エピローグ第27話:最終回『THREE BILLBOARDS OUTSIDE EBBING, MISSOURI(スリー・ビルボード)』徹底解剖

  • 2019.03.01 Friday
  • 21:12

 

 

 

 

 

 

クソッ…ハア…ハア…

 

 

それでは…

 

「Cメロの歌詞」と「ウィロビーの置き手紙」の関係について話そう…

 

 

第3のサビ「あなたのキスを忘れましょう」について語った前回を未読の人は、まずコチラからどうぞ…

 

 

 

 

 

ウィロビーは自殺する前に、妻アンへ宛てて手紙を「二通」書いた。

 

「一通目の手紙」は鏡台の引き出しに隠されていて、これは以前に書かれたもの。

 

書かれていた内容は「私たちに関する自分の記憶をつづったもの」で「果てしない愛情・無償の愛」について記されていたと、目の付きやすいテーブルの上に置かれていた「二通目の手紙」の冒頭で語られる。

 

そして「二通目」の内容は「こんにち語るべき重要なこと」が書かれているというんだ。

 

こんな風にね…

 

My daring Anne,

 

There's a longer letter in the dresser drawer I've been writing for the last week or so.

That one covers us, and my memories of us and how much I've always loved you.

This one just covers tonight, and, more importantly today.

 

 

これって…

 

以前に書かれた「一通目」が『ルカによる福音書』で…

 

映画で朗読される「二通目」が『使徒行伝(使徒言行録)』のことじゃないの…?


 

その通り。

 

ウィロビーから妻アンへの手紙は「この映画が『使徒行伝』のパロディになっていること」の種明かしにもなっている。

 

さっき引用した手紙の冒頭部分は『使徒行伝』の冒頭部分のパロディになっているんだね。

 

1:1 テオピロよ、わたしは先に第一巻(『ルカによる福音書』)を著わして、イエスが行い、また教えはじめてから、

1:2 お選びになった使徒たちに、聖霊によって命じたのち、天に上げられた日までのことを、ことごとくしるした。

 

 

ホンマかいな…

 

 

本当だよ。

 

そして脚本を書いたマーティン・マクドナーは、それを「不謹慎だ」と捉える人がいることも十分理解していた。

 

だからジョークを言った後で、わざわざ「the act」という言葉を持ち出し、ちゃんとエクスキューズを入れているんだ。

 

『使徒行伝』は英語で『The Acts』だからね…

 

Tonight I have gone out to the horses to end it.

I cannot say sorry for the act itself, although I know that for a short time you will be angry to me or even hate for me for it.

Please don't.

 

 

「今夜、俺は馬小屋で命を絶つ。『使徒行伝』それ自体をネタにしたことについては謝りようがない。おそらく君は腹を立てるだろうし、そのことで俺を嫌うかもしれないが、それはやめてくれ。」

 

 

チェーホフも『The Shooting Party(狩場の悲劇)』の冒頭で同じようなエクスキューズを入れとったな…

 

作品内に頻出する聖書のパロディや不謹慎ジョークに対して…

 

わたしは自分自身の快適な生活に注意を払うには、あまりにも無精だったので、故人のみならず、生者でさえ、かりにそれが当人の希望なら、わたしの部屋の壁にかかってくれていて一向苦にならなかった*。

 

*註 こういう表現に対して、読者に謝らなければならない。不幸なカムイシェフ(手記を書いた予審判事のこと)の小説には、この種の表現がふんだんにある。わたしがそれらを削除しなかったのは、彼の小説の全文を印刷することが、作者の性格をはっきりとさせる上に必要であると考えたからに、ほかならない。――A・Ч(アントン・チェーホフ)

中央公論社版(訳:原卓也)より

 

 

マーティン・マクドナーは、そこもきちんと踏襲したんだね。

 

 

ハア…ハア…ハア…

 

 

そしてこんなふうに手紙は続く。

 

ここはどんなジョークになっているのか、わかるかな?

 

This is not a case of I came in this world alone, and I'm going out of it alone or anything dumb like that.

I did not come in this world alone, my mom was there.

And I'm not going out of it alone, cos you are there, drunk on the couch, making Oscar Wilde cock jokes.

 

 

「この世界に孤独な存在として来たのではない。そこにはママがいた。そしてこの世界から孤独な存在として去るのではない。そこには君がいた」

 

ママは「聖母マリア」ってすぐにわかるけど、この世を去る時にいた「you(君)」は誰のことだろう?

 

 

ポイントは「or anything dumb like that(馬鹿げた話みたいだが)」だ。

 

特に意味の無い「要らないフレーズ」をわざわざ入れたことには意味がある。

 

この「dumb(ダム:馬鹿・間抜け)」という言葉は、手紙の中でもう一度登場するんだけど…

 

「dove(ダブ:鳩)」「lamb(ラム:子羊)」 の意味がかけられているんだよね…

 

 

へ?

 

 

わかったわ…

 

「you」とは「肉体としてのイエス」のことね…

 

つまり、こうゆうこと…

 

This is not a case of I came in this world alone, and I'm going out of it alone or anything dumb like that.

I did not come in this world alone, my mom was there.

And I'm not going out of it alone, cos you are there, drunk on the couch, making Oscar Wilde cock jokes.

 

この世界に孤独な存在として現れ、孤独な存在として去るのではない。ハト(聖霊)としてやって来て、屠られた小羊(贖い)として去って行くのだ。

私はこの世界に孤独な存在として来たのではない。そこには母マリアがいた。

そして孤独な存在として去って行くのではない。そこ(十字架)には君イエスがいた…

 

 

『受胎告知』のハトと、贖い(あがない)の小羊か…

 

『受胎告知』フラ・アンジェリコ

 

『イサクの燔祭』ローラン・ド・ラ・イール

 

 

せやけど「you」はカウチソファに座って酒を飲んで、オスカー・ワイルドの下ネタを言うんやで…

 

cos you are there, drunk on the couch, making Oscar Wilde cock jokes.

 

イエスはそんなことしとらんやろ…

 

つうか、イエスの時代にオスカー・ワイルドはおらへん。

 

 

そんなことはないんだな。

 

イエスは「カウチ(肘掛けのない長椅子)」に座って葡萄酒を飲み、「OSCAR WILDE COCK」のジョークを言った…

 

 

ハァ!?

 

 

マ、マサカ…ソコマデ…

 

 

これは「最後の晩餐」での出来事を言ってるんだ。

 

「OSCAR WILDE COCK(オスカー・ワイルドの男性器)」は、アナグラムになっている。

 

「OSCAR WILDE」の文字を並べ替えると…

 

「COWARD LIES COCK(臆病者・複数の嘘・雄鶏)」という言葉になるんだよ…

 

 

ええーーーー!?

 

 

『ルカによる福音書』第22章34節…

 

最後の晩餐でイエスが、筆頭弟子であるペトロに言ったセリフね…

 

22:34 するとイエスが言われた、「ペテロよ、あなたに言っておく。きょう、鶏が鳴くまでに、あなたは三度わたしを知らないと言うだろう」

 

そしてペトロはそれを「悪い冗談」だと受け取った…

 

 

そういうことだ。

 

 

 

バ、バカな…

 

ゼェ…ゼェ…ゼェ…

 

 

そして手紙は「このままボロボロになって君に苦痛を与えるより、よい思い出のうちに死を迎えたい」ということが語られ、再び「dumb」を使ったジョークが登場する…

 

Your final memories of me will be us at the riverside, and that dumb fishing game which I think they cheated at,

 

 

dumb fishing game(バカげた釣遊び)?

 

 

これも『ルカによる福音書』ね…

 

ガリラヤ湖での漁のシーンよ…

 

イエスは「獲れないはずの魚が大量に獲れる」という奇跡を起こし、疑い深く臆病者だったペトロに「あなたは人間をとる漁師になる」と告げた…

 

つまり「あなたのような弱い人間こそが、迷える子羊に手を差し伸べられる存在になり得る」と…

 

5:4 話がすむと、シモンに「沖へこぎ出し、網をおろして漁をしてみなさい」と言われた。

5:5 シモンは答えて言った、「先生、わたしたちは夜通し働きましたが、何も取れませんでした。しかし、お言葉ですから、網をおろしてみましょう」

5:6 そしてそのとおりにしたところ、おびただしい魚の群れがはいって、網が破れそうになった。

5:7 そこで、もう一そうの舟にいた仲間に、加勢に来るよう合図をしたので、彼らがきて魚を両方の舟いっぱいに入れた。そのために、舟が沈みそうになった。

5:8 これを見てシモン・ペテロは、イエスのひざもとにひれ伏して言った、「主よ、わたしから離れてください。わたしは罪深い者です」

5:9 彼も一緒にいた者たちもみな、取れた魚がおびただしいのに驚いたからである。

5:10 シモンの仲間であったゼベダイの子ヤコブとヨハネも、同様であった。すると、イエスがシモンに言われた、「恐れることはない。今からあなたは人間をとる漁師になるのだ」

5:11 そこで彼らは舟を陸に引き上げ、いっさいを捨ててイエスに従った。

 

 

最後の「which I think they cheated at,(あれはどう考えてもズルやろ)」が、さっき「怒らんといてや」とエクスキューズした不謹慎ジョークにあたる部分やな…

 

 

((((;゚Д゚))))ガクガクブルブル

 

 

不謹慎ジョークの後は「死の間際にイエスが考えていたこと」について語られる…

 

and me inside of you, and you top on me, and a barely fleeting thought of the darkness yet to come.

 

 

「三位一体(父と子と聖霊)」のことだね…

 

 

そしてウィロビーの置き手紙は、こんなふうに締めくくられるんだ…

 

and maybe I'll see you again if there's another place.

And if there ain't, well, it's been Heaven knowing you.

 

 

「I(聖霊)」が、石の墓穴に葬られた「you(肉体)」と再会するっちゅうことやな…

 

いわゆる「イエスの復活」のことや…

 

 

つまりウィロビーは…

 

「死んだ後も霊体となって存在すること」を踏まえた上で、この手紙を書いているということになるわね…

 

まさか、この手紙は「妻アン」へ向けられたものではなく…

 

アンの中に入っている「霊体アンジェラ」に向けて書かれたんじゃ…

 

 

僕はそう思ってる。

 

そしてここでウィロビーの妻が「Anne」という名前であることが大きな意味を持ってくるんだ。

 

 

アンジェラだからアンとか?

 

 

そんな単純な話ではない。

 

「アン(Anne)」とは『ルカによる福音書』第2章に登場する「未亡人になった女預言者アンナ(Anna)」から取られた名前なんだよ。

 

アンもアンナも、元の形はヘブライ語の「カンナハ(Channah)」だからね…


 

未亡人になった女預言者アンナ!?

 

 

アンナは若い頃に結婚していたんだけど、それは「7年間」という短いものだった。

 

なぜなら、年の離れた夫が急死してしまったから…

 

 

ウィロビー夫妻そっくりじゃんか…

 

推定30歳くらいのアンの年齢と、推定4〜6歳前後の娘二人の年頃を考えると、たぶん結婚期間も同じくらい…

 

 

 

そういえば、この時のアン…頬杖してテーブルに片肘をつきながら食事してるわ…

 

幼い娘たちもウィロビーも、きちんとした姿勢で食べてるのに

 

この違和感ありまくりの行儀の悪さは…

 

 

アンジェラだ!

 

 

 

ウグググググ…

 

 

『ルカによる福音書』によると、アンナは預言者として評判だった…

 

生まれたばかりの赤子イエスのことを、一番最初に民衆に向かって「この方は救世主だ」と宣伝したのは、この女預言者アンナなんだ…

 

ちなみに「預言者」というのは、体内に聖霊が入ってきて、様々な言葉を述べ伝える存在…

 

つまり「憑依される者・媒体となる者」だ…

 

 

うひゃあ…

 

 

もしかして…

 

あの最後の夜、ウィロビーが娘たちに「ママはシャルドネで片頭痛になった」と言ったのは…

 

Chardonnay(シャルドネ)」と「Channah(カンナハ)」の語呂合わせじゃ…


 

間違いないね。

 

だって幼い娘たちには「シャルドネ」なんて言ってもわからないだろうから…

 

わざわざそんな単語を持ち出す理由は、語呂合わせ以外に考えられない…

 

マーティン・マクドナーという人は、駄洒落やアナグラム、語呂合わせなど、本当に言葉遊びが大好きなようだ…

 

 

ゲホッ…ゲホッ…ゲホッ…

 

 

だいじょぶ?

 

まだシャルドネが残ってるんじゃない?

 

 

う、うるさい!余計なお世話だ!

 

ハア…ハア…ハア…

 

 

どう見ても大丈夫そうには見えへんけどな…

 

 

せやけど『あなたのキスを数えましょう』は、どうなったんや?

 

聖書ネタにすっかり隠れてもうたやんけ…

 

 

『あなたのキスを数えましょう』は、ウィロビーの置手紙の「構成」として再現されたんだよ…

 

「手紙の前半部分」が「第3のサビ」で…

 

「手紙の後半部分」が「Cメロ」の歌詞をもとにして構成されているんだよね…

 

ということで、もう一度「第3のサビ」から再生してくれたまえ…

 

 

ブ〜ラジャー!

 

 

 

ウグァァァァ…

 

ゼェ…ゼェ…ゼェ…

 

 

歌詞は、こうね…

 

あなたのキスを忘れましょう

嫌いになって、楽になって

夜を静かに眠りたい

I'm alone and you were mine...

 

Do the night and days

cure my feel of pain?

Please spmebody, say

All of my heart is almost cryin'

In your eyes, in your sight,

was it certainly my place?

Tell me please

the reason of your love for me...

Can I cry now? 

 

 

置手紙では、まず最初に「どれだけ愛していたか」が語られる。

 

これは「あなたのキスを忘れましょう」の部分にあたるよね。

 

この歌詞は「忘れたくても忘れられないほど愛している」という意味だから…

 

 

 

「今夜、馬小屋で自殺する」が「夜を静かに眠りたい」か…

 

そして、わざわざ「嫌いになるだろう」なんて書いたのも「嫌いになって楽になって」を再現したかったからなんだ…

 

 

置手紙でも歌詞でも、結局「嫌い」にはなれへんとこは一緒や…

 

 

その後やたらと「alone」が意味深に繰り返され「だけど君がいた」とまとめられたのは、「第3のサビ」の最終フレーズ「I'm alone and you were mine」を再現したかったからだよね…

 

そして次に「Cメロ」の冒頭フレーズ「Do the night and days, cure my feel of pain?」が再現される。

 

まず「カウチで酒を飲みオスカー・ワイルドのジョークを言う(最後の晩餐)」で「夜」が…

 

そして「facing a bullet down(自ら死という道を選ぶ)」ことで「昼」が…

 

 

 

歌詞の「この痛みや苦しみは癒えるの?(決して癒えない)」が、置手紙でもちゃんと再現されてるわ…

 

癒えるどころか、もっと苦しくなるだろうって…

 

 

そしてウィロビーは、胸の内にある切実な想い(all of my heart)を訴え続ける(crying)…

 

わざわざ「in you eyes」というフレーズを使って…

 

 

 

「君にとって最後の思い出となる景色は、あの湖畔がいい」って「In your sight」の再現だったのか。

 

 

その直後に突然「君の中に俺がいて、俺の上に君がいる」と「場所」の話になるのは…

 

「Was it certainly my place ?」を再現するためだ…

 

 

そしてウィロビーは、こう綴る…

 

「俺はいつも君のことを愛していた。だからまた、どこか別のところで君に会えるだろう。たとえそうでないとしても、神様は君のことを見捨てていないはずだ」と…

 

つまりウィロビーは…

 

どんな理由や仕組みかわからないけど、《神の思し召し》によってアンジェラが「愛する人のそばにいる」という望みを叶えられている、ということを言いたかったわけだ…

 

これは「Tell me please the reason of your love for me」の再現だね…

 

 

最後の「Can I cry now?(いま泣いてもええ?)」が無いやんけ。

 

 

あの心の叫びは、自殺シーンで再現された。

 

ウィロビーは頭に「袋」を被って拳銃自殺をしたよね?

