そもそも「スリー・ビルボード ミズーリ州エビングの郊外」って、どういう意味?〜『THREE BILLBOARDS OUTSIDE EBBING, MISSOURI』徹底解説1

  • 2018.11.23 Friday
  • 15:44

 

 

 

 

 

さて、2018年上半期の映画界の話題を『SHAPE OF WATER』と二分した話題作『THREE BILLBOARDS OUTSIDE EBBING, MISSOURI』(邦題:スリー・ビルボード)を解説するよ。

 

例によってネタバレとか全然気にせずに進めていくんで、映画を未見の方は御注意を。

 

でも僕の解説を読んでから観たほうが絶対面白いと思います。

 

 

 

ええ!?

 

『Come Rain or Come Shine』徹底解説番外編『雨に唄えば』をやるんじゃなかったの!?

 

前回*そう予告したじゃんか!

 

(*前回:『あめふり』徹底考察)

 

 

また中断して別のやつ始めるんか?

 

これで何個目や?

 

Dr. Seussの『グリンチ』徹底解説…

 

ジョニー・マーサーの名曲徹底解説…

 

イサク・ディネーセン『バベットの晩餐会』徹底解説…

 

 

 

まだあるよ!

 

コーエン兄弟初期作品徹底解説…

 

カズオ・イシグロ『夜想曲集』徹底解説…

 

 

これも忘れてもらっては困るな。

 

クリストファー・ノーラン徹底解説

 

 

お前がドヤ顔で言うな!

 

 

2019年は忙しくなりそうだな…

 

こんなの書いてても1円にもならないのに。

 

 

好きでやってるんでしょ…

 

表の仕事では書けないから…

 

 

まあそうなんだけど(笑)

 

さて、この映画は欧米で高く評価され、数々の賞を受賞した。

 

 

「怒りは、さらに激しい怒りを生み出す。だから冷静になろう」っちゅうテーマやさかいな。

 

混迷する中東情勢や、欧米における難民・移民問題、そして根強い人種差別などに向けた痛烈なメッセージやで。

 

 

そのへんのことは、こちらを見てもらえば十分だ。

 

「スリー・ビルボード」のウィキでストーリーも確認できるし、多くの人が実に気持ちのこもった解説記事を書いている。

 

『スリー・ビルボード』検索ページ


 

じゃあもうわざわざやる必要がないじゃんか。

 

人が既に書いてることは書かない主義なんでしょ?

 

 

だから書くんだよ。

 

 

へ?

 

 

この映画って、あれだけ怒りに燃えていた主人公が、一縷の望みであった最後の容疑者が「シロ」だと判明して、絶望を越えて「もういいや」って感じのムードになるところで終わるんだ。

 

脱力ムードでね…

 

 

ええやんけ。

 

怒りは、さらなる怒りを生み出すだけや。

 

 

でもさ、冷静になってよく考えてみて。

 

もし自分が主人公の立場だったら「もういいや」って思えるかな?

 

自分の娘がレイプされて、焼死体で見つかったんだよ?

 

しかもなぜか警察は全く捜査してくれなくて、それに対して署長に抗議したら、町全体から「空気読めない人」扱いされてしまうんだよ?

 

それが何年も続けば根負けして「もういいや」ってなるかもだけど、たった1年で諦めちゃうかな?

 

 

そう言われてみれば…そうやな…

 

 

しかも犯人の手掛りはゼロ…

 

よくよく考えてみれば、あの主人公のママさん、可哀想…

 

ちょっと「やりすぎ」だったけど…

 

 

そこが「罠」なんだ。

 

この映画最大の仕掛けは、観客に対してフランシス・マクドーマンド演じる母親ミルドレッドを、あたかも「怒りに狂って暴走する人物」のように思わせることなんだよね。

 

でも冷静に考えてみると、彼女の怒りは正当なものなんだ。

 

たしかに警察署への放火だけは、ちょっとやり過ぎだったけど(苦笑)

 

脚本を書いて監督もしたマーティン・マクドナーが天才的だったから、観客はすっかり騙されてしまうんだよ…

 

ビル・ウィロビー署長を尊敬するあまり「署長を批判するお前こそアタマがオカシイ!」と考えたエビングの住民みたいにね…

 

 

せやけどミルドレッドの放送禁止用語連発は、正直ワイでも引いたで。

 

 

でも、それは彼女だけじゃなかったよね?

 

他の主要登場人物も同じだった。高潔な人だと尊敬されているウィロビー署長もね。

 

ミルドレッドもウィロビー署長も、子供の前でNGワードを連発していたんだ。

 

しかも、ミルドレッドの子供はもう高校生だからわかるけど、ウィロビー署長の子供はまだ6歳前後だよ?

 

なぜ男性はOKで女性はダメなのかな?

 

偉い人が暴言を吐くのはOKで、庶民が同じことをやるとクズ扱いなの?

 

 

そ、それは…

 

 

これこそがこの映画の最も重要なテーマなんだ。

 

似たようなことは現実社会でもたくさんあるよね。

 

権力や影響力をもつ人物が間違ったことをしたり暴言を吐いても、その人物を崇拝する人たちは何も疑問に感じない…

 

だけど彼らは、その人物を批判する人には激しく怒りを感じ、徹底的に叩く…

 

「あんなに偉大な人を批判するお前は悪者だ!」ってね…

 

 

ああ!あるある!

 

それって…

 

 

え?

 

 

トランプさんや安倍首相を批判すると、そうなるんだよね。

 

 

あ、そうだね…

 

 

どないしたんや?冷や汗かいて…

 

 

い、いや…

 

別の例を出されるかと思って…

 

それで命を落とした人もいるからね…

 

 

 

 

さ、さて…解説を始めようか…

 

まずはタイトルの意味から…

 

 

『三枚の広告看板』!以上!

 

解説の必要なし!

 

 

それはどうかな?

 

 

うわ!だ、誰!?

 

 

我々は公園兄弟。

 

向かって左側、ショートヘアーが弟「山下」で…

 

右側のダンディなマフラーが兄「上野」だ…

 

くれぐれも音読みはしないでくれ。

 

 

山下・公園と上野・公園…?

 

でもその姿、どっかで見たような…

 

 

気のせいだろう。こんな兄弟は世界中にゴロゴロしている。

 

だよな、DUDE?

 

 

ですね、DUDE。

 

 

でゅーど?

 

 

おかえもんと俺たちは、ボンクラ(DUDE)仲間なんだ。

 

 

このシリーズでの僕は、『ムー』時代の樹木希林をリスペクトする名探偵「金田三(かねたさん)耕助」なんです。

 

お間違いなく…

 

 

お前はやっぱりナイスDUDEだな(笑)

 

しかしこっちの二人は、シャレにならないDUDEのようだ…

 

まさに重度のDUDE(笑)

 

 

なぬ!?

 

 

よく考えろ。

 

この映画のタイトルは『THREE BILLBOARDS OUTSIDE EBBING, MISSOURI』だ。

 

『THREE BILLBOARDS』ではない。

 

 

でも邦題の『スリー・ビルボード』のほうがスッキリしてるじゃんか。

 

「ミズーリ州エビングの郊外」って、別に要らないよね?

 

しかも「エビング」って町は、架空の町なんでしょ?

 

 

確かに架空の地名だ。

 

 

じゃあ「カニング」でもいいってことだよね!

 

ウェーイ!カーモン・ベイビー・アメリカ!

 

We love KANING!

 

We Japanese are the most KANING lover people in the world!

 

 

 

君たち、やめてくれないか…

 

日本の恥だよ…

 

 

なんですと!?

 

 

あの町の名前が「エビング」であることには重要な意味があるんだ…

 

そしてその名がタイトルに入ってることが、映画最大のキーポイントなんだよ…

 

 

 

なぬ!?

 

なぜ「カニング」じゃダメなんですか!?

 

なぜ「エビング」じゃなきゃいけないんですか!

 

 

 

Why Japanese people?

 

なぜ気付かないのだ?

 

『THREE BILLBOARDS OUTSIDE EBBING, MISSOURI』で「この映画は、こういう映画ですよ」という説明になっているのに、なぜ途中でぶった切る?

 

 

 

へ?

 

 

それでは、名探偵「金田三耕助」が解説しよう…

 

この映画を理解する上での最重要ポイントは、

 

ウディ・ハレルソン演じるビル・ウィロビー署長が「どんな人物であるか」ということを見誤らないようにする

 

というところにある…

 

 

 

 

 

え?主役はフランシス・マクドーマンド演じるミルドレッドでしょ?

 

 

 

一応はそうなっているけど、この物語の真の主役はビル・ウィロビー署長だ。

 

 

 

ええ!?

 

 

まさに、その通り…

 

他の登場人物は、彼の周囲で振り回されるだけの、愚かで悲しい存在にすぎない…

 

 

 

そ、そうなん!?

 

 

脚本・監督を務めたマーティン・マクドナーは、様々な手法を使って観客をミスリードさせようとしているからね…

 

 

Martin McDonagh(1970−)

 

彼は、実際に現実社会で起こっているようなことを、この映画の中で再現してみせているんだ…

 

そういう意味では、非常に怖い映画だといえる…

 

でもマーティン・マクドナーは、決して絶望しているわけではない…

 

嘘と欺瞞だらけの世の中だけど、真実を探そうと思えば、実は「目の前」にあったりするんだよ…ってことを伝えようとしたんだ…

 

だから彼はタイトルと冒頭シーンに、ちょっとした「仕掛け」を施した…

 

世間の空気に流されず、常に物事の本質を見ようとしている人のためにね…

 

 

 

まどろっこしい!早く教えろ!

 

 

まだわからんか?

 

「THREE BILLBOARDS」は「THREE BILL BOARDS」なんだよ。

 

「ビル(ウィロビー)にまつわる三枚の掲示板」という意味になってるんだ。

 

 

 

へ?


 

そして「OUTSIDE EBBING」は「EBBING」が「EBB(引き潮・衰弱)」の現在進行形だから…

 

「衰弱していくこと以外は」という意味なんだね。

 

 

「エビ」じゃなくて「エブ」?

 

 

さらに「MISSOURI」は「MISS OUR I」…

 

つまり「見誤る、我々、私は」という意味になっている…

 

そしてこれらを全部つなげると…

 

THREE BILL BOARDS OUTSIDE EBBING, MISS OUR I

ビルにまつわる三枚の掲示板(衰弱していくこと以外)を、私を含め我々は見誤る

 

という意味になっているんだね…

 

ビル・ウィロビー署長が病気で衰弱していること以外は騙されちゃダメ、ってことなんだよ。

 

 

だからタイトルをカットしてはいけないし、「カニング」でもダメなんだ。

 

わかったか、君たち。

 

 

たしかに…

 

 

では、もうその被り物を脱ぎたまえ。

 

我々は甲殻類が苦手なんだ。

 

 

すっかり脱ぐのを忘れてた…ごめんなさい…

 

でも「ビル・ウィロビー署長を見誤る」って、どうゆうこと?

 

 

そこをどう解説していこうか悩んでるところなんだ。

 

プランは3つある。

 

 

プラン?

 

 

|り放題プラン(全シーン全セリフ解説)全30回〜∞

 

△覆辰箸プラン(要点を解説)全5〜10回

 

おいそぎプラン(うわべだけ解説)全3回

 

どれを選ぶかによって、解説の仕方が変わってくる。

 

ちなみに提示されている回数は目安であって、その範囲内で必ず終わることを約束するものではない…


 

今回はタイトルだけで終わりそうな勢いだから、すでには無理っぽいよな…

 

そして,牢弁してほしいし…

 

もう残された選択肢は△靴ない…

 

 

「なっとくプラン」だね。了解。

 

このプランでは、ここで結論を先に言っておくことになっている。


へ?

 

 

ミルドレッドの娘アンジェラをレイプして殺害し…

 

さらに死体を焼いたのは…

 

 

 

ビル・ウィロビー署長である。

 

 

 

ええええ〜〜〜!?!?

 

 

なぜ驚くんだ?

 

映画の冒頭シーンでもそう描かれているし、それを示すセリフや行動もたくさん出て来るというのに…


 

でも、なぜ…?

 

 

そのへんを次回から、物語を追って解説していこうと思う。

 

というか、ウィロビー署長が犯人であることは、映画が始まってから10分も経たないうちに示され、その後の20分の中の言動によって明白にされるんだけどね…

 

つまり映画の冒頭30分の中で、きちんと観客に対して「ウィロビー署長が犯人」ということが描かれるんだ…

 

だけど不思議と見逃してしまう仕掛けになってる…

 

「誰もが尊敬するような白人男性は嘘をつかない」

 

「男に楯突く女は生意気」

 

という思い込みが僕たちの中のどこかにあるからだ…

 

怖いよね、先入観や印象操作ってやつは…

 

 

この映画は、観る者がその恐ろしさにハタと気づき、改めて自戒の念を抱くように作られているのだ。

 

ボケっとしてるとエビングの住人と同じことになってしまうけどな…

 

 

だからトンデモナイ映画なのか…

 

 

それでは、謎解きはディナーのあとに。

 

 

なんだか今夜はエビが食べたくなっちゃったな…

 

どうだろう、僕と一緒にエビングしない?

 

 

 

Yes, We love EBBING!

 

Let's enjoy EBBING TIME!

 

 

さっきは「日本人ならカニだよね」って言ってなかった?

 

おべっか?ごますり?

 

 

仕方がないんだニッポン人!

 

 

 

しかし君たちはいつもこんなふうに解説を進めているのかね?

 

 

ここだけの話ですけど、おかえもんって超がつくほどの照れ屋さんだから、まじめで重いテーマな時ほどこういう風にふざけてバカなふりしちゃうんです…

 

 

ははは、わかる。それが真性DUDEの姿だ。

 

 

なんか言った?

 

 

いやいや、こっちの話(笑)

 

うちらはライチャス兄弟の『EBB TIDE』でも聴いて待ってるとしようか。

 

これがホントの「エビ態度」なんちゃって。

 

 

 

 

 

 

JUGEMテーマ:映画

なぜミズーリ州?なぜこの服装?〜『スリー・ビルボード』徹底解説2

  • 2018.11.24 Saturday
  • 00:00

 

 

 

 

さて、前回は『THREE BILLBOARDS OUTSIDE EBBING, MISSOURI』というタイトルの意味を解説したね。

 

『スリー・ビルボード』徹底解説・第1回

 

今回は物語の冒頭シーンを見ていこう。

 

 

ねえねえ、おかえもん…

 

「MISSOURI」はホントにあんな駄洒落みたいな話なの?

 

他の人の記事を読むと、アメリカ南部がどうとか人種差別や男尊女卑がどうとか、って書いてあるよ。

 

 

まあ、もちろん、そういう側面もあるよね。

 

だけどそれでは「ミズーリ州でなければならない」理由にはならない。

 

そんな州は他にもいくらでもあるから…

 

 

そう。この映画の舞台は絶対にミズーリ州でなければならない。

 

かのコーエン兄弟のハリウッド・デビュー作『RAISING ARIZONA』が、「テキサス」でもなく「ニューメキシコ」でもなく「アリゾナ」だったのと同じように…

 

 

そういえば、そんなハナシもしたな…

 

あれは確か…

 

タイトルの中に「SINAI(シナイ山)」と「ZION(シオン)」を入れるため…

 

せやからコーエン兄弟はスタンリー・キューブリックの『博士の異常な愛情』から「POE&OPEネタ」を引用したんや…

 

「アルファベットを入れ替えろ」というヒントを与えるために…

 

『RAISING ARIZONA』って、どんな意味?

 

 

その通り。日本では『赤ちゃん泥棒』というタイトルになったようだが…

 

しかしよく覚えてたな、お前。

 

見た目は鳥だが、人並みの記憶力はあるようだ。

 

 

当たり前や!

 

そもそもこうして喋っとるやろ!ワイを普通の鳥扱いすな、ボケが!

 

ワイは鳥の中でもスペシャルな存在なんやで!いわば鳥貴族や!

 

 

きのうはエビだったから、今夜は焼き鳥にしようよ。

 

居酒屋にでも行って(笑)

 

 

どうせカワイイ店員が目当てなんやろ…

 

前のジョナサンの時みたいに…

 

このマセガキが!

 

 

晩御飯の話は置いといて…

 

『スリー・ビルボード』の舞台が「ミズーリ州」なのは、タイトルの駄洒落もあったけど、物語のアイデア自体にも深く関係していることなんだ。

 

「娘を失った母親が3枚の看板を掲げる」

 

「その3枚の看板に対して権力者が対抗する」

 

という映画の中で描かれる2つの筋は、舞台をミズーリ州に選んだからこそ思いついたアイデアなんだよね。

 

 

お前は脚本を書いたマーティン・マクドナーか!

 

なんでそんなことを言い切れるんや!?

 

 

日本No.1DUDEであるこの男の言うことは正しい。

 

まさしくそうなのだから。

 

 

このオッサンはDUDEというよりNEETや!

 

生涯で一度も会社勤めをしたことない非生産的人間の代表みたいな男やで!

 

 

残念でした〜

 

僕はもう46歳だから12年前にニートを卒業しましたよ〜んw

 

 

こいつまじムカつく…

 

せやったら、おまえはイエロー・トラッシュや!

 

この日本男児のクズめ!男の出来損ないや!

 

 

 

ぼくをおこらせたな…

 

 

し、しばりくん!?

 

なんでここに…

 

 

たまたまバイト帰りに通りがかったんだよね…

 

 

あんたのこと、ちゃいまんねん…

 

このオッサンのことで…

 

 

それならいいんだけど…

 

たまにはうちの店に打ち合わせに来てくれよな。じゃあね!

 

 

 

 

誰だ?あのカワイイ子は?

 

 

実はあの子、男の子なんです…

 

近所のヨナタン…じゃなくてジョナサンでバイトしてて…

 

 

ジョニー・マーサー『スカイラーク』徹底解説

 

 

こ、今度、連れてってくれないか…

 

そのヨナタンとやらに…

 

 

いいですよ。なんか違う兄弟の話になっちゃいそうですけど…

 

 

???

 

 

さて、本題に戻るとしようか。

 

まずはこれを見てほしい。ミズーリ州の州章だ。

 

 

 

へえ〜。ミズーリ州って、こんな州章なんだ。

 

でもなんでクマが睨み合ってるんだろう?

 

 

よく見ろ。

 

二頭の熊は「THREE BOARDS(3つの看板)」を挟んで睨み合ってるだろう…

 

 

ああ!ホントだ!でもなぜ!?

 

 

 

「3つの看板」と「睨み合う二頭の熊」で「州民と国家権力との緊張状態」を表しているんだよ。

 

 

き、緊張状態!?

 

 

看板の右半分には、白地に鷲が描かれている。あれはアメリカ連邦政府の国章だよね?

 

そして左上には紺地に「下弦の月」が、左下には赤地に「熊」が描かれている。

 

左側は上下でミズーリ州を表しているんだ。

 

この図形は、国家権力と州が「対等」であることを意味しているんだね。

 

そして、もし何か国家権力の過剰介入があったら、すぐさま合衆国を脱退するということを意思表示しているんだよ。

 

だから両サイドの熊は、怖い顔して睨み合っているんだね…

 

 

脱退!?

 

 

アメリカという国は、半独立国家の集合体みたいなものだからな。

 

だから『スリー・ビルボード』の中でも、アメリカ人の「country観」をネタにしたジョークが交わされる。

 

愚かなディクソン巡査の頭の中では、ミズーリ州から遠い州は外国同然で、イラクやシリアと区別がつかないんだ。

 

 

しかも看板の両サイドのベルトエリアには、興味深いことが書かれているよね。

 

左側には「UNITED WE STAND(共に立ち、一つになる)」

 

そして右側には「DIVIDED WE FALL(共に落ち、分けられる)」

 

実はこの州章の看板の周囲に書かれた文言が、映画『スリー・ビルボード』最大のトリックの元ネタになっているんだよ。

 

 

 

ええ?この標語が?どゆこと?

