあるごとに自分とヘラクレスを重ねていたと言われている…

 

 

シェイクスピアの『アントニーとクレオパトラ』やな。

 

 

 

『アントニーとクレオパトラ』といえば、有名な絵画があるよね。

 

海に浮かぶ寝室で密会するアントニーとクレオパトラの絵だ…

 

『Anthony and Cleopatra』

ローレンス・アルマ=タデマ

 

 

なんか既視感があるんやけど、気のせいやろか?

 

 

気のせいなんかじゃないよ。

 

アンドリュー・ニコル監督は『ガタカ』の中で「この絵」を再現したんだ。

 

主人公ヴィンセント・アントン・フリーマンとアイリーン・カッシーニが結ばれたベッドは、まるで海に浮かんでいるようだったよね…

 

 

 

ああーーーー!

 

 

アタミノヨルモ…ソウダッタ…

 

 

ん?なんか言ったか?

 

 

な、なんでもないわ…

 

 

しかもあのラブシーンのベッドルームは、既存の「海に浮かぶように見える部屋」ではないんだ。

 

わざわざ海沿いの高台の上にセットを用意して撮影したんだよ。

 

『アントニーとクレオパトラ』の絵の構図を完璧に再現するためにね。

 

 

そこまでして、あの絵を…

 

誰も拾ってくれないかもしれないのに…

 

 

だから僕みたいな人間が必要なんだ…

 

映画公開から22年後になって発見してくれるような物好きな人間がね…

 

 

ワイも拾ったるで!

 

熱烈合体の翌朝にヴィンセントが浜辺で全裸でしゃがみ込んどったのは『ターミネーター』のアーノルド・シュワルツェネッガーを再現するためや!

 

 

 

何の意図で?

 

 

そこまでは知らん。

 

 

これは「ヘラクレス」の再現なんだよ…

 

全裸になったヴィンセントは、まるで全身の皮膚を剥がしたいかのように、無我夢中でこすっていた…

 

ヘラクレスも全く同じことをしたんだ…

 

そしてこの「全裸で皮膚こすりまくりシーン」は、映画のラストシーンの伏線にもなっている…

 

 

ええ!?

 

 

映画『ガタカ』には「ヘラクレスの生涯」も投影されている。

 

宇宙を題材にした映画なら、前に紹介した「天空の神ウラヌス」同様に、ヘラクレスは避けては通れないからね。

 

 

なるほど。詳しく教えてくれ…

 

頼まなくてもするんだろうけど…

 

 

まず『ガタカ』に登場する「ヴィンセントとアントンの兄弟」は「ヘラクレスとイピクレスの兄弟」そのものと言える。

 

兄ヘラクレスは「神の子」と呼ばれ、弟イピクレスは「人の子」と呼ばれた。

 

そして、両親のセックスという偶然の行為で誕生した兄ヴィンセントは「神の子」と呼ばれ、遺伝子操作と体外受精によって人工的に作られた弟アントンは「適正な人間」と呼ばれていたよね…

 

 

ヘラクレスとイピクレスは兄弟なのに、なんで「神の子」と「人の子」と違うの?

 

 

「種」が違うからだよ。

 

兄ヘラクレスの父は神ゼウスだ。いっぽう弟イピクレスの父は人間であるアムピトリュオン。

 

神ゼウスは、ミケーネ王の娘アルクメネの寝所へ、その婚約者アムピトリュオンが不在の夜に忍び込み、こっそり種付けをしたんだ。自分の子を将来のミケーネ王にするためにね。

 

同じ母アルクメネから生まれた二人なんだけど、受け継いだ遺伝子が別々のものだったんだよ。

 

 

婚約者がおる処女を神が孕ませるって、聖母マリアの処女懐胎みたいやな…

 

 

ちなみに映画『ガタカ』で出産シーンが描かれるのも、神の子ヘラクレス誕生の有名な絵の再現だろうな…

 

ヘラクレスは難産の末、生まれたんだ…

 

 

 

さて、ゼウスは半神半人で生まれたヘラクレスの神パワーを強化させようと考え、本妻ヘーラーが寝ている隙に「神の母乳」を飲ませた。

 

しかしヘラクレスが乳首に吸い付く力があまりにも強烈だったのでヘーラーは目を覚ましてしまい、乳房からヘラクレスを引き離そうとした。

 

その時の衝撃で乳首から母乳が天空へ飛び散り、それが「天の川(ミルキーウェイ)」となったんだ。

 

「galaxy(銀河)」という言葉の由来も、古ギリシャ語の「kyklos galaktikos(乳の環)」なんだよね。

 

 

赤ちゃんヘラクレスの吸引力のおかげで、たくさんの星が誕生したのか…

 

 

成長したヘラクレスは、数々の試練を乗り越え、英雄の名を欲しいままにした。

 

スポーツの祭典として知られるオリンピック競技会を創設したのもヘラクレスだ。

 

初期の大会はヘラクレスの子孫たちの独断場で、ことごとくメダルを独占した。

 

 

オリンピック競技会とメダルは『ガタカ』でも重要なモチーフだね…

 

 

そしてある日、ヘラクレスは家族で旅をしていた時に、向こう岸が見えないほどの大きな川に辿り着いた。

 

流れも激しいため、妻と子を同時に背負って渡ることはできない。

 

そこにたまたまケンタウロス族のネッソスが通りがかり、ネッソスが妻を、ヘラクレスが我が子を背負って渡ることになった。

 

急流の中、泳ぎが得意なネッソスはぐんぐんとヘラクレスを引き離してゆく。

 

そして、いち早く向こう岸まで着いたネッソスは、なんとヘラクレスの妻を犯し始めた。

 

それを見たヘラクレスは、毒矢でネッソスを撃ち殺してしまう…

 

 

神話の時代はワイルドやな…

 

 

でもこれって『ガタカ』の「二人のアントンによる遠泳レース」の元ネタじゃない?

 

 

そうだよね。

 

さて、毒矢で射抜かれたネッソスは、ヘラクレスの妻にこう言い残して死んだ。

 

「俺の血には媚薬効果があるので、夫の愛が冷めて来たと思ったら、この血を沁み込ませた服を着せるといい」

 

ヘラクレスの妻はネッソスに感謝して、その血を保存しておいた…

 

 

ええ奴やん、ネッソス。

 

 

ちょっと待って…

 

相手は自分を手籠めにしようとして、そこを夫に見つかって殺された男だよね…

 

意味わかんないんですけど…

 

 

男と女のことって、そう単純じゃないのよ…

 

子供にはわからないでしょうね…

 

 

そしてヘラクレス夫妻にネッソスの血を使う時が訪れる。

 

よその女に夢中になっていた夫ヘラクレスに対し、妻はネッソスの血を沁み込ませた衣服を着せた。

 

しかしヘラクレスは、発情して妻に求愛するどころか、全身を掻きむしりながら激しく苦しみ始めたんだ…

 

 

ど、どゆこと!?