 

 

 

グロい光景を家族に見せたくなかったからやろ?

 

 

それもあるんだろうけど、僕は別の理由があったと思うんだ…

 

 

別の理由?

 

 

本当の理由は「涙の跡」を見られたくなかったからだと思う…

 

ウィロビーは袋を被った後に、涙を流していたんだよ…

 

これまで絶対に人前では見せないよう隠し続けていた「アンジェラへの想い」が溢れてきて…

 

 

たしかに「Can I cry now?」だ…

 

だから駆けつけた警官が袋を取って無言になる意味深なシーンがあったんだな…

 

 

あァ!…

 

(嗚咽しながら床に崩れ落ちる)

 

 

だいじょぶ?花笠君…

 

 

ウアァァァァァ…

 

(雄叫びをあげながら床に崩れ落ちる)

 

 

こっちもダメそうや…

 

 

マーティン…

 

 

見事だったよ…

 

私の完敗だ…ミスターおかえもん…

 

噂通りの…いや、噂以上の深読みだった…

 

 

ど、どうも…マーティン…

 

 

だけど泣く子も黙る「MM7(ダブル・エム・セブン)」がマーティンだったとはね…

 

コードネームが「マーティン・Mさん」の略だってことはわかったけど、最後の7は何なんだろう?

 

 

マクドが好きやったさかい「マーティン・マクドセブン」やろ。

 

 

まさか…

 

「7」は「なな」と読むんじゃ…

 

 

へ?

 

 

さすがだミス・ハナガサ…

 

まさかあの時の歌声が君だったとは、夢にも思わなかったな…

 

私は、君に救われ、そして君に打ちのめされたというわけか…

 

皮肉なものだ…

 

 

・・・・・

 

 

おかえもん君…君は実に優秀な教え子を持ったな…

 

いや、持ったのではない…君が育てたのか…

 

君とはいずれ…もっと大きな舞台で戦ってみたい…

 

たっぷりと予算のかかったド派手な大舞台で…

 

 

僕もそんな日が来ることを願ってます、マーティン…

 

 

007映画とちゃうんやで…そんな日は永遠に訪れへんやろ…

 

 

では…私はこのへんでお暇させてもらう…

 

スキヤキの後片付けは、君たちに任せるとしよう…

 

料理に限らず、後始末が苦手なもので…

 

すまんな…

 

 

いいんです…気にしないで…

 

あなたはゲストで、僕らはホストなんですから…

 

 

しかし、惜しい…

 

君ほどの男が、なぜこんなところでくすぶっているのだ…

 

君なら世界中のどんな機密情報でも深読みして盗めるというのに…

 

いくらでも稼げるぞ…

 

 

僕は国家とか民族とか、くだらないスポンサーのために、深読みしたくはないんです。

 

 

な、なんだと…?

 

 

カッコいいとは、こういうことさ!

 

 

47歳という年でまだそんなキレイゴトを言えるとは…

 

だがそれが君の本心のようだな…

 

 

そうよ!教官はそういう人なの!

 

不器用だけど…真っすぐで…

 

私たちみたいに深読みで何かを盗むような人じゃないのよ!

 

 

それはどうかな…?

 

おかえもん君は、とんでもないものを盗んだじゃないか…

 

 

え?

 

 

ミス・ハナガサ…

 

君の心を…

 

 

はい?

 

 

では、さらばだ諸君!

 

へいカール!カーーーーール!

 

 

長嶋茂雄か。

 

 

 

 

ワン!

 

 

 

うわ!?なんだこの黒犬!?

 

どっから入って来たんだよ!?

 

 

 

坊やたち、俺のように薄汚れちゃいけないぞ…

 

困ったことがあったらいつでも言うんだ…

 

オジサンは地球の裏側からだってすぐ飛んで来てやるからな…

 

それでは達者でな!

 

サイナラー…サイナラー…

 

 

 

 

 

 

 

行ってしまった…

 

 

なんて気色悪いオッサンだろう…

 

 

あいつ…ホンマにまた来そうやな…

 

せやけど花笠君…

 

お前あいつをずっと昔から知っとったんやろ?

 

気になる発言がいくつかあったような気がするんやけど、あいつとなんかあったんか?

 

 

あるわけ…ないでしょ…

 

 

そういえば、マーティンは「おかえもんが心を盗んだ」とか言ってたけど…

 

何のことだったんだろう?

 

 

 

ガタガタ…ガタガタ…

 

 

え!?なんでここで《深詠み》!?

 

 

ガタガタガタガタガタガタガタガタ…

 

 

 

 

ピタッ

 

 

 

また意味深な歌を!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

JUGEMテーマ:映画

エピローグ第26話:あなたのキスを忘れましょう『THREE BILLBOARDS OUTSIDE EBBING, MISSOURI(スリー・ビルボード)』徹底解剖

  • 2019.02.27 Wednesday
  • 08:09

 

 

 

 

 

そして『あなたのキスを数えましょう』の「キスを捜す」2番のサビが終わると、3番には行かず「第3のサビ」へと続く…

 

これもそのまま『スリー・ビルボード』で再現されているんだよ…

 

「第3のサビ」の主人公は「キスを忘れたい人物」だ…

 

 

ちなみに2番『あなたのキスを捜しましょう』を未読の人はコチラをどうぞ!

 

 

 

最後は「あなたのキスを忘れましょう」か…

 

まずは《深詠み映像》を確認やな。

 

 

 

ゲホッ…ゲホッ…ゲホッ…ゲホッ…

 

ぜぇ…ぜぇ…ぜぇ…

 

 

だいじょぶ、マーティン?

 

なんか乾いた息をきらして…

 

 

さ、酒だ!酒をよこせ!

 

 

もうウォッカは空や…

 

お前がウォッカ・マティーニにして全部飲んでもうた…

 

あとは、この赤ワインしか残っとらん…

 

 

それでいい!瓶ごとよこせ!

 

ゴクゴクゴク…

 

 

ワインをラッパ飲みしてるよ…

 

大丈夫かなあ…

 

 

さて、もう気付いてるかもしれないけど…

 

映画『スリー・ビルボード』において「第3のサビ」は、

 

「肉体的苦痛以上に精神的に追い詰められ、最後は自殺を選んだウィロビー」

 

として再現された…

 

 

精神的に?

 

 

ウィロビーは余命数ヶ月の末期癌だったけど、肉体的にはそれほど苦しそうに見えなかった…

 

 

あんときくらいやな、弱った表情を見せたのは。

 

 

 

確かにミルドレッドの顔面に吐血した時は「弱った姿」を見せたけど、あれは肉体的に衰弱した姿ではない…

 

「ミルドレッドの娘アンジェラの顔面にも同じように吐血した」という過去の記憶がよみがえったから、激しく動揺していたんだ…

 

だから吐血後のウィロビーは、ミルドレッドに対し「あれはわざとじゃなかったんだ…」と、怯えながら謝るように弁解を繰り返したんだよ…

 

 

ウィロビーを精神的に追い詰めていたのは「キス」ね…

 

死の直前に交わしたアンジェラとの「濃厚なキス」…

 

 

その通り。

 

アンジェラの遺体を徹底的に焼いて「自分に結び付く証拠」を消したにもかかわらず、遺体からは「犯人のDNA」が検出された…

 

ウィロビーは証拠隠滅を図る際、重大なことを見落としていたんだ。

 

目に見える「体の表面」ばかりに気を取られていて「口の中」を忘れていたんだよ。

 

「濃厚なキス」で自分の唾液がアンジェラの口の中にたっぷり残っていたというのに…

 

 

だからDNAが検出された時は、かなり焦ったはずだ。

 

 

それで最期の日まで奥さんともキスをしなかったんだね…

 

あのアンジェラとのキスを思い出してしまうから…

 

 

そりゃキス恐怖症にもなるわ…

 

 

ウィロビーは最後の夜、妻アンへキスする前に、自分の娘の額に「おやすみのキス」をした…

 

だけど、キスしてすぐに、その場所を手で拭くような動作をするんだ…

 

あれもキス恐怖症の影響だろう…

 

無意識の中で「キスの跡を消さなきゃ」という意識が働いてしまったんだよ…

 

 

 

 

あれは「よしよし」の「なでなで」じゃないの?

 

 

そんな「ありきたり」なことを、わざわざ意味有り気な構図で観客に見せるかな?

 

しかもウィロビーにとって「おでこ」といえば、「アンジェラへの吐血」を想起させる場所でもある…

 

「娘の額にキス」という「なんてことない描写」にも、深い意味がこめられているんだ…

 

 

なるほど…

 

 

しかも娘のセリフ「ママは酔ったの?」は『福音書』や『使徒行伝』へのオマージュにもなっている。

 

聖書でイエスや弟子たちが聖霊に満たされ何かを語る時、疑い深い人たちは「あの人は酒に酔っているのだろう」と突っ込むのがお約束になっているからね…

 

ママであるアンにはアンジェラの霊が入っていた。そしてアンジェラにはイエスが投影されていた。

 

だから「ママは酔ったの?」は完璧なセリフなんだ。

 

そんなことにも気づけないようじゃ、一人前の深読み探偵にはなれないぞ…

 

 

何だかよくわからないけど、マーティン・マクドナーって人は、いろんなことを考えながらこの映画を作ったんだね…

 

 

ハア…ハア…ハア…

 

 

遺体の口の中からDNAが検出されたことにより、ウィロビーは「アンジェラと交わしたキス」が頭から離れなくなってしまった…

 

 

きっと…

 

どんなに忘れようとしても、生々しい記憶がよみがえって来て、切なく苦しい日々を送っていたに違いないわ…

 

 

夜も眠れないほどに…

 

 

 

・・・・・

 

 

そして、そんな時って、こんなふうに考えてしまうのよね…

 

「その人を嫌いになってしまえれば楽なのに」って…

 

 

だけどそれもできない…

 

 

なぜなら…

 

 

その人のことを、今でも愛しているから…

 

 

 

私には…

 

痛いほどわかる…

 

 

 

なんでお前が泣くんや?

 

感情移入し過ぎやで…

 

 

・・・・・

 

いま花笠君が語ってくれた「ウィロビーの想い」は、「第3のサビ」そのものだと言える。

 

ウィロビーは「アンジェラとのキス」を忘れたかった…

 

だけど「愛する人とのキス」だから、忘れられなかった…

 

だから最終的に「静かに眠る」ことを選んだんだ…

 

あなたのキスを忘れましょう

嫌いになって、楽になって

夜を静かに眠りたい

I'm alone and you were mine...

 

 

 

見事な流れや。完璧やな…

 

お疲れさん。

 

 

まだこれで終わりじゃないんだよ…

 

『あなたのキスを数えましょう』には、とても感情的で悲しい「Cメロ」がある…

 

マーティン・マクドナーはこの「Cメロ」も『スリー・ビルボード』の中で再現した…

 

ウィロビーが書いた「愛する人への置手紙」という形で…

 

 

ええ!?

 

 

そして「ウィロビーがアンジェラの顔面に吐血して、その跡を消すために燃やす」というアイデアも、『あなたのキスを数えましょう』から取られているんだ…

 

 

ハァ!?

 

そんな歌詞あったか!?

 

 

歌詞じゃなくて、ミュージックビデオの演出の中にある…

 

《深詠み映像》をよく見てごらん…

 

「第3のサビ」から「Cメロ」に移る瞬間に…

 

「黒い帽子の男」が「黒い革ジャンの女」に「血」を吐くんだ…

 

 

 

確かに「男から女」へ「赤いもの」が飛び散ってたように見えたけど、早過ぎてよくわからないな…

 

スロー再生してみよう…

 

 

ヤ、ヤメロ…

 

ゴボッ…ゴボッ…ゴボッ…

 

 

なんてこと…

 

まさにこれは、ウィロビーによるアンジェラへの吐血そのものじゃないの…

 

 

 

 

うわあーーーー!

 

 

そして「黒い革ジャン」のあとに…

 

 

ブハッ!

 

 

!?

 

 

マ、マーティンも吐血した!

 

 

いや、違う…

 

この臭いは赤ワインだね…

 

さっき一気飲みしたから…

 

 

わ、わざとじゃなかったんだ…

 

 

いいの…わかってる…

 

ところで、さっき言いかけたことだけど…

 

Cメロでの「歌う女」は「黒い革ジャン」と「赤い服」の姿が交互に描かれる…

 

これもまさにアンジェラそのものね…

 

 

 

その通りだ、花笠君…

 

アンジェラの「そもそものモデル」は、チェーホフ『狩場の悲劇』のヒロイン「赤い服の女オリガ」なんだけど、そこには「黒い革ジャン」という要素は無かった…

 

「黒い革ジャン」は『あなたのキスを数えましょう』からのアイデアだったんだよ…

 

『狩場の悲劇』と『あなたのキスを数えましょう』のヒロインが融合して「赤いインナーの上に黒い革ジャンを羽織るアンジェラ」というキャラクターが完成したんだね…

 

 

なるほど!そうゆうことだったのか!

 

 

クソッ…ハア…ハア…

 

 

それでは…

 

「Cメロの歌詞」と「ウィロビーの置き手紙」の関係について話そう…

 

 

 

 

 

 

 

 

つづく

 

 

 

 

 

 

 

 

JUGEMテーマ:映画

エピローグ第25話:あなたのキスを捜しましょう『THREE BILLBOARDS OUTSIDE EBBING, MISSOURI(スリー・ビルボード)』徹底解剖

  • 2019.02.26 Tuesday
  • 22:17

 

 

 

 

 

 

では2番へ行こう…

 

2番には、1番の比ではないくらいの秘密が隠されているんだ…

 

 

「てか1番って?」と思った人は、まず前回を読んでおいたほうがいいよ。

 

 

 

と、その前に…まずこれを話しておかなければ…

 

『あなたのキスを数えましょう』の1番の歌詞を再現した「ミルドレッドの回想シーン」が終わると、「ある景色」が意味有り気に映し出される。

 

スリー・ビルボード(三枚の広告看板)の一枚だ。

 

 

 

確かに「意味有り気」以外の何物でもなかったわ。

 

メッセージは、これやったな。

 

HOW COME

CHIEF WILLOUGHBY?

 

 

 

省略される前の形は「HOW DID IT COME, CHIEF WILLOUGBY ?」だから…

 

「どうしてそんなことが起きたのですか、ウィロビー署長?」だよね。

 

 

この「問いかけ」が映し出されたことにも、もしかして深い意味が…

 

まさか2番の冒頭の歌詞…

 

 

その通りだ。まずは聴いてみよう。

 

 

2番の歌詞はこんなフレーズで始まる…

 

髪の毛を束ねても

昨日とは違う顔で

何をして紛らわす?

孤独とか不安とか

 

 

またミルドレッドのこと?

 

 

確かにミルドレッドは髪の毛を束ねるけど「違う顔」にはなっていない。

 

どっからどう見てもフランシス・マクドーマンドだ…

 

 

当たり前やんけ。ただ髪型変えただけなんやさかい。

 

 

でもね、そうじゃない人物がいるんだよ…

 

2番『あなたのキスを捜しましょう』の主人公は…

 

「髪型を変えて紛らわそうとしても、明らかに違う顔になってしまってる人物」だ…

 

 

ヤ、ヤメロ…

 

 

何だそれ!?