 

 

主人公ミルドレッドが出した「3枚の広告看板」のことだ。

 

これを分割(DIVIDED)して読めば、我々はメッセージを見落とす(WE FALL)ということ…

 

そして連結(UNITED)して読めば、我々はメッセージを立ち上げる(WE STAND)ことが出来るということ…

 

 

そしてその3枚の看板とは…

 

RAPED WHILE DYING

(娘は)殺されながらレイプされた

 

AND STILL NO ARREST?

(犯人を)まだ逮捕できないの?

 

HOW COME CHIEF WILLOUGHBY?

ウィロビー署長、なぜ?

 

 

この「分割読み」ではメッセージを見落としてしまう。

 

だけど映画の冒頭は、逆の順番で映し出されるんだ。

 

夜回り中のディクソン巡査が、看板張り付け作業に遭遇するシーンだね。

 

3枚を映し出される順番に「連結読み」すると、こんなふうになる…

 

 

HOW COME CHIEF WILLOUGHBY?

なぜ?ウィロビー署長は

 

AND STILL NO ARREST?

まだ逮捕されないの?

 

RAPED WHILE DYING

(娘を)殺しながらレイプしたのに

 

 

 

ああ!


 

Why Japanese people?

 

日本版のポスターは、そこに気付けるようなデザインにするようアドバイスしたのに…

 

他国版では裏側にして見せないようにした看板の文字を「左から読みやすいように」並べろと…

 

しかも「なぜウィロビー署長は?」を、いかにもアヤシイように1枚だけボカシておけば、日本人も気付くに違いないと思ったのに…

 

俺たちの映画をちっとも理解してくれない日本人も、これならと…

 

 

 

アドバイス?俺たちの映画?

 

 

い、いや…何でもない…

 

こっちの話だ。

 

 

3枚の看板が逆から順番に映し出されるのが、映画が始まって6分くらいのこと…

 

もうここで犯人がわかっちゃう仕組みになっていたんだね…

 

まったくもって大胆なシナリオだといえる…

 

「してやったり」とほくそ笑むマーティン・マクドナーの顔が目に浮かぶよ…

 

Martin McDonagh

 

 

しかしビックリだなあ…

 

3枚の看板とミズーリ州章の関係も…

 

 

これで全部じゃないよな?

 

まだ州章の秘密が残ってると思うのだが。

 

 

ああ、そうでした(笑)

 

主人公ミルドレッドの「戦闘服」と、ウィロビー署長愛用の「帽子」ですね…

 

 

 

ズコっ!なんだよコレ!

 

ミルドレッドの戦闘服は、権力に屈しないミズーリ州民の象徴だったのか(笑)

 

 

ちなみにミズーリ州のニックネームは「Show Me State」という…

 

訳すと「証拠を見せろ!州」だね…

 

 

なんだそれ!?意味わかんね。

 

 

かつてミズーリ州の人たちは、納得できる確かな証拠がないと首を絶対にウンと振らない頑固者だったそうだ。

 

だからこんな愛称がつけられた。

 

 

まさにミルドレッドだな…

 

しかし何で州章の看板の周りはベルトになってるんだ?

 

 

国家権力の乱用があれば、あのベルトを外して3枚の看板をバラし、合衆国からの独立も辞さず…って意味なんだ。

 

それを映画では、ウィロビー署長が間違った意味でベルトを外してしまった…

 

 

せやさかい左下の看板の子熊が赤く燃えとるんか…

 

なんてこった…

 

 

ちなみに左上の「下弦の月」は、州に昇格したばかりの時のミズーリ州の状態を表していて、「まだ成長途中」という意味なんだそうだ…

 

殺されたアンジェラも、まだ19歳だった…

 

 

あの州章から『スリー・ビルボード』の物語がほとんど引き出せる…

 

マーティン・マクドナーの想像力とストーリーテラーとしての能力は大したものだ…

 

さすが俺たち公園兄弟が見込んだだけはある…

 

 

俺たちが見込んだ?

 

さっきから何のこと言ってるの?

 

 

き、気にするな。お前には関係の無いことだ…

 

 

さて次回は、ウィロビー署長が犯人であることを自らの言動で示してしまうところを解説するとしましょうか…

 

ある意味、この映画で最大の見せ場でしょう…

 

「地位のある白人男性は嘘をつかない」「男に楯突く女は生意気」という先入観に囚われていると、完璧に見誤ってしまうシーンの連続ですからね…

 

それでは、また。

 

 

しかしこれ、ホンマに全10回以内で終わる「なっとくプラン」なんか?

 

まだ映画が始まって6分のところやで…

 

どう考えても回数無制限の「喋り放題プラン」のような気が…

 

 

何か言った?

 

 

 

 

 

 

JUGEMテーマ:映画

三枚のオンボロ看板が母に伝えようとしていたメッセージとは?〜『THREE BILLBOARDS OUTSIDE EBBING, MISSOURI(スリー・ビルボード)』徹底解説3

  • 2018.11.25 Sunday
  • 20:08

 

 

 

 

 

皆さん、こんにちは。

 

今回のシリーズに対し海外からも「そういうことだったのか!」と多数のメッセージが届き、ちょっと嬉しい反面、欧米人にも気付いていなかった人がたくさんいて「あんたら何を高評価してたんだ?」と軽い驚きを覚えている、名探偵・金田三(かねたさん)耕助です。

 

 

助手を務めます少年探偵団の団長ええじゃろうです。

 

 

天才戯作者のツルやナンボクやで。

 

 

向かって右側のモジャモジャヘアーが兄の上野・公園。

 

左のショートヘアーが弟の山下・公園。

 

二人合わせて公園兄弟です。

 

ちなみに「こうえんきょうだい」ではなく「きみぞのきょうだい」と読みます。

 

 

さて、第三回目の今回は、映画『スリー・ビルボード』の導入部である冒頭10分間について解説していこうと思う。

 

実はこの導入部で「事件の真相も含めた物語のすべて」が語られているんだ。

 

もう絶句するしかないほどの巧みな手腕でね…

 

 

映画に限らずあらゆる戯作や音楽でも、なんてことのない導入部の中にどれだけ物語全体のエッセンスを隠し込めるかが、芸術家の腕の見せ所だからな。

 

 

ですね。

 

僕が敬愛するコーエン兄弟の『RAISING ARIZONA(赤ちゃん泥棒)』や『バートン・フィンク』なんて、完璧すぎる導入部の映画の代表格と言えます…

 

 

(画像タップで記事へGO!)

 

 

だよね。

 

 

あんたらやっぱり似とる…

 

そういや名前もコー…


 

偶然じゃない?

 

では始めるよ。

 

まずは映画の冒頭10分間の構成を見てみよう。

 

 

〜1:00

朝靄の中で朽ち果てている3枚の看板

BGM『The Last Rose of Summer』

 

 

1:00〜1:15

タイトル

BGM『The Last Rose of Summer』

 

 

1:15〜1:40

看板のある道を車で走るミルドレッド

BGM『The Last Rose of Summer』

 

 

1:40〜2:30

看板を見ながら考え事をするミルドレッド

 

 

2:30〜5:10

広告代理店でレッドと看板の契約をするミルドレッド

 

 

5:10〜8:30

夜回り中に看板設置作業に出くわすディクソン巡査

あわててウィロビー署長に電話

 

 

8:10〜9:00

学校へ向かう車中で後ろを振り返って3枚の看板を見るロビー

 

 

9:00〜10:00

学校でロビーを降ろす

エビングのメインストリートを走るミルドレッド

BGM『Buckskin Stallion Blues』

 

 

 

細かい!

 

しかもBGMまで(笑)

 

 

もうね、素晴らし過ぎるオープニングシーンなんで、お願いだから観てくださいとしか言いようがない。

 

 

ここで流れるBGMも重要なんだよ。

 

「映像、セリフ、歌詞」の3つで物語が描かれているからね。どれか1つが欠けてもダメなんだ。

 

 

そうゆうやつ、前にもあったな…

 

 

『バートン・フィンク』のピクニックのシーンだね。

 

セリフで全てを語らずに、無言になった時に聞こえる歌を使って物語を紡いでいた。

 

あれは面白かったな…

 

『バートン・フィンク』で流れる『OLD BLACK JOE』の秘密

 

 

日本にもこれをわかる奴がいたのか…

 

この男、やはり只者ではない…

 

 

何ぶつくさ言ってるの?

 

 

それでは「朝靄の中の3枚の看板」シーンを解説しよう。

 

ここで流れる曲は『THE LAST ROSE OF SUMMER』の1番だ。

 

 

 

出た、ROSE(笑)

 

どうせまた「LORD’S(主)」の駄洒落なんでしょ?

 

 

その通り。英語の芸術作品では定番中の定番ネタだね。

 

この映画の中で「権力者ウィロビーに惨殺されたアンジェラ」には、イエス・キリストが投影されているんだ。

 

 

そんならウィロビー署長は、イエスを処刑した奴ってことになるな。

 

ローマ帝国ユダヤ属州総督ピラトか?

 

 

ピラトはイエスに「お前を有罪にする理由が見当たらない」と言ったから違うよね。

 

つまり映画の中でピラトを演じているのは、ウィロビーの後任であるアバークロンビー署長だ。

 

彼はミルドレッドに対して同じセリフを言っている。

 

ウィロビーはガリラヤ領主ヘロデ・アンティパスなんだよ。

 

 

だからオスカー・ワイルドだったのか!

 

ヘロデといえば『サロメ』で洗礼者ヨハネの処刑を許可した人だし、イエスにも死刑を求めた…

 

しかも服を脱がせて辱めを与えて…

 

 

だね。

 

では『THE LAST ROSE OF SUMMER』を聴いてもらおうかな。

 

映画ではルネ・フレミングが歌っているものが使われるんだけど、せっかくだからシャルロット・チャーチが聖都エルサレムで歌っているライブ・バージョンをどうぞ。

 

 

 

 

きれいな歌だよね。

 

 

さて、この歌が朝靄の中で流れだすと、3枚並んだ看板が映される。

 

この時は真ん中の看板しかよくは見えない…

 

 

その時の歌詞が、こうだ…

 

’Tis(It's)the last rose

それは最後のバラの姿

 

 

 

看板に見える裸のベイビーが「最後のバラの姿」…

 

つまり「最後のアンジェラの姿」であり「最後のイエスの姿」なんだね。

 

 

赤ん坊の上に「GAS」って書いてあるのは「ガソリン」のことやな。

 

 

お前ら、飲み込みが早いな。

 

 

そして次のショットでは、先程の看板が「裏」から映される…

 

この時に流れる歌詞はこうだ…

 

of summer

夏の

 

何を意味しているのか、わかるな?

 

 

 

そんなもん、わかるか!

 

何も書かれとらんやろ!

 

 

もしかして…

 

夏だから…

 

漢字の「七」とか…?


 

ピンポーン!

 

 

うそォ!?

 

 

嘘じゃないよ。

 

マーティン・マクドナーはコーエン兄弟の「三番目の兄弟」と言っていいくらいコーエン濃度の高い人物だ。

 

この映画の音楽も、コーエン兄弟をデビュー作から支えている、チーム・コーエンの大番頭ことカーター・バーウェルだからね。

 

そしてコーエン兄弟といえば、漢字や日本語の駄洒落を作品内で使うことで有名…

 

デビュー作『ブラッド・シンプル』では、ギリシャ神話と聖書のネタにかけて「月桂冠」を使い…

 

なぜ『ブラッド・シンプル』には「月桂冠」が出て来るのか?

 

 

そして『バートン・フィンク』では「USO」と「嘘」の駄洒落を使った…

 

LAでの出来事のほとんどは、バートン・フィンクの夢、つまり嘘だったからね…

 

『バートン・フィンク』のUSO(嘘)

 

 

「箱」が出て来たのも、ヘブライ語の「Hako」と日本語の「箱」の駄洒落だったんだよね。

 

あと…

 

 

この話をしはじめるとキリがないから先へ進もう。

 

次に映し出されるのは、最もボロボロな看板だ。

 

流れる歌詞は

 

Left blooming alone

咲いたままで

 

 

 

わお!エビだ!

 

やっぱり架空の町名「EBBING」は「EBB(衰退・衰弱)+ING」だったんだな!

 

 

だね。それを示すために、わざわざここまでボロボロにしたんだ。

 

もちろん「EBB(衰弱)」とは、末期がんに侵されているウィロビー署長のことを指す。

 

だけどウィロビー署長は、あっちの方は「お盛ん」だった。

 

だから歌詞が「left blooming(盛りのまま)」なんだね…

 

 

でもこの歌は、死んだアンジェラを「ROSE(バラ)とLORD(主イエス)」に喩えていたんじゃなかったっけ?

 

 

ウィロビー署長も「LORD(領主)」でしょ?

 

彼にはガリラヤ領主ヘロデ・アンティパスが投影されている。

 

そして実際、田舎町エビングの領主みたいなもんだったし…

 

 

最初からそう言えっちゅうの。

 

 

まだこの時は明確にはされていないんだ。

 

この先で、それがハッキリするってわけ。

 

次に映るのは、また「逆」から見た看板…

 

 

 

緑山スタジオの風雲たけし城か?

 

 

なにそれ?

 

これはクッパ城でしょ。

 

 

二人とも惜しい!

 

「建物」だということは合っていた…

 

実はこれ、エビング警察署を表しているんだよ。

 

 

 

 

アハ!確かに似てる(笑)

 

 

そして次に、最初に登場した看板がアップで映し出される。

 

ここでの歌詞は

 

All her lovely companions

彼女の愛すべき者たちはすべて

 

 

 

 

赤ん坊が映っとるから、アンジェラの家族のことを言うとるんやな。

 

 

ここで注目して欲しいのは、看板の左半分だ。

 

 

「Chancel」って書いてあるね。

 

何のことだろう?

 

チャンスをキャンセルするってこと?

 

 

「Chancel」とは、部屋の中に柵や壇などがあって、特定の人しかその先に入れない場所のことを言う。

 

例えば、教会や神社仏閣の会堂は、正面前方に基本的には聖職者しか入れないエリアがあるよね?

 

神仏に仕える人と一般信徒を分ける柵や壇があるでしょ?

 

裁判所もそうだ。裁判官・原告・被告・弁護人など参加者たちのエリアは、傍聴人のエリアと柵で分けられている。

 

そしてこの映画に登場する「Chancel」といえば…?

 

 

ええ?そんなんあったっけ?

 

神父さんは出て来たけど教会には行かなかったし…

 

 

警察署だよ。

 

怒れるミルドレッドには無意味だったが(笑)

 

 

 

ああ!なるほど!

 

 

あそこに書かれていた「Chancel」とは、警察関係者が事件に関与していることを示していたんだね。

 

そして看板の左上には、傾いたカップが描かれており…

 

色あせて赤っぽく見える液体がこぼれそうになっている…

 

 

一番下に書かれた「Chancel」は、進入禁止の柵がある警察署の1階のことだった…

 

ということは、一番上に描かれた「こぼれそうな赤い液体」は、上層階を示している…

 

映画で上層階が登場するのは、ウィロビー署長によるミルドレッドの尋問が行われた取調室のシーン…

 

そして、思わぬアクシデントが起こった…

 

 

もうわかっただろ?

 

 

上層階で、こぼれた赤い液体…

 

ウィロビー署長の吐血だ…

 

 

 

 

その通り。

 

こういうことだったんだね。

 

 

だけどここで「ある疑問」が浮かんでくる…

 

なぜ「警察官の吐血」と「ベイビーにガソリン」が、同じボードに描かれているのかな?

 

しかも読む方向としては

 

「警察官の吐血」→「ベイビーにガソリン」

 

だよね?

 

 

 

吐血の後にガソリン?

 

 

ああ!

 

もしかしてウィロビー署長は…

 

母ミルドレッドにやってしまったように娘アンジェラにも…

 

 

そういうことだ…

 

あんなふうに血を吹いてしまったら大変だよな…

 

肌を拭いても綺麗には消えないし、頭髪部に入りこんだものを完全に消し去るのは不可能だろう…

 

そうなると残された手段は、ひとつ…

 

 

なんてこった…

 

 

だからウィロビーは、あそこまで激しく動揺したんだね…

 

いや、動揺というか完全に怯えていた…

 

 

ただの吐血なら、あそこまで怯える必要はないよな。

 

なぜなら、余命幾ばくも無いことは自分自身が一番わかっていたはずだし、そのことをミルドレッドも知っていた…

 

 

ですね…

 

あそこまでウィロビーが怯えたのは、自分の吐いた血で染まったミルドレッドを見て「あの日のこと」がフラッシュバックしたからなんでしょう…

 

同じようにミルドレッドの娘アンジェラの頭部に吐血してしまい、そのあとガソリンで焼かざるを得なくなってしまったことが、走馬灯のように思い出されたんです…

 

だからウィロビーは放心状態で繰り返していた…

 

「やるつもりはなかったんだ…。アクシデントだったんだ…」と…

 

 

 

ああ…

 

普段は感情の起伏を表に出さないウィロビーが…

 

 

この時が、事件の真相を暴く唯一のチャンスだった…

 

放心状態の間に問い詰めたら、ウィロビーは全てを認めてしまっただろう…

 

 

だけどミルドレッドは、それに気付けなかった…

 

気付けなかったどころか、娘をレイプして焼き殺した相手に、同情してしまった…

 

手を握りしめ、「わかってる」なんて声までかけて…

 

 

 

ああ…全然わかってない…

 

 

冒頭シーンの話に戻ろう。

 

「警察官の吐血」と「ベイビーにガソリン」が提示された後に、三枚目の看板がアップで映し出される。

 

流れる歌詞は…

 

Are faded and gone

衰え、死んでしまった

 

 

 

これはそのまんまだね。

 

でも何で最後の看板は一部分しか映されないの?

 

 

この看板には大々的に「犯人の名前」が描かれてるからだよ。

 

だからここでは隠されているんだ。

 

 

ええ!?

 

 

さて、このあと「朝靄の中の三看板」が引きで映され、このシーンは終わる。

 

流れる歌詞は…

 

No flower of her kindred

彼女と血を分けたものは、もういない

 

 

 

「kindred(血族)」と「Mildred(ミルドレッド)」は掛けられとるな。

 

 

だね。「kind(優しい)」を「mild(柔和な)」に置き換えたんだ。

 

さて、ここで映画のタイトルが現れる。

 

こんな歌詞と共に…

 

No rosebud is nigh(near)

近くに蕾はない

 

 

そして場面はガラリと変わって、看板沿いの道をドライブする主人公ミルドレッドのシーンが始まる。

 

ミラー越しに彼女の顔が映し出されるんだね。

 

 

その時の歌詞が…

 

To reflect back her blushes

彼女の顔の火照りを映す

 

 

ピッタリだ…

 

 

そして最初の看板を通り過ぎたところで、何かが気になって車を止める…

 

その時の歌詞が…

 

To give sigh for sigh

あとを追いたくなるほど焦がれる想い

 

 

ミルドレッドは、通り過ぎた看板を見るためにバックする…

 

そして一番手前の看板が映し出される…

 

朝靄のシーンでは隠されていた看板が…

 

 

 

え?

 

ただの湖の絵じゃんか…

 

犯人の名前が描かれてるんじゃなかったの?

 

 

描かれてるでしょ?

 

でっかくウィロビーの名前が。

 

 

どこにもないよ。

 

書かれてる文字は小っちゃく「TH KS」と「for your Life!」だけ。

 

 

「THKS」は「Thanks」の略だから「Thanks for your Life!」ということだな…

 

 

全然名前じゃないよね。

 

あと描かれてるのは、でっかい湖の絵だけだ。

 

ついに妄想だけじゃなくて幻覚まで見え始めたか?