 

 

ネッソスはヘラクレスに復讐するため妻を騙したんだ。

 

実は「ネッソスの血」には「猛毒」が入っていたんだよね。ヘラクレスが放った毒矢の猛毒が。

 

ヘラクレスは激しく痛む表皮を剥がそうと全身を掻きむしったけど、時すでに遅し。猛毒は全身の皮膚に回って、もはや我慢できないほどになってしまった。

 

そこでヘラクレスは自分の周りに薪を組み、そこに座って火をつける…

 

苦しさのあまり、全身を焼いてしまったんだ…

 

『ヘラクレスの死』

フランシスコ・デ・スルバラン

 

 

それって…

 

 

映画『ガタカ』のラストシーンね…

 

 

 

うひゃあ!

 

しかもヘラクレスが衣を引き裂こうとしてる手のポーズが一緒だ!

 

伸ばした右手は布を強く握りしめ、左手は布に掛ける感じ…

 

 

それだけじゃない…

 

ジェロームはヘラクレスの「上目遣い」も再現する…

 

 

 

マジかよ…

 

だからメダルの布をチラッと上目づかいで見たんだ…

 

 

アンドリュー・ニコル監督の執念ね…

 

 

ところで、主人公ヴィンセント・アントン・フリーマンのファミリーネーム「FREEMAN」は?

 

 

ヤーマンやろ。

 

 

レゲエの話をしてるんじゃないよ。

 

 

「ヤーマン」っちゅうのは「FREEMAN」のことや。

 

日本語では「独立自営農民」っちゅうノリの悪い訳語が当てられとるけどな。

 

自分で土地を所有し、封建領主の支配から自立しとった農民のことを指す。

 

 

確かにそうなんだけど…

 

僕は「FREEMAN DYSON(フリーマン・ダイソン)」から取られたんじゃないかなと思う…

 

FREEMAN DYSON(1923〜)

 

 

誰?

 

 

理論物理学の分野で20世紀を代表する科学者よ。

 

『地球交響曲(ガイア・シンフォニー)』のコンセプトに大きな影響を与えた人物で、『第三番』に出演もしているわ。

 

 

 

物理学の大科学者で「神の意思」に言及するっちゅうのも珍しいな…

 

 

フリーマン・ダイソンは、科学者の世界では珍しく、とても敬虔なキリスト教徒なんだよ。

 

それというのも、彼の父親はイギリスの超名門校「王立音楽大学」の学長を務めたほどのパイプオルガン奏者で、数多くの宗教音楽を作曲した偉大な芸術家でもあるんだ。

 

そんな環境に生まれ育ったから、聖書や宗教音楽が、数学や物理の数式同様に、彼の血肉になっているんだよね。

 

だから彼の宇宙論では「神の存在」は欠かせない。

 

「主人公が不可能と思われた宇宙への旅を実現させる」という大筋の中に、聖書やギリシャ神話のモチーフが散りばめられた『GATTACA(ガタカ)』という物語には、うってつけの人物だと言えるよね。

 

 

なるほど。

 

 

では次に、ユマ・サーマン演じるヒロイン「アイリーン・カッシーニ」の名前について深読みしてみよう…

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく

 

 

 

 

 

 

 

 

JUGEMテーマ:映画

第3話(改定版)「JEROME EUGENE MORROWという名前の意味とは?」 〜『GATTACA(ガタカ)』徹底考察〜

  • 2019.03.07 Thursday
  • 21:05

 

 

 

 

 

 

そういえば土星へ向かう主人公の名前「Vincent」とは「乗り越える・克服する」という意味よね。

 

生まれ持ってのハンデキャップを「克服する」というプラスイメージだけでなく、サトゥルヌスの「他者と一体化することでの克服」というマイナスイメージも込められていたんだわ…

 

 

実に面白いよね。

 

この映画は、登場人物の名前を見れば、その役割がわかるようになっている。

 

まあ名前というのは神話や聖書の時代から、だいたいそういうもんなんだけど。

 

せっかくだから主要人物の名前について話しておこうか。

 

 

その前に…

 

前回を未読の人はコチラからどうぞ。

 

 

 

まずはジュード・ロウ演じる「適正者:JEROME EUGENE MORROW」から…

 

 

 

めっちゃわかりやすいわ。

 

「JEROME」は初期キリスト教会における二大中心地「JERUSALEM(エルサレム)」と「ROME(ローマ)」のことやろ。

 

 

『スリー・ビルボード』にも「ジェロームさん」は出て来たよね。

 

意見広告のポスター製造&貼り付け担当の人。

 

 

 

「JEROME」は小説や映画でよく使われる名前だ。

 

特に聖書が元ネタになっているような物語では特にね。

 

そして「JEROME」というキャラクターには「聖ジェローム」が投影されることが多い。

 

『荒野の聖ジェローム』ピントゥリッキオ

 

 

誰?

 

しかも何で上半身裸?

 

 

聖ジェロームはこのように「上半身裸」で、しかも「苦悩した顔」で描かれることが多いんだ。

 

聖ジェロームはローマ帝国でキリスト教が認められた四世紀中頃から五世紀初めにかけて活躍した人物で、ヘブライ語・アラム語・ギリシャ語で書かれていた新旧約聖書をラテン語に翻訳し、キリスト教の普遍化に絶大なる貢献をした。

 

グーテンベルクの活版印刷で大量生産されたのも聖ジェロームが書いた標準ラテン語版の聖書だったし、なんと20世紀に入るまで聖ジェローム版聖書がカトリックの「公式聖書」とされていたんだ。

 

人類史上もっとも多くの人に読まれた本の著者ともいえるよね。

 

ちなみにその聖ジェロームのラテン語聖書を「VULGATA(ウルガタ/ヴルガータ)」と呼ぶ…

 

 

ウルガタ?

 

なんか『ガタカ』っぽい。

 

 

「ぽい」じゃなくて、ここから取られたんだと思うよ。

 

『GATTACA(ガタカ)』という名前は、4つの塩基を表すアルファベット「G・A・C・T」の組み合わせだ。

 

だけど別に「GATTACA」じゃなくてもいいはずだ。どうせ造語なんだから、他の組み合わせでもいいよね?

 

 

確かにそうだな…

 

「GACTACT」でもいい…

 

 

「ガクト法」か。

 

 

だけど物語を書いたアンドリュー・ニコルは、あえて「GATTACA」という組み合わせにした。

 

これは聖ジェロームが書いた共通訳聖書『VULGATA(ウルガタ)』の「GATA(ガタ)」を入れたかったからに違いない。

 

 

おめーら、わがったか?

 

 

へ?

 

 

ごめんなさい…つい山形弁が…

 

わたし…尾花沢生まれ尾花沢育ちだから…

 

 

ズコッ!