 

 

ウィロビーの妻…アンね…

 


 

その通り。

 

あの看板の「問いかけ」の後に始まるのは、病院でのウィロビー夫妻のシーンだ。

 

そして、この時の妻アンは、それまでと明らかに違う顔だった。

 

髪の毛を束ねても、誤魔化しきれないほどにね…

 

彼女の登場シーンを順番に並べてみたので見比べてほしい。

 

 

 

これ…ぜんぶ同じ人…?

 

たった五週間の間でしょ…?

 

 

三人?それとも四人?とにかく最低二人はおるやろ…

 

なんじゃこりゃァ!

 

 

普通こんなことはしないよね。

 

出番が少ない脇役なのに、出て来る度に別人みたいなんだよ…

 

僕は最初「違う女性」なのかと思ったほどだ。

 

でも『あなたのキスを数えましょう』の2番のお陰で、その秘密に気付くことができた…

 

 

原因は…アンジェラね…

 

霊体である彼女が誰かの体に憑依すると、しばらくその人の顔つきが変わってしまう…

 

だからあの「問いかけ」だったんだわ…

 

 

「どうしてそんなことが起きたのですか、ウィロビー署長?」

 

 

 

そんなことウィロビー署長にわかるわけないじゃんか!

 

 

そんなことないよ。

 

ウィロビーは死ぬ直前、妻アンの「違和感」に気づいたんだ。

 

そして死んだ後には、それを確認した…

 

「アイダホから来た男」に憑依してね…

 

 

 

うひゃあ!ぜんぜん顔が違う!

 

 

アンジェラはウィロビーに殺された後、霊体となってほとんど毎日、妻アンの中に入りこんでいた。

 

「殺された恨み」よりも「一緒にいたいという思い」の方が強かったんだね…

 

たとえそれが、愛した相手の奥さんの体の中だったとしてもだ…

 

2番のこの歌詞から、それが導き出せる…

 

すごく好きだったよ

それだけは変わらない事実

Missin' you

 

 

そしてアンジェラが、ウィロビーの妻アンに憑依していた最大の目的は…

 

また「濃厚なキス」をすること…

 

 

そう…

 

アンジェラは、死の直前にウィロビーと交わした「濃厚なキス」をするチャンスを、ずっと捜していたんだよ…

 

だけどそのチャンスは、なかなか来なかった…

 

妻アンの中に入って、毎日そばにいたのにね…

 

そして念願の「濃厚なキス」の時が訪れるんだけど、それは悲しくも「最後のキス」になってしまうんだ…

 

 

だからウィロビー夫妻は何度も夫婦そろって登場するのに、キスシーンが最後まで無かったんだね…

 

人前で尻は撫でるのにキスをしないなんて、アメリカ人としてどう考えても不自然だ。

 

 

湖畔の野外プレイの時にしとるやろ。

 

 

その光景が描かれてない以上、してないと考えるしかない。

 

それにウィロビーは「騎乗位」だったことを念押ししてたから、してない可能性は十分あるよね。

 

さぞかしアンジェラはジリジリとしていたことだろう…

 

あの「濃厚なキス」を半年以上も「おあずけ」だったのだから…

 

 

・・・・・

 

 

これらはすべて、2番のサビの再現だったんだよ…

 

あなたのキスを捜しましょう

あんな近くに 触れたのに

出逢わなければよかったの?

Shinin' days when you were mine...

 

 

ゲホッ、ゲホッ、ゲホッ…

 

ハア…ハア…ハア…

 

 

なんかすっごく苦しそう…

 

 

せやけど…

 

せっかくの念願のディープキスに「ゲロの臭い」っちゅうネタを絡ませるのは何の意味があったんや?

 

別に要らんやろ、ゲロネタは。

 

 

ちゃんと意味があるんだよ。

 

あれも「アンジェラ憑依」のヒントだったんだ。

 

 

ええっ!?ゲロがヒント!?

 

 

僕はあれを「アンジェラの3P」と呼んでいる。

 

 

ハァ!?なに言ってんだ!?

 

 

アンジェラのキーワードは「Pのつく臭い」なんだよ。

 

母ミルドレッドはアンジェラのことを「POT臭い」と表現した。

 

「POT」とは「大麻・マリファナ」のことだよね。本当は馬小屋の臭いだったんだけど。

 

そしてアンジェラが憑依したペネロープは「PEE臭い」と言われた。

 

動物園で働いてるから「動物のションベン臭い」と馬鹿にされていたんだよね。

 

そしてアンジェラが憑依していたアンは「PUKE臭い」だ。

 

もちろん「PUKE」とは「ゲロ」のこと。

 

 

これが「アンジェラの3P」ってわけ…

 

 

 

ズコっ!

 

 

ちなみにウィロビーは、あのキスで「違和感」を感じた。

 

気持ち悪くて寝ていたはずの妻アンが、いつの間にか口の中を消臭していたからだ。

 

おそらく、これまでのアンなら、そんなことはしなかったんだろう。

 

そして馬への「ファッキン」発言や「あなたの息子は最高」発言、さらには「ありがとパパ」発言で、確信をもった。

 

妻アンの中に「ずっとアンジェラが入っていた」ということに…

 

そして自殺を決意するんだよ…

 

 

ゲホッ…ゲホッ…ゲホッ…

 

オ…オ…オエッ…

 

 

うわー!ここで吐かないでよ!

 

 

そして『あなたのキスを数えましょう』の「キスを捜す」2番のサビが終わると、3番には行かず「第3のサビ」へと続く…

 

これもそのまま『スリー・ビルボード』で再現されているんだよ…

 

「第3のサビ」の主人公は「キスを忘れたい人物」だ…

 

 

 

 

 

 

つづく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

JUGEMテーマ:映画

エピローグ第24話:あなたのキスを数えましょう『THREE BILLBOARDS OUTSIDE EBBING, MISSOURI(スリー・ビルボード)』徹底解剖

  • 2019.02.26 Tuesday
  • 12:02

 

 

 

 

 

ハア…ハア…

 

なぜ私が息を切らしているのかわからない人は、きっと前回を未読の人ね…

 

まずコチラから読むといいわ…

 

 

 

そ、そんな…バカな…

 

ゲホッ…ゲホッ…ゲホッ…

 

 

 

そういえばマーティンって…

 

この歌を聞くたびに苦しがってない?

 

 

『MOTHER』のラスボスか!

 

こんな大事な時にゲームみたいなこと言うなボケ!

 

 

いや…ええじゃろうの言う通りかもしれない…

 

 

なぬ!?どうゆうこっちゃ?

 

 

それでは…

 

『スリー・ビルボード』最後の秘密を解き明かそう…

 

映画とあの歌の間に隠された、重大な秘密を…

 

 

ハア…ハア…ハア…

 

 

映画『スリー・ビルボード』とは…

 

チェーホフの小説『狩場の悲劇』の舞台を、19世紀末のロシア南部の田舎町から、現代アメリカの南部へ移したものだった…

 

 

それはもう耳タコ!

 

 

そして脚本&監督のマーティン・マクドナーは、ただチェーホフの小説を再現するだけでなく…

 

「娘を失った母が、生前に愛情を上手く伝えられなかったことで激しく後悔する」

 

「移り変わる心のように髪型やメイクが毎日コロコロ変わる女」

 

「愛していた女を殺してしまった男が、そのことに苦悩して自殺する」

 

「愛する人が決して自分のものにならない辛さで暴走するヒロイン」

 

というアイデアを加えた…

 

 

そのへんもたっぷり聞いた気がする!

 

 

だけど、そのアイデアには元ネタがあったんだ…

 

それが…

 

 

ゴクリ…

 

 

小柳ゆきの代表曲『あなたのキスを数えましょう』だ…

 

 

 

ハァ!?

 

 

え?

 

 

あの曲の歌詞を再現するように、映画は作られたんだよ…

 

 

ふ、ふざけたことを!

 

 

それに、もしかしたら…

 

映画の中で象徴的なキスをした「CHIEF WILLOUGHBY(ウィロビー署長)」の名前も「小柳ゆき」から付けられたのかもしれない…

 

 

 

なんですと!?

 

 

「WILLOUGHBY」の「WILLOUGH(ウィロウ)」と「WILLOW(柳:ウィロウ)」は、よく似てるし…

 

「Chief(チーフ)」は「小さい」と「チー」の音が共通で…

 

「by」は「時や場所を通り過ぎる」という状況で使われるから「行き」に通ずるものがある…

 

だから「Chief Willough By」で「小 柳 ゆき」なんだ…

 

 

バ、バカも休み休みに言え!

 

 

マーティン…

 

このオッサンのバカは年中無休や…

 

クリスマス・イブも大晦日も正月も、バカみたいなブログをバカみたいにせっせと書いとった…

 

 

「ウィロビー署長=小柳ゆき説」は置いておくとして…

 

『あなたのキスを数えましょう』は、歌詞だけでなく、ビジュアル面でも『スリー・ビルボード』に大きな影響を与えた…

 

それが先ほどの花笠君による《深詠み映像》だ…

 

 

・・・・・

 

 

花笠君…

 

あれは君が数年前にアメリカのカラオケボックスで歌った時に流れていた映像だよね?

 

 

え、ええ…

 

でもなぜそれを教官が…

 

 

そして…

 

あのとき君が歌った『あなたのキスを数えましょう』を、『スリー・ビルボード』の監督マーティン・マクドナーが聴いていたんだ…

 

 

なんですって!?

 

あの部屋にそれらしき人物は居なかったはずだけど…

 

 

たしかに「あの部屋」には居なかった…

 

でも歌声が聴こえるところには居たんだよ…

 

あの部屋の隣の空き部屋にね…

 

 

ま、まさか…

 

 

アレハ…

 

オマエ…ダッタノカ…

 

 

あの映像を最初からじっくり見てみよう…

 

君たち、録画した《深詠み映像》を再生してくれたまえ。

 

 

アイアイサー!

 

ポチっとな。

 

 

 

 

ゲホッ…ゲホッ…ゲホッ…オエッ…

 

 

だいじょぶ?

 

 

そういや…

 

あのピアノを弾いとるオッサン…

 

 

そう。

 

あの「ピアノを弾く男」が、ウディ・ハレルソン演じるウィロビー署長のビジュアル面でのモデルだ。

 

 

 

似てる…

 

というか「そのもの」…

 

 

ハア…ハア…ハア…

 

 

そして「ピアノを弾く男」の次に「立ちつくす女」が映し出される。1番が始まるイントロ部分だね。

 

注目してほしいのは彼女の服だ。とても「皺が強調された服」なんだよ…

 

あれがフランシス・マクドーマンド演じるミルドレッドのビジュアル面でのモデルになったんだ…

 

 

ええ!?

 

 

ミルドレッドが娘アンジェラとの最後の会話を回想するシーンがあったよね?

 

その前にミルドレッドが「皺が強調された服」を着て、なぜか廊下に立ちつくすシーンがあるんだ…

 

あれは『あなたのキスを数えましょう』のミュージックビデオの再現だったんだよ…

 

 

 

うわあ…

 

顔を斜めにして悲しむポージングとシワシワの服…

 

特におっぱいの上の大きなシワなんて完璧に再現されてるよ…

 

 

たるんだ腹のように見えるシワもそうや…

 

狙わんと出来へんシワやで…どう考えても意図的やろ…

 

 

確かにあのカットは、わざわざ服の皺をアピールしてるみたいだったわ…

 

映画を観た時「監督や撮影スタッフは何をやってたのかしら?」って思わず女性目線で突っ込みたくなったけど、こういう意味があったのね…

 

 

ぐ、偶然だ…騙されるな…

 

ハア…ハア…

 

 

そして『あなたのキスを数えましょう』の1番が始まる。

 

この1番の歌詞と映像は『スリー・ビルボード』で「ミルドレッドの回想シーン」として再現された。

 

ミュージックビデオでは、まず、悲しそうに座りこむ女の姿が映し出される…

 

周りにはカラフルなキャンドルが置かれていたね…

 

あれは1番冒頭の歌詞をイメージしたものだ…

 

散らかった床の上

うずくまり膝を抱いた

 

だからミルドレッドも…

 

「カラフルな模様が散りばめられた布団の上」に座って膝を抱いたんだよ…

 

 

 

だからベッドがあんなに「ごちゃごちゃした」模様だったのか…

 

半年以上も使われていない部屋だから、さすがに床は散らかせないもんね…

 

 

そして次のフレーズの部分は、完璧に再現された…

 

守れない約束が

カレンダー汚してる

 

回想シーンの冒頭で、ミルドレッドはアンジェラと「今夜の予定」について口論する…

 

そのとき、ミルドレッドの背後の冷蔵庫には「カレンダー」が貼られていた…

 

「守れない約束」で汚されたカレンダーが…

 

 

 

あの女性シンガーの髪型が左右で違ったところもポイントだったのね…

 

「うずくまり膝を抱いた」のアングルの時は、ミルドレッドの髪型も結んだ状態…

 

そして「カレンダー汚してる」のアングルでは、ミルドレッドも髪をおろした状態…

 

 

 

さすが女性目線!

 

男はそこまで気が付かないよなあ…

 

 

ウグ…ウグググク…

 

 

そして歌詞はこう続く…

 

こんな日が来るなら

抱き合えばよかったよ もっと

Missin' you

 

「こんな日」は説明不要だね…

 

実の娘に「レイプされりゃいい!」と言ってしまい、それが「現実」となってしまった日のことだ…

 

 

 

人の前ではいつも強気にしてたけど、ミルドレッドはとても後悔してたもんね…

 

最後に交わした言葉が、あんな内容だったことに…

 

もっと素直に愛情を表現できていたらって…

 

 

 

そして回想シーンは終わり、ミルドレッドはアンジェラの部屋から出てゆく。

 

その時、出入口で何かを思い返すかのように立ちどまり、ゆっくりとドアを閉めるんだ…

 

 

きっと1番のサビのようなことを考えていたんだろうね…

 

あなたのキスを数えましょう

ひとつひとつを想い出せば

誰よりそばにいたかった

Without you but you were mine...

 

 

完璧じゃんか…

 

いつも感じられるような強引さが全くない…

 

 

ハア…ハア…ハア…

 

有り得ない…嘘だ…

 

 

ついでに、あの回想シーンで象徴的に使われた「cunt(カント)」のことも話しておこう…

 

 

 

Hey !

 

 

姉であるアンジェラに「なんで私に味方してくれないの!?」と言われて、ロビー君はこう答えた。

 

I'm always on your side when you're not being cunt.

「カント(クソアマ)じゃないなら、いつでも味方するよ」

 

それに対して母娘は「へい!」と息の合ったツッコミを入れる。

 

そしてミルドレッドはこう言った。複数形で…

 

There'll be no more 'Cunts' in this house.

「この家ではカントは禁止!」

 

 

 

それが『あなたのキスを数えましょう』と何の関係があるんや…

 

しかも複数形とか、どうでもええやろ…

 

 

「cunt(カント)」は「canto(カント)」の駄洒落になってるんだ。

 

イタリア語で「歌」を意味する言葉だね。

 

この回想シーンは『あなたのキスを数えましょう』という歌が元ネタになってるから、こんなジョークを飛ばしたんだよ…

 

 

マジですか!