 

 

だから「湖」がウィロビーがなんだよ。

 

彼の名前「WILLOUGHBY」には「LOUGH(湖)」があるでしょ?

 

 

ハァ?ろっほ?

 

 

「LOUGH」とはアイルランドで「湖」のことなんだ。

 

 

なんでアイルランド!?

 

意味不明〜!

 

 

ここまで何のためにアイルランドの詩人トーマス・ムーアの『THE LAST ROSE OF SUMMER』が流れていたと思ってるんだ?

 

しかもこの映画は、アイルランド人のマーティン・マクドナーが脚本を書き、アイルランド・スコットランド系の名をもつフランシス・マクドーマンドが主演なんだぞ?

 

だから映画の中の言葉遊びにもアイルランド語が使われているのだ。

 

 

そんなのアイルランド人以外誰も気づかないよ!

 

 

そんなことないよ。

 

文学や音楽、そしてウィスキーが好きな人なら「LOUGH」が「湖」だってことは知っているはずだ。

 

少なくとも欧米では、ある程度教養のある人は知っている。

 

 

日本でも有名だと思っていたけど、そうでもないのか?

 

君たちが大好きなネッシーが住む「ネス湖」は「ロッホ・ネス」と言うんだぞ。

 

 

そういえば聞いたことがあったような…

 

 

ウィロビーを意味する湖が描かれていて、そこに「Thanks for your Life!」の文字…

 

これは、末期がんで余命数週間のウィロビーが、まだ死なずにいてくれてることを感謝するメッセージだ…

 

なぜなら、もしウィロビーに死なれたら、事件は永久に闇の中に葬り去られるから…

 

きっとこの三枚の朽ち果てた看板に描かれていたものは、無念のうちに亡くなったアンジェラからのメッセージだったんだろう…

 

 

なるほど…

 

 

さて、娘を犯して殺した犯人であるウィロビーの名前が描かれた看板を眺めながら、突然ミルドレッドは興味深い仕草を見せる…

 

前歯の隙間に挟まっていた「食べカス」を指で取ろうとするんだよね…

 

 

カスくらい取ってもええやんけ!

 

誰も見とらんのやさかい!

 

 

その「取り方」が不自然なんだよ…

 

なぜか「中指」だけを立てて取るんだよね…

 

 

 

ああ!

 

あの形は…惜しい!

 

 

おんぼろ看板に隠されたメッセージをよく読めば、ウィロビーが娘の仇であることに気付けたのにな…

 

そうしたら完璧な形で「F●CK YOU」を決めれたはずだ。

 

 

事件の真相を伝えるメッセージは、彼女の目の前にあったのに…

 

ミルドレッドはそれに気付けなかった…

 

しかも彼女は、答えが描かれてるボードに、別のメッセージを上書きしようと考えてしまう…

 

これが先程の歌詞「To give sigh for sigh」なんだね…

 

 

なんで?

 

 

To give sigh for sighという歌詞を…

 

To give sign for sign

サインにサインを重ねる

 

の駄洒落にしてしまったんだな(笑)

 

 

そんな駄洒落ありっすか〜〜〜!?

 

 

アイルランドだけに、そんな駄洒落はあいりっしゅ。

 

 

ズコっとらんど!

 

 

では僕はちょっとブレグジットすることにしましょう…

 

冒頭10分間の後半部分は次回に…

 

 

 

 

 

 

 

JUGEMテーマ:映画

虫になったアンジェラは何を伝えようとしていたのか?〜『THREE BILLBOARDS OUTSIDE EBBING, MISSOURI(スリー・ビルボード)』徹底解説4

  • 2018.11.27 Tuesday
  • 15:57

 

 

 

 

 

さて、3枚のボロボロ看板を見た主人公ミルドレッド・ヘイズは、そこに広告を出そうと思い、町の広告代理店へと向かった…

 

 

前回を未読の方はコチラをどうぞ!

 

「三枚のオンボロ看板が母に伝えようとしていたメッセージとは?」

 

 

せっかくオンボロ看板には、死んだ娘アンジェラから事件の真相を伝えるメッセージが書いてあったのにな…

 

 

何か胸騒ぎがして戻ったところまではよかった…

 

しかしその胸騒ぎの意味に気付けず、重大なサインの上に別のサインを書こうと考えてしまう…

 

 

この映画は、登場人物がことごとく勘違いを重ねてしまう物語なんですよ…

 

そしてどんどん事件解決から遠ざかってしまうんです…

 

 

まず主人公ミルドレッドは、殺された娘アンジェラのサインに気付けず、別のメッセージを3枚の看板に上書きしてしまう…

 

そして書き直された3枚の看板を見た真犯人のウィロビー署長は「もしやミルドレッドは気付いたのか?」と勘違いしてしまう…

 

ミルドレッドによる犯人を名指しするメッセージが偶然の産物だったことを知り安心したウィロビーだったが、取り調べ中にミルドレッドの顔面に吐血してしまったことで「今度こそバレる」と思い込み、自殺を決意…

 

ウィロビーは自殺の前にミルドレッドへ手紙を書く。その内容は「俺が死んだあとも広告を残すために1ヶ月分の料金を払っておいた。それを見たら多くの者の胸にお前への怒りが込み上がるだろう。もしかしたらお前を殺そうと考える者もいるかもしれないな…」というもの。だけどミルドレッドはその意味を勘違いしてしまう…

 

そしてウィロビーは、何かあった時のために手懐けていたディクソン巡査に手紙を残す。その内容は「ミルドレッドを逮捕しろ。抵抗したら殺してもいい」というもの。だけどディクソンも意味を勘違いしてしまう…

 

 

ウィロビー署長からの手紙って、そんな内容だったっけ?

 

すっごく感動的なものだったような気がする。

 

 

違うんだよ…

 

ウィロビーは夫婦の会話にもシェイクスピアやオスカー・ワイルドを引用するほど、高い教養の持ち主だった。

 

だから手紙の文面も、ちょっと回りくどいんだ。

 

文学とは無縁の世界で育ったミルドレッドやディクソンにとっては、かなり難し過ぎたんだね。

 

そこのところが、日本語字幕では完全に抜け落ちていたというわけ。

 

 

真犯人ウィロビーによって「殺し合い」をさせられるはずだった二人が、犯人探しのために銃を載せた車で一緒に走る…っちゅうわけか。

 

何とも皮肉なエンディングや。

 

 

でしょ?

 

とんでもなくブラックなユーモアなんだよ。

 

 

脚本を書いたマーティン・マクドナーは天才だな。

 

元祖天才コーエン兄弟の後継者にふさわしい…

 

 

年の離れた弟としてブラザーズ入りしちゃってもいいんじゃないですかね(笑)

 

さて、本題に戻りましょう。

 

ミルドレッドはエビング町の中心部にある広告会社を訪れる。警察署の真向かいのビルの2階だ。

 

この時、入口のドアが反対側から映されるんだけど、これがちょっと面白いんだ…

 

 

 

どこがやねん?

 

 

アルファベットを裏返しに映して、ギリシャ文字っぽく見せてるんだ。

 

ギリシャ語でイエス・キリストを表す「魚(イクトゥス:ΙΧΘΥΣ)」を想起させるためにね…

 

 

 

 

わお!オモロイ!

 

 

そしてミルドレッドが現れ、警察署を背にしてドアを開ける…

 

死んだ娘アンジェラがボロボロ看板に記した「気づいて!ここに全て書いてあるの!」というサインを勘違いしなければ、行くべきところは逆方向の警察署だったのに…

 

 

 

ああ…

 

「何か」に気付いたところまでは良かったのにな…

 

しかもめっちゃカッコいい西部劇風BGMをバックに颯爽とドアを開けて入って行く分、なおさら「あちゃ〜」って感じ…

 

 

あのシーン、超笑えるよな(笑)

 

さすがうちのよめ…じゃなくて大女優フランシス・マクドーマンド。

 

 

ん?いま何て言った?

 

 

映画『スリー・ビルボード』の最重要キーワードは「後ろ・逆方向」だ。

 

だから「BACK」や同じ音の「BUCK(責任・お金・鹿・下っ端)」が多用される。

 

最初の場面でも、ミルドレッドは一度看板を通り過ぎてから「バック」して戻った…

 

そして広告代理店のドアが「バック」から映され、ミルドレッドは警察署を「バック」にしてドアを開けた…

 

さらにオフィスの中では、窓枠で虫が「バック」状態になっていた…

 

 

 

そういえば、あの虫は意味深やったな…

 

もがきながら何かをアピールしとる感じやった…

 

そんで虫の背後には、警察署…

 

 

まさかあの虫は…

 

アンジェラ?

 

 

そうだね。

 

必死で母に伝えようとしていたんだろう…

 

あの窓の向こうの建物の中に犯人がいることを…

 

 

 

せやから、あんなところにおったんか…

 

たぶん虫に生まれ変わったアンジェラは、ボロ看板のサインに気付いたオカンが警察署へ乗り込んでいくのを、ここで見届けようと待っとったんやろ…

 

せやのにオカンは警察署を背にしてこっちのビルへ入って来よった…

 

虫アンジェラは虫語で叫んだはず…

 

「オカン!後ろ!後ろ!」

 

 

シムラかよ。ムシだけに。

 

 

そして虫アンジェラは母に気付いて欲しくて、自らの体をひっくり返した…

 

「向かうべき建物の方向が逆だった」ということを伝えたくて…

 

 

しかしミルドレッドは気付けなかった。

 

虫アンジェラは、こう思っただろう…

 

「やっぱり虫じゃ小さすぎる。もっと大きな動物じゃないと…」

 

 

だから次は子鹿だったんだな!

 

 

さて、ミルドレッドは広告代理店のエビング支店長であるレッド・ウェルビーに広告設置の交渉をする。

 

赤毛で、やや自信過剰なところのある人物だね。

 

Red Welby(レッド・ウェルビー)

 

このシーンにおいて、まずあの道路の名前が「Drink Water Road」であることが明かされる。

 

しかも「Sizemore」という場所の先にある道路だと言うんだね。

 

 

それがどうしたの?

 

 

「Sizemore」とは、洗礼者ヨハネがイエスを指して言った言葉だね。

 

ヨハネは人々から偉大な預言者扱いされた時に、否定してこう言った。

 

「私の後から来られる方は、私よりも遥かに偉大な方である。私には彼の靴を脱がせる価値もない」

 

そして、後から来たイエスは、ヨハネをこう評した。

 

「地上の誰よりも大きいが、天国では最も小さい」

 

 

 

『バートン・フィンク』でも「靴のサイズの大小」として使われたネタやな。

 

 

 

「地上と天界における人のサイズの大小問題」は、芸術作品では定番ネタだ。

 

カークパトリック兄弟の『スモールフット』も、これが元ネタになっていた。

 

 

 

 

おお!カークパトリック兄弟!

 

コーエンとかノーランとか映画界に○○兄弟は多いけど、これからはカークパトリック兄弟の時代や!

 

「カークパトリック兄弟って誰?」

 

 

絞めて鶴鍋にするぞ貴様。

 

 

なぬ!?

 

 

そ、そして「Drink Water Road」とは「Drink Water Load」の駄洒落だね。

 

イエスは十字架の上で預言成就を締め括るために「I THRST(私は渇く)」と言葉を発した。

 

そしてローマ兵に酸っぱい葡萄酒を与えられ「すべてが終わった」と息をひきとったんだ…

 

詳しくは米津玄師の『LOSER』で、どうぞ。

 

 

 

あの「スリー・ビルボードの丘」は「ゴルゴダの丘」なんだね。

 

 

その通り。

 

アンジェラはレイプされた後にガソリンをかけられて燃やされたから「I THRST」どころじゃなかったんだけどね…

 

さぞかし熱くて苦しかっただろう…

 

可哀想に…

 

 

ちなみに、あの「スリー・ビルボードの丘」の向こうには山があって、一部、斜面が大きく削られている。

 

あの削られてる部分が、映画では何度もチラチラと映るんだ…

 

 

 

それがどないしたっちゅうねん。

 

たまたま入ってもうたんやろ。

 

 

まさか。

 

あの削れた斜面が入る位置に、わざわざセットの看板を設置したんだよ。

 

ゴルゴダの丘から見える「エルサレム」を表現するために…

 

 

 

こんな一瞬のカットのために?

 

 

こうやって観客は知らず知らずのうちに演出家が仕掛けた世界へ引き込まれてゆくのだよ。

 

どうでもいいように見えるワン・カットが、後々効いてくるんだな。

 

 

いっぱしの演出家みたいなこと言うとるやんけ。

 

トーシロのくせに評論家気取りはやめとけ。「映画通」気取りの痛いオッサンみたいやで。

 

 

Cough!

 

Coff coff coff...

 

 

どないしたんや?急に咳込んで?

 

 

ちょ、ちょっとね…

 

 

さて、ミルドレッドの広告出稿の申し出に対し、レッドは疑問を口にする。

 

「あんなところに?1986年のHUGGIES(ハギーズ)の広告を最後に誰も契約していない場所だ」

 

 

 

ハギーズ?1986年?

 

どっかで聞き覚えあるな…


 

1986年のイースターシーズンに公開されたコーエン兄弟のハリウッド・デビュー作『RAISING ARIZONA(赤ちゃん泥棒)』やんけ!

 

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ちなみにコーエン兄弟があの映画で、しつこいくらいにオムツのハギースを使ったのには意味がある。

 

不味いことで有名なスコットランドの郷土料理ハギスの駄洒落だったんだよ。

 

ハギスとは羊の内臓を煮込んだ料理。

 

『RAISING ARIZONA』という映画はイースターの物語で「イエスの死と復活」を元ネタにしたものだから、「ハギーズ(おむつ)」と「ハギス(羊の内臓)」を駄洒落にして、十字架で死んだイエスのことを表現していたというわけだ。

 

「駄洒落魔コーエン兄弟」

 

 

だからあのオフィスには「イースター・ラビット」のポスターが貼ってあったんだな…

 

 

『RAISING ARIZONA(赤ちゃん泥棒)』にもウサギが出て来たから…

 

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「出て来た」って言うけど、一瞬で殺されちゃって可哀想…

 

 

まあ仕方ない。復活祭におけるウサギとはイエス・キリストのことだからね。

 

春に穴の中から湧いてくるウサギの様子が、墓穴から復活したイエスに重ねられているわけだ。

 

そして「Rabbit(うさぎ)」が、人間イエス時代の敬称「Rabbi(師・先生)」の駄洒落にもなっている。

 

「死と再生」の象徴だから、文脈上、判決後のイエスみたいにすぐに殺されなきゃいけないんだよ。

 

 

 

そういや『赤ちゃん泥棒』にもフランシス・マクドーマンドは出とったな。

 

脇役のキモいオバハンやったけど。

 

 

 

お前は、彼女がどんな想いでこのキモい女を演じていたか、わかってないようだな…

 

 

ハァ?

 

知るか、そんなもん。

 

 

彼女は常にコーエン兄弟作品で「自虐キャラ」を演じて来たんだ。

 

後に結婚するジョエル・コーエンと出会うことになった『ブラッド・シンプル』では、夫に不満を持ち、浮気に走る妻を演じた。

 

実はこの時、フランシス・マクドーマンドには別の恋人がいた。

 

だけど撮影中に親密になったジョエル・コーエンと付き合い始めて、撮影終了後に結婚することになるんだよね。

 

 

 

ああ!股間を蹴り上げてる!

 

『スリー・ビルボード』と一緒!

 

 

 

フランシス・マクドーマンドといえば、これだよな。

 

彼女の女優としてのスタートは「股間蹴り」なのだ。

 

 

しかし結婚したフランシス・マクドーマンドとジョエル・コーエンに衝撃が走る…

 

詳しくはわからないけど、彼女は子供が出来ない体だったらしいんだよね…

 

だけどこの夫婦が凄いのは、それをネタにしてしまうところ…

 

次作『RAISING ARIZONA』は、子供が出来なくて悩む夫婦が赤ちゃんを盗むという映画…

 

そこに、同じように不妊症で悩み、自身の子は諦めて養子をもらった女性として出演したんだ…

 

それが、あのキモいオバサンだったんだね…

 

via GIPHY

 

 

 

すげえ…

 

これが役者バカ、いや俳優魂というやつか…

 

 

ちなみに彼女自身も養子だったんだよ。

 

いわゆる「ホワイト・トラッシュ」の家に生まれた彼女は、子供のいなかった牧師夫婦のところに養子に出されたんだよね。

 

だけどこの夫婦の自虐ネタは、こんなもんじゃない…

 

さらに過激な自虐ジョークで映画を作って、それでアカデミー賞まで取ってしまったんだ…

 

それが、妊婦であることをオーバーなくらい前面に押し出した主人公マージを演じた『FARGO』だね。

 

 

 

どんな想いで妊婦を演じたんだろう…

 

 

結局子供の出来なかったフランシス・マクドーマンドとジョエル・コーエンは、養子をもらうことにした…

 

そして、コーエン兄弟の「年の離れた末っ子」と異名をとるマーティン・マクドナーの作品『スリー・ビルボード』に出演…

 

彼女が演じるミルドレッドの家庭は、まさに彼女自身が生まれた家庭だ…

 

暴力的な夫と、同じように粗野な妻…

 

フランシス・マクドーマンドは自分の「産みの母」を演じていたわけだね…

 

ミルドレッドと元夫は、失ってしまった娘に思いを馳せる…

 

そして映画のラストシーンでは、あれだけショックだった「娘の喪失」を乗り越えられるような期待感を抱かせて終わる…

 

まさに究極の自虐ネタだ…

 

彼女以外にこの役は考えられない…

 

『スリー・ビルボード』は、フランシス・マクドーマンドのために作られた映画なんだよ…

 

 

なんという壮絶なストーリー…

 

 

ホントとんでもない作品だよな。

 

 

というわけで、今回はここまでにしよう。

 

次回は「看板設置のニュースを見たウィロビー署長の行動」について詳しく解説するよ。

 

あのシーンでウィロビーは非常に興味深い行動をとってるんだよね…

 

お楽しみに。

 

 

 

 

 

 

JUGEMテーマ:映画

「ディクソン巡査のマウ!マウ!の鼻歌の秘密」〜『THREE BILLBOARDS OUTSIDE EBBING, MISSOURI(スリー・ビルボード)』徹底解説5

  • 2018.11.29 Thursday
  • 10:52

 

 

 

 

ふっふふ〜ん♪

 

 

ご機嫌だね。どうしたの?

 

 

この『スリー・ビルボード』の解説シリーズが大好評でね。

 

これまで僕は数々の解説を書いて来たけど、こんなに反響があったのは初めてなんだ。

 

 

オッサンは黙殺され続けて来たさかいな…

 

エビングの…いや、ネット界隈の映画・音楽・文学各クラスタから…

 

 

これほどの男が?

 

Why Japanese people?