 

 

ちなみに「GATTACA」の「CA」は「CASSINA(カッシーナ)」の「CA」だろうね。

 

これは別の登場人物の時に詳しく説明しよう…

 

 

ユマ・サーマン演じるアイリーンの苗字やな。

 

せやけど何で聖ジェロームは上半身裸で苦悩しとったんや?

 

 

聖ジェロームはシリアの荒野で隠遁生活を送っていた。

 

精神修行や翻訳作業に集中したいために、誰も訪れない荒野の洞窟の中に引き籠り、ひとり暮らしていたんだよね。

 

孤独・清貧・禁欲が聖ジェロームのモットーだったんだ。

 

 

じゃあ何で「WHY?」みたいな顔して困ってるのさ?

 

自分で選んだ道なんでしょ?

 

 

 

聖ジェロームは「幻覚」に悩まされていたんだよ。

 

若い頃に遊んだ女たちが現れて、官能的な歌や踊りで誘惑してくるという幻覚にね…

 

『歌と踊りで聖ジェロームを誘惑する過去の記憶の女たち』

フランシスコ・デ・スルバラン

 

 

そんな幻覚を見るなんて…

 

 

そうとう溜まってるってことや…

 

無理して禁欲生活なんかするからやで…

 

 

いやだわ…男の人って…

 

 

引き籠り時代の聖ジェロームは、女性を遠ざけていた。

 

この逸話が「ジェローム・ユージーン・モロー」のキャラクターに反映されたんだよ。

 

限りなく「自殺未遂」臭い「交通事故」のあと、引き籠り生活をしていた彼は、女性と一切接触していなかった。

 

口では「コールガールでも呼んで性欲を発散させるよ」と言いながら、そういうシーンもなかったし、女性を呼んだような形跡も全く見られなかったんだ…

 

 

ジェローム・ユージーン・モローが唯一「人肌に触れた」のは、ヴィンセントに抱きかかえられてベッドに運ばれた時やったな…

 

 

そしてヴィンセントを庇うために、刑事の前でユマ・サーマン演じるアイリーンと偽装キスをした時も、その表情は非常に複雑なものだった

 

「自分が愛する人と寝た女とのキス」だからね…

 

 

本当だったら、キスどころか顔すら見たくなかったはずだ…

 

まさに、幻覚の女たちに「あっち行け!消えて失せろ!」とやってる聖ジェロームの気分だったはず…

 

 

 

なるほど…

 

「JEROME」という名前から、ここまで導き出せるのか…

 

 

これが深読み道よ。

 

 

ではミドルネームの「EUGENE」に行こうか。

 

 

ミドルネームは簡単だ。

 

「EUGENE」はギリシャ語で「well-born(生まれが良い・優生)」という意味。

 

 

そうだね。ここは他の意味は特にないだろうな。

 

じゃあ次はファミリーネームの「MORROW」…

 

 

「MORROW」はSF怪奇小説の傑作『ドクター・モローの島』からやろ。

 

優れた遺伝子をもつ「適正者」っちゅうのは、遺伝子操作で生まれた「改造生物」やさかい。

 

 

ちなみに「モロー博士」の綴りは「Dr. Moreau」よね。

 

 

フランス語っぽいな。

 

 

「morrow」は「tomorrow」の昔の形じゃないの?

 

「翌日・翌朝」って意味でしょ?

 

 

「Morrow」というのはスコットランドが起源の苗字で、ゲール語で「海の戦士・海を渡る者」という意味なんだ。

 

ジェローム・ユージーン・モローが「水泳の銀メダリスト」で、彼のDNAがヴィンセントによって宇宙へ運ばれたのは、まさに「Morrow」から来ているんだよ…

 

 

そうだったのか!

 

 

ちなみにビル・マーレイの「Murray」や、エディ・マーフィーの「Murphy」なども、この「Morrow」の変形バージョンよね。

 

 

じゃあクリストファー・ノーランの『インターステラー』に出て来たマーフことマーフィーも?

 

 

 

そうだね。

 

主人公クーパーが娘に「Murphy」と名付けた理由は「マーフィーの法則」からではなく、ゲール語の意味「海を渡る者」からなんだ。

 

かつて宇宙飛行士を目指していたクーパーは、生まれて来た娘に「Murphy」と名付け、大きな夢を託した。

 

そして「Murphy」は人類にとって最大の謎だった「重力の謎」を解き、地球に縛られていた人類を宇宙という大海へ導いた。

 

名前の由来の通り、人類に宇宙という海を渡らせたんだね。

 

 

壮大かつロマンチックな物語よね…

 

 

そういえば『ガタカ』のジェローム・ユージーン・モローも『インターステラー』のマーフも…

 

最愛の人が宇宙へ旅立ち、自分は地上に残されたんだよね…

 

 

偶然か、これ?

 

 

さあ、どうだろう?

 

これで「ジェローム・ユージーン・モロー」の名前解説はおしまい。

 

次は「適正者:ジェローム・ユージーン・モロー」に成り済ます「不適正者:ヴィンセント・アントン・フリーマン」とその弟「アントン・フリーマン」の名前の秘密に迫ろう。

 

 

 

 

 

 

つづく

 

 

 

 

 

 

 

JUGEMテーマ:映画

第2話(改定版)「瀬をはやみ 岩にせかるる滝川の…」 〜『GATTACA(ガタカ)』徹底考察〜

  • 2019.03.05 Tuesday
  • 23:21

 

 

 

 

 

 

遅くなって、すみません…

 

渋滞に巻き込まれちゃって…

 

 

いいんだよ。うちの事務所は暇だからね。

 

定時に出勤しても、特にやることはないんだし。

 

 

お前が言うな。仕事とって来いや。

 

 

では映画『GATTACA(ガタカ)』の話を続けようか。

 

 

第1話を未読の人はコチラからどうぞ。

 

 

 

 

「むかし映画は観たけど、詳しいこと忘れちゃったな」という人は、Wikipediaページで「あらすじ」や「登場人物」をチェックするといい。

 

さて、冒頭で2つの格言が提示されたあとは、イーサン・ホーク演じる主人公ヴィンセント・アントン・フリーマンが「朝の儀式」を行うシーンが描かれる。

 

両親のセックスによって生まれた「不適正者」であるヴィンセントは、憧れの宇宙開発局GATTACA(ガタカ)で働くために、毎朝、遺伝子操作で生まれた「適正者」であるジェローム・ユージン・モロー(演ジュード・ロウ)に「偽装」しなければならない。

 

爪を切り、抜けそうな毛を落とし、髭を完璧に剃り、皮膚を徹底的にこすって垢を落し、全身から「自分」を消し去するんだ。

 

そしてジェローム・ユージーンのDNAで身をまとうんだね。

 

 

 

あのシーンは興味深かったわ。

 

最初は何が起こってるのかわからないんだけど、美しい映像のおかげで映画に釘付けになってしまうの…

 

 

まず画面には、切られた「爪」のアップが映し出される。

 

スローモーションでゆっくりと落下してくるんだよね。

 

 

 

あんなにアップだと、最初は爪だとは気付かなかったな。

 

落ちた時の音も物々しかったし。

 

 

確かに。

 

そして次は、巨大な「毛髪」が落ちて来る。

 

まるで細い木の枝やケーブルのようだったね…

 

 

最後は「垢」と「剃られたヒゲ」が落ちて来た。

 

こちらは、まるで降り積もる雪のように…

 

 

 

実際の映像を見たほうが早いわ。めっちゃカッコええシーンやで。

 

DNAを構成する4つの塩基であり、映画のタイトル『GATTACA』を構成するアルファベットでもある「GACT」の文字が、クレジットの名前と一緒に象徴的に浮かび上がってくるんや。

 

 

 

超クール!