 

 

そしてミルドレッドが「cunts」と複数形にしたのは、ラテン語「cantus(歌)」の駄洒落ね…

 

この家はカトリックだから、ラテン語のジョークを…

 

 

ハア…ハア…ハア…

 

お前たち…いい加減にしろ…

 

 

そしてイタリア語の「canto」やラテン語の「cantus」には…

 

「歌」という意味だけではなく、小説や物語などの「章」という意味もある…

 

『スリー・ビルボード』の物語は、チェーホフの小説『The Shooting Party(狩場の悲劇)』がベースになっているからね…

 

つまり監督のマーティン・マクドナーは、ミルドレッドにこう言わせたかったわけだ…

 

「この映画で歌や小説の話は禁止!」

 

とね…

 

 

・・・・・

 

 

「ネタバレするようなことはダメ!」っちゅうことか(笑)

 

 

だからあのシーンは「カント」にあそこまでこだわったんだな…

 

なんか変だと思ってたんだよね…

 

 

では2番へ行こう…

 

2番には、1番の比ではないくらいの秘密が隠されている…

 

 

 

 

 

つづく

 

 

 

 

 

 

 

 

JUGEMテーマ:映画

エピローグ第23話:I WANT YOU BACK(後篇)『THREE BILLBOARDS OUTSIDE EBBING, MISSOURI(スリー・ビルボード)』徹底解剖

  • 2019.02.24 Sunday
  • 21:35

 

 

 

 

 

 

これで終わりじゃないぞ。

 

ちなみに「これ」とはこれのことだ。

 

 

 

え?

 

 

テレポートβ

 

 

 

うわー!?今度は目が回るーーー!

 

 

うわぁぁーーーーー-----…

 

 

うわぁぁーーーーー-----…

 

 

うわぁぁーーーーー-----…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今度はどこだ…?

 

 

(様々な物が置かれているデスクをジッと見る黒髪の若い女)

 

 

・・・・・

 

 

 

あ、あれは…

 

僕の教え子だった頃の花笠君…

 

そうだ…

 

彼女はあの長くて美しい黒髪を自慢にしてたっけ…

 

 

(女、デスクからアップライトピアノへ向かい、椅子に座って深いため息をつく)

 

 

はぁ……

 

 

 

あのデスク、あのアップライトピアノ…

 

ここは昔の僕の事務所じゃないか…

 

深読み探偵学校を退職した後、最初に開いた個人事務所だ…

 

 

 

さようなら…

 

わたしの…かけがえのない日々…

 

 

 

 

・・・・・

 

 

ガチャ

(後方でドアの開く音)

 

 

忘れものは無い?

 

さあ行こうか。車で御両親が待ってるよ。

 

 

 

うわっ、十数年前の僕だ…

 

まさかこの日は…

 

花笠君がアメリカへ旅立った日…

 

 

 

 

しかし君が行ってしまったら、このピアノも弾いてくれる人がいなくなって寂しがるだろうな…

 

 

 

ピアノだけですか?寂しがってくれるのは…

 

 

 

え…?

 

いや…もちろん…僕も…

 

 

 

深読み探偵学校の二年間…そしてこのインターンでの半年間…

 

たくさんのことを学ばせて頂きました…

 

とても貴重な体験ばかりで、向こうでも…いえ、生涯ずっと忘れないと思います…

 

本当にありがとうございました。

 

 

 

いや…こちらこそ…

 

というか、あの…熱海の件は…

 

ごめん…

 

 

 

ナゼ アヤマルンデスカ…

 

 

 

え?

 

 

(外でクラクションの音)

ブッブーーー!

 

 

 

 

もう行かなきゃ…

 

さよなら…教官…

 

 

 

花笠君…ちょっと待っ……

 

 

バタン

(ドアの閉まる音)

 

 

 

 

・・・・・

 

 

これで過去の旅はおしまいだ。

 

さあ、元いた世界へ帰れ。みんながお前を待ってるぞ。

 

 

帰れって言われても…どうやって…

 

また前みたいに背中に乗せてってください…

 

 

肉体があれば乗せられるのだが。

 

今回はお前ひとりで帰れ。

 

お釈迦様が最後に言ってた魔法の言葉を覚えているか?

 

 

え?

 

たしか…

 

PK…サヨナラ…?

 

 

それだ。じゃ、またな。

 

 

うわあああああーーー----……

 

 

うわあああああーーー----……

 

 

うわあああああーーー----……

 

 

うわあああああーーー----……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

おかえもん…

 

ずっと動かないけど、まさか死んでないよね…

 

 

大丈夫や。息はしとる…

 

 

教官!意識を取り戻して!

 

お願いだから、戻って来て!

 

 

 

黙れ!静かにしてろと言ったはずだ!

 

 

 

んん…

 

 

 

教官っ!

 

 

こ、ここは…?

 

 

おかえもん!!!!

 

 

あれ?僕は…たしか…

 

 

命拾いをしたな!だがそこまでだ!

 

 

もうやめて!

 

こんなことして何の意味があるというの!?

 

 

は、花笠君…

 

あの歌のように…髪型を…

 

変えたんだね…

 

 

え?

 

 

『スリー・ビルボード』と…一緒だ…

 

気がつかなくて…ごめん…

 

 

・・・・・

 

 

さあ…歌うんだ…

 

 

歌うって…何を…?

 

 

何をって…決まってるじゃないか…

 

あの打ち上げの席で…歌った時のように…

 

すべての想いを込めて…

 

 

何だと!?

 

 

ガタガタ…ガタガタ…

 

 

花笠君の《深詠み》が始まった!

 

 

君たち…テレビをつけてくれ…

 

 

なんで!?

 

 

今まで言い忘れてたけど…

 

花笠君の《深詠み》は…

 

歌だけでなく…特殊な脳波による映像もついてるんだ…

 

 

映像も!?

 

 

いつも彼女の《深詠み》を聴く時…

 

頭の中に…イメージがわかなかったかい…?

 

 

そういえば…

 

いつもミュージックビデオみたいなのが頭の中で…

 

 

それは…近くの電子機器でもキャッチできるんだ…

 

たぶんビデオにも…録画できるはず…

 

 

そ、そんな便利な機能があったのか!

 

 

ガタガタガタガタガタガタガタガタ…

 

 

リモコン、ポチっ!

 

撮影班、スタンバイOKです!

 

 

ヤ、ヤメロ…

 

 

さあ歌え…花笠…

 

 

ピタッ

 

 

 

 

おお〜!はっきり映像で映ってたぞ!

 

 

やった…

 

 

おかえもんも完全に元に戻った!

 

 

ハア…ハア…

 

 

そ、そんな…バカな…

 

ゲホッ…ゲホッ…ゲホッ…

 

 

 

そういえばマーティンって…

 

この歌を聞くたびに苦しがってない?

 

 

『MOTHER』のラスボスか!

 

こんな大事な時にゲームみたいなこと言うなボケ!

 

 

 

いや…ええじゃろうの言う通りかもしれない…

 

 

なぬ!?どうゆうこっちゃ?

 

 

それでは…

 

『スリー・ビルボード』最後の秘密を解き明かそう…

 

映画とあの歌の間に隠された、重大な秘密を…

 

 

ハア…ハア…ハア…

 

 

 

 

 

 

つづく

 

 

 

 

 

 

 

 

JUGEMテーマ:映画

エピローグ第22話:I WANT YOU BACK(前篇)『THREE BILLBOARDS OUTSIDE EBBING, MISSOURI(スリー・ビルボード)』徹底解剖

  • 2019.02.24 Sunday
  • 11:24

 

 

 

 

 

 

 

 

♪で〜あ〜わ〜な〜け〜れば〜 よ〜かぁ〜った〜の〜♪

 

♬シャイニンデ〜ィズ ウェンユ〜ワ〜マ〜ィン♬

 

 

教官…

 

 

男が歌っても、しっくり来るな。やっぱ名曲や。

 

 

 

(トイレから激しく咳き込む声)

 

「ゲホッ!ゲホッ!ゲホッ…」

 

 

 

マーティン、大丈夫かな?

 

 

大丈夫やろ。

 

ただの長旅の疲れと時差ボケとウォッカ・マティーニの飲み過ぎや。

 

全部吐いたらスッキリして戻って来るやろから、不在だった前回分を読ませなアカンな…

 

 

 

それならいいんだけど…

 

ところで、さっきの歌の歌詞って…

 

なんか引っ掛かるよね…

 

 

チン毛も生えそろわんガキのお前に、あの歌の切なさがわかるんか?

 

女とベロチューしたこともないくせに。

 

 

そうじゃなくてさ…

 

なんだか『スリー・ビルボード』と…

 

 

 

そこまでだ!

 

 

マーティン!?

 

 

え…?

 

 

・・・・・

 

 

それ以上の深読みは許さない!

 

 

な、なんのドッキリや…?

 

そんなオモチャでワイらが驚くと思うたら…

 

 

あれはオモチャじゃない…

 

本物の銃よ…

 

 

モ、モノホン!?

 

 

なんで本物の銃が!?

 

ただの旅行者がどうやって日本に持ち込んだんだよ!?

 

 

彼は「ただの旅行者」なんかじゃない…

 

英国秘密情報部MI6きっての深読みエージェント…

 

MM7(ダブル・エム・セブン)よ…

 

 

ダブル・エム・セブン!?

 

 

イニシャルが「M・M」であること以外は、すべて謎に包まれた男…

 

 

じゃあ最後の「7」は何?

 

苗字が「Mildseven」さんとか?

 

 

一説には「7つの顔を持つから」と言われている…

 

ある時は名門貴族の御曹司…

 

ある時はエリート外交官…

 

ある時は凄腕ビジネスマン…

 

ある時はカリスマ・ファッションカメラマン…

 

ある時はベテランNOVAティーチャー…

 

そしてある時はイギリスを代表する劇作家…

 

 

6つしかないじゃんか…

 

残りのひとつは?

 

 

7つ目の顔は、誰も知らない…

 

 

・・・・・

 

 

相変わらず口が減らないな、ミス・ハナガサ!

 

またこの俺が塞いでやろうか!?

 

 

・・・・・

 

 

相変わらず?ミス・ハナガサ?

 

お前ら知り合いなんか?

 

 

深読みエージェント業界は、狭いから…

 

 

でもなんで急に深読みするななんて言うの?

 

オイラせっかく面白いことに気づいたのに…

 

 

なんやねん、オモロイことって?

 

 

えーと…

 

あれ?何だったっけ?

 

 

もういい!

 

貴様ら如き低能が深読みしたところで、これ以上何もわかるまい!

 

大人しくチェーホフだけで満足するんだな!

 

 

・・・・・?

 

 

なぜなの?

 

まるでこれ以上深読みされたら困るみたいな言い草じゃない…

 

誰よりも深読みの奥深さを知る、世界最高クラスの深読みエージェントのあなたが…

 

そんなのおかしいわ…

 

 

黙れと言ってるだろう!痛い目に遭わんと、わからんのか!?

 

 

(銃を構えながら花笠君に近付くマーティン)

 

 

 

彼女には手を出すな!

 

 

(おかえもん、マーティンと花笠君の間に入る)

 

 

 

邪魔だ!どけっ!

 

 

(銃で力いっぱい側頭部を強打)

 

 

 

!!!!!

 

 

(ゆっくり倒れこむ)

 

 

 

教官!

 

 

 

・・・・・

 

 

 

お、おかえも〜ん!

 

 

 

おかえも〜ん…

 

 

 

おかえも〜ん…

 

 

 

おかえも〜ん…

 

 

・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・

 

 

 

 

 

おかえもん…

 

 

 

私の声が聴こえますか?

 

 

 

目を覚ますのです…

 

 

 

 

 

 

 

ん、んん・・・

 

ここは?

 

 

 

もう忘れたのか?

 

 

 

ウィ…WILL!

 

それにいつも笑顔が素敵なお釈迦様も!

 

 

 

はい、どうも。

 

 

 

なぜ僕はここに…?

 

 

 

お前が望んだのではないか。またここへ戻って来たいと。

 

 

 

僕が…?

 

 

でも、そうかもしれない…

 

何だかワケのわからない展開になってしまって…

 

いったい何が何だか…

 

 

 

何がわからないのだ?

 

順調に謎解きしてたではないか。すべて見ていたぞ。

 

 

 

たしかにチェーホフ『狩場の悲劇』のお陰で『スリー・ビルボード』の謎を次々と読み解くことができました…

 

だけど急にあんなことが起きて…

 

「これ以上深読みするな」なんて言われても、もう深読みすることなんて残っていないのに…

 

 

 

本当に何も残っていないのでしょうか?

 

 

 

え?

 

 

 

あなたは大切なことに気付いていませんね。

 

答えは目の前にあるというのに、いつも肝心なことが見えていない…

 

 

 

大切なこと?答えが目の前に?

 

いったい何のことなんでしょうか?

 

 

 

深読み名探偵が聞いてあきれる。

 

女ごころはちっとも読めないようだ。

 

 

 

女ごころ…?

 

 

 

なぜ『スリー・ビルボード』に登場する女性は、コロコロ髪型やメイクを変えていたのでしょうか?

 

中にはシーンごとに変えている者までも…

 

 

 

え?

 

 

ふつうの映画では、そういうことはしない。

 

観てる者が混乱してしまうから。

 

 

 

・・・・・

 

 

 

女の髪型や化粧が変わるとき…

 

そこには言葉で言い表せない様々な意味がこめられているのですよ…

 

 

 

様々な意味が?

 

 

 

そんな女ごころが歌われている名曲もあるよな。

 

 

 

何を言ってるのかサッパリわかりません…

 

どういうことですか?

 

 

 

わからないのなら、その目で見てこい。

 

テレポートα

 

 

 

うわーーっ!?

 

 

 

PKサヨナラ…

 

 

 

うわーーーーー------……

 

 

 

うわーーーーー------……

 

 

うわーーーーー------……

 

うわーーーーー------……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ご清聴ありがとうございまーす。

 

 

キャスリン、ちょー歌うまいー!

 

 

あの長い絶叫シーンを軽々とこなしていたから凄いなって思ってたけど、こういうことだったのね。

 

 

本編にはアンジェラが歌うシーンを入れるべきちゃいます?

 

それまでは漠然とロックシンガーを夢見ていた田舎娘が、突如現れたゾンビとの死闘を繰り返す中で、それまで出来なかった高音シャウトを修得し、最後は偶然居合わせたレコード会社幹部にスカウトされて大都会へと旅立つ…ってストーリーに変えません?

 

ねえ、プロデューサー?

 

 

でも監督が何て言うか…

 

あれ…?監督は?

 

 

なんか疲れてるようなんで、少し隣の部屋で休んでるそうです。

 

 

 

なぜ僕はカラオケボックスにいるんだろう?

 

この人たちは何者?

 

しかもさっき歌っていた「キャスリン」って…

 

『スリー・ビルボード』でアンジェラを演じていたキャスリン・ニュートンじゃないか…

 

 

強行スケジュールとハプニングの連続で、疲れがどっと出たんだろう。

 

少し休めば戻って来るさ。さあ歌おうぜ!

 

 

う、ウディ・ハレルソン!?

 

 

そうよ。せっかくカラオケに来たんだから盛り上がらなきゃ。

 

スタッフのみんなも遠慮せずにどんどん歌って。今回のパイロット版のために一生懸命働いてくれたんだから。

 

まだ本編の撮影が残ってるけど、今日は全部忘れてパーッと行きましょ。

 

 

ふ、フランシス・マクドーマンドも!?

 

 

しかし酒が遅いな。

 

次の歌が終わるまでに来なかったらクレーム入れてやろう。

 

 

こ、公園兄弟!?なぜここに!?

 

僕ですよ!おかえもんですよ!

 

 

ん?次の曲は入ってないのか?