 

まさにフランシス・マクドーマンド演じるミルドレッドじゃないか。

 

 

ありがとう、公園兄弟…

 

そんなことを言ってくれるのは君たちだけ…

 

まあ、こういう背景もあるから僕は『スリー・ビルボード』と主人公ミルドレッドに、ここまで強い思い入れを抱いているのかもしれません…

 

僕はミルドレッドが何だか他人に思えないんです…

 

僕は彼女と同じで、言うことは過激だけど優しいハートがあり、たとえ孤立しようとも信念を貫く人間ですから…

 

 

元貴乃花親方か、お前は。

 

 

彼もまるで自分の姿を見ているようなんだよね…

 

ただフランシス・マクドーマンドや花田光司は業界で頂点を極めた人だけど、僕は今のところ何も成し得てない…

 

そこだけが違う点かな。

 

 

「そこだけが」って軽く言うなよ。天と地の差じゃんか。

 

 

人生というのは、ままならぬものだ。

 

 

さて、前回の続きを解説しよう。

 

いよいよミルドレッドの広告が3枚のボードに書かれる夜がやって来た。

 

そこに偶然現れたのは、ウィロビー子飼いの巡査ジェイソン・ディクソンだ。

 

Jason Dixon(サム・ロックウェル)

 

 

そういえば、高田文夫の物真似をする松村邦洋みたいに「マウマウ」奇声を発していたね。

 

何だったんだろ、あれは(笑)

 

 

 

彼は精神年齢が子供なんだよ。

 

本来は警察官になってはいけないレベルの人なんだ。

 

だけどそんな彼が警察の仕事をしていられるのは、ウィロビー署長が重用しているからに尽きる。

 

ウィロビーがアンジェラ殺害事件をディクソンに任せていたのは、彼の無能さを買ってのことなんだ。

 

ディクソンに任せておけば、捜査は確実に進展しないからね(笑)

 

それに大事なものを色々紛失してくれる。

 

自分の警察バッジすら紛失するくらいだ。きっと証拠品や押収品も紛失するんだろうな…

 

だからウィロビーにとって便利な存在なんだよ。

 

 

どうゆう意味?

 

 

まあ、あとでわかる。

 

 

この映画の他の解説記事を読むと、ディクソンは「ゲイ」やと書かれとるで。

 

それを隠しとるんやと。

 

 

違うんだよね。

 

みんな勘違いしてるんだ。脚本を書いたマーティン・マクドナーの策略に引っかかって…

 

断じて言う。ディクソンは同性愛者ではない。

 

彼が「隠していること」とは「ゲイであること」ではないんだ。

 

 

でも「ABBAを聴いているのが同性愛者の証拠だ」って多くの人が書いてるよ…

 

 

誰が最初に言ったのかは知らないけど、そんなことは僕の46年の人生で初耳だし、マジで有り得ない。

 

この映画における「ABBA」とは、新約聖書の『ローマ人への手紙』からの引用だ。

 

イエスの迫害者から伝道者に回心したパウロの「ABBA, Father!(アバ、父よ!)」というセリフを想起させるためのものなんだよね。

 

この映画でディクソンは、使徒パウロの生涯をそのまま演じているんだよ…

 

 

 

なるほど!

 

ちなみに「頭を包帯グルグル巻きの聖人」といえば、カズオ・イシグロ『夜想曲集』でも使われていたネタだね!

 

 

そういやオッサンは、アラン・ドロンの『太陽がいっぱい』徹底解説でも、淀川はんの主張しとった「主人公トム・リプリーと御曹司フィリップは同性愛関係」を真っ向否定してたな。

 

 

だって間違っているからね。

 

確かにパトリシア・ハイスミスの原作ではそう描かれているんだけど、映画では書き換えられたんだ。

 

1960年当時はまだ映画での同性愛描写はタブーだったからね。

 

だから脚本・監督のルネ・クレマンは、ハイスミスの原作を全く別の物語にして、ものの見事に傑作映画に仕立て上げた。

 

最初に完成した映画を観たハイスミスは呆然としたそうだ。「私の物語じゃない…」ってね。

 

詳しくはコチラで。

 

『太陽がいっぱい』徹底解説

 

 

でも劇中でディクソンはゲイ呼ばわりされるよね?

 

 

彼がゲイ呼ばわりされるのは、あの年で超マザコンなのと、「DIXON」という名前が「DICK SON(ちんぽこ野郎)」に聞こえるからなんだよ。

 

劇中で彼のことを嫌う連中は皆「ディック・ソン」と少し間を入れて発音しているんだ。

 

よくセリフを聴くとわかる。

 

詳しくはまた別の回でたっぷりと話そう…

 

 

この映画で口にされる汚い言葉の数々はすべて、脚本を書いたマーティン・マクドナーによって意図されたものだ。

 

登場人物がただ勢いで口にしてるんじゃないんだな。

 

そのタイミングで、その言葉じゃないといけない理由が、すべての不適切語にちゃんとあるんだよ。

 

まるで元祖天才コーエン兄弟の『バートン・フィンク』みたいに…

 

 

ホント面白い映画です、この『スリー・ビルボード』という作品は…

 

さて、パトカーで深夜巡回中のディクソンは、鼻歌まじりで御機嫌だった。

 

歌われてたのは古いカントリーソング『STREETS OF LAREDO』だね。

 

 

 

ディクソンの鼻糞…いや、鼻歌なんかどうでもええやろ。

 

 

でもね、この曲の歌詞が超ウケるんだよ。

 

映画では1番しか歌われないけど、全歌詞を見てみるとビックリするんだ。

 

完璧に、映画で明かされなかった「あの時」の歌になっているんだよね…

 

 

映画で明かされなかった「あの時」?

 

 

これも全く知られていないことみたいなんで、この機会に解説しておこう。

 

まず『STREETS OF LAREDO』の全体のストーリーは、こんな感じ。

 

ラレドの市街地を歩いていた主人公が、ミイラみたいに白い布に巻かれたカウボーイに出会い、彼から身の上話を聞かされる…

 

ミイラ・カウボーイは何かでトラブルになり、銃で撃たれて殺されてしまったらしい…

 

そして主人公に対し「年老いた母に伝えたいことがあるから手紙を書いてくれ」と頼む…

 

 

死んだカウボーイが母にメッセージを?

 

『スリー・ビルボード』みたいじゃんか(笑)

 

それにしても変な歌だね。もしかして何かの例え話とか?

 

 

その通り。

 

「STREETS OF LAREDO(ラレド市街地)」とはエルサレムのことで、白い布に巻かれたカウボーイというのはイエス・キリストのことなんだ。

 

磔刑のあとに聖骸布に包まれて埋葬されたイエスのことを言っているんだよ。

 

もちろん年老いた母とは聖母マリアのこと。

 

そして前回紹介したように、三枚の看板がある場所はエルサレムのゴルゴダの丘に喩えられていた。

 

映画『スリー・ビルボード』においてアンジェラはイエス・キリストの役割だからね。

 

だからそこに向かうディクソンは、この曲を歌っていたというわけだ。

 

 

 

 

すっげえ深い意味のある歌じゃんか!

 

なんでそんな歌をディクソンは歌ってたんだ!?

 

 

彼は低能キャラで馬鹿なことばかり発言してるように見えるけど、実は物語の核心を突く重要なヒントを連発する人物なんだよね…

 

西洋演劇における道化や、日本の芝居における狂言回しみたいな役割なんだ。

 

だから登場シーンで、いきなりこんな重要な歌を歌ってるというわけ…

 

「マウマウ」奇声を発しながらね(笑)

 

 

ホワイト・トラッシュを絵に描いたような、ただのクズ人間かと思ってた…

 

 

人の言動をうわべだけで判断しちゃいけないよ。

 

立派な人が言うことは「ありがたい言葉」で、底辺層の人間が言うことは「無価値」だなんて色眼鏡で見てはいけない。

 

それがこの映画のテーマでもあるんだよね…

 

さて、『STREETS OF LAREDO』の歌詞を見てみようか。

 

 

STREETS OF LAREDO

歌詞:Duane Eddy

訳:おかえもん

 

As I walked out on the streets of Laredo.
As I walked out on Laredo one day,
I spied a poor cowboy wrapped in white linen,
Wrapped in white linen as cold as the clay.

 

俺はラレドの街を歩いていた

ある日ラレドで歩いていると

見すぼらしいカウボーイの姿が目に入った

土のように冷たい白い亜麻布で

体を包み込んだカウボーイが

 

 

普通に訳すとこんな感じだよね。

 

だけど「白い亜麻布を巻く」を「別の意味」に解釈すると…

 

 

俺はラレドの道を歩いていた

ある日ラレドへ出向いてみると

見すぼらしいカウボーイの姿が目に入った

奴は白い紙でマリファナを巻いていた

死体のように冷えた体を包むように

 

 

 

へ?亜麻布だからマリファナ?

 

でも「死体」はどこから?

 

 

「clay」って「死体」という意味もあるんだよね。

 

聖書で「人は土から作られ、死んだら土に還る」って喩えられているから。

 

では続けるよ。

 

"I can see by your outfit that you are a cowboy."
These words he did say as I boldly walked by.
"Come an' sit down beside me an' hear my sad story.
"I'm shot in the breast an' I know I must die."

 

「あんたがカウボーイだってことは風貌でわかる」

俺が果敢に近付いた時、奴はこんな言葉を口にした

「私の隣に座って、哀しい身の上話を聞いてほしい

 私は胸を撃たれた。死んでることは知っている」

 

 

だけどこれを『スリー・ビルボード』風に訳すと…

 

 

「あんたがウィロビー署長だってことは風貌でわかる」

俺がハゲ頭を晒して近付いた時、奴はこう言った

「私の隣に座って、悲しい身の上話を聞いてほしい

 超きついことを言われた。マジで死にそう

 

 

 

ええ!?ウィロビー署長!?ハゲ頭!?

 

 

事件当日のウィロビーは、制服姿ではなく私服姿だった…

 

だけどハゲ頭で誰だかわかったというんだね…

 

「boldly(大胆に)」と「baldly(禿げ上がった)」の駄洒落なんだよ。

 

つまり、外見でバレてしまった「ハゲ頭のカウボーイ」とは、ウィロビー署長のことなんだ。

 

Bill Willoughby(ウディ・ハレルソン)

 

 

マジか…

 

せやったらウィロビーは人気のない道端で、落ち込んでマリファナを吸っていた「みすぼらしいカウボーイ」と出会って話をしたってことか?

 

なんで逮捕せんのや?

 

南部の保守的なミズーリ州では大麻は違法やろ?

 

 

そうだね。

 

きっとウィロビーも一緒に吸ってたんじゃないかな?身の上話を聞いてあげながら…

 

彼は末期がんだから相当痛みもあったはずだ。

 

警察で押収した大麻を間抜けなディクソンが紛失したことにして、こっそり使用してたのかもしれない。

 

彼は自宅で馬を飼っているから、葉っぱ臭くても不自然ではないよね。

 

劇中では「馬小屋掃除の担当日」について夫婦で会話がなされるから、たぶん馬小屋で吸っていたんだろう。

 

この映画で「体が臭う」は重要なキーワードなんだよ(笑)

 

 

ねえねえ…

 

じゃあ「みすぼらしいカウボーイ」って…

 

 

決まってるじゃないか、アンジェラだよ。

 

大麻常習者の彼女は、母ミルドレッドから「レイプされればいい!」と言われ、深く傷ついていたからね…

 

Angela Hayes(キャスリン・ニュートン)

 

 

なんてこった…

 

 

そして彼女にとってウィロビー署長は、父親の元上司にあたる…

 

悩みを相談してもおかしくないよね…

 

続きの歌詞を見てみよう。

 

"It was once in the saddle, I used to go dashing.
"Once in the saddle, I used to go gay.
"First to the card-house and then down to Rose's.
"But I'm shot in the breast and I'm dying today."

 

ここでは「gay」という言葉が登場する。

 

今ではすっかり「同性愛者」を指す言葉になってしまったけど、本来は「陽気な」という意味の言葉だ。

 

1970年代くらいまでの歌では普通に使われているよね。

 

 

フレッド・アステアの主演映画『The Gay Divorce』も「ゲイの離婚」ではなく「楽しい離婚」という意味だったな。

 

 

ですね。

 

この歌詞を『スリー・ビルボード』風に訳すと、こうなってしまう…

 

ちょっと過激な内容になるのでご注意を…

 

 

俺は猛スピードで奴に馬乗りになった

そしてゲイみたいに後ろでやった

初めてだったらしく無理だったので

やっぱりバラの花の方にした

そのとき俺の胸から何かが噴き出した

俺は奴の頭に大量の血を吐いてしまったんだ

これで終わりかと思った

 

 

 

ああ…

 

ガソリンで燃やされた理由も…

 

 

ウィロビーは20歳くらい年下の奥さんをもらってることからもわかるように、若い女性が好きなんだよね…

 

しかもアンジェラは「レイプされればいい」と母ミルドレッドに言われて傷付いていたから、自暴自棄になってウィロビーを誘うような仕草を見せたのかもしれない…

 

歌はこんな風に続く…

 

"Get six jolly cowboys to carry my coffin.
"Six dance-hall maidens to bear up my pall.
"Throw bunches of roses all over my coffin.
"Roses to deaden the clods as they fall."

 

歌詞では、死んだカウボーイは棺に納められ、6人の酒場の女性が作った化粧布を被せられ、6人のカウボーイ仲間に担がれて埋葬先の墓地へと向かう様子が紹介される。

 

ウィロビーの葬儀はこんな感じだったんじゃないかな。

 

6人の酒場女や6人の仲間ってのは、警察署の職員や部下たちのことだろう。

 

 

この歌ちょっとややこしいよね。

 

主人公もカウボーイだし、死んでるのにミイラになって現れたのもカウボーイ…

 

 

実はこの歌、内なる自分との対話を歌ったものだとも言われている。

 

だから歌詞が全てひとりのことを言ってるようにも取れるんだ。

 

そして続く歌詞では、死んだカウボーイの願いが歌われる…

 

"Then beat the drum slowly, play the Fife lowly.
"Play the dead march as you carry me along.
"Take me to the green valley, lay the sod o'er me,
"I'm a young cowboy and I know I've done wrong."

 

カウボーイは、自分を緑の谷へ運んで、芝生の下に埋めて欲しいと願うんだ。

 

 

アンジェラが発見された現場の元ネタか。

 

 

最後の一文が泣かせるよな。

 

「私は若いカウボーイ。自分が間違ってたことくらいわかってる」

 

 

そして次の歌詞で、死んだカウボーイは自分の母親へ手紙を書いて欲しいと主人公に頼むんだ…

 

「こんなふうに」と手紙の内容を指示して…

 

"Then go write a letter to my gray-haired mother,
"An' tell her the cowboy that she loved has gone.
"But please not one word of the man who had killed me.
"Don't mention his name and his name will pass on."

 

 

「私を殺した男については書かないで下さい」!?

 

「彼の名前には触れないで」!?

 

 

聖書にはイエスの処刑に関わったユダヤ人を悪く書く部分がある。

 

ユダヤ評議会の面々やガリラヤ領主ヘロデ・アンティパスのことをね…

 

だから西洋社会においてユダヤ人は長年差別されて来たんだ。「主イエスを殺した奴ら」だとして。

 

この歌を最初に書いた人は、それを「よくないこと」だと考えていたんだろう。

 

だからこんな歌詞にしたんじゃないかな。

 

 

なるほどな。

 

 

そしてウィロビーは、この歌詞の通り、死んだアンジェラの母ミルドレッドに手紙を書いた…

 

「死んでいる男より」なんて文面で、わざわざ「俺の自殺はアンジェラ殺害事件とは一切関係ない」なんて断りを入れて…

 

本当に関係なかったら、そんなこといちいち書かないよね(笑)

 

 

 

確かに。

 

 

何度言えばわかる。甲殻類は苦手なんだと言っただろう。

 

 

あ、忘れてた…。ごめんさない。

 

 

そして、ボロ看板に描かれたアンジェラから母へのメッセージには、ウィロビーの名前は直接的には書かれなかった…

 

歌詞の通りにね…

 

だから「WILLOUGHBY」の中にある「LOUGH(湖)」の絵を描いて、間接的に知らせようとしたんだよ…

 

 

 

全部この歌が元ネタになっていたのか…

 

 

そして最後の歌詞。

 

死んだカウボーイが身の上話を終えると日が沈み、ラレドに冷たい夜が訪れる…

 

そして死んだカウボーイが埋葬された場所には…

 

When thus he had spoken, the hot sun was setting.
The streets of Laredo grew cold as the clay.
We took the young cowboy down to the green valley,
And there stands his marker, we made, to this day.

 

 

この日の出来事を記念した「墓標」が建てられた!?

 

 

それがあの緑の谷に立つ「あの日の出来事を記した3枚の広告掲示板」だったというわけ。

 

面白いね。

 

 

 

ちなみに先日(2018年11月6日)の中間選挙と合わせて行われた住民投票で、ミズーリ州でもついに医療大麻において賛成が多数派を占めることになった。

 

これから合法化に向けて準備が進められるそうだ。

 

もっと早くそうなっていれば、ウィロビーも隠れて吸う必要はなかったのにな…

 

 

あの悲劇も起こらなかったかもしれませんね…

 

 

ところでさあ、そもそも「ラレド」って何なの?

 

本当にある町?

 

 

元々はスペインにある町の名前なんだけど、テキサス州のメキシコとの国境沿いにも同名の大きな町があるよね。

 

ちなみに「LAREDO」という名前の由来には二通りあって、ひとつは「緑豊かな」という意味。

 

そしてもうひとつが「sandy(砂っぽい)」という意味なんだ…

 

 

sandy?

 

 

ああ!

 

ディクソンがDNAをゲットした男のアリバイを新署長アバークロンビーから説明された時のセリフやんけ!

 

 

 

この映画は最初から最後まで『STREETS OF LAREDO』の歌詞に沿った物語が描かれるんだよね。

 

さすが脚本を書いたのがコーエン・マニアで知られるマーティン・マクドナーで、音楽担当がコーエン兄弟作品の音楽をずっと手掛けてきたカーター・バーウェルだけある。

 

Carter Burwell

 

彼の芸風の原点を詳しく知りたい人は、僕の『RAISING ARIZONA(赤ちゃん泥棒)』徹底解説をどうぞ(笑)

 

「歌詞引用の天才カーター・バーウェルの原点」

 

 

さて、今回はこのへんで終わりにしよう。

 

次回解説する予定の内容は以下の点。

 

1、ミルドレッドが出した広告を、ウィロビーはどう勘違いしたのか?

 

2、ロビー君は姉アンジェラのメッセージをどう勘違いしたのか?

 

3、主題歌『Buckskin Stallion Blues』は何を訴えているのか?

 

 

どうぞお楽しみに!

 

 

 

 

 

JUGEMテーマ:映画

第6回「殺されたアンジェラの弟ロビーは、いったい何に気付いたのか?」〜『THREE BILLBOARDS OUTSIDE EBBING, MISSOURI(スリー・ビルボード)』徹底解説

  • 2018.11.30 Friday
  • 11:30

 

 

 

 

 

さて今回から駆け足で行くぞ。

 

 

その言葉を待っていた!

 

 

天才コーエン兄弟の初期作品解説シリーズも『ミラーズ・クロッシング』のところで中断しているしな。

 

天才コーエン兄弟の初期作品解説シリーズ

 

 

さて、鼻歌混じりで夜のパトロールをしていたディクソン巡査は、道路沿いに立つ看板の張り替えをしていた作業員を見かける。

 

それは、被害者アンジェラの母ミルドレッドが、半年以上何も進まない捜査に業を煮やして出した広告看板だった…

 

 

3枚の看板を「ディクソンが見た順番」で見ていこう。

 

まずは1枚目。

 

HOW COME, CHIEF WILLOUGHBY ?

ウィロビー署長、なぜ?

 

 

ディクソン巡査は作業員に看板の意味を尋ねるが、どうもメキシコ人らしく英語が通じない。

 

作業員が「あっちで聞いてくれ」とばかりに隣の看板の方を指差すので、ディクソン巡査は移動する。

 

そして2枚目の看板を目にした…

 

AND STILL NO ARRESTS?

まだ逮捕されないの?