 

ところで「GACT」って何だっけ?

 

 

Guanine(グアニン)、Adenine(アデニン)、Cytosine(シトシン)、Thymine(チミン)よ。

 

 

このシーンは本当に芸術的だよね。

 

そしてこの導入部だけでも、とんでもない情報量が内包されている。

 

 

とんでもない情報量?

 

どこに?

 

 

「爪・毛髪・垢」は、旧約聖書『伝道の書(コヘレトの言葉)』の最終章である第12章を想起させるためのもの。

 

そしてこの第12章が、映画『GATTACA』のクライマックスシーンの元ネタになっているんだ。

 

『伝道の書(コヘレトの言葉)』第12章

1 あなたの若い日に、あなたの造り主を覚えよ。悪しき日がきたり、年が寄って、「わたしにはなんの楽しみもない」と言うようにならない前に、

2 また日や光や、月や星の暗くならない前に、雨の後にまた雲が帰らないうちに、そのようにせよ。

3 その日になると、家を守る者は震え、力ある人はかがみ、ひきこなす女は少ないために休み、窓から覗く者の目はかすみ、

4 町の門は閉ざされる。その時ひきこなす音は低くなり、人は鳥の声によって起きあがり、歌の娘たちは皆、低くされる。

5 彼らはまた高いものを恐れる。恐ろしいものが道にあり、あめんどうは花咲き、いなごはその身をひきずり歩き、その欲望は衰え、人が永遠の家に行こうとするので、泣く人が、巷を歩きまわる。

6 その後、銀のひもは切れ、金の皿は砕け、水がめは泉のかたわらで破れ、車は井戸のかたわらで砕ける。

7 ちりは、もとのように土に帰り、霊はこれを授けた神に帰る。

8 伝道者は言う、「空の空、いっさいは空である」と。

9 さらに伝道者は知恵があるゆえに、知識を民に教えた。彼はよく考え、尋ねきわめ、あまたの箴言をまとめた。

10 伝道者は麗しい言葉を得ようとつとめた。また彼は真実の言葉を正しく書きしるした。

11 知者の言葉は突き棒のようであり、またよく打った釘のようなものであって、ひとりの牧者から出た言葉が集められたものである。

12 わが子よ、これら以外の事にも心を用いよ。多くの書を作れば際限がない。多く学べばからだが疲れる。

13 事の帰する所は、すべて言われた。すなわち、神を恐れ、その命令を守れ。これはすべての人の本分である。

14 神はすべてのわざ、ならびにすべての隠れた事を善悪ともにさばかれるからである。

 

 

確かに何だか『ガタカ』っぽい…

 

第1節の「私には何の楽しみもない」って、下半身不随になったジェローム・ユージーン・モローがよく言っていたことじゃんか…

 

 

第5節も、せやで。

 

「彼らはまた高いものを恐れる。恐ろしいものが道にあり、あめんどうは花咲き、いなごはその身をひきずり歩き、その欲望は衰え、人が永遠の家に行こうとするので、泣く人が、巷を歩きまわる。」

 

「高いもの・恐ろしいもの」は「螺旋階段」のことや…

 

そんでまさに「いなごはその身をひきずり歩き」を再現しとった…

 

 

 

「人が永遠の家に行こうとするので」は「ヴィンセントが死を覚悟して宇宙へ行こうとするので」ね。

 

 

うわあ…

 

ところで「あめんどう」って何?

 

 

アーモンドのことよ。

 

中東世界でアーモンドの花は「春の訪れ」を知らせる花なの。日本の梅や桜みたいなものね。

 

聖書にもよく登場する植物で、「新しい時代の到来・覚醒」という意味が込められているわ。

 

 

映画『ガタカ』は「春」の話だからね。

 

物語には「イエスの死と復活」が重ねられている。

 

 

第6節の「その後、銀のひもは切れ、金の皿は砕け、水がめは泉のかたわらで破れ、車は井戸のかたわらで砕ける」は、ジェローム・ユージーン・モローとヴィンセントの最期やな…

 

焼却炉の中で「銀メダル」は燃えて「金色」になっとった…

 

そんでヴィンセントの心臓は過酷なミッションに耐えられず破裂し、乗っとる宇宙船は無謀な着陸計画で砕け散る…

 

 

そして第7節「ちりは、もとのように土に帰り、霊はこれを授けた神に帰る」か…

 

二人の運命そのまんまじゃんか…

 

 

 

二人は「ちり」になって結ばれることを選んだのね…

 

たとえ地球と土星と離ればなれになっても…

 

原子レベルなら、いつかどこかで必ず会える…

 

まさに「瀬を早み 岩にせかるる滝川の われても末は 逢はむとぞ思ふ」だわ…

 

 

 

・・・・・

 

 

ガタガタ…ガタガタ…

 

 

えっ!?いきなり《深詠み》ですか!?

 

 

ガタガタガタガタガタガタ…

 

 

花笠君…

 

 

ピタッ

 

 

 

今日はどうしたんだい…

 

涙を流しながら《深詠み》するなんて…

 

 

何でもありません…教官…

 

放っておいてください…

 

 

花笠君…まさかきみは…

 

 

女の涙には気ィつけなアカン。

 

花笠はオヤジキラーやで…

 

 

それはそうと…

 

『伝道の書』第12章のどこにも「爪・頭髪・垢」は見当たらないよね…

 

 

あるよ。第11節にね。

 

知者の言葉は突き棒のようであり、またよく打った釘のようなものであって、ひとりの牧者から出た言葉が集められたものである。

 

 

ハァ?どこに?

 

 

日本語訳では意味が限定されてしまっているから、英語版を紹介しよう。

 

The words of the wise are like goads, their collected sayings like firmly embedded nails―given by one shepherd.

 

 

あれ?「nails」って書いてある!

 

 

「nail」は「釘」でもあり「爪」でもあるわ。

 

 

英語の駄洒落か…

 

 

そして「毛髪」も第11節の中に隠されている。

 

「しなやかで弾力のある木の枝」のように落ちて来た毛髪とは「goad」のことなんだ。

 

 

ゴウド?