 

誰も歌わないなら俺たちが入れちゃうぞ。

 

えーと…、あったあった…

 

ポチっとな…

 

 

 

出た。カラオケで誰も知らない昔の外国語の歌を歌って場を盛り下げるオッサン…

 

 

しかも綺麗にハモってるのを見ると常習犯っぽいな…

 

ところで撮影の途中から指示を出してたこの二人は何者なんだ?

 

なんで打ち上げにもいるんだよ?

 

 

なんてこった…

 

ロビー役のルーカス・ヘッジズに、ディクソン役のサム・ロックウェルまで…

 

『スリー・ビルボード』の出演者が勢揃いしてるじゃないか…

 

僕には彼らの姿が見えるけど、向こうからは僕が見えないらしい…

 

 

 

ガチャ

(ドアの開く音)

 

 

ドリンクお持ちしました〜。

 

 

は、花笠君!?

 

 

来た来た!はい、あんたの!

 

 

あ、はい。どうも。

 

 

マスカットサワーの方?

 

 

ハ、ハイ…

 

 

ルーカス君かわいいw

 

なんで赤くなってんの〜?

 

 

べ、別に…

 

 

お姉さん超美人〜。モデルさんとかですか?

 

 

もう、やめてください(笑)

 

昼間は某政府機関で働いてるんだけど、このところの予算削減で給料がカットされちゃって…

 

だからこうして夜もバイトをしてるってわけ。

 

 

スカウトしちゃおうかな〜

 

 

花笠君が「某政府機関」で働いている?

 

それってCHA(中央深読み局)のことだよな…

 

ということは…

 

僕が見ているこの光景は、数年前のアメリカであった出来事…

 

 

お姉さん、なんか歌も超うまそう。

 

一曲歌っていって!ね!?

 

 

賛成っす!

 

自分もお姉さんの唄、聴きたいっす!

 

 

もう…

 

困ります、そういうの…

 

 

じゃあ1曲だけですよ。

 

 

いいねえ、そのノリ(笑)

 

何番?

 

 

えーと…

 

これお願いします。

 

 

ん?日本語の歌?

 

 

はい…わたし日本人なんです。

 

だから日本の歌で私が一番好きなものを皆さんにぜひ聞いてほしくて…

 

 

いいぞ!ネエチャン!

 

 

では歌います。

 

『ANATANO KISU WO KAZOEMASHOU(あなたのキスを数えましょう)』…

 

 

 

 

・・・・・

 

 

キュン…

 

 

すごーい!お姉さんプロ並み!

 

 

マジヤベエ…チョーナケル…

 

 

オスカー・ワイルドか…

 

 

なに言うてますの?

 

 

何を歌っているのかはわからなかったけど、胸がこうギュッと締め付けられるようだったよ。

 

恋人のことでも思いながら歌ったのかい?

 

 

か、彼氏とかいるんですか!?

 

 

残念ながら、いないですよ(笑)

 

 

ホッ…

 

 

でも好きな人はいました…

 

遠い、海の向こうに…

 

 

・・・・・

 

 

遠距離か…切ねえな…

 

 

姉さん、もう1曲聞かせてよ。あんたの歌、好きだよ。

 

 

御免さない…今夜はもう上がりなの…

 

急いで次のバイト先へ行かなきゃ…

 

今夜は掛け持ちで…

 

 

それは仕方ないな。すまん、引き留めて。

 

 

いえいえ、いいんです。

 

では皆さん、引き続き当店で楽しんでいってください。

 

 

ガチャ

(ドアの閉まる音)

 

 

 

花笠君…

 

 

 

まだ終わりじゃないぞ。

 

テレポートβ

 

 

うわーーーー!?目が回るーーー!

 

 

 

 

 

 

 

つづく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

JUGEMテーマ:映画

エピローグ第21話:濃厚なキス 『THREE BILLBOARDS OUTSIDE EBBING, MISSOURI(スリー・ビルボード)』徹底解剖

  • 2019.02.22 Friday
  • 22:19

 

 

 

 

 

(トイレで激しく咳き込む音)

 

「ゲホッ、ゲホッ、ゲホッ…」

 

 

 

あいつ吐いとんのか?

 

大丈夫か〜?マーティ〜ン!?

 

 

(トイレから)

 

「ダ、ダイジョブデス…」

 

 

 

 

では「濃厚なキス」の話に戻ろうか…

 

いよいよ、この映画の最後の秘密を解き明かす時がきた…

 

 

・・・・・

 

 

映画『スリー・ビルボード』の元ネタとなったチェーホフの小説『狩場の悲劇』では、「濃厚なキス」はこんなふうに描写される。

 

のちに殺される娘オリガ(父子家庭、19歳)と、その殺人事件の捜査を行った予審判事セルゲイ・ペトローウィチ(ギリシャ風イケメン、実は真犯人)の「濃厚なキス」だ…

 

オリガの顔が火のように燃えていたところを見ると、きっとわたしのキスは熱烈だったのだろう。その顔には今しがた流した涙の影も見当たらなかった……

中央公論社版(訳:原卓也)より

 

 

「顔が火のように燃えていた」って誰かさんみたい(笑)

 

 

やめて頂戴…

 

 

せやけど「熱烈だったのだろう」っちゅう過去形で流すんかい?

 

肝心のディープキスはどこや!?


 

被害者と加害者の間で交わされた「濃厚なキス」は、それ自体は描かれないんだ。

 

ただ「濃厚なキスをした」という「事実」だけが提示される。

 

 

ええ〜!?

 

 

すべてを投げ捨てて逃げて来たオリガは、もうどこにも行き場が無くて、洞窟の中でひとり泣いていた。

 

そこに予審判事セルゲイ・ペトローウィチがやって来て、彼女を優しく慰めるんだ。

 

最初は手にキスをし、次に額にキスし、そして腰に手をまわし抱き寄せた…

 

「もういいんだ!もういいんだよ!」と自分に言い聞かせるように繰り返しながら…

 

 

詳しくは前々回を。

 

 

 

そして予審判事はオリガに熱い口づけをする。

 

しばらくして予審判事は、放心状態となった彼女を抱きかかえて洞窟から出て来た。

 

そのとき彼女の顔が火照っていたのは、キスからまだ五分しか経っていなかったからなんだ。

 

 

「五分しか経ってない」やのうて「五分も経ってるのに」やろ。

 

五分後も相手が火照ってるキスは、そうとうなもんやで。

 

せやろ?花笠君…

 

 

・・・・・

 

 

「洞窟の中での被害者と加害者による重要なキスが描かれない」ということは、『スリー・ビルボード』でもそのまま応用された。

 

「行き場を失った19歳の娘」と「地域の治安を守るという責任ある立場にあった男」が、馬小屋で「濃厚なキス」をするんだけど、それは劇中で描かれない…という、まったく同じ設定でね。

 

 

「まったく同じ設定」じゃないよ。

 

「洞窟」と「馬小屋」は全然違う。

 

 

同じなんだよ。

 

だって「イエスが生まれた場所」の投影でもあるから。

 

 

ハァ!?

 

 

イエスが生まれた場所って「二説」あるんだよ。

 

カトリックやプロテスタントなどが属する西方教会では「馬小屋」なんだけど、ロシア正教などの東方教会では「洞窟」なんだ…

 

福音書には「生まれたのち飼葉桶に入れられた」としか書いてないから、どっちが正しいかは誰にもわからない。

 

まあ、とにかく…

 

『狩場の悲劇』における「洞窟」と『スリー・ビルボード』における「馬小屋」は、同じ意味を持つということを覚えておいてほしい。

 

 

そうだったのか…

 

 

そして洞窟から抱えられて出て来た時の「顔が火のように燃えていた」と表現された「オリガの火照り」は、別の形で再現された…

 

 

ウィロビーによる「顔面への吐血」と、その跡を消すための「ガソリンをかけての燃焼」ね…

 

アンジェラも馬小屋から、愛する人に抱えられて出て来たんだわ…

 

だけどオリガとは違って、死んだ状態で…

 

 

うわあ…なんてこった…

 

 

「濃厚なキス」の放心状態から戻ったオリガは、興奮しながらこんなことを言う。

 

「今のあたしは、俗に言うこわいものなしって気持ちよ!今朝は恐ろしさから逃れるすべを知らないあたしだったのに。今は……今は幸福から身をかくす場所もないくらい!あっちには夫が座って、あたしを待っているんだわ……ホ、ホ……何よね、そんなこと!たといあの人がワニや恐ろしい毒蛇だとしたって……ちっともこわくないわ!あなたを愛しているんですもの、あとは何一つ知りたくないの。」

中央公論社版(訳:原卓也)より

 

 

これって…

 

 

『スリー・ビルボード』では「順番」が逆にされたんだよ。

 

馬小屋から抱きかかえられて出て来る前、つまり死ぬ直前のアンジェラは、これとほとんど同じセリフをウィロビーに言ったはずだ。

 

『恐ろしさから逃れるすべを知らなかった今朝のあたし』の部分が、『実の母親に「お前なんかレイプされればいい!」と言われ、人生への絶望から逃れるすべを知らなかった今朝のあたし』になったんだね。

 

そして『あっちには夫が座って、あたしを待っているんだわ』が、『馬小屋のあっちにある家には奥さんが座って、あなたを待っているんだわ』にアレンジされたんだ。

 

 

つまり、こうゆうことやな…

 

「今のあたしは、俗に言うこわいものなしって気持ちよ!今朝は実の母親に《お前なんかレイプされればいい!》と言われ、恐ろしさから逃れるすべを知らないあたしだったのに。今は……今は幸福から身をかくす場所もないくらい!あっちにある家では奥さんが座って、あなたを待っているんだわ……ホ、ホ……何よね、そんなこと!たといあの人がワニや恐ろしい毒蛇だとしたって……ちっともこわくないわ!あなたを愛しているんですもの、あとは何一つ知りたくないの!」

 

 

もし浮気相手の女性にこんなこと言われたら、きっと妻帯者は焦るよね…

 

 

でも…

 

ここまで言わせてしまう男が悪いわ…

 

相手は恋愛経験も人生経験も無いに等しい19歳の娘…

 

それをこんなふうにしてしまうなんて無責任よ。本当に酷い…

 

 

まるで経験者みたいやんけ。

 

お前も十九の時にそんなことがあったんか?

 

 

あ、あるわけないでしょ…

 

そんなこと…

 

 

そういえば前にこんなこと言ってなかった?

 

花笠君が「深読み探偵学校」の学生時代に行った熱海合宿の夜に、どうのこうのって…

 

もしかして「貫一お宮」みたいなことがあったんじゃないの?(笑)

 

 

 

やめて!そんな話は…

 

大迷惑よ…

 

 

「貫一お宮」とかユニコーンとか、お前らホンマはいくつや?

 

最低でもアラフィフやろ…

 

 

君たち…

 

『狩場の悲劇』と『スリー・ビルボード』に話を戻していいかな?

 

 

ご、ごめんなさい!どうぞ!

 

 

さっき花笠君が言った通り、19歳の彼女にここまで言わせてしまった男が悪いんだ。

 

『狩場の悲劇』では、あのセリフのあとに予審判事とオリガの「どう不倫関係を続けるか?」をめぐるやり取りが長々と続く。

 

面白いのは、熱烈キスの興奮が醒めてきたオリガは次第に冷静になって、現実的なことを言い出すんだよ。

 

それを予審判事が必死に説得するんだね。自分の都合のいいように…

 

 

つまり、ディープキスの直後が感情のピークで、そっから徐々にまともに戻るっちゅうことやな。

 

 

その通り。

 

だけど『スリー・ビルボード』のウィロビー署長とアンジェラでは、おそらくそれが逆になった…

 

『狩場の悲劇』の「洞窟から屋敷に戻る場面」の描写を真逆にすると、ウィロビーとアンジェラの「描かれなかったシーン」にピッタリと収まるんだよね…

 

まずは、逃げた花嫁を発見して屋敷に連れて行った時、予審判事はこんなことを口にした…

 

「やっと見つけましたよ……いやもう、へとへとですよ……庭に出て行って、ふと見ると、彼女が並木道をぶらついていましてね……『どうしてこんなところにいるんです?』ときいたら、『だって、とっても息苦しいんですもの!』と、こうですからね。」

中央公論社版(訳:原卓也)より

 

 

「とっても息苦しい」って…

 

まさに居場所がなくて家を飛び出したアンジェラじゃんか…

 

 

焼死体となって発見されたシーンにも読めるな…

 

「並木道」が「スリー・ビルボードの道路」や…

 

映画のポスターには、道路沿いにそびえ立つ三枚のオンボロ看板のわきに止まるパトカーが描かれとった…

 

そんな場面、映画には出て来んかったのに…

 

 

 

あのポスターは怪しいよね…

 

さて、予審判事が「屋敷に行こう」と言った時、オリガはこう答えた。

 

「でも、そんな急に言われたって……まるで火事場へ急ぐみたい……何を考えだすやら、わからないわね!」

中央公論社版(訳:原卓也)より

 

 

火事場…

 

その後にアンジェラが炎で燃やされることを暗示してる…

 

 

そして小説の作者である元予審判事は、この時の自分を振り返って、こんなことを言う…

 

それにしても、何という不注意な話だろう!今にもだれかが並木道を通って、われわれの姿に気づきかねないという場合なのに、わたしは彼女の腰を抱き、彼女はわたしの手をやさしく撫でていたのだ。

中央公論社版(訳:原卓也)より

 

 

スリー・ビルボード前で車に乗せる前、ウィロビーもアンジェラにそうやっとったっちゅうことか…

 

 

ウィロビー署長は腰に手を回すのが好きだよね…

 

病院の中でも、通りがかったドクターに見られても平気な顔で、奥さんの腰や尻を撫でていた(笑)

 

 

 

そして予審判事は、冷静になってしまったオリガを必死で説得した。

 

さっきと同じように「彼(夫)」の部分を「彼女(奥さん・妻)」に置き換えて読んでみてくれ…

 

「僕のところへ来いって言うけど……」彼女は考え考え、つぶやいた。「あたしには、あなたの言ってることが、よくわからないわ……彼(奥さん)が何て言うか、あなたにはわからないのかしら?」

 

「彼(妻)がどう言おうと、君に何の関係があるんだい?」

 

「(中略)もう言わないで、その方がいいわ……もうやめてちょうだい……あなたが愛してくれるなら、それ以上あたしは何も要らないわ。あなたの愛があれば、地獄だって生きて行かれるもの……」

 

「しかし、どうしようっていうんだい、おバカさんだな」

 

「あたし、ここで暮らすことにするわ、だからあなたが……毎日来てよ……あたし、会いに出て行くから…」

 

「(中略)だめさ、そんなことはできない相談だよ!僕は今この瞬間、君をこの上なく愛してるよ……狂おしいほど嫉妬深くなってるくらいだ……」

 

中央公論社版(訳:原卓也)より

 

 

相手を「自分にとって都合のいい女」にしようと必死な男が口にしそうな台詞の典型ね…

 

「とにかく今すぐヤリたい」という思いが、にじみ出てるわ…

 

 

確かに文字面だけ見ればそうかもしれない…

 

だけど、たとえ「嘘」のようにしか聞こえないことでも、その時は「本気」なんだよ…

 

別に予審判事やウィロビーを弁護するわけじゃないけど…

 

たぶん男性なら誰でも似た経験はあるはずだ…

 

そうだよね?