 

 

 

あの黒人作業員は確かに「DIXON」を「DICK SON(ちんぽこ野郎)」と発音しとったな。

 

 

ディクソンは気付いてないっぽいけどね…

 

実に愛すべきキャラだ(笑)

 

さて、この黒人作業員ジェロームは重要なことを口にする。

 

 

ディクソン「お前なんか逮捕するのは簡単だ」

 

ジェローム「そんなこと《1枚目》の看板を見たら言えないはずだぜ」

 

 

 

どこが重要なの?

 

 

彼が言った《1枚目》という言葉は、3枚の看板に書かれたメッセージには「読むべき順番」があり、ディクソンはそれを逆走しているということを観客に伝えるものだ。

 

だけど映画をメタ視点で見ると、ディクソンのほうが正しかったんだよね…

 

だって、

 

HOW COME, CHIEF WILLOUGHBY ?

AND STILL NO ARRESTS?

なぜウィロビー署長は

まだ逮捕されないの?

 

だから。

 

 

おそらく映画を観た人の多くがディクソンを能無しだと思っているだろうが、実は最も正しい行動をしていた…

 

ただそれを本人が気付いていないだけで…

 

 

そしてディクソンは3枚目の看板を見に行く。

 

そこに書かれていた文字は…

 

RAPED WHILE DYING

(娘アンジェラは)レイプされながら殺された

 

 

 

だけどディクソンが見た順番でメッセージを繋げれば、こうなっていたんだよね…

 

HOW COME, CHIEF WILLOUGHBY ?

AND STILL NO ARRESTS?

RAPED WHILE DYING

なぜウィロビー署長は

まだ逮捕されないの?

(自分も)死の淵にありながら(娘を)レイプした

 

 

ああ!

 

「while dying」がアンジェラのことじゃなくて、レイプ中に血を吐いたウィロビーのことになってる!

 

完璧なメッセージじゃんか!

 

 

ここで、我らがディクソン巡査は「ファック・ミー」と名言を吐く。

 

「マジかよ」とか「なんてこった」という意味なんだけど、直訳すると「俺にしてくれよ」という意味になるよね。

 

彼が隠している秘密を「ゲイであること」だと誘導させる罠の第一弾だ(笑)

 

さて、ディクソンはすぐにウィロビー署長へ電話をかける。

 

ウィロビーは家族とイースター・ディナーの最中だったんだけど、相変わらず空気の読めないディクソンを叱りつけるために電話に出た。

 

そして汚い言葉を連発してディクソンの無能ぶりを罵倒する。

 

 

小さな子供たちもいる前で、かなり酷かったよね…

 

 

ウィロビーは、かなり頭がオカシイ人物なんだ。

 

なぜか人格者みたいに思われてるけど、そうじゃないんだよね。

 

幼い娘たちの前で汚い言葉を口にするし、危険な水辺に長時間も置き去りにする。

 

奥さんのアンも娘二人を車内に放置していたし、あの夫婦はちょっとイカレてるんだよ。

 

なぜ善人夫婦だとされているのか僕には理解できない…

 

 

さて、場面は変わって、主人公ミルドレッドが息子のロビーを学校へ送るシーンとなる。

 

 

3枚の看板のメッセージは、ディクソンが見た順番とは逆に見えているね。

 

だけど看板作業員のジェロームの言葉で、ほとんどの人がこれを「正しい順番」だと思い込んでいる。

 

観客から見て右車線、画面手前から奥に向かう車のドライバーに向けて出されたメッセージだと決めつけてしまうんだね。

 

さて、このシーンではミルドレッドの運転する車は左車線、つまり画面奥から走ってきた。

 

だから運転するミルドレッドには看板の文字が見えない。

 

だけど助手席に座っていたロビーは後ろを振り返って看板を見ていた…

 

正しい順番で…

 

Robbie Hayes(ルーカス・ヘッジズ)

 

 

ああ!事件の真相を語る順番で見てるじゃんか!

 

なんで気付かないんだよ、ロビー!

 

 

いちおう気付いたんだよ、彼は。

 

「なんか変だよな…」ってね。

 

たぶん姉であるアンジェラが送った「ロビー!うしろ!うしろ!」という念が伝わったんだろうね。

 

 

志村かよ(笑)

 

 

でもまさかこの3枚の広告が「ウィロビー署長が犯人であること」を告げるメッセージだと気付くはずもない…

 

エビングの住民はウィロビーを尊敬しているからね。

 

ディクソン巡査みたいな人種差別的な警察官が嫌いな人も、ウィロビー署長のことだけは悪く言わなかった。

 

しかもロビーにとってウィロビーは、父親の元ボスという存在でもある…

 

姉の《声》を聴いて3枚の看板を「正しい順番」で見終えたロビーは、少し何かを考える。

 

そして母ミルドレッドを無言で見つめた。

 

たぶんこんなふうに思っていたに違いない…

 

「なんで急にこんな広告を出したの?自分の意志?それとも…」

 

そしてミルドレッドも無言で見つめ返す。

 

きっとこんなことを考えながら…

 

「悪い?この場所で急に閃いたのよ。天の声とか虫の知らせってやつね」

 

 

 

 

ああ〜!親子で勘違い!

 

 

そしてアンジェラは思った。

 

「ダメだこりゃ!」

 

 

いかりやか!

 

 

いや、冗談ではなく本当にアンジェラはそう思ったんだよ。

 

《虫の知らせ》では限界があるってね。

 

広告代理店のシーンでは、アンジェラは虫に憑依して、ひっくり返って「ママ!逆!逆!」とアピールしていた…

 

だけどミルドレッドには伝わらなかった。

 

虫では限界があったんだね…

 

「虫になったアンジェラは何を伝えようとしていたのか?」

 

だからアンジェラは、もっと大型の動物に憑依することを画策する…

 

メッセージを伝えやすい大型動物にね…

 

そして最後には人間に憑依して大切なメッセージを伝えるんだよ…

 

 

アンジェラが人間に憑依!?

 

だ、誰!?

 

 

それはまたの機会にゆっくりと解説しよう。

 

ちなみにロビーは、この後のシーンでもここを通るたびに何かを感じるんだけど、それが何なのかよくわからない。

 

だから彼は映画中盤でもこの場所で、惜しいことを口にする…

 

あれはウィロビーがミルドレッドの顔面に吐血して、救急車で運ばれたあとの場面だった…

 

 

ロビー「鳥は《がん》になるのかな?」

 

ミルドレッド「さあ。犬は癌になるけど」

 

ロビー「犬のことを聞いてるんじゃないよ…。ああ、また《RAPED WHILE DYING》コースで帰るのか…」

 

 

 

そういえば急にそんなことを口にしたよね。

 

あれは何が言いたかったんだろう?

 

 

実はこの「鳥」というのは、犯人であるウィロビー署長のことを指していたんだ。

 

エビング警察署の外壁には、大きく鳥の絵が描かれていたからね…

 

 

 

うわあ…

 

そういえば意味有り気にチラチラ映ってたな…

 

 

アンジェラは警察署のイメージを弟ロビーへ送ったんだね…

 

そして「癌で倒れる」というイメージも…

 

 

ホントかよ!?

 

 

間違いないね。

 

なぜなら、警察署からウィロビーが救急車に運び込まれるシーンで、チラッと一瞬だけ「斜め上空」からのアングルが差し込まれるんだ…

 

これって、外壁に描かれた鳥の目線なんだよ…

 

アンジェラは「鳥が描かれた建物」と「そこから運ばれる犯人の姿」を、ロビーに伝えようとしたんだね…

 

 

 

マジですか…

 

 

それに対するミルドレッドの答え「犬は癌になるけど」が超ウケるよな。

 

警察官の蔑称は「犬」だから(笑)

 

 

だけど、そんな回りくどいやり方しないで、ウィロビーの名前を直接出せばいいじゃんか!

 

そうすれば話は早く済む!

 

 

そんなことしたら映画が開始2分で終わってしまうじゃないか。

 

それに、もう忘れたのか?

 

なぜ3枚の広告看板登場シーンで『THE STREETS OF LAREDO』という曲が使われたのかを…

 

あの曲の歌詞にある「私を殺した犯人の名前は出さないでください」が、この映画のルールなのだ。

 

「マウマウの鼻唄の意味は?」

 

 

ああ、そうだった…

 

 

話を戻そう。

 

ミルドレッドとロビーが無言で見つめ合い、あの看板を通り過ぎたところから、この映画の主題歌『Buckskin Stallion Blues』が流れる。

 

これはじっくり解説しておいた方がいいだろう。

 

めっちゃウケるから(笑)

 

 

めっちゃウケる?

 

あの渋い歌が?

 

 

 

ですね。

 

この『バックスキン・スタリオン・ブルース』は、映画冒頭シーンでは1番と2番が流れて、ラストシーンでは1番から4番までフルで流れる。

 

このように映画の初めと終わりに流れるくらいだから、非常に重要な意味を持っていることがわかるだろう。

 

前回紹介した『THE STREETS OF LAREDO』は、映画で描かれなかった「アンジェラが殺害されるまで」の様子が歌われたものだったんだけど、映画で流れるのは1番だけで、その先の歌詞を知らないと全ての意味がわからなかった…

 

ある意味「より物語の奥深さを楽しみたい人」へ向けられたものだ。

 

だけどこの『バックスキン〜』は歌詞の全てが流れて、その歌詞全てが映画を読み解くヒントになっているんだね。

 

1番では、ミルドレッドとロビーの二人が、死んだアンジェラの《声》を不完全ながら聴いていたことが歌われ…

 

2番では、犯人がウィロビー署長であることが歌われる…

 

 

ええ!?マジで!?

 

 

あの歌は、比喩がたくさん使われていたり暗号めいた歌詞があって、ちょっとトリッキーなんだ。

 

英詩やキリスト教に馴染みがないと理解できないんだよね。

 

解説すると長くなっちゃうかもしれないので、回を改めて、次回にたっぷり話すとしよう。

 

 

そのほうがいいな。

 

ところで提案があるんだが…

 

 

何でしょう?

 

 

ずっと室内にいたもんだから、ストレスが溜まってきてね…

 

我々公園兄弟はアウトドア派なんだよね。

 

 

ええ〜

 

もう冬だよ!外なんて寒いじゃんか!

 

 

我々が生まれ育ったミネソタ州では、気温が氷点下になって初めて冬と呼ぶ。

 

10℃以上あれば春の陽気だ。昭和の健康優良児みたいに短パンTシャツで歩いている奴もいるぞ。

 

 

では近所の公園にでも行きましょうか。

 

ちょうどいいところがあるんですよ。

 

ポニーや山羊などがいる「動物ふれあい公園」ってところが…

 

 

Yeah!

 

 

ええ〜〜

 

やだよ、あそこは…

 

服が動物臭くなる…

 

 

これやさかい今どきのガキは…

 

 

つべこべ言ってないで出発するぞ!

 

いざ、動物ふれあい公園へ!

 

公園!公園!

 

 

 

ちぇっ…

 

大のオトナが公園ごときで大はしゃぎして…

 

やっぱりこの人たち「きみぞの兄弟」じゃないんじゃない?

 

 

 

 

 

 

JUGEMテーマ:映画

第7回:主題歌『Buckskin Stallion Blues』の秘密 〜『THREE BILLBOARDS OUTSIDE EBBING, MISSOURI(スリー・ビルボード)』徹底解説7

  • 2018.12.02 Sunday
  • 23:51

 

 

 

 

 

さあ着きましたよ、きみぞの兄弟さん…

 

ここが「動物ふれあい公園」です。

 

 

おおDUDE!

 

こんな素敵な公園が近所にあるとはビックリボウスキ〜!

 

 

ん?今なんて言った?

 

 

「びっくり!もう好き!」と言ったんだけど何か問題でも?

 

 

さあ中に入りましょう。

 

いろんな動物がいるんですよ。何から見ようかな…

 

 

うへえ…

 

やっぱり動物のウンコくさ〜い!

 

 

いちいちやかましいわ。お前はミルドレッドか!

 

 

この公園に「BUCK」はいますか?

 

 

バック?

 

 

「BUCK」とは牡鹿のことだね。

 

 

じゃあ「STARBUCKS」って「星のオス鹿たち」って意味なの?

 

 

残念ながら違うんだな。

 

メルヴィルの小説『白鯨』に出て来る一等航海士スターバックから取られた名前なんだけど、この「Starbuck」という苗字はイギリスのヨークシャーにある「Starbeck」という地名から来ている。

 

そしてこの「Starbeck」という地名は、古ゲルマン語の「stǫrr bekkr」が英語化したもので、意味は「葦の生い茂る小川」というもの。

 

つまり「STARBUCKS」の「BUCK」は「小川」という意味なんだね。

 

 

な〜んだ。

 

「星の牡鹿たち」のほうが「蒼き狼と白き牡鹿」みたいでカッコいいのに。

 

 

それを言うなら「白き牝鹿」や。

 

 

ひょっこりはん?

 

 

チンギス・ハーン!

 

 

ちなみに古ゲルマン語「bekkr」は現在のドイツ語で「bach」という。

 

大音楽家やIOC会長の名前で有名な「BACH(バッハ)」だ。

 

「スターバックス」の「バック」とドイツ系の人名「バッハ」は同じ言葉なんだよ。

 

今度スタバに行ったら、ドリンクを待ってる間にウンチクとして店員さんに披露するといい。

 

 

ちょーウザい客(笑)

 

 

「BUCK」という言葉は面白いよな。

 

英語の「BUCK」には「激しく抵抗する」とか「責任を押し付ける」という意味もある。

 

 

なんでだろう?

 

 

映画『子鹿物語』じゃないけど、鹿は人の言うことを聞かないからね。

 

特に発情期には近づかないほうがいい。鹿の繁殖期は9月頃から始まるんだけど、発情してる鹿はとても危険だ。

 

まあ家畜化された動物じゃないから当たり前なんだけど。

 

 

そういや…

 

アンジェラが母ミルドレッドと大喧嘩して飛び出して、その夜に殺されてもうたのも、イースターから7カ月前…

 

つまり9月頃のことやったな…

 

 

そうだったね。

 

そして「責任を押し付ける」は、かつて酒場や賭博場でポーカーをする際に、親の前に鹿の角を置いたことに由来する。

 

映画『スリー・ビルボード』でも、地元テレビのインタビューで、ミルドレッドとレポーターがこの「BUCK」を繰り返していた。

 

「The buck stops at Willoughby」

(責任はウィロビー署長にある)

 

 

映画の主題歌『Buckskin Stallion Blues』にも「BUCK」が入ってるね。

 

これはどうゆう意味なの?

 

 

タイトルを直訳すれば「鹿毛の種馬ブルース」だね。

 

鹿のように明るい茶褐色の体をした馬を「鹿毛(buckskin)」と呼ぶんだ。

 

「stallion」は「種馬・精力絶倫」という意味。

 

映画『ロッキー』でスタローン演じる主人公ロッキーは「Italian stallion(イタリアの種馬)」って呼ばれていた。

 

食えなくてポルノ映画に出演してた自分自身を、自虐的にネタにしたんだ(笑)

 

 

そういやウィロビーも、嫁に精力絶倫と言われて喜んどったな…

 

 

さて、一通り前フリが済んだところで、歌を聴くとしよう。

 

 

 

この曲って歌詞が変わってるよね。

 

「3+4の答えが7しかないなら1と2はどうすればいい?」って意味不明すぎる。

 

「3+4=7」に1と2なんか関係ないじゃん。アメリカ人は足し算もわからないのか(笑)

 

 

なんかの暗号とちゃうか?

 

大山と熊谷が塁に出て打順が糸井やったら、鳥谷と北條はどないしたらええ?…とか。

 

 

余計に意味不明だろ。

 

 

この歌は言葉遊びや比喩がたくさん使われていて、日本人にはちょっと難しいんだ。

 

しかもその歌詞のひとつひとつが映画のストーリーと直結している。

 

きっと選曲したのは音楽担当のカーター・バーウェルじゃなくて脚本を書いたマーティン・マクドナーなんだろうけど、僕が歌詞を解説しなきゃいけないね。

 

この『スリー・ビルボード』という物語を読み解く上で、とっても重要な曲だから…

 

 

まず冒頭シーンで1番と2番が流れるんだったね。

 

殺されたアンジェラの弟ロビーを母ミルドレッドが学校へ送るシーンだ。

 

助手席のロビーは振り返って「スリー・ビルボード」を眺めていた。

 

そしてロビーは母ミルドレッドを無言で見つめる…

 

それに対してミルドレッドも無言で見つめ返す…

 

 

きっと二人の心の中ではこんな会話が交わされていたことだろう…

 

 

ロ「なんで突然あんなボードを出したの?自分の意志?それとも母さんも…」

 

ミ「ここを走ってた時に急に閃いたのよ。なんか文句ある?」

 

 

このシーンでは、二人が無言だったことが重要だね。

 

何かを言いたいんだけど、二人ともそれが何なのかよくわからないんだ。

 

そしてスリー・ビルボードを通り過ぎて歌が流れだす…

 

 

『Buckskin Stallion Blues』

作詞:Townes Van Zandt

 

I heard her sing in tongues of silver
I heard her cry on a summer storm
I loved her, but she did not know it
So I don't think about her anymore
Now she's gone, and I can't believe it
So I don't think about her anymore

 

私は彼女が巧みに言葉を操って歌うのを聴いた

私は彼女が夏の嵐の中で叫ぶのを聴いた

私は彼女を愛していた

だけど彼女はそれに気付かなかった

だからもうこれ以上彼女のことは考えない

今ここに彼女はいない

私にはそれが信じられない

だからもうこれ以上彼女のことは考えない

 

 

 

tongues of silver?

 

 

「巧みに言葉を操る舌」という意味だ。

 

つまり、死んだアンジェラが送る《声なき声》だね。

 

この歌詞の「私」とはアンジェラの《声なき声》を聴いたミルドレッドとロビーを指している。

 

アンジェラは死体発見現場に立つ三枚の広告看板を使って犯人を伝えようとした…

 

自分を殺した犯人がウィロビー署長であるということを…

 

だけどこの映画のルールとして「犯人を名指しすること」は禁じられている…

 

だから「質問風」にして文章にすることを考えた…

 

前から読むと「質問」だけど、後ろから読むと犯人がウィロビーだという「断定」になるようにね…

 

 

だからディクソン巡査とセドリック巡査部長の「断定か質問か」のやり取りがあったわけだ。

 

あの会話は「同じフレーズの組み合わせによる文章でも、並び方ひとつで質問にも断定にもとれる」ということを小芝居にしたもの。

 

少しというか、かなり頭が足りないディクソンだが、ウィロビー署長以外で彼だけが三枚のメッセージを正しい順番「断定」で読んでいた…

 

だから「断定か質問か」のやり取りでセドリック巡査部長に勝ったのだな。

 

 

 

なるほど!

 

あそこだけディクソンが知的に見えたのは、そうゆう理由だったのか。

 

 

1番はアンジェラに対する母ミルドレッドの想いでもあるし、弟ロビーの想いでもあるんやな。

 

汚い言葉で罵り合っとったけど、心の中ではアンジェラを深く愛しておったんや。

 

 

その通り。

 

ミルドレッドは売り言葉に買い言葉で「レイプされればいい!」と言ってしまったことを激しく後悔していた…

 

ロビーの場合も、アンジェラがオトナの女になって少し遠い存在になってしまっていたけど、やっぱり姉ちゃんが大好きだった…

 

だからこの歌は、両者がアンジェラのことを考え、無言で見つめ合った後に流れ始めるんだね。

 

 

そして1番の終わりあたりでロビーは車を降りて学校へ行き、問題の2番が始まる…

 

ミルドレッドの運転する車は、エビングの街のメインストリートを走っていた…

 

前方に巨大な鳥の絵が描かれた警察署の建物が見えてきた頃に、出だしの歌詞が歌われる…

 

ここは非常に重要だね…

 

If three and four was seven only
Where would that leave one and two?