 

 

よく牧童が持ってる「細くて、よくしなる棒」のことだよ。

 

それで家畜を突いたり、鞭のように叩いたりするんだ。

 

『アルプスの少女ハイジ』でペーターがいつも持ってたでしょ?

 

 

 

ああ、あれか!

 

確かにあの毛髪アップに似てる!

 

 

 

そして皮膚から削り取られる「垢」とは「ひとりの羊飼いから出た言葉」のことだ。

 

それらが「集められた」と書かれているからね。

 

あの垢の中の細胞ひとつひとつには「DNA」が含まれている。

 

つまり、垢を出した人物が何者なのかを雄弁に語る「言葉」だというわけだ。

 

 

なるほど!うまい!

 

 

ちなみにこの『伝道の書』第12章の「羊飼いの言葉・釘・長い棒」のモチーフは、新約聖書で「イエスの磔刑」に投影されたんだ。

 

イエスは掌に「釘」を打たれ、十字架の上で最後の「言葉」を発し、ロンギヌスの「槍」で刺された…

 

つまりこの『ガタカ』という映画は…

 

冒頭で旧約聖書の『伝道の書』を想起させ、結末は新約聖書の「イエスの死(すべての預言の成就)」へ持って行くという構成になっているわけだね。

 

 

そうゆう映画なのか…

 

 

さて、次に映し出されるのはカミソリのアップだ。

 

丹念に肌へ剃刀の刃をあてるシーンが映し出される。

 

 

肌に直接カミソリの刃を当ててはいけないとする旧約聖書的にはアウトだよね。

 

旧約聖書の一節を提示した直後にこんなシーンを入れるということは、この映画の主人公ヴィンセント・アントン・フリーマンが「イエス・キリストを投影した人物」であるということの暗示に他ならない。

 

そして自分の「爪・毛髪・垢」を焼却炉で燃やした後に、ジェローム・ユージーンの尿が入ったパックを内ももに装着する。

 

GATTACAでは、抜き打ち尿検査があるんだよね。

 


 

「爪・毛髪・垢」はあったけど、さすがに聖書に「小便」は出てこんやろ。

 

 

これは映画『GATTACA』の「もうひとつの下敷き」になっているギリシャ神話の引用なんだよね。

 

あの小水セットは、天空の神Uranus(ウラヌス)を想起させるためなんだ。

 

 

 

おしっこが神様を想起させるもの?

 

しかも十二宮の中でオチンチン丸出しでポーズとってるよ(笑)

 

 

ウラヌスが全裸なのには意味がある。ウラヌスは男性器がシンボルなんだ。

 

 

ええ!?

 

 

「Uranus」は古ギリシャ語で「Ouranos」と書くんだけど、これは「oureo(尿)」が語源なんだ。

 

当時は、天でウラヌスが放った尿が雨になって降ってくると考えられていた。

 

つまり古代ギリシャの人々は、ウラヌスの尿を「天の恵み」として感謝していたんだよ。

 

 

元祖「聖水」やな。

 

 

でもなんでウラヌスなの?この映画と何の関係があるのさ?

 

 

だってこの映画は「天空へ旅立つ物語」でしょ?

 

だったら天空の神様のモチーフを使わない手はないよね。

 

それにウラヌスには興味深い逸話があるんだ。

 

 

どんな?

 

 

ウラヌスは、母にして妻であるガイアとの間にTitans(ティーターン12神)をもうけた。

 

でも実を言うと二人の間には、その他にも子供たちがいたんだ。

 

ちょっと「イマイチ」の出来だったんで、12神には入れなかったんだよ。

 

 

日本神話のヒルコ(蛭子神)みたいやな。

 

 

ウラヌスはその子供たちを「こんな《出来損ない》は人目に晒すのも恥ずかしい」と思い、奈落の底に閉じ込めてしまった。

 

それに対しガイアは激怒する。

 

「私が腹を痛めて産んだ子を《出来損ない》呼ばわりするとはフザケンナ!《出来損ない》はテメエの種だろ!」

 

怒り狂ったガイアは、末っ子のクロノスに「ウラノスの男性器」を巨大鎌で切り取ることを命じた。

 

つまり去勢だね。

 

 

そういや日本にも、妻の逆鱗に触れてパイプカットさせられた俳優がおったな…

 

誰やったっけ?

 

 

クロノスは父の男性器を切り取り、男でなくすることで「父殺し」を行った。

 

そして父から「宇宙の神の座」を奪い取ったんだ。

 

 

昔の家族ゲンカは壮絶よね…

 

 

そのシーンを描いた有名な絵がある。

 

 

『クロノスに去勢されるウラヌス』

ジョルジョ・ヴァザーリ

 

 

右端の女の乳房を覆う手は、なんでわざわざ指を広げとんねん…

 

乳首を隠すのか見せるのかハッキリせえ!

 

 

そこは今回の論点ではない。

 

 

この絵って、なんだか既視感がある気がする…

 

映画の中で見たような…

 

 

その通り。

 

宇宙開発局「GATTACA」のメインロビーだね。

 

ウラヌスが去勢されている背景にある「大きな天体と衛星」のイメージが、メインロビーのオブジェに投影されているんだ。

 

 

 

だから何度もあのオブジェが映し出されたのか!

 

しかも、いくら宇宙開発局のメインロビーだからと言って、あのオブジェはベタ過ぎると思ってたんだ!

 

 

あれはウラヌスとクロノスの逸話を想起させるためだったんだよ。

 

ちなみギリシャ神話はイタリア半島に移植され、Titan族クロノスはローマ神話で農耕神サトゥルヌスとなった。

 

「サターン(土星)」の語源となった神様だね。

 

だから映画『GATTACA』では、主人公の目的地が「土星とその衛星タイタン」なんだ。

 

 

うわっ…全部つながった…

 

 

ちなみに、イエス・キリストの誕生を祝うクリスマス・イヴが12月24日になった由来も、サトゥルヌスだと言われている…

 

古代ローマでは、サトゥルヌスを祝うお祭り「サートゥルナーリア祭」が、毎年12月17日から23日の間に盛大に行われていたんだ。

 

この祭りでは御馳走を食べて、贈り物をし合う風習があった。それがのちにクリスマスになったと言われているんだよね。

 

 

クリスマスはキリスト教会が始めたんじゃないの?