 

 

鳥類のワイに振るな。人類と違って発情期以外にトチ狂ったりせえへん。

 

しかもワイらは優雅なダンスで性的魅力をアピールするんやで…

 

 

予審判事の焦りはピークに達する…

 

ウィロビーも初めてアンジェラを連れ込む時は、こんな感じだったんだろう…

 

並木道に立ちどまっている暇はなかった。決定することが必要だった……わたしは今や事実上わたしの妻となった《赤いワンピースの女》をひしと抱き寄せた。この瞬間のわたしには、自分は本当に彼女を愛している、それも夫としての愛情で愛しているのだ、彼女はわたしの女であり、彼女の運命はわたしの良心にかかっているのだ――こんな気がした……わたしは、自分がこの女性と永久に結ばれ、離れることのできないのに気づいた。

「よくきくんだよ、ね、君!」わたしは言った。「この一歩は大胆きわまるものなんだよ……(中略)ひょっとしたら、僕の社会的地位をぶちこわして、にっちもさっちも行かぬような不自由を与えるかも知れない。でも、もう道は決まったんだ!君は僕の妻になるんだよ……君以上の妻は僕には必要ないし、そんなほかの女どもなんぞ、どうなって構いやしないさ!僕は君をしあわせにしてみせる。眼の中に入れても痛くないほど大事にするよ。僕に生命のある限り、君を教育して、君を立派な女性に仕上げるんだ!そのことは約束するよ、だから、さあ、約束の握手!」

中央公論社版(訳:原卓也)より

 

 

何言ってんだ?大丈夫この人?

 

ホントに男って切羽詰まるとこんなこと口走っちゃうの?

 

 

結構いるのよね…こういう「育てたい願望」のオジサンって…

 

自分をリチャード・ギアや舘ひろしか何かと勘違いしてね…

 

だけど気になるセリフだわ…

 

もしかしてアンジェラもこれと同じこと言われたんじゃないかしら?

 

 

「僕に生命のある限り、君を教育して、君を立派な女性に仕上げるんだ!そのことは約束するよ」

 

 

 

ああ、そうか!

 

だから「ウィロビー署長が生きてる間は逮捕させない」ってメッセージを…

 

 

アンジェラはずっとこの約束を信じていたんだよ。死んだ後もね…

 

だからほとんどの時間、ウィロビーの妻アンに入りこんで一緒に暮らしていたんだ。

 

あの病院での尻撫でシーンの時も、中身はアンジェラだと思う。

 

 

19歳ってまだ精神的に未熟だから、こんなふうに押されたら断れなくなっちゃうのよね…

 

しかもアンジェラは「誰も自分のことを理解してくれない。どこにも居場所がない」って落ち込んでいた…

 

男からしたら「いいカモ」よ…

 

 

今回は手厳しいね、花笠君…

 

さて、予審判事はこんなふうにダメ押しした。ウィロビーも同じこと言ったんだろうね…

 

「今すぐ僕のところへ行っちまおうよ!(中略)早いにこしたことはないさ……行こう!」

 

「でも……そんなの何だかおかしいわ……」

 

「君はスキャンダルが心配なんだろ?そりゃ、めったに見られぬくらいの、大々的スキャンダルが持ちあがるだろうさ。しかし君がこのままここに残るのにくらべりゃ、千のスキャンダルが持ちあがる方が、よっぽどましだよ!僕は君をここへ残して行きゃしないよ!君を残して行くことなんぞ、できるもんか!わかるだろ、オリガ?君のその弱気や、女性の論理はすてて、言う通りにするんだ!自分の破滅が厭だったら、僕の言う通りにするんだ!」

中央公論社版(訳:原卓也)より

 

 

必死やな…

 

言うとることは無茶苦茶やけど…

 

 

そしてウィロビーは「事」が済んで、こんなことを考えた…

 

わたしは幸福に燃える彼女の顔や、幸福な満ち足りた愛をたたえている眼を眺めやった。と、この美しい幸福そうな女性の未来に対する恐怖に、胸がしめつけられる思いがした。わたしに対する彼女の愛も、奈落へつきおとすための余計な一押しにすぎなかったのだ……未来のことなど考えずに笑っているこの女性は、最後にはどうなるのだろう?わたしの心は、憐れみや同情よりもはるかに強いため、そのいずれとも名づけ得ぬ感情にしめつけられ、逆立ちした。

中央公論社版(訳:原卓也)より

 

 

 

最っ低…

 

 

あの狂った情熱はどこへ行っちゃったの?

 

 

これが男ってもんや…

 

人間の。

 

 

そして、生まれて初めてオトナの愛を知った孤独な19歳の娘は、スイッチが入ってしまう…

 

それが最初に紹介したセリフだ…

 

「今のあたしは、俗に言うこわいものなしって気持ちよ!今朝は実の母親に《お前なんかレイプされればいい!》と言われ、恐ろしさから逃れるすべを知らないあたしだったのに。今は……今は幸福から身をかくす場所もないくらい!あっちにある家では奥さんが座って、あなたを待っているんだわ……ホ、ホ……何よね、そんなこと!たといあの人がワニや恐ろしい毒蛇だとしたって……ちっともこわくないわ!あなたを愛しているんですもの、あとは何一つ知りたくないの!」

 

 

ああ…

 

 

パニくったウィロビーは、気が付いたらアンジェラの首を絞めていた…

 

そしてその時、彼女の顔面に吐血してしまう…

 

焦ったウィロビーは、アンジェラの遺体にガソリンをかけ、痕跡が完全に消えるまで焼いた…

 

事件の真相は、おそらくそんなところだろう…

 

 

でも、どこから犯人のDNAが検出されたんだろう?

 

吐血の跡は完全に消したんでしょ?

 

 

そういや映画の中では「どこから発見されたか?」については完全スルーやったな…

 

証拠隠滅が図られた事件にとって大事なことやんけ…

 

なんでや?

 

 

あえて伏せられていたんだよ…

 

 

ええ!?

 

 

ウィロビーは大事なところを忘れていた…

 

「口の中」だ。

 

 

口の中!?

 

 

殺す直前に「濃厚なキス」を交わしていたから、唾液が残っていたんだ。

 

アンジェラの遺体写真を見ると、口が閉じられているのがわかる。

 

あれなら唾液が残っていてもおかしくないよね。

 

 

だからエビングの町の人はミルドレッドに冷淡だったのね…

 

 

なんで?

 

 

だって普通のレイプ事件なら、口の中から犯人の唾液が発見されることはあまり考えられない…

 

声を出されないように口は塞がれてしまうことが多いから…

 

なのに唾液が残るほどの「濃厚なキス」を交わしているなら、それは何らかの恋愛関係があった可能性を示す…

 

ミルドレッドが「娘はレイプされて殺された!」って叫べば叫ぶほど、町の人は「違うんじゃない?」って思ってたのよ…

 

 

きっとそうだろうね。

 

ミルドレッドだってそこはわかっていたはずだ。だけど認めたくなかったんだろう…

 

無惨にも殺された自分の娘が、犯人と「濃厚なキス」を交わしていたなんて…

 

 

なんてこった…

 

キスひとつから、ここまで深読みするとは…

 

 

なんだか切なくなってきたな…

 

一曲歌ってもいい?

 

 

え?ここで!?

 

 

教官の歌なんて…ホント久しぶり…

 

そう…あの夜以来…

 

 

ギター借りるよ。

 

 

 

 

 

 

 

つづく

 

 

 

 

 

 

 

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エピローグ第20話:なぜディクソン巡査はミルドレッドの黒人差別発言にあそこまで激怒したのか?『THREE BILLBOARDS OUTSIDE EBBING, MISSOURI(スリー・ビルボード)』徹底解剖

  • 2019.02.21 Thursday
  • 16:05

 

 

 

 

 

 

ウィロビー署長がディクソンから目をそらした「ある瞬間」に、バッヂが「消えた」んだよ…

 

 

ある瞬間?

 

 

それが「アンジェラ憑依の瞬間」のサインだったんだ。

 

 

・・・・・

 

 

何を言ってるのか意味がわからない人は、きっと前回を未読の人だよね。

 

まずはコチラからどうぞ。

 

 

 

バッヂが消える瞬間までを詳しく見ていこう。

 

どうしてもアンジェラの死体発見現場を「再確認」したかったウィロビー署長は、どうでもいいことを話し続けているディクソンを鬱陶しく思い、「邪魔だからあっちへ行ってろ」と冷たくあしらった。

 

 

 

ウィロビー署長はディクソンに「うだうだ言ってると、お前の母ちゃんの前歯をへし折るぞ」とか言ってたね。

 

ディクソンは「へ!?」って驚いてたけど(笑)

 

 

あれも「ディクソンへのアンジェラ憑依」の伏線だ。

 

この次のシーンは「アンジェラの母ミルドレッドが前歯を抜くシーン」だから…

 

 

ああ!そうか!

 

 

・・・・・

 

 

「邪魔するな、あっち行ってろ」と言われたディクソンは、「自分が連れて来たくせに何だよ…」みたいな表情で、ウィロビー署長から離れる。

 

そしてこの時、ディクソンは「妙な動き」を始めるんだ。

 

急に体中がムズムズしてきたらしく、顔をしかめて身をねじらせ、体を掻き始めるんだよね…

 

 

 

そういや変な動きしとったな。何やったん?

 

虫にでも喰われたんか?

 

 

あれが「アンジェラ憑依の瞬間」だ。

 

異物である「霊」が身体に入って来たので、ディクソンは違和感を感じていたんだよ。

 

この映画では憑依が何度も行われるけど、その瞬間が描かれるのはここだけだ。

 

とても重要な描写だよね。

 

 

でも、なんでディクソンなのさ?

 

 

ディクソンは精神年齢が子供並みだ。ピュアだから敏感なんだよね。

 

子供って、少しでも痒かったりムズムズすると、すぐに反応して掻いたりするでしょ?

 

そういう「わかりやすいリアクション」が欲しかったんだと思うよ。

 

他の大人、特に女性では絵にしづらいから…

 

 

確かにペネロープやウィロビーの嫁アンが同じ動きしたら、完璧にコメディになってまう…

 

ディクソンというキャラやさかい成立するんや…

 

 

身をよじらせて体を掻きながら離れていったディクソンは、後方で立ちどまる。

 

ここで「憑依完了」だ。

 

ディクソンに入りこんだアンジェラは、ストレッチでもするかのように上半身を軽く振って、新しい体の動きを確かめた。

 

そしてこの時バッヂは消えていた…

 

きっとディクソンが身体を掻いていた時に落っことしたんだろう…

 

 

 

そういえば、この後のディクソンの描写も変だったわ…

 

再びウィロビー署長のところへ近付いて行くんだけど…

 

なぜか「顔」が見えないの…

 

 

 

その通り。

 

ここからマーティン・マクドナーはディクソンの顔を意図的に映さなかった。

 

ディクソンがウィロビー署長の背後で話しかけた時も、なぜか顔が見えない不自然なアングルだったんだよね…

 

 

 

 

わかったぞ…

 

「映さなかった」んじゃなくて、「映せなかった」んだ…

 

アンジェラが憑依して間もない時間帯は、顔つきが「変」になっちゃうから…

 

あの時のペネロープや秘書パメラみたいに…

 

 

 

 

その通り。

 

この現場検証シーンみたいな一連の流れの中で「変化」を描いちゃったら、一発でバレちゃうからね。

 

だからディクソンの顔は映されなかったというわけ…

 

ちなみに変化するのは「顔」だけじゃない。

 

「声」もおかしくなっちゃうんだ。

 

だからあの時のディクソンの声も普段とは違うものだった。明らかに違う声なんだよ…

 

 

・・・・・

 

 

せやけど…

 

なんでマーティン・マクドナーは、ディクソンのバッヂとアンジェラ憑依を関連付けたんや?

 

別にあそこでバッヂ落とさんでもええやろ…

 

 

そこは脚本を書いたマーティン・マクドナーに聞いてみないとわからない。

 

だけど僕が思うに、この映画の重要な登場人物である「霊体アンジェラ」の存在を、観客にそれとなく伝えたかったんじゃないかな…

 

誰かが「ディクソンの失われたバッヂ」に疑問を抱き、このシーンに注目するようにね…

 

それ以外に、このシーンでバッヂが突然消えた理由が説明できないんだ…

 

 

・・・・・

 

 

おい、マーティン。

 

お前さっきからずっと黙ったまんまやけど、具合でも悪いんか?

 

同じイギリス人で同じ名前なんやさかい、何か言うたらどうや?

 

 

そんな無茶振りされても困るよね…

 

 

ハ、ハイ…

 

チョット オテアライニ イッテモイイデスカ…

 

 

ええで。たっぷりお花摘みしてきたらええ。

 

 

でも、なぜあのタイミングだったのかしら?

 

別に他の時でもよかったのに…

 

 

アンジェラは、ウィロビーを安心させたかったんだと思う。

 

 

安心?

 

 

あの日の午前中、ウィロビー署長は初めてミルドレッド宅を訪れた。

 

テレビのニュースでも大々的に報じられた「スリー・ビルボード」に書かれているメッセージが気になったからだ。

 

ウィロビーは「RAPED WHILE DYING」の「DYING」が「末期癌である自分のことなのでは?」と不安に思っていた。

 

なぜなら、後日ミルドレッドの顔面に吐血したように、犯行当日にもアンジェラの顔面に吐血していたから…

 

でも、そんなことにミルドレッドが気付くはずがない。死体を徹底的に焼いて、証拠は完全に消していたからね。

 

だけどミルドレッドから「あなたがDYINGであることを知っている」と言われて、激しく動揺してしまった。

 

 

この時ウィロビーはこう考えたはずだ…

 

「なぜ気付いたんだ?俺に結びつくようなものは全て消したはずなのに…」

 

そして急いで署に戻り、無能なディクソンに預けていたアンジェラ事件ファイルをチェックした。

 

だけど何度見ても「自分に結び付くようなもの」はない。

 

これで安心するどころか、ますますミルドレッドの言葉を不気味に感じてしまったウィロビーは、ディクソンを連れて遺体発見現場であるスリー・ビルボードへ向かう。

 

もしかしたら現場に何か見落としてるものがあったんじゃないかと考えたんだ。

 

あの時のウィロビーは、地面が焦げた跡の残っている場所にしゃがみ込み、とても悲痛な面持ちをしていたよね…

 

愛していたアンジェラを殺してしまった切ない想い…

 

そしてアンジェラの母から自分が犯人のレイプ魔だと思われているかもしれないということ…

 

いろんな感情が込み上げていたはずだ…

 

 

 

そんなウィロビーの姿を、霊体アンジェラはずっと見ていた…

 

そして可哀想だと思ったのね…

 

だから「安心させてあげなきゃ」と…

 

 

そうか…

 

本当はアンジェラは「ウィロビー署長が死にかけてる間は逮捕しないで」と母ミルドレッドに伝えたかったんだもんな…

 

残された僅かな時間を平穏に過ごさせてあげたくて…


 

ディクソンに入ったアンジェラは、何か見落としがあるんじゃないかと不安そうに探しているウィロビーに向かって声をかける。

 

 

「探しても何も出て来ませんよ」

 

 

それはウィロビーにとって違和感のある内容で、しかもいつものディクソンと違う声だった…

 

ウィロビーは、一瞬「?」と思って振り返る。

 

だけどその違和感をスルーしてしまうんだ…

 

 

 

ディクソンがそんなこと言うのは、どう考えても変や…

 

そもそもこいつは何も捜査しとらんやんけ…

 

事件ファイルすら、中身をまともに見とらん…

 

 

ウィロビーを安心させるための言葉だからね。

 

アンジェラは、動揺して疑心暗鬼になってるウィロビーに「証拠になるようなものは絶対に無いから大丈夫」と伝えたかったんだよ。

 

 

この日は、そのままずっとディクソンに入ってたの?

 

あの取調べの時も?