 

 

 

やっぱり、わけワカメや。

 

 

わかった!

 

フグ田家3人と磯野家4人の7人家族にタマと海平は含まれますか?

 

 

なんでやねん。

 

 

ヒントは「鳥」だ。

 

 

やっぱ1は鳥谷か!?

 

 

ここに知恵が必要である。

 

思慮のある者は「鳥」の数字を解くがよい。

 

その数字とは「わらべ歌」を指すものである…

 

 

鳥?わらべ歌?

 

 

よし、わかった!

 

これしかないやろ!

 

 

 

ちょっと日本人には馴染みが無いんで難しいかな。

 

実はこの2番の歌詞の数字は、英語圏で歌われる童歌『ONE FOR SORROW』の中の数字に対応しているんだよね…

 

 

One for sorrow

Two for joy

Three for a girl

Four for a boy

Five for silver

Six for gold

Seven for a secret, never to be told

 

 

これを『Buckskin Stallion Blues』の歌詞に当てはめると…

 

「3+4の答えが7だけならば、1と2はどうすればいい?」

 

男と女の結末が決して口に出来ない秘密なら、悲しみや喜びはどうすればいい?

 

ということになる。

 

 

おお!歌の趣旨にピッタリだ!

 

というか『スリー・ビルボード』的にもドンピシャじゃんか!

 

 

この歌を選ぶあたり、マーティン・マクドナーはセンスあるよな。

 

ちなみにこの童歌は、別名『MAGPIE(カササギ)』としても有名…

 

Magpie(カササギ、コウライガラス)

 

 

せやけど「カササギ」はどこにも出て来んやんけ。

 

 

続きがあるんだよ。

 

Eight for a wish

Nine for a kiss

Ten for a bird, you must not miss

 

 

「10は鳥。見逃すべからず」?

 

どゆこと?

 

 

カササギって、イエスの誕生に立ち会った鳥なんだ。

 

馬小屋の屋根にとまっていたんだよね…

 

ピエロ・デッラ・フランチェスカ『キリストの降誕』

 

 

ああ、ホントだ!

 

でもなぜカササギ?

 

 

白黒カラーのカササギは、ヨーロッパで不吉な鳥だとされていた。

 

だからイエスの誕生に居合わせたんだね。

 

このあとイエスはヘロデに命を狙われ、成人してからは「a man of sorrow(嘆き悲しむ人)」となり、世界中の悩みをひとりで背負って死ぬことになるから…

 

それを予兆する意味で、多くの宗教画に描かれたというわけ。

 

 

そして『スリー・ビルボード』において「鳥」とはウィロビー署長を意味していた。

 

だから警察署の外壁には大きな鳥の絵が描かれていたわけだ。

 

そしてウィロビーだけが他の警察官と違って「白黒の制服」を着ていたのは、カササギを想起させるためでもある…

 

 

 

ツルツルのワイが言うのもなんやけど、ピカピカはウディ・ハレルソンに失礼やろ。

 

 

「Pica pica」というのはカササギの学名なんだよね。

 

つまり正式名称がピカピカなんだ。

 

 

キラキラネームかよ!

 

 

そしてウィロビーは「馬小屋」で自決した。

 

あれはカササギの歌である『ONE FOR SORROW』の再現なんだ。

 

ウィロビーにとって「3+4(男と女のこと)」は「7(決して公言できない秘密)」だった…

 

つまり、死んだアンジェラとの関係のことだね…

 

そしてウィロビーは自決の直前に子供たちと「8(a wish)」をした…

 

明日も学校を休めるように…

 

そのあとに妻のアンと「9(a kiss)」をする…

 

そして馬小屋で「10(a bird, you must not miss)」となる…

 

彼は死の象徴である鳥カササギだったんだね…

 

 

 

ひゃあ…

 

だから『スリー・ビルボード』にはキスシーンがあそこだけだったのか…

 

この童歌を完成させるためだったんだ…

 

 

ミルドレッドの車に戻ろう。

 

警察署の前に差し掛かると、署から大声を上げながら三人の男が出て来る。

 

向かいの広告代理店へ殴りこみに行こうとするディクソン巡査を止めるセドリック巡査部長とウィロビー署長だ。

 

 

ここで流れていた歌詞は、この部分。

 

If love can be and still be lonely
Where does that leave me and you?

 

もし愛ゆえに孤独なのだとしたら

私たちはどうしたらいい?

 

 

そしてウィロビーの怒鳴り声が響き、ミルドレッドの車のすぐ後ろを通過していく…

 

 

その時に流れる歌詞が、これだ…

 

Time there was, and time there will be
Where does that leave me and you?

 

過ごした時間がそこにあった

そしてあなたのいない未来がやって来る

私たちはどうしたらいい?

 

 

あれ?なんか今…

 

 

なんや?

 

 

ウィロビーって聞こえたような…

 

 

ハァ?空耳やろ。

 

 

それでいいんだ。

 

ここでは空耳が利用されているんだよ。

 

「will be」が「Willoughby」に聞こえるんだよね。

 

Time there was, time there Willoughby

あの時そこにウィロビーがいた

 

という意味になってるんだ。

 

「あの時そこに」が何を指しているのかは、もう説明しなくていいだろう…

 

 

なんてこった…

 

「私を殺した男の名は決して出さないでください」のルールをちゃんと守って、犯人ウィロビーの名を告げてる…

 

 

脚本を書いたマーティン・マクドナーは変態だな。

 

これは褒め言葉だぞ。

 

 

『Buckskin Stallion Blues』といい『ONE FOR SORROW』といい、まったくマーティン・マクドナーはトンデモナイ歌を探し出してきたものです…

 

 

それを見つけ出したあんたも大したもんだ。

 

こんなこと書いてる人、他にいないもんね。

 

 

せやな。

 

その童歌とかホンマに英語圏でポピュラーなんか?

 

 

有名だぞ。

 

特にマーティン・マクドナーの育ったイギリスでは、1968年から1980年まで『MAGPIE(カササギ)』という人気子供番組の主題歌にもなっていたくらいだ。

 

しかも演奏はイギリスを代表するロックバンド「スペンサー・デイヴィス・グループ」だ。

 

 

 

カッコよすぎ!

 

 

しかもこの歌は色んな歌詞のバージョンがあるんだ。

 

こんなふうに長いやつもある。

 

 

 

カササギを悪魔って呼んでる…

 

まさにウィロビーだ…

 

 

この長い『MAGPIE』の歌詞も面白いんだ。

 

映画『スリー・ビルボード』の中にたくさん引用されている。

 

たぶんマーティン・マクドナーは、この歌が大好きなんだろうね。

 

 

おお!

 

この公園にはポニー乗り場があるのか!

 

せっかく来たのだから乗ろうじゃないか!

 

 

ポニーは子供しか乗れんやろ。

 

ここまで「動物ふれあい公園」ではしゃぐ大人も珍しいわ。

 

 

確か大人用に馬もいたはずだよ。僕も久しぶりに乗ってみようかな…

 

ちょっと乗馬で遊んでから、続きの解説をするとしよう。

 

 

 

 

 

 

JUGEMテーマ:映画

第8回:ウィロビー署長はTVで流れたミルドレッドのインタビューを聞いて、何を勘違いしたのか? 〜『THREE BILLBOARDS OUTSIDE EBBING, MISSOURI(スリー・ビルボード)』徹底解説

  • 2018.12.05 Wednesday
  • 13:00

 

 

 

 

 

いやあ、久しぶりに馬に乗ったな。やっぱりいいですね、乗馬って。

 

 

馬上で揺られていると無心になれるよな。

 

我々公園兄弟は、すっかりリフレッシュしたぞ。

 

 

それは良かったな。

 

っちゅうことで、あそこの休憩所で茶でもしよか。

 

 

別のところにしようよ。ここじゃ馬のウンコ臭い…

 

 

まあまあ…

 

馬がパカパカ歩む音を聴きながらお茶するなんて、実に牧歌的だと思わない?

 

それに紅葉も綺麗だしね。

 

 

お姉さん、コーヒー4つとオレンジジュース1つくださいな。

 

あと、馬にあげるニンジンも1本…

 

いっぽんで〜もニンジン!なんちゃって。

 

 

は、はい…

 

では丁度2000円になります…

 

 

おや?あなたは外国の方ですか?

 

 

ええ…アメリカのミズーリ州の生まれです…

 

 

ほう。我々はミネソタの生まれですよ。

 

 

あら、そうでしたか…

 

ドリンクはお持ちしますので、席に座ってお待ちください…

 

 

 

 

 

早くオレンジジュース来ないかな〜

 

 

可愛いネーチャンがいるとコロっと態度が変わるな。このマセガキめ。

 

せやけどあのネーチャン、どっかで見たような…

 

 

飲み物が来るまでに時間がかかりそうだから、解説を進めちゃおうかな。

 

前回までは、映画の導入部にあたる10分間を見ていった。ここからいよいよドラマが始まるわけだ。

 

その火ぶたを切るのは、主人公ミルドレッドが働く土産物店の同僚デニス。

 

デニスはミルドレッドに3枚の広告看板を出したかどうかを聞き、最後にこう言う。

 

「これで警察も動くよ」

 

 

 

 

確かに警察は動き始める。

 

だが事件捜査に動くのではなく、看板撤去に動き出すんだな…

 

捜査なんか最初っからヤル気がないんだ…

 

 

でもウィロビー署長自ら死体発見現場の再捜査をしてたじゃんか。

 

 

 

 

あれは「捜査」ではなく「確認」だよ。

 

ウィロビーは不安になって見に行ったんだ。

 

自分の犯行だとバレる証拠が残っていないかを、もう一度確かめるために…

 

 

ええ!?

 

 

では、順を追って見ていこう。

 

まずはレッドの広告代理店オフィスのシーンから。

 

 

 

 

セドリック巡査部長が猛烈な勢いで「あの看板は違法だ!撤去しろ!」とまくし立てていたね。

 

そして「俺のことをセドリックと呼ぶな!」とか怒ってた(笑)

 

 

そんならグロリアと呼んだらええ。

 

 

へ?

 

 

ニサンだな。

 

 

NISSANは「ニッサン」と発音するんや。小っちゃい「ッ」を忘れたらアカン。

 

わかったかアメリカ人。

 

 

そうじゃないんだよ…

 

「ニサン」とはユダヤ教の宗教暦の第1月目の名前なんだ…

 

 

1月なのにニサン?

 

変なの(笑)

 

 

君たち日本人だって1本でもニンジンと呼ぶではないか。

 

 

ニサンとは、現在僕らが使ってる暦の3月後半から4月後半にあたる。

 

ニサン14日には有名な「過越し」が行われるよね。

 

玄関の周りに羊の血を塗り、怒れる神Yahawehによる「死の罰」を無事に過ぎ越したことを記念するお祭りだ。

 

そしてその二日後のニサン16日には「大麦の初穂」を祝う祭りが行われる。

 

古来から続くこの祭りに合わせてイエスの死と復活劇は演じられ、これをキリスト教徒は「復活祭(イースター)」として祝うわけだ。

 

そしてこの映画『スリー・ビルボード』もイースターから始まる。

 

コーエン兄弟の『RAISING ARIZONA(赤ちゃん泥棒)』と同じように…

 

 

あれは素晴らしい作品だったな。

 

しかも『スリー・ビルボード』を読み解くヒントが山のようにある。必見だ。

 

コーエン兄弟『RAISING ARIZONA(赤ちゃん泥棒)』

 

 

何のハナシをしとんねん。セドリックと関係ないやろ!

 

 

そういえばさ…

 

「俺をセドリックと呼ぶな」というのは構わないけど、そもそも苗字は何て言うんだろうね?

 

 

さあね。

 

誰も苗字で呼ばないし、脚本にも苗字は書かれていない。

 

 

じゃあ「俺をセドリックと呼ぶな」って言われても困るじゃんか!

 

どうすりゃいいんだよ!

 

 

あれは「俺を人種差別主義者呼ばわりするな!」という意味なんだよ。

 

「セドリック」って、アングロサクソン至上主義者の隠語なんだ。

 

 

ええ!?

 

 

「NISSANセドリック」が海外では「DATSUN200」として売られたのも、そういう背景があったのかもしれないな…

 

「NISSAN」も「セドリック」も誤解を招きかねなかったから…

 

 

ど、どゆこと?

 

 

「Cedric(セドリック)」って、1820年にスコットランドの国民的作家ウォルター・スコットが発表した小説『Ivanhoe(アイヴァンホー)』の登場人物の名前なんだよ。

 

このセドリックという人物は、当時イギリスで勢力を伸ばしていた余所者ノルマン人を嫌っていて、イギリスをアングロサクソン人の手に取り戻すために暗躍するんだ。

 

セドリックは、アングロサクソン王室の血を引く姫の後見人を務めており、この姫を使って王家再興を企んでいたんだね。

 

ちなみに、それまでブリテン島に「Cedric」なんて名前の人はいなかった。

 

ウォルター・スコットが創作した名前なんだよね。

 

 

ええ!?そうなの!?

 

 

アングロサクソン至上主義者なんで、アングロサクソンの本流であるウェセックス家の始祖「Cerdic(セルディック)王」の名前を一字入れ替えて付けられたんだよね。

 

だけど小説が大ヒットして、自分の子供に「Cedric」と名付ける英国人が続出し、一気にポピュラーな名前になったというわけ。

 

 

せやったんか。キラキラネームみたいなもんやな。

 

 

タイトルになってる「アイヴァンホー」は何なの?

 

 

小説の主役である騎士の名前だよ。

 

アイヴァンホーはセドリックの息子なんだけど、あろうことか大事な姫と恋愛関係になってしまい、父セドリックから勘当される。

 

そしてノルマン人の英国王リチャードの臣下となり、裏切り者のジョン王派と戦うんだ。

 

そして最後は宿敵との一騎打ちに勝ち、リチャード王の勧めで姫と結ばれる。

 

 

なんだ、結局はヒーローとヒロインが結ばれるラブロマンスじゃんか。

 

 

ヒロインは姫ではないんだな…

 

悲劇のユダヤ女性レベッカなのだ。

 

 

ユダヤ女性レベッカ?

 

 

その通り。

 

実はこの『アイヴァンホー』という作品は、ユダヤ女性レベッカと騎士アイヴァンホーの禁断の愛の物語でもあるんだね。

 

レベッカの父親アイザックは金貸し業のユダヤ人で、アングロサクソン人からもノルマン人からも差別されていた。

 

この父娘はイギリス人から酷い仕打ちを何度も受け、ついにレベッカはキリスト教徒の男性をたぶらかした罪で死刑を宣告されてしまう。

 

 

それだけで死刑!?

 

 

この当時、キリスト教徒の男性に色目を使ったユダヤ人女性は死刑だったんだ。

 

魔女だとされてね。

 

 

怖すぎ…

 

 

だけどもちろんレベッカは無実だ。

 

真相は逆で、彼女に言い寄って拒否られた悪徳騎士がでっち上げた濡れ衣だったんだ。

 

そしてアイヴァンホーはこのユダヤ人の父娘に恩義があった。

 

アイザックはアイヴァンホーのスポンサーであり、レベッカは献身的にアイヴァンホーを支え続けていた。アイヴァンホーとレベッカの間には、愛も芽生えていたんだね。

 

だからアイヴァンホーは彼女の名誉のために立ち上がり、悪徳騎士と一騎打ちの試合に挑み、見事に勝利する。

 

これでハッピーエンドかと思いきや、レベッカは身を引いた。

 

アイヴァンホーの父セドリックはアングロサクソン至上主義者でユダヤ人を嫌っているしね…

 

いくら互いに愛していても、ユダヤ人とキリスト教徒という壁は乗り越えられないんだよ。

 

そしてレベッカは父と共にイギリスを去る。

 

アイヴァンホーのことを忘れるために、海を渡ってスペインへ行ってしまうんだ…

 

 

可哀想、レベッカ…

 

 

イギリスでのユダヤ人差別は根深く、ユダヤ人が公職に就けるようになったのは1858年のこと…

 

ライオネル・ド・ロスチャイルドが十年以上も選挙で当選し続けたにも関わらず国会議場へ入ることを許されず、十二年目でようやく認められた。

 

だが一般社会での差別はその後も続き、ユダヤ系である出自を隠しながら生活する者も多数いた。

 

カズオ・イシグロ『日の名残り』の主人公スティーブンスのように…

 

 

なるほどね。

 

でも『スリー・ビルボード』と何の関係があるんだ?

 

セドリックとレッドの話をしてよ。

 

 

だから、レッドがユダヤ系であることを隠しているって話だよ。

 

そしてディクソン巡査もね。

 

 

なぬ!?

 

 

『スリー・ビルボード』の紹介記事には大抵こんなことが書かれている。

 

「ディクソンは同性愛者であることを隠している」と…

 

でも違うんだな(笑)

 

彼が隠しているのは「ユダヤ系」という出自なんだね。

 

 

マジですか!?

 

ネット上に書かれている彼の噂は全部嘘なの!?

 

 

そうだろ?

 

 

ヘーイ、ヘーイ、ヘーイ。

 

 

どうなちゃってんだよ?

 

 

まあ、順を追って説明するから。

 

ただ普通に考えて、ディクソンはあれだけ人種差別発言のオンパレードなのに、ユダヤ人関連の差別発言を一度も口にしないのって不自然だと思わない?

 

アメリカ社会における伝統的な人種差別といえば「黒人・ユダヤ人・ヒスパニック」だからね。

 

それに、この映画に多数引用されるコーエン兄弟の初期作品『ブラッド・シンプル』と『RAISING ARIZONA』も、ユダヤ人という言葉を一度も出さずにユダヤ人差別を描いていた…

 

『ブラッド・シンプル』ではバーのオーナーであるマーティはギリシャ系ユダヤ人だったし、『RAISING ARIZONA』では大富豪アリゾナ氏と主人公ハイとエドのカップル、そして賞金稼ぎのスモールスがユダヤ系である出自を隠していた…

 

コーエン兄弟の大ファンであるマーティン・マクドナーは、小ネタだけでなく、そういうところも取り入れてるというわけだ。

 

 

彼を準コーエン兄弟と認定して「コーエン従兄弟」の称号を与えよう。

 

 

さて、広告代理店オフィスのシーンに戻ろうか。

 

レッドはセドリックとの舌戦で調子に乗ってしまい、余計なことを言ってウィロビーを怒らせてしまった。

 

それまで黙って聴いていたウィロビーは、ゆっくりと足を机の上に置き、ついに口を開く…

 

 

 

あれは怖かったな。

 

後ろで何も聴こえてないふりをしてる秘書がちょっと面白かったけど…

 

 

秘書のパメラはセリフは少ないけど、ピンポイントで笑わせてくれるんだよね。

 

ディクソンが殴り込みに来た時は最高だったな。

 

彼女はディクソンに「FUCKING PIG!」と叫び、その瞬間に顔面パンチを喰らって吹っ飛ぶんだ。

 

ディクソンはユダヤ系だから「ブタ」は最大級の禁断ワードだったというわけ。

 

それにディクソンは童貞だから余計にね。

 

 

そうだったのか…

 

だからあんなふうに女性に対しても問答無用のグーパンチをお見舞いしたんだな…

 

 

この映画は差別用語と暴力のオンパレードなんだけど、すべてにちゃんとした意味があるんだよ。

 

ただ乱暴なだけじゃないんだ。計算し尽くされたブラックユーモアなんだね。

 

 

だから興行収入はイマイチでも各映画祭で高評価を得たのだ。

 

つまり玄人受けしたんだな、コーエン兄弟の『バートン・フィンク』と同じように。

 

 

さて、次のシーンは警察署内だ。

 

手ぶらでレッドのオフィスから戻って来たセドリックとディクソンが言い争いを始める。

 

主題歌『Buckskin Stallion Blues』が流れたシーンで、ディクソンは署内に待機するように言われていたからイラついていたんだ。

 

このシーンは前回紹介したね。

 

「同じフレーズを使った文章でも、言い方を変えると《質問》にも《断定》にも意味がとれる」ということを観客に伝えるための口喧嘩だった。

 

そしてディクソンはレッドを殴りにいくために外へ飛び出す…

 

 

Yah Yah Yah!