 

 

初期の教会ではイエスの誕生日は重要視されていなくて、クリスマスは祝っていなかったんだ。

 

というか、そもそも当時のユダヤ人には誕生日を祝う習慣がなかったんだよ。

 

聖書にもイエスが「いつ生まれたか」は書かれてないし、イエスも自分の誕生日を大事にしろとは一言も言っていない。

 

 

そうだったのか…

 

 

まあ、そういうわけで、この映画は「イエス・キリストの物語」と「ギリシャ・ローマ神話」を融合させたものだと言えるわけだ。

 

知っての通り、この2つは西洋文化の根幹を為している。

 

 

日本で言うところの「神仏習合」みたいなものね…

 

 

ちなみに、父を去勢し天空の神となったクロノスだけど、最後は自分の息子のゼウスに倒される。

 

「父殺し」で得た神の座を、同様に「父殺し」で奪われるんだね。

 

いっぽうローマ神話のサトゥルヌスも「自分の子によって死をもたらされる」という予言をされて、強迫観念に憑りつかれてしまう。

 

そして悪夢的運命を克服したいがために、我が子を喰らう狂人となってしまうんだ。

 

自分の体内に取り込んで一体化してしまえば、殺されることはないと考えたんだね…

 

でも最後は予言通り死んじゃうんだけど。

 

『我が子を喰らうサトゥルヌス』

フランシスコ・デ・ゴヤ

 

 

強迫観念と一体化…

 

なんだか『ガタカ』に通じるものが…

 

 

そういえば土星へ向かう主人公の名前「Vincent」とは「乗り越える・克服する」という意味よね。

 

生まれ持ってのハンデキャップを「克服する」というプラスイメージだけでなく、サトゥルヌスの「他者と一体化することでの克服」というマイナスイメージも込められていたんだわ…

 

 

実に面白いよね。

 

この映画は、登場人物の名前を見れば、その役割がわかるようになっている。

 

まあ名前というのは神話や聖書の時代から、だいたいそういうもんなんだけど。

 

せっかくだから主要人物の名前について話しておこうか…

 

 

 

 

 

 

 

つづく

 

 

 

 

 

 

 

 

JUGEMテーマ:映画

第1話(改定版)「プロローグ」 〜『GATTACA(ガタカ)』徹底考察〜

  • 2019.03.04 Monday
  • 20:48

 

 

 

 

 

 

 

 

レッド、グレイ…

 

今日きみたちに集まってもらったのは他でもない…

 

 

「例の件」だな、ゴールド…

 

 

いよいよ動き出したか…

 

 

フラワーからの情報によると、近々九州で「接触」があるようだ…

 

早速だが明日、君たちも私と一緒に日本へ発ってもらう…

 

 

しかし、日本には厄介な男がいると聞く…

 

あのMM7も返り討ちにされたらしいではないか…

 

 

なんだグレイ?お前ビビッてんのか?

 

どうせまた酒と女に目がない紳士気取りの似非英国人が、いつものヘマをやらかしただけのことよ…

 

 

あまり見くびらない方がいいぞ、レッド…

 

噂以上の…手ごわい男だからな…

 

 

フッ…

 

あんたが言うんなら間違いないだろうよ、ゴールド…

 

で、そいつはどうするんだ?

 

 

すでに手筈は整っている。

 

あとはフラワーに任せておけばよい…

 

彼女なら難無くやり遂げてくれるだろう…

 

 

確かにフラワーの猛毒にかかればイチコロかもしれん…

 

お花畑の蝶々みたいな顔して、スズメバチも真っ青のひと刺しが待っているのだから…

 

 

女はおっかねえな…

 

 

フッフッフ…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜日本 4月某日〜

 

 

 

 

 

 

 

 

け〜つえきガッタガタ♪

 

け〜つえきガッタガタ♪

 

血がさ〜わ〜ぐ〜チッチッチッチ♪

 

 

いきなり御機嫌だね。どうしたの?

 

 

今日はお昼から、大学時代の恩師を囲む会があるんだ。

 

 

オッサンの恩師?何の恩師や?

 

 

何って「深読み学」の恩師に決まってるじゃないか。

 

恩師はもう70歳になるんだけど、今でも第一線に立ち、世界各地を転々としながら教鞭をとっているんだよ。

 

いわば、深読み学界の世界的権威だね。

 

今回久しぶりに帰国するということで、かつての教え子たちが集まって古稀を祝おうということになったんだ。

 

僕にとっても二十数年ぶりのことだから、懐かしい面々と会えるのが今から楽しみなんだよ。

 

そんな気持ちが抑えきれず、つい鼻唄に出てしまった…

 

 

だから血が騒いでいたんだね(笑)

 

でも変な歌だったなあ…

 

 

お前、あの歌、知らんのか?

 

まったく最近の若いもんは、これやさかい…

 

バラクーダの名曲『演歌・血液ガッタガタ』やで。

 

 

 

なにこれ超ウケる(笑)

 

でも「バラクーダ」って名前は聞いたことはあるぞ…

 

なんだっけ?

 

 

魚の「オニカマス」のことだね。

 

だから新年度にあたり「いっちょ今年もオニカマスぞ!」という決意を胸に歌ってみた。

 

 

あの歌のどこにそんな決意が込められるんだよ。

 

 

せやけど5月から新年度どころか新元号やで。

 

まだ平成が終わる実感ぜんぜん無いわ。

 

新しい元号もピンと来んし…

 

 

何だったっけ、新元号。

 

 

新元号っちゅうたら決まっとるやんけ…

 

ほら、アレや…アレ…

 

平成の次やさかい…

 

 

ジャンプや…

 

 

 

さっぶー

 

 

せっかく『血液ガッタガタ』と寒いオヤジギャグが出たことだし、今日は映画『GATTACA(ガタカ)』について語っちゃおうかな。

 

 

ねえねえところで花笠君は?

 

そろそろ10時だよ。

 

 

まさか、あの女、重役出勤か?

 

まだ三ヶ月しか経ってへんのにエエ度胸しとるやんけ。まったく最近の若い女は、なっとらんわ…

 

ワイが新入社員やった頃は、毎朝7時に出勤してトイレ磨きして、それぞれのお茶と好物の御茶菓子を用意して、入口で土下座して皆の出勤を迎えたもんやで…

 

 

嘘つけ。どんなブラック企業だよ(笑)

 

 

今日は花笠君は車で来るんだ。

 

あとで僕をパーティー会場まで送ってもらうためにね。

 

きっと渋滞にでも巻き込まれて、ちょっと遅れているんだろう。

 

 

はよ言えや。

 

 

では始めるよ。

 

まずは映画の予告編を見てもらおう。

 

 

 

 

この映画は「傑作」と呼ばれてる割には、興行でコケてるんだよね。

 

なんでだろう?

 

 

理由は2つある。

 

まず1つ目は、アンドリュー・ニコル監督の書いた脚本が難し過ぎたこと。

 

特に単純明快を好むアメリカ人にとってはね。

 

アンドリュー・ニコルはずっとイギリスで仕事をしていたんで、ついついレトリックや比喩を駆使した「高度なジョークを多用する」というクセが出てしまったんだろう…

 

『オズの魔法使い』を作るはずが『不思議な国のアリス』になっちゃったみたいな感じだ。

 

Andrew Niccol

 

だからこの失敗を教訓に、ニコルは翌年ジム・キャリー主演作『トゥルーマン・ショー』の脚本を書いた。

 

『GATTACA』と同じ題材を、今度はわかりやすくユーモアたっぷりに描いてね…

 

知っての通り、こちらは大成功を収めた。

 

 

 

『トゥルーマン・ショー』が『ガタカ』と同じ題材?