 

 

そうだよ。

 

ディクソンが取調室にいた時、アンジェラは最初は意識を消していた。

 

だけど母ミルドレッドの「ニガー発言」でスイッチが入ったんだ。

 

あのシーンをよく見ると、ディクソンが怒り出すタイミングが変なんだよね。

 

 

なんでスイッチが入ったんや?

 

 

生前のアンジェラは、自分の家族が大嫌いだった。

 

口が汚くて、乱暴だからだね。

 

ペネロープに憑依した時は、そんな我が家を「動物園」に喩えていたくらいだ。

 

 

自分でもオカンを「ビッチ」呼ばわりしとったやんけ…

 

 

「ビッチ」と「ニガー」では「口の汚さ」のレベルが全然違う。

 

アンジェラは自分の家を最低だと思い、ウィロビー家みたいな家庭に憧れていたんだ。

 

ウィロビーも家族の前で汚い言葉を言うことがあったけど、ちゃんと「ごめんな」って謝っていたからね。

 

 

だから母ミルドレッドの発言に、あそこまで過剰反応したんだよ。

 

「そういう口の汚いところが嫌いだったのよ!」って…

 

そしてウィロビー署長が入ってきて、ディクソンは外で待機するように言われ、取調室を出て行く。

 

その時、あのジェスチャーをするんだ。

 

「ちゃんと見てるからね!」と…

 

 

 

ああ、なるほど…

 

 

だからウィロビー署長が救急車で運ばれる時に、呆然としたディクソンの顔がアップで映されたのね…

 

あれは、心配してたことが起きてしまったアンジェラの表情だったんだわ…

 

 

 

そうだね。

 

 

あのときディクソンが「黒人差別発言」に過剰反応した理由は「2つある」って言ってたけど、もう1つは何なの?

 

 

映画『スリー・ビルボード』の元ネタになったチェーホフの『狩場の悲劇』だよ。

 

映画を作ったマーティン・マクドナーは、あの小説が元ネタであることを、こっそり伝えたかったんだ…

 

 

あの小説に黒人は出て来んかったやろ。

 

 

たしかに小説には出て来ない。

 

でも、主人公の予審判事セルゲイ・ペトローウィチや、事件の発端となる四角関係のモデルは、ロシアの国民的作家プーシキンだと話したよね?

 

 

 

それが何の関係があるの?

 

 

実はプーシキンの曽祖父、つまり「ひいおじいちゃん」は、アフリカから連れて来られた黒人奴隷だったんだ。

 

アブラム・ペトローウィチ・ガンニバル(1696-1781)

 

 

ハァ!?

 

立派な徽章を付けてて、どう見ても黒人奴隷には見えないんですけど…

 

 

だってロシア帝国軍の少将、そしてタリン総督にまで登り詰めた人物だからね。

 

 

ええ!?どゆこと!?

 

 

そもそも彼がロシアに来たきっかけは、オスマントルコのスルタンがアフリカから奴隷として連れて来たところを、ロシアの外交官がコンスタンティノープルで拉致したことによる…

 

そしてロシア皇帝ピョートル1世に献上されたんだね…

 

啓蒙君主だったピョートル1世は「人間の能力に人種の優劣はない」という考えを実証するため、拉致されてきた黒人少年に帝王学を施し、世界の中心パリに留学させ、当時最高の知識人たちと交わらせ、最先端思想を身に付けさせた。

 

そして黒人少年アブラム・ペトローウィチ・ガンニバルはめきめきと才能を開花させ、軍人としてロシア帝国の少将まで登り詰め、首都ペテルブルグにほど近いタリン総督に抜擢された。

 

そんな彼の「曾孫」が、あのプーシキンだったんだよ。

 

 

『狩場の悲劇』の主人公セルゲイ・ペトローウィチが「アフリカから来たオウム」を飼っていたのは、そういうことだったのね…

 

 

こういうルーツを持っているから、プーシキンを快く思わない人たちは、彼が「黒人の血」を引いていることを陰で嘲笑した。

 

いっぽう奴隷制度が盛んだったアメリカでは、反奴隷制度を訴える人たちがプーシキンをキャンペーンに利用したんだ。

 

「ロシアの国民的作家プーシキンは黒人の血を引いている。だから黒人が白人に劣るなどという考えは間違っている。黒人差別はやめるべきだ」とね…

 

 

なるほど。そうゆうことか…

 

 

まったく大したもんだよ、マーティン・マクドナーという男は…

 

チェーホフの作品を引用するだけじゃなくて、こんな深い仕掛けを施してしまうんだからね…

 

 

せやけど『狩場の悲劇』の「ディープキス」はどうなったん?

 

それが『スリー・ビルボード』に大きな影響を与えたっちゅうハナシの途中やったはずや…

 

 

ああ、思い出した!

 

これだね!

 

 

 

(トイレで咳き込む音)

 

「ゲホッ、ゲホッ…」

 

 

 

あいつ吐いとんのか?

 

大丈夫か〜?マーティ〜ン!?

 

 

(トイレから)

 

「ダ、ダイジョブデス…」

 

 

 

 

では「濃厚なキス」の話に戻ろうか…

 

いよいよ、この映画の最後の秘密を解き明かす時がきた…

 

 

・・・・・

 

 

 

 

 

つづく

 

 

 

 

 

 

 

 

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エピローグ第19話:カメラ目線と消えたバッヂ 『THREE BILLBOARDS OUTSIDE EBBING, MISSOURI(スリー・ビルボード)』徹底解剖

  • 2019.02.20 Wednesday
  • 20:45

 

 

 

 

 

 

『狩場の悲劇』と同様に、『スリー・ビルボード』でも「濃厚なキス」は一度しか登場しない…

 

自殺する夜のウィロビーと妻アンによるキスシーンだ…

 

あのキスに、重大な秘密が隠されていたんだよ…

 

 

 

・・・・・

 

 

なんのこと言ってるのかわからない人は、きっと前回を未読の人ね。

 

まずはコチラからどうぞ。

 

 

 

なぜ花笠君が顔を赤らめているのかわからない人はコチラをどうぞ(笑)

 

 

 

 

ディープキスに重大な秘密が?

 

どうゆうこっちゃ?

 

 

まずはチェーホフ『狩場の悲劇』における「濃厚なキス」について説明しよう。

 

「濃厚なキス」を行ったのは、のちに殺されるヒロイン「森番の娘オリガ(19歳)」と、その真犯人である予審判事セルゲイ・ペトローウィチ…

 

なんと、オリガと伯爵家の執事ウルベーニンの結婚式の真っ最中の出来事だった…

 

 

あれ?

 

オリガは「自分には貴族の血が流れている。だから貴族として扱われて当然だ」と思っていたのに、執事と結婚しちゃったの?

 

 

実は執事ウルベーニンも貴族なんだ。最も低い階級の貴族だけどね。たぶん男爵あたりなのかな。

 

彼の家は代々隣の郡に小さな領地を持っていたんだけど、借金の担保に取られてしまい、収入源を失ってしまった。

 

だから伯爵家の執事として雇われていたんだよ。

 

 

執事も「領地を失った没落貴族」やったんか…

 

ポーランド人兄妹と一緒やんけ…

 

 

それを臭わせるための設定だろうね…

 

伯爵家を乗っ取ったポーランド人兄妹の素性は一切描かれないんだけど、チェーホフはヒントをいくつも用意していたんだ…

 

まあ、それは置いといて…

 

 

執事とオリガの結婚式は、この地域の貴族や上流階級が勢揃いする盛大なものだった。

 

年老いた没落貴族と、平民の中でも身分の低い森番の娘の結婚式にもかかわらず、ね。

 

おそらく伯爵は「自分は困った貴族に救いの手を差し伸べただけでなく、ここまでのことをしてあげる立派な男だ」と虚栄心や見栄を満たしたかったんだろう。

 

だけどそれが裏目に出たんだ…

 

上機嫌の伯爵はウルベーニンとオリガに「新郎新婦のキス」を求めた。

 

そしてすべての参列者の視線がオリガに集まった。

 

その瞬間、オリガは自分が「この地域の上流階級の人々の中で最も貧乏で醜い男」を選んでしまったことに気付いてしまったんだ…

 

しかも付添人を務めるギリシャ風美男子の予審判事セルゲイ・ペトローウィチが、すぐ隣で「それで本当に満足なのか?」とでも言いたげな目をしてジッと見つめている…

 

 

こんな感じで(笑)

 

 

 

それに耐えきれなくなったオリガは、席を離れ、そのまま式場へは戻って来なかった。

 

予期せぬ花嫁の失踪に、花婿のウルベーニンはもちろん、参列者は騒然とする。

 

オリガの付添人を務めていた予審判事セルゲイ・ペトローウィチは、伯爵領内の保安官みたいな地位でもあるため、花嫁捜索の役を買って出た。

 

そして伯爵家の広大な庭園の中を探し回り、以前オリガが「ここで皆に見守られながら死にたい」と言っていた岩山の洞窟の中で発見する…

 

 

ゴルゴダの丘が投影されとる岩山の洞窟やな。

 

『磔刑図』アンドレア・マンテーニャ

 

 

洞窟の中で、オリガは予審判事に「あなたと結婚したかった」と涙ながらに《愛の告白》をした…

 

それに対して予審判事は…

 

わたしは彼女の手をとって言った。「涙を拭いて、行きましょう……向こうで待ってるから……さ、もう泣くのはたくさん。もういいでしょう。」わたしは彼女の手にキスした……

 

「もういいんだ!君は愚かな真似をしたんだもの。これからその報いを受けるのさ……自分がわるいんですよ……さ、もういい、気を静めて……」

 

「愛してくださるわね?ね?あなたって、とても立派でハンサムだわ!愛してくださるでしょ?」

 

「もう行かなけりゃ、君……」わたしはこう言ったが、自分が彼女の額にキスし、その腰を抱きよせていることや、彼女が熱い息吹きでわたしを灼き、わたしの首にひしと抱きついていることに気づいて、ひどくびっくりした……

 

「もういいんだ!」わたしはつぶやく。「もういいんだよ!」

中央公論社版(訳:原卓也)より

 

 

なにが「もういいんだ!」やねん…

 

どう考えてもアカン展開やんけ…

 

 

「ひどくびっくりした」とか言ってるけど、超わざとらしい…

 

自分でオリガの手にキスして、次に額にキスして、さらには腰に手をまわして抱きよせてるじゃんか…

 

 

この流れだと、次は唇ね…

 

でも「花嫁失踪」は、ポーランド人兄妹の描いた「伯爵家乗っ取り計画」には無かったはず…

 

これら一連の対応は、すべて予審判事セルゲイ・ペトローウィチのアドリブってこと?

 

 

だろうね。

 

「伯爵家乗っ取り計画」において、オリガは重要なキーパーソンだ。

 

先代伯爵の血を引く彼女が「目覚めて」くれないと、この計画は成功しない。

 

途中で死なれたり「執事の後妻」で満足されたりでもしたら、計画はオジャンになってしまうんだよ…

 

 

なんで?

 

 

伯爵家を乗っ取るためには、この地域の貴族たちを黙らせる必要がある。

 

どこの馬の骨かもわからないポーランド人兄妹が突然現れて伯爵家を乗っ取ったら大問題になってしまうからね…

 

そのためポーランド人姉妹は、この地域の上流階級に属する人間たちを「共犯者」にする作戦を練った。

 

伯爵が領地を追い出されたことの「責任」を彼らに共有させ、何も文句を言えない状態にしようとしたんだ。

 

つまり「伯爵が結婚していながら内縁の妻を囲い、卑しい身分にもかかわらず女が我が物顔で主人ぶっていることに、意見するどころか嬉々として従っていた」という負い目を与えようと考えたんだね…

 

その仕上げが「Shooting Party(狩りのピクニック)」における、上流階級勢揃いの前での「サプライズ登場」だったわけだ…

 

 

そんじょそこらの女じゃ伯爵相手に「卑しい身分にもかかわらず我が物顔で主人ぶる」とこまで行かへんわな…

 

同じように高貴な血を受け継いどるっちゅう自信でもない限り…

 

 

彼女…「乗っ取り計画」に利用されたのね…

 

本当は先代伯爵の血を引く相続人のひとりだったのに…

 

 

だから「花嫁失踪」の際、ポーランド人兄妹の兄で「監視役」を務める「眉毛の黒い太った男カエタン・プシェホーツキイ」は、心配になって後をつけて来たんだ…

 

五分ほどしてから、彼女を両手に抱きかかえて洞窟から運びだし、さまざまの新しい印象にぐったりしている彼女を地面におろしてやった時、わたしは入口のすぐわきにプシェホーツキイの姿を見いだした……彼はそこに立って、意地のわるい眼でわたしを見つめ、静かに拍手をしていた……わたしは彼をまじまじと眺めてから、オリガの腕をとって、屋敷に向った。

 

「今日にも君はここにいられなくなるだろうぜ!」わたしはふり返って、プシェホーツキイに言った。「そういうスパイ行為はタダじゃすまんよ!」

中央公論社版(訳:原卓也)より

 

 

「スパイ」言うてもうたやん…

 

 

たぶんイラっと来たんだろう…

 

自分は必死のアドリブで「プロジェクト失敗」の大ピンチを乗り切ったのに、監視役のカエタンは身を隠すでもなく堂々とオリガや読者の前に姿を現して「たいした役者だね」みたいな態度を取ったもんだから…

 

 

それで変な間があったのね…

 

予期せぬ展開にパニくって、「これはどういうことなのか?」と考えていたんだわ…

 

そして自分の立場と役割を思い出し、あわてて去り際に捨て台詞を吐いた…

 

やや「勇み足」気味の捨て台詞を…

 

 

パニくってカメラ目線でネタバレ寸前のことを叫んでしまった『カメラを止めるな!』の日暮監督みたい(笑)

 

 

 

まさにそうだね。

 

そして『スリー・ビルボード』でも、このシーンが再現された。

 

 

そんなのあったか!?

 

 

・・・・・

 

 

警察署でのミルドレッド取り調べシーンだよ。

 

なぜかあの場面は、ミルドレッドが取調室の窓から向かいの建物にある広告代理店を覗くところから始まる。

 

広告代理店のオフィスでレッドと秘書のパメラが「いちゃついている姿」が意味有り気に映し出されるんだ…

 

 

 

そういえばそうだったね…

 

何の意味があったんだろう?

 

 

あれは「洞窟内でイチャついてたイケメン予審判事とオリガ」の投影だ。

 

窓の周りのレンガが「岩山の洞窟」っぽいでしょ?

 

ここからあの場面が再現されることの合図みたいなもんだね。

 

 

合図!?

 

 

イチャつくカップルを覗いていたミルドレッドを、取調室の中でディクソンは黙って見ていた。

 

『狩場の悲劇』のカエタンと同じように「入口のすぐわき」でね…

 

そして微妙なムードになったところで、ウィロビー署長が割って入った。

 

その時ディクソンは、思いっきり《カメラ目線》をする。

 

そして去り際に『お前を見てるからな!』とジェスチャーをするんだ…

 

 

 

確かに、完璧なカメラ目線ね…

 

 

ああ!あれオイラも気になってたんだ…

 

しかも「指差しポーズ」も日暮監督と被ってる…

 

 

そこは偶然だろう…

 

上田慎一郎監督に聴いてみないとわからないけど…

 

 

・・・・・

 

 

せやけどディクソンの「ニガー/カラード」のヒートアップは何やったん?

 

さんざん「黒人差別するな!」とか言うといて、ディクソンはあの後、黒人の新署長にめっちゃ差別的な態度とってたやんけ…

 

 

理由は2つある。

 

 

2つ?

 

 

まず1つめ…

 

あの取調べの日のディクソンには、アンジェラが入っていたんだ。

 

 

ハァ!?

 

 

アンジェラがディクソンに?