 

 

 

そしてここで非常に重要なシーンが差し込まれる。

 

ディクソンを追って外へ出ようとしたウィロビーに対し、セドリックがこんなことを言うんだ。

 

 

「いったい全体どういう理由で、あんな野郎を飼い続けているんですか?」

 

 

 

さすがアングロサクソン至上主義者!

 

 

それに対してウィロビーはこう答える。

 

「あいつはいい奴なんだ。ハートだけは…」

 

 

ウィロビーがディクソンを飼ってる理由は無能だからだよね。

 

自分の思い通りに使えるし、大事なものも無くしてくれる(笑)

 

 

何かマズいことになったら、全部ディクソンのせいにしたらええんや。

 

例えば重要な証拠品を「紛失」した時とか、押収品の大麻が「紛失」した時とか…

 

 

彼のデスクの上は、捜査資料の他にもマンガ本やおもちゃで、ぐっちゃぐちゃだったからね(笑)

 

さて、ウィロビーの「いい奴」発言にセドリックは反論した。

 

「でも奴は拘束段階の被疑者にも暴力を振るっているんですよ」

 

この発言に対してウィロビーは「だが…」と言いかけて、一瞬視線をそらし、何かを考える。

 

そしてこう答えるんだ。

 

「それを…裏付ける証拠はない」

 

 

 

ああ!めっちゃ怪しい!

 

人が何かを隠してる時にする仕草だ!

 

視線をそらして考えていたのは自分のことだな!

 

 

その通り。

 

ウィロビーはミルドレッドが出した3枚の広告看板を、自分を犯人だと名指しするメッセージだと勘違いした。

 

最初にディクソンから電話で報告を受けた際に、ディクソンは「見た順番」で説明しただろうからね。

 

こんな内容だと思ってしまったんだ…

 

HOW COME, CHIEF WILLOUGHBY

AND STILL NO ARRESTS

RAPED WHILE DYING

なぜウィロビー署長は

まだ逮捕されないの?

死しそうな体でレイプした

 

 

だからセドリックに「それを裏付ける証拠はない」と言う時、まるで自分に言い聞かせるように言ったんだね。

 

 

この映画を観た多くの人が、ウィロビーが犯人であることを見逃した…

 

このシーンのように、ヒントはいくつも用意されていたのに…

 

人の先入観というのは恐ろしいものだな…

 

 

そしてレッドに殴り掛かろうとしていたディクソンを、ウィロビーは羽交い絞めにして止める。

 

その時のディクソンの負け惜しみが最高だったよね。

 

「あんな道は誰も通りゃしねえ!通るのは道に迷った奴かボンクラだけだ!」

 

 

自分が一番最初に通ったくせに(笑)

 

 

最高だよね、ディクソン。

 

さて、場面は変わって「スリー・ビルボード」前となる。

 

ミルドレッドが地元テレビ局のインタビューを受けるシーンだね。

 

 

ここでも重要な発言が登場する。

 

ウィロビー署長の名前が広告に書かれたことに対して、女性インタビュアーは質問した。

 

「なぜウィロビー署長を名指しで?事件未解決の責任はウィロビーにあるとでも?」

 

そしてミルドレッドはインタビュアーの言葉をそのまま繰り返す。

 

The buck stops at Willoughby

Dead right it does

責任はウィロビーにある

それは明白

 

 

「BUCK」という言葉は「責任」の他に「鹿」という意味もあるんだよね。

 

だから後のシーンで鹿が看板の前で止まるんだ。

 

 

その通り。

 

鹿は「AND STILL NO ARRESTS」の看板のところにやって来た。

 

ミルドレッドはこのメッセージを「ウィロビー署長はまだ犯人を逮捕してくれない」という意味で出稿した。

 

でも死んだアンジェラが母に送ったメッセージは、そうじゃなかったんだよね…

 

だからアンジェラは鹿に憑依して「間違い」を訴えようとしたんだ。

 

「AND STILL NO ARRESTS」なのは、ウィロビー本人のことなんだと…

 

 

 

ああ!またもや勘違い!

 

しかも「あなたがアンジェラの生まれ変わりだなんて信じないわよ」とか言っちゃってるし!

 

 

大爆笑のシーンだよな。

 

俺たちは映画館でこのセリフに腹を抱えて笑ってしまった。

 

エビングの住民のように何も見えていない他の観客からは白い目で見られたが(笑)

 

 

最高に愉快な演技ですね。

 

フランシス・マクドーマンドがアカデミー主演女優賞を獲得したのも納得です。

 

さて、ミルドレッドのインタビュー映像は、さっそく夜のニュースで流された。

 

それをウィロビーは自宅で妻のアンと見ていて、ミルドレッドの「The buck stops at Willoughby, dead right it does」のところでテレビを消す…

 

 

「Dead right it does(それは明白)」って…

 

「死に値する」とも聞こえるね。

 

 

そうなんだよ。

 

だからウィロビーは動揺して馬小屋へ向かったんだ…

 

 

そして後を追って来たアンに対して、馬を撫でながらこんなことを言う…

 

Looks like we got a war on our hands...

あれは我々に対する宣戦布告だろう…

 

 

ウィロビーも完全に勘違いしちゃってるから、こんな大袈裟な表現になっちゃったんだね…

 

 

『WAR HORSES(戦火の馬)』のギャグかと思っとったわ。

 

 

 

それもあるんだよね。

 

『戦火の馬』という物語は、主人公アルバートの視点だけでなく、馬のジョーイの視点を通しても描かれる。

 

同じように『スリー・ビルボード』にも、霊魂となったアンジェラの「視点」というものが存在する。

 

よく観てないと気付かないけど、ほとんどのシーンに彼女は関与しているんだ。

 

様々な「動物」としてね…

 

 

じゃあアンジェラは馬にも…?

 

 

もちろん。

 

だから馬臭い女性が登場するんだよ。

 

馬に憑依したあとすぐ人間に入ったから、臭いがそのままうつっちゃったんだね(笑)

 

 

幽霊なのに臭いが付くのか…

 

どんな物理現象なんだよ…

 

 

世の中には科学で説明できない不思議な現象がたくさんある。

 

たとえ科学で説明できない現象だからといって、それを否定することは科学的に間違ってるよな?

 

 

そんなセリフ、『インターステラー』で少女時代のマーフも言ってたね。

 

 

これぞまさに「あなたの知らない世界」だ。

 

イワオの頭も信心から…と言うではないか。

 

 

それを言うならイワシや。

 

 

 

すみません、お待たせしました…

 

コーヒー4つとオレンジジュースでしたね…

 

 

どうもありがとう。うん、いい香りだ。

 

 

香り?

 

馬の臭いしかしないんだけど。

 

そうだよね?お姉さん。

 

 

え、ええ…

 

 

では、コーヒーブレイクでもしながら、続きを解説するとしましょう。

 

次回は「ミルドレッドのもとへ探りに行ったウィロビー」のシーンから…

 

ここは映画の中でも1、2を争う重要な場面だ。

 

事件の真相がバレたと思って焦っているウィロビーと、実は何も気づいていないミルドレッドとの会話を徹底解説するよ。

 

乞うご期待!

 

 

 

 

 

 

 

JUGEMテーマ:映画

第9回:ウィロビーの訪問 〜『THREE BILLBOARDS OUTSIDE EBBING, MISSOURI(スリー・ビルボード)』徹底解説

  • 2018.12.06 Thursday
  • 09:26

 

 

 

 

 

さて、ミルドレッドのTVインタビューを聞いて、ウィロビーは自分への宣戦布告だと勘違いした。

 

「もしかしたらアンジェラ殺しの犯人であることに気付いているのでは?」と不安に思ったんだね。

 

 

詳しくは前回をどうぞ。

 

 

 

ウィロビーにとって、特に「RAPED WHILE DYING」のメッセージが気にかかった。

 

なぜなら彼は末期癌で余命数ヶ月の体で、アンジェラをレイプしている最中に吐血してしまっていた。

 

そのことにミルドレッドが気付いたのでは…と不安になってしまったんだね。

 

でもウィロビーには、どうやってミルドレッドがその答えに至ったのかがわからない。

 

なぜなら重要な証拠はウィロビーがすべて揉み消しており、誰も気付かないはずだったから。

 

そこでウィロビーは、ミルドレッドがどこまで気付いているのかを探るために、彼女の家を訪ねた…

 

 

 

あのシーンは、そうゆう状況やったんか。

 

 

だからあの時のウィロビーは芝居じみていたんだ。

 

さすがは名優ウディ・ハレルソン、やましさを隠している様子を巧く演じている。

 

 

 

いつもと違う口調で口早に弁明するウィロビーをミルドレッドは疑いの目で見てるのに…

 

ああいうのは何か嘘をついてる証拠なんだよ!

 

なんで気付かないんだ!

 

 

 

確かにミルドレッドはウィロビーの弁明を冷ややかな態度で聞いていたね。

 

ウィロビーはこんなことを言った。

 

「あらゆる手は尽くしました。だけど遺体に残された犯人のDNAは、逮捕者の誰とも一致しなかった。アメリカ全土の犯罪者のDNAデータベースと照合しても、一致する者はいなかったんです…」

 

 

 

そりゃそうや。犯罪歴のある奴と一致するわけがない。

 

誰からも尊敬される警察署長様のDNAやさかいな。

 

 

そしてこう続ける。

 

「彼女が家を出てから発見されるまで、目撃者はひとりもいません。これ以上どんな手を尽くせと?」

 

そこでミルドレッドは口をはさんだ。

 

「町の全ての男の血液を採取すればいい。8歳以上の全ての男の血を」

 

 

ああ!血液!

 

惜しいとこ突いてる…

 

 

ウィロビーは、一瞬、言葉に詰まる。

 

だけど反論し、ミルドレッドとのやり取りが続く…

 

 

ウィ「それは人権的に問題が…。それに犯人は町の人間ではない可能性も…」

 

ミ「じゃあ国じゅうの男の血液を採取すればいい」

 

ウィ「すでに国外へ逃亡していたら?」

 

ミ「私ならDNAのデータベース作りを始める。これから生まれる全ての男の赤ちゃんから血液を採取して、そこからDNAを辿るのよ。悪人だって必ず近親者がいるはず。100%の証拠を立てて、そいつをぶち殺す」

 

ウィ「それも残念ながら…基本的人権の侵害になるでしょう…」

 

 

 

「血」に着目したところまではよかったのだがな。

 

しかしこの会話も笑わせてくれる。

 

何のパロディか気付いたか?

 

 

パロディ!?

 

 

もう忘れたの?

 

エビングの町で絶対的な権力を握るウィロビー署長には、聖書の登場人物ヘロデ王が投影されているって言ったでしょ?

 

ある時ヘロデ王のもとへ東方の三賢人が訪れる。

 

彼らは夜空に輝く不思議な星を見て「新しいユダヤの王が生まれたこと」を知り、礼拝するためにこの地までやって来たんだ。

 

自身の王位が奪われると恐れたヘロデは、それを顔に出さず「私も礼拝に行きたいから、探し出して居場所を報告して欲しい」と三賢人に伝えた。その後に殺してしまおうと考えたんだね。

 

三賢人は星を頼りにベツレヘムの馬小屋に辿り着き、生まれたばかりの幼子イエスに礼拝する。

 

だけどヘロデの言動を怪しんだ三賢人は、報告に戻ることなく東方へ帰ってしまったんだ。

 

焦ったヘロデは、男の子の赤ん坊を皆殺しにする命令を下す。

 

全員殺してしまえば、その中に預言の子も入ってるだろうと考えたんだね…

 

『ヘロデの幼児虐殺』

 

ミルドレッドが「男の赤ちゃん全員の血液を採取して犯人を探し出す」と言ったのは、この出来事が元ネタなんだね。

 

だからウィロビーは苦虫を嚙み潰したような顔をしたんだ。

 

 

これがホントの「ホシ探し」…

 

なんちゃって。

 

 

なるほど…

 

 

さて、ミルドレッドが「血」の話を持ち出したことにより、ウィロビーは不安に陥った。

 

ウィロビーがアンジェラにガソリンをかけて焼き殺したのは、レイプ中に付けてしまった吐血の跡を完全に消し去るためだったからね。

 

でもミルドレッドが何に気付いて何を疑っているのかが掴めない…

 

まだウィロビーの中では、気付かれてる可能性はフィフティフィフティってところだろう…

 

 

ウィ「あの看板はフェアとは言えない」

 

ミ「あなたがクソ女に時間を費やしてるこの瞬間にも、どこかで哀れな女の子がレイプされている。なのにあなたは自分のことしか考えていない」

 

 

ここでウィロビーはしばらく考え込み、一か八かの探りを入れる決心をする…

 

一歩間違ったら命取りになりかねない危険な賭けだ…

 

 

ウィ「そうじゃないんだよ…。私は癌だ。死の病に侵されているんだ(I'm dying)...」

 

 

 

 

ああ!

 

「RAPED WHILE DYING」の「DYING」の意味を確かめるつもりなんだね!

 

アンジェラのことなのか、それとも犯人のことなのか…

 

 

その通り。

 

「RAPED WHILE DYING」が「死にそうな体でレイプした」という意味なのか確かめようとしたんだ。

 

わざわざ「I'm dying」という言葉を出してね。

 

するとミルドレッドは即答した。

 

 

「そのことは知ってる」

 

 

その言葉にウィロビーは固まってしまう…

 

 

 

これは焦るよな。

 

ウィロビーの中で「RAPED WHILE DYING」が「死にそうな体でレイプした」である確率は90%まで上昇だ。

 

 

同じ「DYING」という言葉を、ミルドレッドはアンジェラのことだと思っていて、ウィロビーは自分のことだと思っている…

 

この両者の「DYING」の解釈の違いが、様々なドラマを生んでいくんだ。

 

実にうまい脚本だよね。

 

 

マーティン・マクドナーは天才ですね。

 

さて、固まったウィロビーに対し、ミルドレッドはこう言い放つ。

 

ミ「町の者はみんな知ってる」

 

ここでウィロビーは呆然として、口をパクパクさせるんだ。

 

ウィロビーの中で「犯人は死にそうな体でレイプした」ということと「町の者はみんな知っている」ということが繋がってしまい、恐怖を覚えたというわけだね。

 

 

 

目の泳ぎ方とか完璧やな。

 

「え?え?え?え?」って感じがよう出てる。

 

 

ウィロビーは動揺を隠せないまま、こう尋ねる。

 

 

ウィ「知ってて広告を出したのか…?」

 

ミ「死んだ後じゃ意味がないでしょ」

 

 

これでウィロビーは、ミルドレッドが「気付いている」ことに確信を持った。

 

恐れと悲しみが混じり合った複雑な表情で、この場を後にする…

 

 

ああ、また大変な勘違いが…

 

 

ちなみにミルドレッドの最後のセリフはこうだった。

 

Well, they wouldn't be as effective after you croak, right?

あなたが死んだ後じゃ意味無いでしょ?

 

何か気付かないか?

 

 

何か?

 

そういや「死ぬ」っちゅう単語が見当たらんな。

 

「croak」がそれか?

 

 

そうなんだよ。

 

ここでは「croak」という単語が「死ぬ」という意味で使われているんだけど、本来の意味は「不吉な黒い鳥の鳴き声」なんだ。

 

つまり前に紹介した、イエスが生まれた時に馬小屋の屋根にとまり、死を予兆した鳥「Magpie(カササギ、コウライガラス)」のことなんだね…

 

『Buckskin Stallion Blues』とMagpie(カササギ)

 

 

ああ!

 

ウィロビーに投影されていて、学名が「ピカピカ」という、あのカササギ(コウライガラス)か!

 

 

 

うまいこと出来てるよな。

 

さすがコーエン従兄弟ことマーティン・マクドナー。

 

 

さて、ウィロビーが去った後に、ミルドレッドは興味深い仕草をする。

 

少し顔をゆがめて、何かを後悔したように首を振るんだ…

 

 

 

そういえば妙やな。

 

ウィロビーの前では、あれだけ厳しい表情やったのに…

 

 

ウィロビーとの会話でミルドレッドは嘘をついた。

 

だから首を振って「ああ…」と暗い顔をしたんだよ。

 

「病気のことを知ってて広告を出した。死んでからでは遅いから」というのは嘘だったんだ。

 

 

ええ!?そうじゃなかったの?

 

 

ミルドレッドは知らなかったんだよ。

 

それに、あの広告を出したのは、アンジェラの《虫の知らせ》をキャッチしたからだったでしょ?

 

「スリー・ビルボード」のメッセージを考案したのはミルドレッドではなくアンジェラだ。

 

アンジェラが念を使ってミルドレッドの頭に文章のイメージを送ったんだよ。

 

ミルドレッドは、ウィロビーの病気を知って慌てて広告を出したわけじゃない。

 

 

じゃあ何で嘘をついたんや?

 

 

今さら後に引けないでしょ?

 

「知らなかった、ごめんなさい」とはもう言えない。

 

その証拠に、次のバーのシーンでは、レッドもウィロビーの病気を知らなかったことが明かされる。

 

警察署の向かいのビルで広告代理店業を営むレッドが知らないくらいだから、少なくとも「町の者みんなが知っている」は嘘だ。

 

あれもハッタリだったんだね。

 

 

そうだったのか…

 

 

この映画は、登場人物が勘違いを重ね、その勘違いが別の人物に新たな勘違いを与えるということの連続なのだ。

 

その結果、ウィロビーは勘違いしたまま死を選び、ミルドレッドとディクソンは勘違いしたまま旅に出る…

 

何とも皮肉な物語だよな。

 

 

すっかり騙されちゃったな…

 

なんで最初に観た時に気付けなかったんだろう…

 

 

せやな…

 

日本人はすっかり騙されてもうた。

 

 

たぶん「あの書」のことを知らないからじゃないかな。

 

幼い頃から「あの書」に親しんでいる欧米人なら、映画『スリー・ビルボード』が何をベースに描かれた物語なのか、すぐにピンとくる。

 

だって、登場人物のキャラ設定からストーリー構成まで、丸っきり「あの書」のパロディなんだから…

 

 

「あの書」って、どの書?

 

 

それを端的に表すのが、次の「バーでのビリヤード」シーンだよな。

 

ネタバレのオンパレードだ(笑)

 

 

ですね。

 

映画『スリー・ビルボード』を読み解く上で、あのシーンを正しく理解することは非常に重要です。

 

「なぜビリヤードなのか?」

「なぜレッドは警察に反抗的なのか?」

「なぜディクソンはレッドを嫌うのか?」

「なぜレッドは赤毛なのか?」

「なぜディクソンはキューバの話をしたのか?」

「なぜディクソンは同性愛者の話をしたのか?」

「なぜジェームズは小人症なのか?」

 

ざっと挙げただけでも、バーでのシーンには「あの書」を彷彿とさせるこれだけのヒントがある…

 

 

そんなに…?

 

「あの書」って何だろう?

 

 

「あの歌」も重要だな。

 

 

あの歌?

 

 

ビリヤードの場面でバックに流れる曲のことだよ。

 

無名アーティストFELICE BROTHERSによる超マイナー歌『RADIO SONG』だ。

 

 

 

フェリス兄弟?聞いたことないな。

 

 

しかも超ユルい曲(笑)

 

なんでこんな歌が選ばれたんだろう?