 

 

この二つの映画の主人公は、共にイエス・キリストが投影されている。

 

 

ええ!?そうなん!?

 

って驚いてみたけど、いつものパターン…

 

 

まあ説明するまでもなく、西洋の映画にはよくある話なんだけど。

 

特に『GATTACA』のほうは描き方から筋の展開まで、レディ・ガガ主演のリメイクで話題になった『A STAR IS BORN(スタア誕生)』にそっくりだ。

 

 

人生パッとしなかった主人公が…

 

かつての栄光を失って落ちぶれていた男と出会い…

 

男が主人公に夢を託し「一心同体」で支えて「スター」に仕立て上げ…

 

それを見届けて最後に男が自殺するところまでね…

 

 

 

そういえばクリソツなストーリーだな(笑)

 

しかしこの映画好きだよね、おかえもんは。

 

 

後世にとても大きな影響を与えた作品だからね。

 

コーエン兄弟やカズオ・イシグロを語るには、この『スタア誕生』と、プレストン・スタージェスの『サリヴァンの旅』は欠かせない。

 

 

 

この映画も相当好きやな。よう名前が出て来る。

 

 

だって本当に重要な作品だからね。

 

 

さて、『GATTACA』は2つのアフォリズム(格言)が提示されて幕を開ける。

 

1つはヘブライ聖書(旧約聖書)『伝道の書(コヘレトの言葉)』からの一節。

 

そしてもう1つは、アメリカの精神医学や医療倫理の権威ウィラード・ゲイリンの言葉だ。

 

 

 

まず『伝道の書』の引用の方から見てみよう。

 

Consider God's handiwork, who can straighten what He hath made crooked?! 

 

ECCLESIASTES 7:13

 

日本語訳では、こうなっている。

 

神の御業を見よ。神が曲げて作られたものを、誰が真っ直ぐにすることが出来ようか?

 

 

 

これまで旧約聖書の話は仰山出て来たけど、『伝道の書』っちゅうのは初耳やな。

 

どうゆう書なんや?

 

 

この『伝道の書』は旧約聖書の中でも非常に興味深い書なんだ。

 

まるで仏教のように「諸行無常」を説き、儒教のように「中庸」を説いているんだよね。

 

 

なぬ?旧約聖書が「諸行無常」と「中庸」を?

 

そんなわけあらへんやろ…

 

 

本当だよ。第1章からして、こんな感じなんだ。

 

第1節から7節を読んでみて…

 

1 ダビデの子、エルサレムの王である伝道者の言葉。

2 伝道者は言う、空の空、空の空、いっさいは空である。

3 日の下で人が労するすべての労苦は、その身になんの益があるか。

4 世は去り、世はきたる。しかし地は永遠に変らない。

5 日はいで、日は没し、その出た所に急ぎ行く。

6 風は南に吹き、また転じて、北に向かい、めぐりにめぐって、またそのめぐる所に帰る。

7 川はみな、海に流れ入る、しかし海は満ちることがない。川はその出てきた所にまた帰って行く。

 

 

いきなり色即是空じゃん…

 

 

ほとんど鴨長明『方丈記』の世界や…

 

「ゆく川の流れは絶えずして…」そのまんまやんけ。

 

 

でしょ?

 

『伝送の書』は、世界一の智者として名高かったソロモン王が回想する体で書かれている。

 

自身の生涯を振り返りながら「頭が良すぎても人間は幸せになれない」ということを延々と語るんだ…

 

8 すべての事は人をうみ疲れさせる、人はこれを言いつくすことができない。目は見ることに飽きることがなく、耳は聞くことに満足することがない。

9 先にあったことは、また後にもある、先になされた事は、また後にもなされる。日の下には新しいものはない。

10 「見よ、これは新しいものだ」と言われるものがあるか、それはわれわれの前にあった世々に、すでにあったものである。

11 前の者のことは覚えられることがない、また、きたるべき後の者のことも、後に起る者はこれを覚えることがない。

12 伝道者であるわたしはエルサレムで、イスラエルの王であった。

13 わたしは心をつくし、知恵を用いて、天が下に行われるすべてのことを尋ね、また調べた。これは神が、人の子らに与えて、骨折らせられる苦しい仕事である。

14 わたしは日の下で人が行うすべてのわざを見たが、みな空であって風を捕えるようである。

15 曲ったものは、まっすぐにすることができない、欠けたものは数えることができない。

16 わたしは心の中に語って言った、「わたしは、わたしより先にエルサレムを治めたすべての者にまさって、多くの知恵を得た。わたしの心は知恵と知識を多く得た」。

17 わたしは心をつくして知恵を知り、また狂気と愚痴とを知ろうとしたが、これもまた風を捕えるようなものであると悟った。

18 それは知恵が多ければ悩みが多く、知識を増す者は憂いを増すからである。

 

 

なんだか意外…

 

 

『伝道の書』では、頭でっかちな「知者」とパッパラパーの「愚者」は同じであると説いている。

 

どちらも身を亡ぼすとね。

 

世の中の真実は神のみが知ることで、人間ごときにはわからないと言うんだ。

 

真実とは人間にとって風をつかむようなものだとね…

 

 

真実は風に?

 

『ガタカ』にもそんなシーンがあった気が…

 

 

だから権力に対してむやみに逆らわず、各人が与えられた能力に見合った仕事を全うし、分相応の範囲で快楽を享受しなさいと説くんだね。

 

それが「人としての正しい生き方」だというんだよ。

 

 

なんだか修身の…じゃなくて道徳の教科書に出て来そうな話だね…

 

 

これが新約聖書では、イエスの「カエサルの物はカエサルに」という言葉になり、使徒パウロの「政治的権力と宗教的権力への服従」という思想に発展したわけだ。

 

この『伝道の書』は思想面でも芸術面でも後世に大きな影響を与えた。

 

『伝道の書』を巧みに歌にして大ヒットさせたユダヤ人の青年もいたね。

 

誰だかわかる?

 

 

『伝道の書』を歌にしたユダヤ人青年?

 

 

シャブタイ・ツィメルマンことボブ・ディランだよ。

 

 

この歌は非常によく出来てるよね。

 

次々と「あとどれだけすれば○○は…」と問題提起するんだけど、答えは決して出さない。

 

否定も肯定もせずに、答えは全部「風に吹かれている」と言うんだよ。

 

つまり『伝道の書』同様に「人間には答えが永遠にわからない」ということなんだ。

 

 

確かにまったく同じやな…

 

 

じゃあ『ガタカ』のテーマもそうゆうことなの?