 

 

僕としたことが、これをすっかり見落としていた。

 

彼女の憑依を見抜けたのが、臭いペネロープ、秘書パメラ、ウィロビーの妻アン、小人のジェームズと脇役ばかりだったので、てっきりメインキャラには憑依しないもんだと決めつけていたんだ…

 

でも、そうじゃなかった。あの日のディクソンには間違いなくアンジェラが入ってる。

 

重要なサインを僕は見逃していたんだよ…

 

ディクソンの「消えたバッヂ」というサインを…

 

 

ディクソンのバッヂ?

 

たしか「広告代理店への殴り込み」の時に失くしたって…

 

 

違うんだよね。

 

あの殴り込みに向かう日の朝、既にバッヂは左胸に付いてなかった…

 

 

 

あれ?変だな…

 

 

というか、ディクソンは数日間ずっとバッヂを付けていなかったんだよ…

 

ミルドレッドの取調べの時も、左胸のあるべき場所にバッヂはない…

 

 

 

ホントだ…

 

じゃあ、いつ失くしたんだ?

 

 

この日の朝は付いていた。

 

 

そして、ウィロビー署長による「アンジェラ遺体発見現場の再調査」に同行した時も、まだ付いていた…

 

 

だけど…

 

ウィロビー署長がディクソンに背を向けてしゃがみ込んでいた時…

 

なぜか左胸からバッヂは消えていた…

 

 

 

 

ええ!?どゆこと!?

 

 

ウィロビー署長がディクソンから目をそらした「ある瞬間」に、バッヂが「消えた」んだよ…

 

 

ある瞬間?

 

 

それが「アンジェラ憑依の瞬間」のサインだったんだ。

 

 

・・・・・

 

 

 

 

つづく

 

 

 

 

 

 

 

 

 

JUGEMテーマ:映画

エピローグ第18話:チェーホフとプーシキン(キスへのプレリュード)『THREE BILLBOARDS OUTSIDE EBBING, MISSOURI(スリー・ビルボード)』徹底解剖

  • 2019.02.17 Sunday
  • 19:40

 

 

 

 

 

まさにそうだと思うよ。

 

ミミズク婆さんは「伯爵家乗っ取り計画」の現場責任者だからね。

 

「黒幕」がペテルブルグにいた「伯爵の隠し妻ソージャ」で、「監視・つなぎ役」がその兄である「眉毛の黒い太った男カエタン」だったんだ。

 

 

さ、最初から全員グルだったってこと?

 

 

僕はそう深読みする。

 

なぜなら…

 

劇中における「予審判事セルゲイ・ペトローウィチ」と「眉毛の黒い太った男カエタン」の一連の描写は、あまりにも不自然過ぎるんだ…

 

 

・・・・・

 

 

何を言ってるのかわからない人は、きっと前回を未読の人ね。

 

こちらからどうぞ。

 

 

 

予審判事セルゲイ・ペトローウィチは「眉毛の黒い太った男カエタン」を最初に伯爵から紹介された時から、「なぜか」必要以上に彼に食って掛かっていた。

 

そしてカエタンが「ポーランド人」であることに何度も言及し、ことあるごとに見下す発言を繰り返すんだ。

 

挙句の果てには伯爵に向かって「あんな奴は今すぐ追い出してくれ」とまで迫るんだよね。

 

だけど町の郵便局で「偶然」会った時は「なぜか」そうじゃなかった。

 

二日前に予審判事は伯爵たちの前でカエタンに《豚野郎》と最大級の侮辱発言をしたんだけど、それにもかかわらず、郵便局では「カエタンの方から話したそうだった」というんだね。

 

そしてカエタンは予審判事に「伯爵が淋しがっているから屋敷に来てください」と言うんだ…

 

あれだけ自分を侮辱した相手に対して…

 

 

どうゆうこっちゃ?

 

予審判事は伯爵の目を欺くために、わざとカエタンを「毛嫌いするふり」しとったんか?

 

せやから伯爵がおらん時は「仲が悪い演技」をする必要がないっちゅうことか?

 

 

だろうね…そうとしか考えられないんだ…

 

というか、そもそも郵便局でカエタンと会ったこと自体が、妙な話なんだよ…

 

 

妙?

 

 

あの日、ミサの途中で教会から出た予審判事と医師イワノーウィチは、町の中心部を散歩していた…

 

そしてなぜか予審判事は突然「郵便局へ行こう」と言い出すんだ。何の用事もないのに…

 

するとそこに、不自然なほどの大金をペテルブルグに送金している「眉毛の黒い太った男カエタン」がいた…

 

そして予審判事は、伯爵の前では「目障りだ!この豚野郎!」と罵っていたくせに、なぜかここでは友好的な態度を見せる…

 

 

何もかもが、あやしすぎるね…

 

 

カエタンが送金している大金を伯爵の金だと「見抜いた」予審判事は「伯爵から金をむしり取ること」について「朝飯前だ」と読者に説明する。

 

そして予審判事と医師は郵便局を出た。

 

すると、町の目抜き通りを「十字行列のパレード」が通っていたんだ。

 

ここでも不自然なやり取りが交わされる…

 

「あそこに僕らの仲間がいる!」群衆から一段離れて、わきの方に立っている、この郡の上流階級を指さしながら、ドクトルが言った。

 

「僕らのじゃなく、君の仲間でしょう」わたしは言った。

 

「同じことじゃないか……あそこへ行きましょうや……」

中央公論社版(訳:原卓也)より

 

 

 

妙な会話ね…

 

まるで「今の予審判事は上流階級ではないけど、いずれそこに属する」とでも言いたげな…

 

 

まさしくそれを暗示しているんだよ。

 

教会でオリガが予審判事セルゲイ・ペトローウィチに言った「あたしたちの席は前の方に定められている」と同じようにね。

 

この小説における主人公の地位「予審判事」とは、伯爵領内の村々で起こる日常的な揉め事を処理する役職だ。

 

重大事件は郡の上級判事が担当するから、西部劇でいう「田舎町の保安官」みたいな存在だね。

 

だから上流階級の身分ではないので、彼も教会では一般大衆席にいた…

 

しかし「まえがき」と「あとがき」に登場する「8年後のセルゲイ・ペトローウィチ」は、明らかに「上流階級」の身なりだったんだ。

 

高い身分であることを示す立派な徽章をつけ、金のネックレスや高価そうな宝石のついた指輪をしてね…

 

彼は安月給の予審判事時代に放蕩生活を送り、まったく貯金はなかった。

 

しかも村民への暴行事件により予審判事の職を罷免させられている。そんな経歴があったら、よその土地でも公職には就けないだろう。

 

なのに8年後、彼は非常に良い暮らしをしているんだ。

 

「隠し妻ソージャ」と「眉毛の黒い太った男カエタン」の兄妹によって領地から追い出された伯爵を世話しながらね…

 

 

それってまさか…

 

 

伯爵家を乗っ取ったポーランド人の兄妹から経済支援を受けていたとしか考えられない。

 

最初からの計画通りにね。

 

あの二人にとって伯爵は、領地に居てもらっては困る存在だけど、どこかで野垂れ死んでもらっても困る存在だ。

 

なぜなら…

 

まだ「世継ぎ」がいないから…

 

 

ああ、そうか…

 

伯爵家乗っ取り計画は、伯爵夫人ソージャに「伯爵の子」が生まれないと完成しないんだ…

 

そーじゃないと伯爵の死後に親類たちが相続人になってしまう…

 

 

でも、もう不可能よね…

 

伯爵は廃人同然だから…

 

 

「不可能」とは言い切れない…

 

それを臭わす描写があるんだ。

 

「まえがき」で元予審判事は、編集長の本来の面会日である土曜日に来れない理由として、こう熱弁する。

 

「明日わたしは非常に重大な用件でオデッサへ発つのです」

 

 

なんやねん「非常に重大な用件」って?

 

 

それは明かされないんだ…

 

だけど推測はつく。

 

 

どゆこと!?

 

 

元予審判事セルゲイ・ペトローウィチは、廃人同然となった伯爵を連れて、黒海沿岸の都市オデッサへ向かった…

 

伯爵の妻ソージャと会うために…

 

 

ええ!?

 

 

表向きの「すじがき」はこうだ…

 

普段は領地とモスクワで離ればなれに暮らす伯爵夫妻が、オデッサの保養地で久しぶりの「夫婦水入らずの時間」を過ごす…

 

そしてソージャ夫人は、めでたくバカンス中に待望の「世継ぎ」を懐妊…

 

 

だけど本当の父親は…

 

 

元予審判事セルゲイ・ペトローウィチ…

 

 

その通り。

 

そして実は、これには「元ネタ」があるんだ。

 

チェーホフの大先輩であるロシアの国民的作家プーシキンは、オデッサ時代に一人の女性をめぐって「四角関係」にあったと言われている。

 

どうもチェーホフは、この四角関係をモデルに小説『狩場の悲劇』を書いたようなんだよね…

 

その「四角関係」の登場人物は…

 

名門伯爵家の出身で、オデッサがあるノヴォロシア地方の総督を務めるミハイル・ヴォロンツォフ伯爵…

 

その妻で、ポーランドきっての名門貴族の家に生まれたエリザベタ…

 

伯爵の部下にあたるラエフスキー大佐…

 

そして、作家活動が素行不良と判断され、首都ペテルブルグからオデッサへ左遷されていた役人で、酒色に溺れた放蕩生活を送っていたプーシキン…

 

 

 

伯爵夫人が、夫の部下である愛人との間に隠し子を!?

 

 

しかもその子供は「伯爵の子」として生まれ、育てられたんだ…

 

伯爵自身も「自分の子ではない」ということを知っていた上で…

 

 

マジか…

 

せやけど『狩場の悲劇』の人間関係は「オデッサの四角関係」とクリソツやな…

 

「伯爵・執事・予審判事との三股オリガ」と「密かに夫の部下の子を産むポーランド人のソージャ夫人」を足したら「エリザベタ」やんけ…

 

 

そうだね。

 

小説『狩場の悲劇』を本当に理解するためには、19世紀におけるロシア貴族とポーランド貴族の関係を知ることが必須だ。

 

そしてこの「四角関係」における伯爵夫妻は、19世紀前半におけるロシア・ポーランドの両国関係を象徴するカップルなので、詳しく紹介しておこう。

 

 

ノヴォロシア総督ミハイル・ヴォロンツォフ伯爵は、貴族として、そして軍人として、類まれなき指導力を発揮した。

 

対ナポレオン戦争を指揮し、戦後にはフランスで占領軍の司令官を務めたほどの、統治能力に長けた人物だ。

 

そして、ロシアがトルコから支配権を手に入れた黒海沿岸ノヴォロシア地方の総督に任命され、のちに戦略的にも経済的にもロシアの重要拠点となる新興都市オデッサの発展に寄与した。

 

 

 

大人物やんけ。

 

 

その妻であるエリザベタは、ポーランド有数の大貴族の娘として生まれた。

 

ちなみに彼女は、女帝エカテリーナ二世の愛人であったグレゴリー・ポチョムキン元帥の姪にあたる。

 

そして彼女の父ブラニツキ伯爵は、ポーランド貴族の中における親ロシア派の中心的人物だった。

 

フランス革命の余波によりポーランドで「民族自決&農奴解放」の機運が高まった際、ブラニツキ伯爵は「大貴族の領地と特権」を守るためロシアと手を組み、ロシア軍をポーランド国内へ進駐させる。

 

それによってポーランドの主権は奪われ、国土はロシアやプロイセンに分割され、国家は消滅してしまった。

 

一握りの大貴族の既得権益を守るために、ポーランド国民は犠牲になったんだね。

 

つまりエリザベタは、ロシア人から見れば「大ロシア帝国誕生の功労者の娘」であり、ポーランド人から見れば「売国奴の娘」ということになる…

 

 

そんなビッグなカップルに割って入ったプーシキンも相当だね…

 

 

なにせ当時プーシキンが憧れていたのが、かのバイロン卿だからね。

 

だけどやっぱり「四角関係」の主役はエリザベタだ。彼女の「恋多き情熱の血」は「父譲り」ともいえる。

 

 

ポーランド有数の大貴族で国家消滅を招いたオトンの?

 

 

そう。彼女の父ブラニツキ伯爵は「あるイタリア人女優」をめぐって「超有名人」と決闘をしたことで有名なんだ。

 

なかなかここまで身分の高い大貴族が決闘をすることは珍しい。

 

しかもその決闘の相手とは、あの稀代の色事師カサノヴァ…

 

 

まあ…

 

 

お父さん…

 

娘の四角関係も隠し子も納得…

 

 

面白いよね。

 

さて、ロシアへの編入という荒業でポーランドの大貴族は領地を何とか維持したんだけど、19世紀中頃に事態は急変する。

 

ロシアがクリミア戦争で英・仏に敗れたことにより国力が低下し、ロシアの奴隷状態だったポーランド人農民が反乱の狼煙を上げ始めたんだ。

 

かつてのように強圧的に行けないロシアは、農民たちの不満を解消するため、最終手段に出る。

 

ポーランド人貴族から領地を没収し、農民たちに分け与えてしまったんだよね…

 

これによって19世紀後半、ロシア国内に多くの「領地を持たない貧困ポーランド人貴族」が誕生してしまったんだ…

 

 

チェーホフの小説『狩場の悲劇』で「ロシアの伯爵家をポーランド人の兄妹が乗っ取る」のは、こういった時代背景があったのね…

 

 

カエタンとソージャ兄妹の親は、まさに、ロシアによって領地を没収されたポーランド貴族だったに違いない…

 

ペテルブルグで伯爵と出会って結婚するくらいだから、ただの平民ではないはずだ…

 

あの「乗っ取り劇」は、かつてポーランド大貴族とロシア皇帝が結んだ約束を裏切った、ロシア人への復讐だったんだよ…

 

 

なるほど…

 

チェーホフが『狩場の悲劇』を「ああいう物語」にした意味が、わかった気がする…

 

 

サスガ フカヨミ メイタンテイ…

 

アノモノガタリカラ プーシキンノ「シカクカンケイ」ヤ「ポーランドブンカツ」ノレキシヲ ヨミトルトハ…

 

 

これが教官の力よ。

 

深読みエージェントは、アメリカやイギリスやロシアといった大国だけの専売特許じゃないの…

 

おわかり?

 

 

・・・・・

 

 

そんな言い方せんでもええやろ、花笠君。

 

まるでマーティンに恨みでもあるみたいやんけ。

 

 

もしかして留守番中に、なんかあったとか?

 

留守番チューだけに(笑)

 

 

バ、バカなこと言わないで…

 

 

じゃあなんでイチイチ赤くなるんだよ(笑)

 

 

・・・・・

 

 

きょ、教官…ホントに何でもないんです!

 

 

そうか…

 

わかったぞ…

 

 

え?

 

 

ずっと気がかりなことがあったんだ…

 

なぜもっと早く気が付かなかったんだろう…

 

 

なんのハナシしとんねん?

 

 

キスだ…

 

 

ハァ!?

 

 

あ、あ、あれは…私の意思ではなく…

 

 

チェーホフの小説『狩場の悲劇』から映画『スリー・ビルボード』に転用されたアイデアで、僕は重大なものを見落としていた…

 

 

え?

 

 

それが…キス…?

 

 

『狩場の悲劇』と同様に、『スリー・ビルボード』でも「濃厚なキス」は一度しか登場しない…

 

自殺する夜のウィロビーと妻アンによるキスシーンだ…

 

あのキスに、重大な秘密が隠されていたんだよ…

 

 

 

・・・・・

 

 

 

 

つづく

 

 

 

 

 

 

 

 

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