 

 

それは歌詞に理由がある。

 

『スリー・ビルボード』と同じように「DYING」を巧く使った歌詞なんだ。

 

 

そういえば1番には、こんな歌詞があるね…

 

The dying leaves

are dancing off of the trees

They got an easy way

Let's you and me go dancing too

wreck our dancing shoes

枯葉はダンスするように

木から舞い落ちる

簡単なことなのさ

さあ君も僕と踊ろう

靴なんて脱ぎ捨ててしまえ

 

そして2番には…

 

The dying stars

are falling down on us

They got an easy way

Let's you and me falling too

way out into the blue

夜明け前の星が

僕らに降り注ぐ

簡単なことなのさ

さあ君も僕と恋に落ちよう

この空を駆け抜ける抜けて

 

 

なんでラブソングなのに「DYING」を使った不吉な歌詞なんだろう?

 

 

だってイエス・キリストのことを歌ったものだからね。

 

イエスの「死」はネガティブなものではなく「愛」の象徴でしょ?

 

 

ああ、そうか!

 

 

この歌の1番は「十字架での死」で2番は「キリストの降誕」なんだ。

 

木から落ちる「枯葉(dying leaves)」というのは、十字架から降ろされる「死んで残された肉体」のこと。

 

「leaves」は「葉」と「亡骸」の駄洒落なんだね。

 

そして2番の「dying stars(夜明け前の星)」とは、イエス・キリストの誕生を告げるように空から降って来た「ベツレヘムの星」のことなんだよ。

 

この歌は「dying」がキーワードになっているから、『スリー・ビルボード』にピッタリだったというわけ。

 

 

なるほどな。

 

サビでも「die」が連呼されとる。

 

Please don't you ever die

You ever die, you ever die

 

 

だね。こんな意味なんだ。

 

どうかあなたが忘れ去られることのなきよう

ずっとずっと永久に

 

そしてこう続く…

 

You moved me all of my life

All of my life, all of my life

Hum our radio songs

Radio song, radio song

After every radio's gone

Radio's gone, radio's gone

 

あなたは私の人生を突き動かした

いつ何時も人生のすべてにおいて!

世界に遍く響き渡るあの歌を歌おう

福音の歌を!福音の歌を!

たとえ使徒たちがこの世を去ろうとも

この世を去ろうとも!

 

 

「RADIO」って「福音」という意味なの?

 

 

そうだね。

 

正確に言うと「カトリック」だ。カトリックとは「普遍」という意味だからね。

 

そして「radio」という言葉の原義は「あまねく広まる」という意味なんだよ。

 

この「RADIO=福音・普遍」というネタは、多くの歌で使われている。

 

日本でも有名な曲があるよね。知ってる?

 

 

『壊れかけのRADIO』?

 

 

これだよ。

 

 

 

清志郎の『スローバラード』!?

 

 

この歌は、聖書で有名なこの場面がモチーフになってるんだ。

 

『ゲッセマネの祈り』

 

 

げ、ゲッセマネ!?

 

 

市営グランドの駐車場とは、うまく喩えたもんだ。

 

この時、イエスの弟子たちは熟睡していた…

 

悪い予感のカケラもなく…

 

 

だから石ちゃんはこの歌が好きなんですね。

 

熟睡していた使徒ペトロの名前「Petro」とは「石ちゃん」という意味だから(笑)

 

 

ズコっ!

 

 

冗談はこれくらいにして…

 

ビリヤードのシーンと「あの書」について解説しなきゃいけないね。

 

とっても大事な話なので、次回の第10話でたっぷりと解説しよう。

 

 

それがいいだろう。

 

映画の核心に迫る部分でもあるからな。

 

 

 

 

 

 

JUGEMテーマ:映画

第10回:ビリヤードじゃなくてプールをしてるんです。 〜『THREE BILLBOARDS OUTSIDE EBBING, MISSOURI(スリー・ビルボード)』徹底解説

  • 2018.12.07 Friday
  • 22:37

 

 

 

 

 

では「バーでのビリヤード」シーンの解説を始めるよ。

 

 

登場する人物は、主人公ミルドレッド、広告代理店のレッド、ディクソン巡査、そして小人のジェームズの4人。

 

 

バックで流れる曲『RADIO SONG』のことは前回に話したね。

 

 

 

『RADIO SONG』とは「あまねく広まる歌」、つまり「普遍なるイエスの教え」って意味だったんだよね。

 

 

 

この歌をバックに展開されるシーンなのだから、当然その内容は「RADIO(あまねく伝え広める)」がテーマということになる…

 

もうわかるよな?

 

 

わかりませ〜ん!

 

 

わからないだと?

 

お前ら日本人は、何をもって「メリー・クリスマス!」と祝っているのだ?

 

救い主イエス・キリストが降誕し、その救いの言葉が遍く世界中に及んだことを感謝しているのではないのか?

 

 

いちいちそんなこと考えてないよ。

 

だってオイラたち日本人のほとんどは神道と仏教徒のハーフだから。

 

なんかオシャレだし、周りも皆やってるし、なんとなくノリで「メリクリ!」って言ってるだけ。

 

あと、プレゼントがもらえることも大きいかな。

 

 

じゃあハヌカも祝え。

 

クリスマスなんかよりプレゼントがいっぱいもらえるぞ。

 

 

 

そうゆうのは広告代理店とかお菓子メーカーに言ってよ。あとディズニーランドとか。

 

 

ディズニーとUSJが始めたら従順な日本人は付き従うで。ハロウィンとかイースターみたいに。

 

 

じゃあお前たち、新約聖書を読んだことないのか?

 

まさか内容を知らないでメリクリメリクリ言ってたとか?

 

 

馬鹿にすんなよ!聖書くらい知ってら!

 

マタイ、マルコ、ルカ、ヨハネでしょ?

 

 

そのあとは?

 

 

あと?

 

 

そのあとは『ヨハネの黙示録』や!

 

 

お前たち、本気で言ってるのか…?

 

 

なんで?

 

 

まあまあ、公園兄弟さん。これが日本の現実というものです。

 

だから日本ではキャラ物の娯楽映画以外の西洋映画が売れないんですよ…

 

コーエン兄弟の作品みたいに、新旧聖書の知識がないと意味がわからない映画は特にね…

 

 

そうだったのか…

 

じゃあ四福音書のあとに続く『使徒行伝』を知らなくても当然…

 

 

しとぎょうでん?

 

 

『使徒行伝(使徒言行録)』とは、イエスが死んだあとの物語…

 

残された使徒たちの苦難と伝道の様子を描いた書だ…

 

つまり「イエスの教え」を「RADIO(伝播)」する書だね…

 

 

映画『スリー・ビルボード』のストーリーのベースになっているのは、この『使徒行伝』だ。

 

映画の登場人物も『使徒行伝』に登場する使徒たちが元ネタになっている。

 

セリフの多くも『使徒行伝』からの引用なんだな。

 

 

そしてそれを観客にネタバレ的に示しているのが、このビリヤードのシーン…

 

 

「ビリヤード」ではない。「プール」だ。

 

 

あ、そうでしたね。つい…

 

 

どっちでもいいだろ!

 

「ビリヤード」がある店を「プール・バー」と言うんだから!

 

 

アメリカでは「プール」と「ビリヤード」は別物だ。

 

テーブルに穴が開いてて、そこに球を落とすゲームが「プール」。

 

「pool」とは「窪みに溜まる」という意味だからな。

 

いっぽう「ビリヤード」というのは、穴の開いていないテーブルで行うゲーム。

 

全く異なる競技なのだ。

 

 

その通りなんですよね。

 

映画『スリー・ビルボード』でも、セリフの中で「ビリヤード」なんて一度も言っていません。

 

登場人物は皆「プールをする」と言っている。

 

なぜなら、この映画は『使徒行伝』がベースになっているのですから…

 

 

ええ!?

 

あの時代にもビリヤード…いや「プール」があったの!?

 

使徒たちは「プール」で遊んでたのか!?

 

 

遊んでたわけじゃないよ。布教活動の一環だ。

 

『使徒行伝』第2章では、皆で「プール」をする場面が描かれている…

 

『ペンテコステの日の洗礼』ジョン・フィリップ

 

 

ハァ?

 

プールはプールでも、水に入るほうじゃんか。

 

 

駄洒落なのだ。

 

「水に浸かるプール」と「玉突きのプール」を掛けているんだな。

 

 

うちらを騙そうったって、そうはいかないぞ!

 

こんなオヤジギャグ、誰が口にするというんだ!

 

 

キリスト教圏では定番のオヤジギャグなんだな(笑)

 

だって使徒たちって、こんなふうにキューを持ってるでしょ?

 

『大ヤコブ』グイド・レーニ

 

 

これがホントのメロリンキュー。

 

 

 

ズコっ!

 

 

『スリー・ビルボード』の脚本を書いたマーティン・マクドナーがオヤジギャグ好きなのは、彼の師ともいえるコーエン兄弟の影響かもしれないね…

 

コーエン兄弟はシリアス風なドラマの中にもシレーっとオヤジギャグを突っ込んでくるから…

 

 

コーエン兄弟の作品は全て「ブラックユーモア」によるコメディ映画だ。

 

そしてこの『スリー・ビルボード』もコメディ映画だということを忘れてもらっちゃ困る。

 

日本人は真面目に映画を見過ぎだな。

 

 

前フリも終わったところで、そろそろこの「プール」シーンを解説しましょう。

 

まずは登場する4人の役割から…

 

 

この映画における主人公ミルドレッドは、初代ローマ教皇である「使徒ペトロ」だったね。

 

彼女が世間へ訴えた「スリー・ビルボード」とは、カトリック(普遍)の神髄「三位一体」のことだ。

 

ちなみに黄金色の火炎瓶と銀のジッポライターは、ペトロが持つ金銀のカギがモチーフ…

 

 

 

だから歯科医のことを3度「知らない」と言ったんだな(笑)

 

 

 

あはは!

 

 

そしてディクソンは「使徒パウロ」だ。

 

 

警察官時代のディクソンは弱い者いじめばかりしていたけど、火事に巻き込まれて大怪我を負い、目からウロコが落ちて回心し、敵対していたミルドレッドの協力者となった。

 

これはパウロの人生そのものだよね。

 

まだサウロと呼ばれていた頃のパウロは、イエスの弟子たちを逮捕して迫害しまくっていた。

 

だけどステファノのリンチ事件のあとに、眩しい光に包まれて馬から落ち、目からウロコが落ちて回心する。

 

それ以降は最も熱心な伝道者となるわけだ。

 

ちなみにパウロは新約聖書全27書のうち約半分にあたる13書の作者とされている。

 

だから通常、ファイルを抱えた姿で描かれるんだね。

 

火事の時にディクソンが事件ファイルを抱えたのは、彼のモデルが使徒パウロだからだ。

 

 

なるほど。オモロイ。

 

 

ちなみにパウロは男性上位を説き、上に立つ父性的権威や権力への絶対的服従を説いた。

 

警察官時代のディクソンのファザコン的でマッチョイムズな言動は、パウロの思想によるものだ。

 

そしてパウロは、ふしだらな女性やホモ・セクシャルに非常に厳しかった。

 

だからディクソンは、いい年して女っ気が皆無で、同性愛者を過剰に嫌っていたんだな。

 

一部では彼をゲイ扱いしているようだが、それは違う。

 

ディクソンは8歳の小学生男子レベルの思考回路なんだ。

 

「女?オエ〜。オカマ?気持ちわり〜」のノリなのだよ。

 

 

確かに小2くらいの男子って言うよね、そうゆうことを…

 

中二病じゃなくて小二病か…

 

 

ちなみに初期の伝導活動においてペトロとパウロは双璧だった。

 

意見の対立もあったりしたみたいだけど、この二人のおかげでキリスト教はRADIO(あまねく伝播)した。

 

だから二人は仲良く一緒に描かれることが多いんだ。

 

これが映画のラストシーンにつながるというわけ…

 

 

 

後光が重なってハートに見えるんですけど…

 

ってことは、あのドライブで二人は…

 

 

その後のミルドレッドとディクソンがどうなったかは、私たちだけの秘密…

 

 

俺たちのフィオを汚すな!

 

 

失敬失敬。

 

お次は広告代理店の「赤毛のレッド」のモデルは、同じく赤毛の執事「ステファノ」だ。

 

 

 

執事ステファノ?

 

 

ステファノは使徒ではないんだけど、ギリシャナイズされたユダヤ人「ヘレニスト」で、ギリシャ語を話す信徒たちの代表執事だった。

 

カズオ・イシグロの『日の名残り』の主人公が「執事スティーブンス」なのも、モデルがこの執事ステファノだからだ。

 

ステファノは天使のようなルックスのイケメンで、教養豊かな弁舌家だった。

 

だけどそれが仇となる…

 

ユダヤ評議会の幹部たちの前で、挑戦的な弁論をぶちまけてしまったんだ。

 

レッドがウィロビー署長にやってしまったようにね…

 

これが『使徒行伝』で長々と語られる「ステファノの演説」だ。

 

「生意気な奴だ!」と激怒した幹部たちは、ステファノに死刑を宣告した。

 

そうしてステファノは壮絶な石打ちの刑で殺されてしまい、キリスト教最初の殉教者となる。

 

 

 

『スリー・ビルボード』と丸っきり一緒じゃんか…

 

レッドは九死に一生を得たけど…

 

 

そして最後のひとり、小人のジェームズ。

 

彼のモデルは、さきほど絵を紹介した、キューを持つ聖人「大ヤコブ」だ。

 

小人症の俳優ピーター・ディンクレイジに「大ヤコブ」を演じさせるなんて、ブラックユーモアが過ぎるよね。

 

 

 

大ヤコブなのに名前がJames the Greater?

 

どないなっとんねん?

 

 

英語でポピュラーな名前「James」って「Jacob(ヤコブ)」が元々の形なんだよ。

 

 

マジで!?

 

じゃあ「ジェームズ・ブラウン」は「ジェイコブ・ブラウン」ってこと?

 

 

まあ、そうなるね。


 

ちなみにジェームズが「ハシゴ」でギャグをかますのは、同じヤコブの「Jacob's ladder」(ジェイコブズ・ラダー)が元ネタだな。

 

 

 

だから梯子にこだわっていたんだ…

 

 

本当によく出来てるよね、この『スリー・ビルボード』という物語は。

 

さて、この4人による会話の内容を解説していこうかな…

 

もうほとんど話しちゃったけどね(笑)

 

 

まず、レッド(ステファノ)とジェームズ(大ヤコブ)がプールをしているところに、酔っぱらったディクソン(サウロ)が絡んでくる…

 

ディクソンはレッドに対し、こう言い掛かりをつける。

 

「クソ生意気な奴め。昔からお前が嫌いだった」

 

迫害者サウロと、ヘレニストのステファノの関係だね。

 

そしてこう続ける。

 

「Red Welbyという名前も嫌いだ。まるで共産主義者であることを自慢してるみたいで…」

 

 

「Red(赤)」だから?

 

 

「Red Well by」で「共産主義者であることを誇らしく思う」という意味になるんだ。

 

ちなみにこれは「Stephen(ステファノ)」が元ネタなんだよ。

 

「Stephen」とは古ギリシャ語で「栄光の冠を誇らしく戴く」という意味なんだね。

 

 

ちなみに共産主義ネタは『使徒行伝』からだな。

 

まず第2章…

2:44 信者たちはみな一緒にいて、いっさいの物を共有にし、

2:45 資産や持ち物を売っては、必要に応じてみんなの者に分け与えた。

 

そして第4章にも…

4:32 信じた者の群れは、心を一つにし思いを一つにして、だれひとりその持ち物を自分のものだと主張する者がなく、いっさいの物を共有にしていた。

4:33 使徒たちは主イエスの復活について、非常に力強くあかしをした。そして大きなめぐみが、彼ら一同に注がれた。

4:34 彼らの中に乏しい者は、ひとりもいなかった。地所や家屋を持っている人たちは、それを売り、売った物の代金をもってきて、

4:35 使徒たちの足もとに置いた。そしてそれぞれの必要に応じて、だれにでも分け与えられた。

 

 

そして続く第5章では、このキリスト教コミュニズム共同体でズルをした者が、問答無用で死の罰が与えられることが描かれる。

 

5:3 そこで、ペテロが言った、「アナニヤよ、どうしてあなたは、自分の心をサタンに奪われて、聖霊を欺き、地所の代金をごまかしたのか。

5:4 売らずに残しておけば、あなたのものであり、売ってしまっても、あなたの自由になったはずではないか。どうして、こんなことをする気になったのか。あなたは人を欺いたのではなくて、神を欺いたのだ」。

5:5 アナニヤはこの言葉を聞いているうちに、倒れて息が絶えた。このことを伝え聞いた人々は、みな非常なおそれを感じた。

 

 

ちょっと金額を誤魔化しただけで死んじゃうのか…

 

 

だからディクソンは「キューバのFAGGOT(オカマ野郎)が死刑になること」について話し始める。

 

「FAGGOT」は「GAY」より広い意味の言葉だね。

 

ナヨっとした男性、マザコンなどにも使える侮辱表現だ。

 

 

じゃあディクソンもレッドもFAGGOTじゃんか(笑)

 

 

だから面白いんだよ、このシーンは。

 

そしてディクソンはこう言う。

 

They kill them! Witch, it might surprise you to learn, I am against.

キューバ人はオカマ野郎を殺しちまうんだぜ!お前は驚くかもしれんが、俺は反対だ。

 

この3つのセンテンスからなる文章も「スリー・ビルボード」同様に「どっちにもとれる」文章だね。

 

「FAGGOTを迫害すること」に反対なのか、「俺はFAGGOTじゃない」という表明なのか、どちらの意味にもなる。

 

 

ディクソンはセドリックからも、これで一本取っとったな。

 

 

彼はマヌケなキャラを演じているけど、登場人物の中で最も重要なセリフを連発するんだ。

 

まさに芝居における道化や狂言回しの役割だよね。

 

さて、レッドはディクソンにこう返した…

 

レ「それってワイオミングのことだろ?」

 

ディ「小賢しいガキめ…」

 

 

なんでワイオミング?

 

 

ワイオミングで1998年にゲイの若者がリンチされて亡くなるという事件があったんだよ。

 

そして教会の聖職者が加害者を擁護する発言をして大問題になったんだ。

 

 

あの事件を受けて、ワイオミングを舞台にしたこんな映画も作られた…

 

 

 

そしてディクソンはレッドにウィロビー署長のことを話す。

 

末期癌で先が長くないから、あの看板を撤去しろと…

 

でもレッドは知らなかった。

 

そこにミルドレッドが入ってくる。

 

ミルドレッドはディクソンにこう言った。

 

 

ミ「もうママと約束した帰る時間じゃないの?」

 

ディ「い、いや…まだ大丈夫。今夜は12時頃になるってママに言ってきたから…」

 

 

 

アハハ!

 

自分でFAGGOTのこと馬鹿にしてたくせに(笑)

 

 

ホントに憎めないよね、ディクソンって。

 

というわけで、使徒たちによる「プール」のシーンはおしまい。

 

面白かったでしょ?

 

 

面白かったけど、普通の日本人はあの映画を観ただけでは、ここまでわからないよね…

 

そもそも「プール」という言葉を「ビリヤード」と訳されても何の疑問も感じない…

 

 

だからこうして僕が解説してるというわけ。

 

 

1円にもならないのに、よくやってるよな。

 

 

仕事じゃないから楽しいんですよ。

 

もし仕事だったら、このシリーズで解説してることなんて何も書けませんから。

 

 

大変なんだな、日本で映画ライターをするのは。

 

 

たぶんどんな仕事でも大なり小なり似たような感じなんじゃないでしょうか…

 

それでは、次回は「ミルドレッドと神父の対決」から解説します。

 

 

 

 

 

 

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