 

 

そうだね。

 

この物語を書いたアンドリュー・ニコルもボブ・ディラン同様に「答え」の明言は避けた。

 

だから遺伝子操作をしたほうも、遺伝子操作をしなかったほうも、どちらも最後は死ぬという結末にしたんだよ。

 

わざわざ映画ラストのメッセージをカットしてまでも。

 

 

ラストのメッセージをカット?

 

 

元々映画の最後には「遺伝子に《欠陥》をもって生まれたにもかかわらず偉業を成し遂げた人たち」を紹介するシーンがあった。

 

エミリー・ディッキンソン(躁鬱症)やアインシュタイン(失読症)、そしてホーキング博士(筋萎縮性側索硬化症)などをね。

 

だけど公開直前でその部分をカットしたんだ。

 

やっぱりフェアじゃないと。

 

 

なんで!?

 

あったほうが感動するし映画的に効果的じゃんか。

 

 

「遺伝子操作」と聞くと何だか恐ろしいような印象を受けるけど、人類はこれまで様々な「遺伝子操作」を行い、ここまで文明を発展させてきたんだ。

 

人類の歴史に欠かせない栽培植物や家畜というのは、際だった長所をもつ個体を何世代も掛け合わせて遺伝子を強化した人工物と言える。

 

ペットの犬や猫もそうだよね。個性豊かな品種というのは、特定の遺伝子を「交配合」によってピンポイントで強化し、差別化を図ったものだから。

 

かつては手間暇かけて試行錯誤しながら交配合を行っていたんだけど、今ではそれが科学技術で一足飛びに出来るようになった。

 

だから遺伝子操作の「手法」を問うことは出来ても、遺伝子操作「自体」を完全否定することは出来ない。

 

 

なるほど。確かにそうだよな…

 

 

それに遺伝子検査で「リスク」を回避することは、すでに一般的に行われている。

 

それを「間違ってる」というのは、選択した親たちや既に生まれた子に対して失礼だ。

 

僕の息子も体外受精で生まれた試験管ベビーなんだけど、精子も母胎に戻す受精卵も「最適」なものを選んだよ。

 

卵子や精子にも当然「優劣」がある。一番「出来のいいもの」を選ぶのが普通でしょ?

 

その局面で「イマイチ」な遺伝子を選ぶ親っているかな?

 

「こっちのダメなほうでいいです」なんて誰が言うと思う?

 

 

確かに…

 

 

「命に優劣はない」とか「人間には無限の可能性がある」とか、一見「正論」や「美談」のように聞こえる話ほど、そこには別の暴力性が隠れている。

 

この『GATTACA』という作品は、そのラインを越えないまでも「少しだけ」踏んでしまったんだ。

 

そして「肝心なテーマ」を「隠し過ぎて」しまった。

 

だからアメリカでは興行的には失敗したんだろう。

 

 

肝心なテーマ…?

 

 

この映画では、遺伝子操作によって欠陥の無い人間が生みだされるという世界が描かれる。

 

もはや「人種」や「性別」による差別がなくなり、生まれ持った遺伝子の優劣で全てが決まる世界だ。

 

遺伝子操作で生まれた人間は、知能や身体能力に優れ、常にリスクを避け、無謀なことは決してせず、感情や性欲もコントロールされている。

 

だけど「ある要素」だけが「不自然なまでに」触れられない。

 

「優生学」を語る上で絶対に避けては通れない「ある要素」が、なぜか物語の中でノータッチなんだ…

 

 

もしや…

 

同性愛?

 

 

その通り。

 

かつて「劣等」として差別され、刑罰や治療の対象でもあった「同性愛」が、なぜか『ガタカ』では一切触れられないんだ。

 

 

気のせいちゃうか?

 

ただの「深読みし過ぎ」とちゃうん?

 

 

そんなことないと思うけどね。

 

だって、そのために『伝道の書』の一節が冒頭で提示されるわけだから…

 

 

あれと同性愛に何の関係があるのさ…

 

 

よく考えてごらん。

 

この一節って、ちょっと面白くない?

 

 

Consider God's handiwork, who can straighten what He hath made crooked?! 

 

「神が曲げて作ったものを誰が真っ直ぐに出来よう」だよ?

 

 

普通なら、こうだと思わない?

 

 

「神が真っ直ぐ作ったものを誰が曲げることが出来よう」

 

 

 

あ…確かに…

 

 

これが新約聖書になると「神の作ったもの=真っ直ぐ」なんだよね。

 

なぜか『伝道の書』では、逆になってるんだ。

 

 

しかも「crook(曲げる)」という言葉には「屈折・背徳者・犯罪者」という意味がある。

 

そして「straight」とは「性的指向がストレート」つまり「正常な異性愛者」という意味で使われるよね。

 

つまりあの一節は、こういう風にも読めるんだ…

 

 

「神が同性愛者として作った人間を、誰が異性愛者にすることが出来よう」

 

 

これこそが、決して直接的に語られることのない「隠されたテーマ」というわけ。

 

 

うひゃあ…

 

じゃあ2つ目の格言は?

 

 

ウィラード・ゲイリンの言葉だね。こちらも面白い。

 

”I not only think that we will tamper with Mother Nature, I think Mother wants us to.” 

 

WILLARD GAYLIN

 

我々は母なる自然に手を付けるだろうが、それは母なる自然が望むことでもあるのだ

 

 

 

なんか意味深やな。

 

 

こちらのキーワードは「tamper」だ。

 

「勝手にいじくる・改ざんする」の他にも「不正な交渉をもつ」とか「棒を突っ込んで、こねくり回す」といった意味でも使われる…

 

 

うひゃあ!

 

 

しかもこれを言った人の苗字が「GAYLIN」だからね…

 

こんな格言をよく見つけて来たと思う。


 

プロローグからアクセル全開だな…

 

 

だから言ったろう。この映画は興行的にはコケたけど傑作だって。

 

冒頭からラストまで一寸の隙も無い完璧な作品なんだ。

 

まさに芸術作品と呼ぶにふさわしい。

 

許されることなら僕は『GATTACA』の全シーン全セリフを解説したい…

 

 

それだけはやめてくれ…

 

また全60話とか3ヶ月以上続くとかシャレにならない…

 

いい加減みんなに愛想つかされるぞ…

 

 

大丈夫マイフレンド。ちょっと言ってみただけ。

 

 

せやけど遅いな花笠君…

 

 

あっ!外に車が止まった音がした!

 

きっと花笠君だよ!

 

 

よっしゃ!見に行こか!

 

あいつどんな車に乗っとるんやろ?

 

 

 

 

 

 

 

 

オープンカー!?

 

花形か!

 

 

 

 

 

つづく

 

 

 

 

 

 

 

 

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